蛍―13―
夕食が終わってからはすることがない。テレビなどはないし、携帯ラジオも谷あいのここまでは電波が届かず聞くことができない。 私は、焚火に多めの木をくべると、彼女の手を取ってベッドに導いた。 私達は、ベッドで抱き合っていた。美紀は、私の胸に頭を埋めていて、美紀の髪の匂いが私の鼻をくすぐった。私は、彼女を抱き締めると、手を彼女のシャツの中に入れた。彼女は、いつものとおりブラジャーはしていない。手が乳房に触れた。その先端にある小さな乳首を指で撫でた。彼女の息が次第に大きくなり、私が愛撫を彼女の全身に広げていくと、彼女の息は激しくなって行った。しばらく愛撫を続けた後、私達はひとつに結ばれた。 行為の後の静寂が訪れると、私達は裸のまま毛布を被って抱き合っていた。 彼女の髪の匂いを嗅ぎながら、私の胸に顔をうずめている彼女は、どんな身の上だろうと思った。間もなく、今年が終わり、新しい年になる。そんな時に、彼女は家にいなくて大丈夫なのだろうかと心配になる。 家族はいるのか、どんな暮らしをしているのか、私は全くと言って良いほど彼女のことを知らなかった。知り合って半年になるが、お互いに身の上話をしたことはなかった。無論、関心はあるのだが、聞くのを憚られたのである。彼女も、私のことは聞かなかった。私が離婚していることも話していない。過去も知らず、背景にある人間関係も知らず、お互い知っているのは逢っている今の姿だけである。 二人の関係は、全く世間から隔絶したものだったから、人目や人間関係などの煩わしさが全くない。手助けが得られなく大変なところもあるが、気楽なことが多い。楽しくやっていけるのも、彼女のおとなしいが明るく無邪気な性格だからである。洞窟を整備し、維持していくことも全く苦にならないというか、むしろ楽しかった。美紀が喜んでくれることが一番嬉しかった。そのために一生懸命働いた。 焚火の明かりの方に向けて時計を見ると、間もなく12時だった。私は、彼女の耳元でささやいた。 「間もなく今年も終りだね。」 「今年もありがとうございました。」 「こちらこそ、ありがとう。君と出会えて本当に良かったよ。」 簡単な言葉を交わしただけだったが、それで十分に気持ちは通じ合っていた。彼女は、頷くようにして、私の胸に頭をうずめた。 目が覚めたとき、洞窟の入り口から光が差し込んでいた。夜が明けたのである。焚火の火が消えかかっていたので、急いで焚き木をくべた。 私は、やかんを持って川に水を汲みに行った。子供の頃、父親が若水と言って新年最初の井戸水を汲んでいたが、その若水のつもりである。 美紀は竈に火を起こして網で餅を焼くとともに、焚火に吊り下げられた鍋に野菜などを入れていた。 焼けた餅を入れると、雑煮の完成である。彼女は、雑煮をお椀についだ。 私は、リュックからワンカップの酒を取り出すと、ひとつを彼女の前に置いた。 「これをお屠蘇代わりにしよう。新年おめでとう。今年もよろしくお願いします。」 「おめでとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。」 そう言って酒の入ったカップを合わせて乾杯をした。 ―続く― |