男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/05/10 3:57:46|小説「蛍」
蛍―13―
蛍―13―

 夕食が終わってからはすることがない。テレビなどはないし、携帯ラジオも谷あいのここまでは電波が届かず聞くことができない。
 私は、焚火に多めの木をくべると、彼女の手を取ってベッドに導いた。
 私達は、ベッドで抱き合っていた。美紀は、私の胸に頭を埋めていて、美紀の髪の匂いが私の鼻をくすぐった。私は、彼女を抱き締めると、手を彼女のシャツの中に入れた。彼女は、いつものとおりブラジャーはしていない。手が乳房に触れた。その先端にある小さな乳首を指で撫でた。彼女の息が次第に大きくなり、私が愛撫を彼女の全身に広げていくと、彼女の息は激しくなって行った。しばらく愛撫を続けた後、私達はひとつに結ばれた。
 行為の後の静寂が訪れると、私達は裸のまま毛布を被って抱き合っていた。
 彼女の髪の匂いを嗅ぎながら、私の胸に顔をうずめている彼女は、どんな身の上だろうと思った。間もなく、今年が終わり、新しい年になる。そんな時に、彼女は家にいなくて大丈夫なのだろうかと心配になる。
 家族はいるのか、どんな暮らしをしているのか、私は全くと言って良いほど彼女のことを知らなかった。知り合って半年になるが、お互いに身の上話をしたことはなかった。無論、関心はあるのだが、聞くのを憚られたのである。彼女も、私のことは聞かなかった。私が離婚していることも話していない。過去も知らず、背景にある人間関係も知らず、お互い知っているのは逢っている今の姿だけである。
 二人の関係は、全く世間から隔絶したものだったから、人目や人間関係などの煩わしさが全くない。手助けが得られなく大変なところもあるが、気楽なことが多い。楽しくやっていけるのも、彼女のおとなしいが明るく無邪気な性格だからである。洞窟を整備し、維持していくことも全く苦にならないというか、むしろ楽しかった。美紀が喜んでくれることが一番嬉しかった。そのために一生懸命働いた。
 焚火の明かりの方に向けて時計を見ると、間もなく12時だった。私は、彼女の耳元でささやいた。
「間もなく今年も終りだね。」
「今年もありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとう。君と出会えて本当に良かったよ。」
 簡単な言葉を交わしただけだったが、それで十分に気持ちは通じ合っていた。彼女は、頷くようにして、私の胸に頭をうずめた。
 目が覚めたとき、洞窟の入り口から光が差し込んでいた。夜が明けたのである。焚火の火が消えかかっていたので、急いで焚き木をくべた。
 私は、やかんを持って川に水を汲みに行った。子供の頃、父親が若水と言って新年最初の井戸水を汲んでいたが、その若水のつもりである。
 美紀は竈に火を起こして網で餅を焼くとともに、焚火に吊り下げられた鍋に野菜などを入れていた。
 焼けた餅を入れると、雑煮の完成である。彼女は、雑煮をお椀についだ。
 私は、リュックからワンカップの酒を取り出すと、ひとつを彼女の前に置いた。
「これをお屠蘇代わりにしよう。新年おめでとう。今年もよろしくお願いします。」
「おめでとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。」
そう言って酒の入ったカップを合わせて乾杯をした。
          ―続く―







2026/05/09 4:25:28|小説「蛍」
蛍―12―
蛍―12―

 そのとき入り口に人影が映った。振り向いてみると美紀だった。
「来たの?こんなに寒いのに。」
「きっとあなたも来ているだろうと思って。」
「寒いだろう。こっちにおいで。」
 私がそう言って手を差し伸べると、美紀は私の横に座って、小太郎に手を差し伸べた。小太郎は嬉しそうにキキッと鳴くと、彼女の肩に乗り移った。
 その日から、小太郎を含めた私達は家族のようになっていた。
 暮が近付き、寒い日が続いた。雪が降る日も多くなり、山にはうっすらと積るようなことがあった。
 それでも私は、山に行き洞窟に行き続けた。美紀が来るのは基本的には不定期で2、3日に一回だったが、もしかしたら来るのではないかという期待があったし、そんなときに彼女を一人ぼっちにさせるようなことはしたくなかったからである。
 冬の仕事は、焚き木集めが主である。山には枯れ木や倒木が多かった。大きいものはノコギリで切り、小さいものは手で折った。太い木は、火持ちが良いので夜間の種火にするのに良かったし、細いのは焚き付けに使えた。それを紐で束ねては、洞窟の壁際に積んだ。いつしか、洞窟の壁には焚き木が積みあがっていた。
 私が枯れ木を集めているとき、小太郎が着いて来ることもあれば、遠くから眺めていることもあった。
 美紀とは、山で出会うこともあれば、洞窟で会うこともあった。私は、山に登ってしばらく山頂で過ごしてから、洞窟に行くのが行動のパターンになっていたが、寒くなると山でじっとしているのは辛いので、洞窟に行くのが早くなった。そこで彼女が来るのではないかと期待しながら待っていた。
 彼女は、2、3日に一回の割でやって来た。一緒に泊まることもあれば、帰ることもあった。いずれにしても、洞窟で会うときには身体を交えた。
 暮になった。私が大晦日には洞窟に泊まる予定だと言うと、彼女も泊まりたいと言った。
 大晦日の日、私は、蕎麦と餅、酒などを準備して洞窟に向かった。昼に洞窟に着くと、すでに彼女が来ていて、洞窟の内外には箒目があった。掃除を済ませていたのである。焚火は焚かれ、お湯が沸いていた。彼女の傍には、小太郎が来ていて、あたりを走り回っていた。
 彼女は、私を迎えるとすぐにコーヒーを淹れてくれた。二人は、焚火の傍に並んで座って、コーヒーを飲んだ。外は寒かったので、温かいコーヒーが嬉しかった。
 コーヒーを飲んで一息つくと、年越し蕎麦の用意である。洞窟にある火は、焚火と石を積み上げて作った竈(かまど)である。早速、竈に火を入れ、鍋を載せた。
 鍋には、肉や美紀が持って来た野菜を入れ、醤油や砂糖で味付けをし、沸騰してから蕎麦を入れた。
 私達は、紙カップにワインを注ぎ、蕎麦をお椀についで飲みながら食べた。まともな蕎麦料理とは程遠いものだったが、彼女と飲みながら食べていると本当に美味しかった。
「今年も間もなく終わるね。今年は、君と会えて本当に良かった。」
「私も、三嶋さんと会えて嬉しかったです。」
「僕の人生が全く変わったよ。」
「私の人生も変わりました。それに初めて女にしていただきました。」
「初めてだったの・・・」
 それを聞いて、私は意外に思った。確かに初めての時の彼女は、ぎこちなかったが、全く初めてだとは思わなかったのである。
          ―続く―







2026/05/08 3:23:56|小説「蛍」
蛍―11―
蛍―11―

 簡素な洞窟の暮らしだが、しなければならないことは多い。そのひとつが焚き木拾いだった。これから冬を迎えるにあたり、焚火を絶やすことはできない。幸い、山にはたくさんの倒木や枯れ木があり、それを小さく切って集めておくのである。日々の積み重ねのお陰で、洞窟の片隅に焚き木の山ができた。
 次に彼女が来たとき、驚く様子を見るのが楽しみだった。
 その時、入り口で物音がした。彼女が来たのではないかと思ったが、約束の日ではないのでそんな筈はない。
 そこにいたのは、先日の子猿だった。
 私は、食パンを持って来て子猿に差し出した。子猿は、それを奪うように掴むと、さっと逃げて行った。美紀のときとは、まるで違う態度だった。その違いに、私は苦笑した。
 美紀は、私との愛の行為に次第に慣れて行った。愛撫に対して反応するようになっていたし、行為のときの歓びも大きくなっているようだった。そんな彼女の変化にも、私は喜びを感じていた。
 彼女の歓びの表現はあくまで素直で、天真爛漫さは失っていない。私が丁寧に愛撫をすると、その分だけ反応が大きくなったし、酔っておろそかになると、不満を言うわけではないがその分反応も弱かった。そんな彼女に、私は益々惹かれていた。
 次に彼女と洞窟で会ったとき、また子猿がやって来た。入り口でじっと彼女の方を見ている。それに気付いた彼女が、パンを持って行った。子猿は、彼女の前に座ってじっと彼女の方を見ていた。彼女がパンを千切って子猿に差し出すと、子猿はそれを手に取って口に入れた。そしてまた彼女の方を見ている。彼女がもう一度パンを与えると、キキッと嬉しそうな声を出してそれを受け取る。何度かパンを与えた後で、猿に手を出すと逃げる様子はない。彼女は、子猿を抱き上げた。子猿は、おとなしく彼女に抱かれていた。
 その日から、彼女が行くと子猿は必ずのようにやって来た。そして彼女から離れようとしない。彼女が外に行けば後ろから着いて来るし、彼女の肩に乗ったりしていた。
 彼女は、子猿に小太郎と名付けた。山から洞窟に向かって下りるとき「小太郎!」と呼ぶと、すぐに茂みの中から姿を現して、彼女の肩に乗った。
 12月になったある日、雪が降った。積るほどではないが寒い。私は、セーターなどを着こんだ上にアノラックを着て山に行った。
 私達は、何かしたくて必要があるときは次に会う日を約束していたが、普段は、約束はしないようにしていた。お互いを束縛したくなかったからである。
 私は、洞窟に来ると、こんな寒い日に彼女は来ないだろうと思って、焚火を炊き、持って行ったウィスキーを飲みながら、ベッドに横たわって週刊誌を広げていた。
 そのとき、入り口でキキッという声がした。小太郎だった。背中が雪で白くなっている。私は起きて焚火の傍に来ると、菓子を持って手招きをした。小太郎は、おずおずと近付いて来た。寒かったのだろう、菓子を食べ終わっても逃げる気配はなかった。私が、抱いて引き寄せるとそのまま腕の中に抱かれた。私の腕の中で、与えた菓子やパンを食べている。私は、やっと小太郎が心を許してくれたのだと思った。
          ―続く―







2026/05/07 5:02:23|小説「蛍」
蛍―10―
蛍―10―

 美紀が差し出したお菓子を口にした猿は、その場から去らなかった。じっと彼女の顔を見ている。彼女は、もう一つお菓子を差し出した。今度は、素早く手を出してお菓子を取るとすぐに口に入れた。
 彼女は、楽しそうに猿にお菓子を与えていた。私が近付くと、猿は警戒するようにキキッと鳴いた。
 彼女が、私にお菓子を差し出して、「これをあげて。」と言った。私がお菓子を差し出すと、猿は警戒しているようで、ゆっくりと近付いて来ておずおずと手を出して取った。
 しばらくお菓子を食べていたが、美紀が両手を広げて「もうないよ」と言うような素振りをすると、山の方へ走り去った。
 その日も、私達は洞窟に泊まることにした。彼女もそのつもりらしく、パンなどの食事と着替えも用意していた。
 秋が深まったある日、彼女が「キノコを採りに行きましょう。」と言った。
 私は、キノコについての知識はまるでない。山を歩いていてたくさんのキノコを見ることはあったが、どれが食べられ、どれが毒キノコは全く分からなかった。私は、先に歩いて行く彼女の後ろから着いて行った。
 森を抜け、崖をよじ登ると、平らなところに出た。そこには大きな倒木があって、彼女が駆け寄って指さしながら言った。
「これが平茸です。採ってみてください。」
 見ると大きなキノコが束のようにたくさん生えていた。私が手に取ると、ずっしりと重みがあった。
 彼女は、森を歩きながら次々にシメジやナメコ、マイタケなどを見付けた。私は、彼女が指さしたキノコを採りながら、彼女の後について歩いた。1時間もしないうちにリュックはキノコでいっぱいになった。
 キノコ狩りを終えると洞窟に戻った。
 秋の日が暮れるのは早い。洞窟は谷あいにあるので、3時には日が陰り、4時には薄暗くなる。
 この季節には、釣れる魚も少なくなっていたので、夕食には持って来た鶏の骨付き肉を金網に載せて焼いた。味付けは塩・胡椒だけである。付き合わせの野菜は彼女が持ってきたし、先程採って来たばかりのキノコも焼いた。
 私は、ウィスキーの小瓶を取り出して、2つのカップに注ぐとひとつを彼女に渡した。私が飲むのを見た彼女も、それを口に含んだがいきなりむせた。私は、ペットボトルに汲んであった水を飲ませると、彼女のウィスキーを薄め、ゆっくり飲むように言った。彼女は、それ以後はウィスキーを飲もうとはしなかった。私は、次はワインを持って来ようと思った。
 そのうちに鶏が焼ける良い匂いがしてきた。それを皿に載せると、彼女が手でちぎったレタスと焼いたキノコを添えた。マヨネーズやドレッシングはないので、これも塩を振っただけである。
 二人で鶏の足を掴んで齧るようにして食べた。塩と胡椒だけの味付けだったが、とても美味しかった。
 食事が終わったとき、洞窟の外は暗くなっていた。目に入るのは、洞窟内の焚火だけである。寒くなるこれからの季節、火を絶やすことはできない。火を絶やさないためには、たくさんの焚き木が要る。私は、暇を見付けては焚き木や枯草を集めていた。
 暗くなると、することがない。私は、目で合図をして、彼女をベッドに誘った。
 秋の夜は長い。二人の緩やかな時間が流れて行った。
 次の日、私は一人でワインと毛布を持って、山には登らず直接洞窟に来た。毛布を担いで山頂には行きたくなかったし、そんな姿を人に見られるのも嫌だった。
 草のベッドはチクチクしたが、毛布を敷けばずっと快適である。私は、そこに横になると、洞窟の天井を眺めながら美紀とのことを考えていた。それだけで十分楽しかった。
           ―続く―







2026/05/06 3:27:24|小説「蛍」
蛍―09―
蛍―09―

 翌日、私は塩や砂糖、醤油などの調味料と共に鍋ややかん、皿などの調理器具と、コーヒーなどを背負って洞窟に行った。焚火のところには、木を組んで自在鉤を吊り下げ、やかんを掛けた。二人の秘密の隠れ家は、次第に生活の場になりつつあった。
 秋が深まって、山の木々は次第に紅や黄色くなってきた。朝などは寒いくらいである。冬支度が必要だと思い、私はせっせと枯れ木を集めた。
 次に美紀に会ったのは、二人が結ばれた3日後だった。山頂で待っていると、彼女が笑顔で私の方に向かって歩いて来た。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
と挨拶を交わす。
 それは以前と変わりないものだったが、二人の心は以前とはまるで違うものだった。結ばれたことが、大きく二人の気持ちを変えていた。
 山頂では、サンドイッチで食事をした。食べているとき、70歳代と思われる夫婦の夫が妻の手を引きながらやって来た。
 挨拶を交わした後で、夫が私達に言った。
「この山にはよく登られるのですか?」
「そうですね、ほぼ毎日のように登っています。」
「そうですか、私もなるべく登りたいと思うのですが、これの身体が弱いものですから、なかなか思うように行きません。」
「でもご夫婦が仲良く山に登られるのって良いですね。」
「私達は、いつまで元気でいられるかわかりません。せめて生きているうちは、元気でいたいと思ってこうして妻を励ましながら登るようにしています。それにしても、おたく達のような若いご夫婦が羨ましいです。」
 若いと言われたこともだし、彼女と夫婦だと言われたことも面映ゆかった。私は、美紀の方を見たが、彼女は笑顔でいた。私は、夫婦だと言われたことを否定するでもなく、話題を変えた。
 夫婦は、持ってきた弁当を広げた。私達も、食事を続けた。
 食事が終わると、私達は老夫婦に挨拶をして、下山にかかった。無論、行先は洞窟である。
 洞窟に着くと、彼女が言った。
「まあ、随分整いましたね。ここで生活できますね。」
「うん、君と過ごす時間を少しでも快適にと思ってね。」
「ここでの生活、楽しそうです。」
 私は、彼女を抱き寄せてキスをした。
 私達は、早速焚火の火を起こした。山に登るときには汗ばむくらいだが、下りは肌寒く感じる。
 焚火の火が心地良かった。枯れ枝をくべると、炎が大きくあがった。煙が彼女の方に向かって行った。彼女は、それを避けるように私にしがみついた。
 しばらくして、自在鉤にかけてあったやかんのお湯が沸いた。私は、コップをふたつ持って来ると、コーヒーを淹れた。インスタントだったが、彼女と飲むコーヒーは、喫茶店で飲むものより美味しいと思った。
 コーヒーを飲んでいるとき、洞窟の入り口でキキッという声がした。二人が一緒に振り向くと、そこに子猿がいた。こっちを興味深そうに見ている。
 美紀は、リュックからお菓子を取り出すと、猿の前に行って差し出した。猿は、ちょっと迷っているようだったが、サッと手を出してお菓子を取った。
           ―続く―