赤い糸・白い糸−44−
「お前が結婚したいと言っている彼は一人息子だそうだけど、婿養子に来られるのかい?」 知美は、父親に聞かれて返事に困った。 知美が義男と知り合ったのは、みかんを出荷する野菜市場である。ここはみかんの産地愛媛、二人共農家の育ちで、高校を出るとすぐにみかんの栽培を手伝っていた。 そしてある年の暮に、出荷作業のとき知り合って、時間を見付けてはデートをするようになり、いつしか愛し合うようになった。しかし二人とも一人っ子であることは、農家にとって大きな問題である。そのことは二人とも意識していたが、愛情には勝てなかった。双方で相談し、親に許しを得ることにしたのである。 「お父さん、それは無理みたい。でも二人で、両方の畑の世話をしながら頑張りたいの。人手ならお金を払って雇ってもいいし、あるいは誰かに貸しても良いと思うの。ネッ、お願いだから彼と結婚したいのよ。」 「う〜ん・・・・・」 父親は、唸ったまま返事をしなかった。 義男も父親の前で、同じようなことを聞かれていた。 「それは良いけど、彼女は嫁に来てくれるのかい?」 「まだそこは決めていないけど、どっちにしても僕は彼女と結婚したいんだ。」 「この畑はご先祖様からわしの代まで大事に守って来たんだ。向こうの方が畑も広いし、夫婦だけではとても両方に手は回らないだろう。やがてはうちの畑が荒れて来るのは目に見えている。それじゃあ、わしはとてもご先祖様に言い訳ができんよ。」 そんな親からの話を聞かされて、義男と知美は再び相談をしていた。 「やっぱりそうか、知美のところも反対なんだね。」 「ええ、そうなの。みかん畑を守れるのなら良いっていうんだけど。」 「そうか、困ったねえ・・・・・」 義男と知美は、相談を続けていた。 「ねえ、何とかならないかしら。」 「うん、何とかしなくちゃね。」 「どうする?」 「組合に相談してみようと思っているんだ。いずれにしても、今どき農家に嫁に来てくれる人はいないし、婿養子に来てくれる男だっているかどうかはわからないしね。」 「そうねえ。」 早速、義男は組合長のところに相談に行った。今のままでは、農家で働く人がだんだん少なくなる。組合で共同作業にして、お互い手伝うようにするとともに他から人手を集める工夫をしたらどうかと提案したのである。 それは組合長も悩んでいることだったので、早速、市役所に行って、「農家への転職の勧め」という広報を出してもらうように掛け合った。脱サラ、脱OLで農家で働く人を募集するというものである。都会での仕事に飽き足りない人に田舎の良さを味わって貰いたいとアピールした。市役所では、早速パンフレットを作って配ってくれた。しかしそれだけでは応募は来なかった。義男は放送局にいる高校時代の同級生の父親に会いに行き、故郷活性化のための特集番組を組んでくれるように頼んだ。地方の空洞化が問題になっているときだったので話をわかってもらうことができた。 狙いは成功した。数人の人達から農業をやってみたいという応募があったのである。そのために市役所の人と共同で空き家を探したり、掃除をしたりすることを手伝った。 「彼らに、うちのみかん畑を安い賃料で貸すんだ。そうすれば彼等も生活ができるし、君の家やうちもみかん畑を荒れさせずに済む。」 義男は自信を持って知美に話した。 −続く− |