人妻−06−
朝の通勤の満員電車の中、祥が私のところにやって来て、挨拶を交わす。 「おはよう。」 「おはようございます。」 「やっと会えたね。」 「良かったです。」 私は、彼女の腕を取って車両の隅に招くと、他の客からかばうように位置取り、耳元でささやいた。 「逢いたかったよ。」 「私もです。」 「これで通勤が楽しくなった。」 「そうですね。私も嬉しいです。」 私達は、半ば抱き合うような姿勢で、小さな声で会話を交わしていた。 次の日から、大抵の日は出会うことができ、一緒に通勤するようになった。西国分寺から新宿での乗り換えを含めて渋谷までの40分が、私の一日で一番楽しい時間になった。 私達は、電車の中でお互いに当日の予定や、出張の予定などの話をし、そこで夜逢う約束もした。仕事の都合で会えなくなったときは、メールで連絡をすれば良かった。 最初に逢ってから1週間が過ぎたとき、朝の電車の中で私が彼女の耳元で囁いた。その日、私は特に予定がなかったのである。 「今晩は、都合はどう?」 「いいですわ。」 「じゃあ、7時に恵比寿の駅で。」 「わかりました。」 その日、仕事をしていても夜の彼女とのこと考え、仕事に身が入らなかった。会議で名前を呼ばれて、初めて自分の意見を聞かれていることに気が付くほどだった。 夕方になって、プライベートの携帯がメールの着信を伝えた。開いてみると彼女からだった。 「すみません。急な会議が入りました。お約束の時間には行けそうもありません。 祥」 いかにも急いでいるらしく、簡単な文章だった。私は、「遅くても良いから逢いたい。」と、返信をしようかと思ったが、思い留まった。キャリアのOLとしてこのように忙しいことがあるのは十分に理解できた。 取り敢えず、私は返信のメールを送った。 「了解しました。残念ですが、次の機会を作りましょう。」 ―続く− |