男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/05/18 4:45:28|小説「春の行方」
春の行方−01−
春の行方−01−

 光太郎は、新幹線の車窓を眺めながら、昨夜のことを思い浮かべていた。
 昨夜は、佳津枝と飲んだ後で、カラオケに行った。二人で歌った最後に、佳津枝が歌った「木綿のハンカチーフ」のことを思い出していたのである。
 光太郎と佳津枝は、瀬戸内の小さな町に生まれ、家が近くの幼馴染みであった。二人とも農家の子供で、幼い頃から一緒に遊び、同じ幼稚園、小学校、中学校、高校と進んだ。高校の頃には、お互いに家に行って受験のための勉強をした。光太郎は数学が得意で、佳津枝は英語が得意だったから、勉強には効果があった。
 3年の夏休みの頃、二人は初めてキスをした。それは不器用なものであったが、今でも甘い懐かしい思い出として残っている。
 二人共、大学の試験に合格し、佳津枝は広島の大学に、光太郎は山口の大学に行った。普段は広島と山口なので逢うことはできなかったが、夏休みなどには帰省してデートを重ねた。車がなかったので自転車で海や山に行ったり、電車で広島や山口の町に行って映画を見たり、観光をした。
 二人が初めて結ばれたのは、大学1年が終った春休みのことだった。
 佳津枝が、光太郎の家に遊びに来たとき、両親はみかんの手入れのために畑に作業に出ていた。妹も、出掛けていた。光太郎の部屋に入ったとき、いつものようにキスをした。そのとき、佳津枝の胸が光太郎の胸に触れた。その感触に、光太郎はいつにない興奮を覚えていた。
 光太郎は、佳津枝の背中に回した手に力を入れ、唇を強く押し付けた。
 気が付いたときには、二人はベッドの上にいた。光太郎の裸の腕の中に佳津枝が頭を載せている。その瞳は、今、あったことに思いを寄せているようであった。
「ねえ、わたしのことを好き?」
佳津枝が聞いた。
「勿論だとも。」
光太郎が答える。
 二人共、初めての経験に夢の中にいるような気分に浸っていた。
 その後も、二人はデートの度に身体を交えるようになっていた。大抵は、どっちかの家であったが、家族が家にいるときにはそれができず、二人共空しい思いをすることがあった。
 一度結ばれてからは、普通の日の休日に逢うこともあった。佳津枝も光太郎も逢うごとに愛情を深めて行った。口にこそ出さないが、いずれ結婚することは当たり前のように感じていた。それは家族も半ば承知の事実になっていた。
 大学も4年になると就職の話が大きなウエイトを占めてくる。お互いに電話で相談したが、結局光太郎は東京のプラントメーカーに、佳津枝は広島の自動車会社に就職することになった。
 昨日は、光太郎の送別会のため、二人で町に飲みに行き、その後でカラオケに行ったのである。
            −続く−







2026/05/14 3:59:11|小説「蛍」
蛍―17―(最終回)
蛍―17―(最終回)

 私は、美紀の手を取るとベッドに誘った。
たくさんの蛍がいた幻想的な光景が瞼の裏に残っていて、その感動が私を燃えさせた。私は、激しく彼女に挑んで行った。美紀も、私の情熱に十分に応えてくれた。いつにない激しい愛の行為の後で、私は眠りに就いた。
 翌朝目覚めたとき、美紀の姿がなかった。辺りを見まわしたがいない。これまで、彼女は先に目が覚めても私の傍から抜け出すようなことはなかったので不安を覚えた。
「美紀!」と呼んでみるが返事はなかった。ベッドから起き出して洞窟の外に出てみたが彼女の姿はなかった。
 私の不安は次第に大きなものになった。
「お〜い、お〜い、美紀〜!」
 大声で叫んでみるが返事はなく、「お〜い、お〜い、美紀〜!」という自分が発したと同じ木霊が山の間から返って来るだけだった。
 それでも諦めずに何度も何度も叫んでみるが、木霊が返って来るだけで彼女の返事はなかった。
 私の不安は増すばかりだった。滝つぼにも行ってみたが、彼女の姿はなかった。次第に探す範囲を広げて、昨日蛍を見に行った場所にも行ってみたが、彼女の姿はない。
 一人で帰ったのかと思ったが、私は彼女の家を知らなかった。いつも別れる場所まで行って、彼女の行く方向に歩いて行ったが、どこまで行っても家らしいものはなく、やがて道も途絶えていた。
 もしかしたら、洞窟に戻っているのではないかと思って引き返してみたが、彼女の姿はなかった。私は、今迄に行ったことがあるすべての場所を探してみたが彼女を見付けることはなかった。この日は、子猿の小太郎も姿を見せなかった。
 私は、山頂に行ってみたが、そこにも彼女はいなかった。私は、再び洞窟に戻って待つことにした。その日は一日待っていたが、彼女は現れなかった。
 二日間待ったが、彼女は現れなかった。仕方なく家に帰った。
 それから毎日のように山に登り、洞窟に行ったが、彼女に会うことはできなかった。
 一か月が過ぎ、二か月が過ぎても、彼女は現れなかった。毎日のように行っていた山にも、2日に一回、3日に一回行くだけになっていった。
やがて秋が来て、冬になったが、彼女が姿を見せることはなかった。
 彼女が姿を消して一年が過ぎ、最後に会った季節になった。私は、蛍を見た川の淵に行ってみた。
その日もたくさんの蛍が飛んでいた。
 私は、乱舞する蛍を見ながら、彼女との一年間が何だったのか、あの夢のような時間が何だったのかと思った。私の脳裏に、彼女との日々が走馬灯のように瞼に浮かんでいた。
 そのとき、蛍の群れの真ん中でひとつの光が大きく輝いた。しばらく点滅を繰り返していたが、やがて光の中のひとつになった。私には、それが美紀のように思えて、夜が更けるまでそこに佇んでいた。
            ―完―







2026/05/13 5:56:05|小説「蛍」
蛍―16―
蛍―16―

 私達は、獣道のような狭い道を川沿いに沿って下って行った。辺りは、次第に暗くなっていく。私は、鎌や鉈を手に道の両脇の木や草を払いながら、進んで行った。帰りのことを考えると、小径を啓いておく必要があった。
 1時間近く進むと、川が広くなり流れが緩やかになっている場所に出た。美紀が言った。
「ここです、もうすぐ蛍が出て来ます。」
 私は、川の傍の草を払うと、レジャーシートを敷き、美紀と並んで座った。私は、リュックら酒を取り出して、美紀と私の紙コップに注いだ。二人は、ゆっくりと飲みながら、蛍が出て来るのを待った。
 7時を過ぎたとき、美紀が川の向こう岸を指差して「あっ、あそこに!」と言った。指差した先を見ると、ひとつの小さな光が点滅をしながら飛んでいた。
 それからは次々と光の点滅の数が増えた。30分もすると、辺りが明るくなるのではないかと思われるくらいに蛍の数が増えた。それは、とても幻想的な光景だった。こんな山奥の川にたくさんの蛍がいるのが不思議だった。私も美紀もそんな様子に見惚れて無言だった。
 しばらくして私が言った。
「こんなにたくさんの蛍は初めて見たよ。今日はありがとう。」
「私も久し振りです。ここ何年かは来ていませんでした。三嶋さんと一緒でなければ、今年は来なかったと思います。」
「それにしても、凄い数の蛍だね。家の近くの川にも蛍はいるけど、10匹もいればよい方で数はずっと少ないよ。」
「子供の頃は両親に連れられてよく見に来ましたが、大人になってからは何年かに一回見に来るだけになりました。」
「お父さんやお母さんはどうしているの?」
「亡くなりました。」
「そう、悪いことを聞いてしまったね。」
「いいのです。蛍を見ていると、両親のことを思い出します。」
 しばらく蛍を見てから、洞窟に帰ることにした。周囲は真っ暗である。来るとき切り開いた道を戻るので今度は歩きやすかった。私は、前方を懐中電灯で照らしながら歩いて行った。
 帰りは、30分ほどで洞窟に着いた。小さくなっている焚火に枯れ枝をくべると、洞窟が明るくなった。私達は、並んで焚火の傍に座った。
「いや〜、本当に感動的だった。あんなにたくさんの蛍の光を見たのは初めてだ。幻想的と言うしかなかった。今日は本当にありがとう。」
「喜んでいただけて良かったです。」
 私は、美紀を抱き寄せると、キスをした。
          ―続く―







2026/05/12 3:26:54|小説「蛍」
蛍―15― 
蛍―15― 

 4月も半ばになると、木々の葉も次第に勢いを増して、新緑が深緑に変わっている。
 この頃になると、蕗の薹や、タラの芽、コシアブラ、わらびやゼンマイなどの山菜が採れる。美紀は、そういう場所にも詳しく、私を連れて行ってくれた。
 山菜が美味しいのは何と言っても天婦羅である。私は、何とか天婦羅にして彼女に食べさせたいと思った。フライパンの代わりには鍋を使うとしても、油や薄力粉、卵とそれを溶くためのボールなどは必ず必要だったし、山菜だけでは寂しいので魚やエビなどがあった方が良い。
 私は、川に行って採って来た山菜を水に活けて新鮮さを保つようにし、美紀と2日後に会う約束をした。
 翌日、翌々日と、私は天婦羅に必要な物をスーパーで買っては山に運んだ。
 約束の日、洞窟に行くと、美紀が先に来て、焚火や竈の火を熾していた。
 私は、川から活けておいた山菜を持って来たり、エビの皮や背ワタを抜いたり、薄力粉をボールで溶いたりと忙しく天婦羅の準備を進めた。竈の鍋には、油をたっぷりと入れた。
 粉を付けた素材をたぎった油に入れると、ジューッという音と共に油が跳ねる。エビ、魚、タラの芽、コシアブラの他、マイタケ、シメジ、平茸などキノコもコロモを付けては油の中に入れた。すぐに鍋の中の油は、素材でいっぱいになった。この間、美紀は大根おろしを作って深皿に入れている。
 焚火は、火の調節が難しい。私は、鍋の高さを変えながら火の具合を調節した。しばらくすると、衣がきつね色になった。私は、良い色になったものから美紀の皿に入れた。彼女は、ふうふうと吹きながら、それを口に入れた。
「美味しいです。」
 彼女の笑顔に勇気付けられて私も食べてみたが、なかなかの出来だった。
「マアマアだね。良かった。どうなるかと思っていたんだ。」
「三嶋さんは、料理名人です。」
「そんなことはないけど、ここで食べるから美味しいのだろうね。それに君と一緒だから。」
「まあ!」
彼女は驚いたような声を出したが、その目は笑っていた。
 私達は、天婦羅でお腹がいっぱいになると、焚火の横で酒を飲みながらゆったりとした時間を過ごした。
天婦羅を作ることは、洞窟の生活では一大イベントだった。私も美紀も、大きな事業をなし終えたような満足感に浸っていた。
 次のときから、また平凡な日が過ぎて行った。
 初夏になった。山の木々は、次第に緑を濃くしていた。そんなある日、一緒に洞窟にいた美紀が言った。
「ねえ、蛍を見に行きませんか。」
「この辺に蛍が出るの?」
「ええ、この川の下流にいけばたくさんいます。それはきれいです。」
「行こう、行こう。是非、見たいよ。」
 夕暮れになって、私達は、懐中電灯を持って川を下った。
          ―続く―







2026/05/11 4:49:18|小説「蛍」
蛍―14― 
蛍―14― 

 この頃には、美紀も酒が飲めるようになっていた。ワンカップや缶ビールなら1本程度は平気である。飲むと陽気になる。私に抱き着いてキスをしたりして積極的になった。私は、そんな彼女と飲むのが好きだった。
 私達は、飲みながら雑煮を食べた。雑煮が終わると、乾き物で飲む。私は、ウィスキーのポケット瓶を取り出すと彼女と自分のカップに注ぎ、彼女のはお湯で割った。
 ゆったりとした時間が流れていく。お互い多くは喋らないが、幸せな時間だった。
 私達は、昼前に洞窟を後にして、家路についた。
 家に帰ると、することがなかった。一人、テレビを見ながら飲んでいたが、心の中は空白だった。
 1月が過ぎ、2月が過ぎて、3月の彼岸が過ぎて、日が長くなった。1月や2月には、雪が降る日もあったが、私は毎日のように山と洞窟に行った。美紀は2、3日に1回の割でやって来た。子猿の小太郎も、毎日のように姿を現した。
 4月になった。木々は新しい芽を吹き、山の自然にも活気が見られるようになった。
 洞窟の近く、夏に泳いだ滝のところに大きな山桜があって、見事な花が淵に覆いかぶさるように咲いていた。私は、美紀とこの下で花見がしたいと思った。彼女に話すと、楽しみですと言う。
 その日、私は酒とレジャーシートを、美紀は竹輪やこんにゃく、大根、茹で卵などが入ったおでんを持って来た。滝のところで石を組んで火を熾し、おでんの入った鍋を載せた。焚火の傍にレジャーシートを敷いて、二人で並んで座った。仰向けになって上を見上げると、桜の花が覆いかぶさるように咲いている。
「見事だねえ。」
「きれいです。」
「でも、君のきれいさには敵わないよ。」
「まあ・・・・・」
 彼女が、私に抱き着いてキスをした。私は、彼女を抱き寄せて、キスを返した。
 そのうちに鍋がグツグツと煮立ってきた。子猿の小太郎は、火から少し離れたところに座っている。
 私達は、紙皿におでんを取って食べた。おでんは出汁が効いていて美味しかった。
 美紀が、竹輪を口で吹いて冷ましてから小太郎に与えた。小太郎は、恐る恐るそれを眺めていたが、私達が食べているのを見ると、安心したように口に入れた。あっという間に食べると、再び欲しそうに美紀の目を見詰めていた。
 美紀と私、小太郎の楽しい時間が過ぎて行った。日が長くなったとはいえ、谷あいの陽が陰るのは早い。3時になると、私達は後片付けをして洞窟に戻った。
 酒のせいもあって何もする気がしない。その日、私達は洞窟に泊まった。
          ―続く―