夜の訪問者−11−
幽霊になれという、幽子の言葉に驚いた光義が言った。 「冗談じゃないぜ。俺は、まだ死にたくなんかないよ。」 「そうじゃないのよ。あなたが利之の前に幽霊の姿で出るの。」 「それなら、お前が出ればいいじゃないか。俺の前にさえ平気で出ているんだから、恨みのある利之の前に出られないことはないだろう?」 「それが駄目なのよ。あいつ、夜は飲み歩いているの。あたし達幽霊は、人ごみとか大勢の前には出られないの。利之は、いつも誰かに囲まれているわ。だから出づらいのよ。」 「そうか。」 「そうなのよ、四谷怪談のお岩だって、牡丹灯篭のお露だって、銀座の雑踏にゃ出て来ないでしょう。みんな恨みにかこつけてでしか出歩けないのよ。」 「ふ〜ん、幽霊も大変なんだなあ。」 「仕方がないから、私がまた幽霊として出るかなあ。」 「そうだよ、そのままで良いんだからいいじゃないか。それに、あいつの前に出るのが大変だからって、俺のところに出るなんてお門違いだぜ。」 「でも、それであなたも助かったんだからいいじゃない。」 「俺さあ、ちょっと考えたけど刑事になって脅かすってのはどうだろう。お前の死んだ事件に疑問が残るから、再捜査を始めたって言うんだ。」 「それは良いわ。じゃあ、私の幽霊とあなたの刑事の二本立てで行きましょう。」 そこまで決まったところで、幽子が光義の盃に並々と酒を注いだ。更に細かい打ち合わせをしていたとき、どこかで飼っている鶏の「コケッコー!」という鳴き声が聞こえた。 「夜が明けるわ。帰らなくっちゃ!」 幽子は、慌てて襖の隙間から消えて行った。 −続く− |