春の行方−01−
光太郎は、新幹線の車窓を眺めながら、昨夜のことを思い浮かべていた。 昨夜は、佳津枝と飲んだ後で、カラオケに行った。二人で歌った最後に、佳津枝が歌った「木綿のハンカチーフ」のことを思い出していたのである。 光太郎と佳津枝は、瀬戸内の小さな町に生まれ、家が近くの幼馴染みであった。二人とも農家の子供で、幼い頃から一緒に遊び、同じ幼稚園、小学校、中学校、高校と進んだ。高校の頃には、お互いに家に行って受験のための勉強をした。光太郎は数学が得意で、佳津枝は英語が得意だったから、勉強には効果があった。 3年の夏休みの頃、二人は初めてキスをした。それは不器用なものであったが、今でも甘い懐かしい思い出として残っている。 二人共、大学の試験に合格し、佳津枝は広島の大学に、光太郎は山口の大学に行った。普段は広島と山口なので逢うことはできなかったが、夏休みなどには帰省してデートを重ねた。車がなかったので自転車で海や山に行ったり、電車で広島や山口の町に行って映画を見たり、観光をした。 二人が初めて結ばれたのは、大学1年が終った春休みのことだった。 佳津枝が、光太郎の家に遊びに来たとき、両親はみかんの手入れのために畑に作業に出ていた。妹も、出掛けていた。光太郎の部屋に入ったとき、いつものようにキスをした。そのとき、佳津枝の胸が光太郎の胸に触れた。その感触に、光太郎はいつにない興奮を覚えていた。 光太郎は、佳津枝の背中に回した手に力を入れ、唇を強く押し付けた。 気が付いたときには、二人はベッドの上にいた。光太郎の裸の腕の中に佳津枝が頭を載せている。その瞳は、今、あったことに思いを寄せているようであった。 「ねえ、わたしのことを好き?」 佳津枝が聞いた。 「勿論だとも。」 光太郎が答える。 二人共、初めての経験に夢の中にいるような気分に浸っていた。 その後も、二人はデートの度に身体を交えるようになっていた。大抵は、どっちかの家であったが、家族が家にいるときにはそれができず、二人共空しい思いをすることがあった。 一度結ばれてからは、普通の日の休日に逢うこともあった。佳津枝も光太郎も逢うごとに愛情を深めて行った。口にこそ出さないが、いずれ結婚することは当たり前のように感じていた。それは家族も半ば承知の事実になっていた。 大学も4年になると就職の話が大きなウエイトを占めてくる。お互いに電話で相談したが、結局光太郎は東京のプラントメーカーに、佳津枝は広島の自動車会社に就職することになった。 昨日は、光太郎の送別会のため、二人で町に飲みに行き、その後でカラオケに行ったのである。 −続く− |