本を読んでいると、時として深く感動することがあります。その内容が真実味を帯びていれば余計に感動が大きくなります。
山本周五郎の短編に、「嘘ァ、つかねえ。」というのがあります。
ある男が、居酒屋で飲んでいると、隣に座った男が、飲む度に「女房なんてのは、横っ面を2、3発ぶん殴って『てめえなんか、この家から出て行け!』と怒鳴ればいいんだ。」と偉そうに言っていました。酒を飲む度に大きな声でそう言います。この男、気が弱そうに見えるが本当だろうか。本当なら大したものだと感心して聞いていました。
ある日、半信半疑で酔った男の後をつけて、確かめることにしました。すると、その男の家に近づいたとき、男の声が聞こえてきました。
「やい、てめえ、ここァ、俺の家だ。てめえなんか、出て行け。」
やはり、あの男の言ったことは本当だったんだ。大したものだと、感心していました。でもちょっと様子がおかしいので近づいて見ました。すると家に入れて貰えないその男は、家の外から、中にいるおかみさんに向かって怒鳴っているではありませんか。
「やい、てめえ、出て行け。ここァ、俺の家だ。」
僕も、小説を読んで心を動かされることは少なくなりましたが、この短編を読んだときには、我が身に重なり心から感動しました。