妖精の歌−03−
私達は駐車場に向かい、美鈴の車に乗り込みます。美鈴の運転は、なかなかのものでした。けっこうスピードは出すのですが運転そのものは慎重で、停まるべきところは停まり、スピードを落とすべきところはゆっくりと走っていました。 富士山の五合目までは1時間ほどで着きました。天気も良く、五合目からの景色は遠く山並みが見え最高でした。二人並んで景色に見入っていましたが、寒いので私は美鈴の肩を抱きます。最初に美鈴の肩に手が触れたとき、美鈴の体がビクッと震えたようでした。しかし寒くなって、すぐに茶店に入ります。 「ちょっと寒いね、蕎麦でも食べようか。」 「ええ。」 私は、美鈴といっしょにいることで、日頃の落ち着きをすっかり失っていました。自分では冷静を装っているつもりなのですが、ときどき声がうわずったりします。 茶店での蕎麦は、とてもおいしく感じました。多分、普段の日に町で同じ物を食べたとしたら決しておいしいとは感じなかったと思いますが、山の上であること、美鈴といっしょにいることでとてもおいしいと感じることができたのです。 「私と会って、こんなおじさんなので失望しませんでしたか。」 「いいえ、とても楽しいですわ。」 「そう言ってくれて、ホッとしました。」 普段、飲み屋なんかでママさんや女の子をからかっているときにはもっと陽気にフランクに喋ることができるのですが、今日はなぜかうまく話ができません。それは若い美鈴を相手にしているからなのですが、上手に話をしようとすればするほどぎこちなくなってしまいます。話も、つい途切れがちになってしまいました。 いっしょに蕎麦を食べ終わると、再び車に乗って山を下りて行きます。途中、遅い桜が咲いています。 「きれいな桜だね。ちょっと降りて見てみようか。」 「じゃあ、車を停めるわ。」 私達は車を降り、桜のところに行ってみます。このあたりの桜は背丈も低く、花も小さいのですが、それが可憐さを引き立てています。 「じゃあ、そこに立ってごらん。写真を撮ってあげよう。」 美鈴が一本の桜の木の前に立ちます。私は、美鈴と花の美しさに感動し思わずシャッターを押し続けていました。 ―続く― |