妖精の歌−06−
「気持ち悪いわ。」 幽霊屋敷の前で、思わず美鈴が私にしがみつきます。次のシーンでは、四谷怪談のお岩さんが井戸の中から出て来ているのですが、顔が怖いくらいでとてもリアルです。次のシーンでは、いろいろなお化けがいました。ろくろ首や、一つ目小僧、傘のお化けなどがたくさんいます。お化けもたくさんいると賑やかです。 美鈴も、ちょっとホッとした様子です。次のシーンは荒れ果てた野原、人魂がふわふわと飛んでいます。奥の壁が開くと、そこからゆっくりと人形が出て来ます。やせ細って、青白い顔は焼けただれ、見るからに恐怖心を煽るような幽霊がこっちに近づいて来ます。美鈴が、怖そうに私に体を寄せます。 いよいよ近づいて来たとき、その人形が急に歩き出して美鈴に襲いかかりました。 「キャーーー!」 美鈴が、私にしがみつきます。実はそれは人形ではなく、本物の人間だったのです。 そのとき、美鈴の胸が私の腕に触れました。私は、彼女の身体がビクッと震えたのを敏感に感じ取っていました。 「ごめんなさい。」 あまりにびっくりした美鈴に、幽霊が謝っていました。 幽霊屋敷を出た私達は、再び遊園地の中を歩いて行きます。ジェット・コースターやフリーフォール、幽霊屋敷などでお互いに恐怖感を体験した私達の心はすっかり近しいものになっていました。 遊園地を出る頃には、太陽は富士山の陰に隠れていました。私は美鈴の車の助手席に乗っています。そのまま樹海の横を通り過ぎて南下して行きますが、私はこのまま帰ることに寂しさを感じます。 遠くにモーテルの看板が見えたとき、美鈴の耳元で言いました。 「ねえ、あそこで休んでいかない?」 これは自分でも思っていない言葉でした。 恐怖による緊張は、人の心を昂ぶらせます。普段なら素敵な美鈴にこんなことばを言う勇気はなかったでしょう。しかし、この時はごく自然に口から出たのです。 美鈴は、ちょっと躊躇ったようでした。しかし、私の方を一瞥すると、「いいわ。」と言って、ハンドルをモーテルの方に切りました。 ―続く― |