男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/08/02 15:42:05|小説「人妻」
人妻−01−
人妻−01−
 年度末のその日、私は落ち込んでいた。ある大きな商談がライバル会社に奪われて、社長に叱責されたばかりだった。そのまま家に帰る気にもなれず、一人で渋谷のスナックに飲みに行った。
 時間が早いせいかその店には他に客はおらず、カウンターの奥の端に座ってウィスキーのロックをゆっくりと飲んでいた。
 私は、電機メーカー本社の営業部長をしていた。これまで業績が順調に来ていただけに、今回の敗北のショックは大きかった。飲みながらも、相手の会社の部長が大きな声で笑っている姿が浮かび、余計に気が沈んだ。
 2杯目のウィスキーを頼んだとき、入り口のドアが開いて、バーテンが「いらっしゃいませ。」と言った。入り口の方を見ると女だった。年齢は30歳を超えているだろうか、知的で端正な顔をしていた。眉が濃く、切れ長な目をしている。濃紺のスーツに身を包んでいることから、見るからにOLである。
 私の横に来て、「ご一緒していいですか?」と言った。私がどうぞと言うと、私の横に座った。ふと見ると、左手の薬指に指輪をしていた。
 彼女は、ハイボールを注文すると、私に言った。
「今日は、無性に飲みたくて来ました。」
「そうですか。僕もそうです。」
「お仕事帰りなのですね。」
「えゝ、仕事でちょっと嫌なことがあって、真っ直ぐ家に帰る気がしなくて、こうしてここに立ち寄りました。」
「あらっ、私もですわ。」
「仕事もうまく行っているときは張り合いもあるし楽しいけど、失敗するとがっかりしますね。」
「私、今日、提案した企画を上司に散々文句を言われ、結局潰されてしまいました。」
「そうですか、僕もライバル会社に商売を取られ、社長から散々絞られたところです。」
「お互いの残念会で、乾杯しましょうか。」
私達は、グラスを合わせて乾杯した。
「三宅と言います。」
「私、富士埼です。ふじは花の藤ではなくて、富士山の富士です。ちょっと珍しいでしょう。」
「そういう点では、僕の名前などとても単純だ。間違えようがない。」
「そうですわね。でも、一々説明しなくて良いだけいいですわ。」
彼女は、そう言ってオホホと笑った。
 彼女は、仕事で失敗したというわりには、あっけらかんとしていた。酒がそうさせているのか、彼女本来の性格かはわからないが、陽気な性格であるのは間違いないと思った。そんな彼女と話をしていると、私まで今日の仕事の失敗を忘れていた。
 しばらくしてトイレに立ち、帰って来たときに見ると、彼女の指から指輪が外されていた。
         ―続く−







2026/07/31 14:51:58|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−25−(最終回)
夜の訪問者−25−(最終回)
 
 その夜、やって来た幽子に光義が言った。
「とうとう、やったな。お前の恨みもこれで果たせたわけだ。」
「そうね、ありがとう。私も本望よ。でも、あたし明日は天国に行かなくちゃならないの。こうしてあなたのところに来られるのも今日が最後なのよ。」
「そうか、そうなるとちょっと寂しいなあ。」
「あんたもそう思ってくれるのね。嬉しい!あたしが天国に行ったら、早めに呼んであげるわね。」
「よせよ、俺はまだ死にたくないよ。」
「だけど、あんたはこれから女を見付けて結婚するのでしょうねえ。」
「それはするかも知れないよ。俺だって男だからな。」
「そんなの嫌よ。私、あんたに惚れちゃったから天国から見ていて、結婚なんかしたら許さないからね。」
そう言うと幽子は、光義の太股を思い切り抓(つね)った。
「イテテッ、やめろよ。俺は、お前と結婚しているわけじゃないんだから、焼き餅を焼かれる筋合いはないぜ。」
「そんなこと言ったって、あんたが他の女と結婚するなんて許せないわ。」
そう言うと、もう一回力任せに腿を抓った。
「イテテッ!」
 そのとき光義は目が覚めた。起き上がってみると、立てかけてあった置き物が自分の腿に倒れかかっていた。記憶の鮮明さから考えて、さっきまでのことが夢であったとは思えなかった。
 深夜2時の時計がボ〜ン、ボ〜ンと鳴った。
            −完−







2026/07/31 0:11:44|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−24−
夜の訪問者−24−

 「いよいよ警察が動き始めたみたいだな。」
その夜やって来た幽子に、光義が言った。
「そうね、周囲から固めて利之のところに行くみたいね。」
「本物の警察が動き出したら、あいつも観念するだろうな。」
「そうね、問題は証拠が集まるかどうかだけど。」
「睡眠薬や、ロープを買った証拠が集まれば大丈夫だと思うわ。」
「その点は、俺達より警察の方がプロだからな。あいつが捕まれば、お前も恨みを晴らせて天国に行けるんだな。」
「そうなの、でも寂しいわ。」
「なんでだ。天国ってのは、何の苦しみもない幸せな世界なんだろう。」
「だって、あなたのところに来られなくなるんだもの。」
「よせよ、お前は天国で幸せに暮らした方が良いんだ。」
「でも、あなたって一人では生きて行けない人なんだもの。」
「俺は大丈夫さ。自分でも、これを機会に強くなったと思っているんだ。」
「あたしが必要じゃないって言うの?」
「い、いや、そうじゃなくてお前に幸せになって欲しいと思っているだけなんだ。」
「本当にそうかしら。幽霊のあたしを嫌いなんじゃない?」
「そんなことはないよ。毎晩、食べ物を持って来てくれたしとても感謝しているよ。」
「そう、それなら良いけど。」
 幽子は、今ひとつ納得しない表情で、光義のグラスにビールを注いだ。
 その後、何回か警察がやって来て、部屋の隅や押し入れの中などを徹底的に調べて行った。小さな埃や髪の毛なども拾ってビニール袋に入れていた。
 新聞に利之が逮捕されたと報道されたのは、それから1カ月ほどしたときだった。「OLの自殺は上司の殺人」という見出しで、3面記事の一段に書かれていた。
          −続く−







2026/07/29 15:41:12|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−23−
夜の訪問者−23−

 翌日、光義は利之の写真を撮った。それをプリントすると、夕方には隣の部屋の恭子のところに行った。以前、引っ越して来たときに挨拶したとき以来だったのでちょっと驚いたようだったが、客商売をしているだけに愛想は良かった。利之の写真を見せて、この男に見覚えがあるかと聞いた。恭子は、ちょっと考えた末に言った。
「そう、思い出したわ。お隣さんのところに来ていたわ。可哀そうに、彼女は自殺しちゃったのよ。2、3回見たことがあって、一度なんかこの前で鉢合わせしたような格好になったからよく覚えているの。」
「そうですか、ありがとうございます。もし良ければ、協力していただきたいのですが。」
「協力って?私、面倒なことは嫌よ。」
「実は、彼女はこの男に殺されたのかも知れないのです。」
「えっ、彼女は自殺なのでしょう。」
「彼女は妊娠していました。彼の子供です。彼は職場の上司で、彼女を妊娠させ、他の女と結婚することになって困って殺したのです。」
「マア!」
「それで警察が来たら、捜査に協力して欲しいのです。」
「そうねえ、考えておくわ。」
「そんなことを言わないでお願いしますよ。危険な男を野放しにはできないですから。」
 光義の熱心さに打たれたのか、恭子は首を縦に振った。
 その翌日、光義は警察に、利之が裕子を殺した旨の手紙を書いた。利之が裕子のアパートに来ていた事実は、隣の恭子に聞けばわかるとも書いておいた。
 3日後、光義の部屋に警察がやって来て、この部屋の先住者が死んだことを知っているかとか、何か不自然なことはないかと聞き、更に部屋の様子を見せて欲しいと言った。押入れとか台所の隅まで丹念に調べ、しばらくそのままにしておいて欲しいと言って部屋を出た。
 その後で、隣の恭子の部屋のチャイムを鳴らしている音が聞こえた。
         −続く−







2026/07/28 16:13:12|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−22−
夜の訪問者−22−

 光義は、その夜やって来た幽子に聞いた。
「今日は、あいつ俺に出会った後はどんな様子だった?」
「そうね、効果抜群よ。その後はずっとそわそわしていたし、彼女の前でもトンチンカンなことばかり言っていたわ。」
「そうか、それは良かった。でも何かあいつがお前を殺したと言う証拠がないかなあ。そうすれば警察だって動き始めるんではないかと思うけど。」
「そうね、私もずっとそれを考えているけど、思い浮かばないのよ。」
「警察は、お前の身体の中にいた子供があいつの子供だってことを知っているんだろうか?」
「いいえ、知らないと思うわ。私は死んでいたし、私と彼との交際は秘密にしていたから。」
「問題はそこだな。彼が、この部屋にやって来た証拠があれば良いんだ。」
「でも、この部屋にそんな証拠が残っているかしら。」
「目撃者は?」
「そうね、一度お隣さんに会ったわ。彼女は夜の仕事をしている人で、これから出勤という姿だったわ。まだお隣に住んでいるわ。」
「そうか、その2つの面からアプローチしてみよう。ある程度証拠が固まったら、警察に手紙を書くんだ。」
「そうね、お願いします。でも、そうなるとわたし、寂しいわ。」
「なんで? 晴れて恨みを晴らせるんだぜ。」
「ううん、いいの。そうだよね。」
 幽子は、そう言うと青白い顔を赤らめて下を向いた。
           −続く−