男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
赤い糸・白い糸−06−
赤い糸・白い糸−06−

 筑波山の神様は、本業が縁結びである。
 関東平野の北部にそびえる筑波山には、頂上がふたつある。ひとつが男体山、もうひとつが女体山と名付けられていて、麓の神社が筑波山神社で縁結びの神様として有名である。筑波山の神様は、縁結びが本業だけに、出雲に来ても仕事熱心であった。手順がしっかりしており、失敗が少ない。
 そんな筑波の神様に、山口県から来た神様が声を掛けた。
「お〜い、筑波さん。こっちに25歳になる男がいるけど、そっちに良いのはいませんか。」
「そうですねえ、ちょっと待ってください。あっ、これなら良いでしょう。同い年の女ですけど。」
 二人は、それぞれ赤い糸と白い糸を持って歩み寄った。
 その頃、地上では・・・・・
 光太郎は、田舎から出て来て自衛隊に入り、ここ茨城の基地に赴任して来て3年、今年で25歳になる。仕事熱心なわりには冗談もよく言い、明るい性格で、同僚や部下からの評判も良かった。そんなある日、先輩が光太郎に言った。
「紹介したい人がいるから、俺に付き合え。」
 自衛隊は、階級社会である。光太郎は、先輩の言葉にNoを言うこともできず、大きな声で「ハイ。」と返事をした。
 次の日曜日に連れて行かれたのは、海辺のレストランだった。窓辺には4人用のテーブルがあって、ナイフとフォークが並べられていた。
 しばらく座って待っていると、中年の女性に連れられた若い女性が一緒だった。若い方の女性は、赤いミニスカートに胸の開いたフリルのついているブラウスを着ている。
「お待ちになりまして?」
「いや、来たばかりです。」
先輩が中年の女性と言葉を交わした。
 先輩が、光太郎を相手に紹介した。相手の中年女性も、自分が飯山であると名乗り、若い女性が岡崎久美代であると紹介した。しばらくは先輩と飯山と名乗る女性が話をしていたが、ときどき久美代の方に話を向ける。話の内容から久美代は地元で働くOLであることがわかった。光太郎も、先輩から聞かれて自分の出身地や、自衛隊での生活について少しずつ話をした。
 結局、その日は2時間ほど食事をしながらとりとめのない話をして別れた。帰りの車の中で、先輩が言った。
「どうだ、あの娘。付き合ってみる気はないか。」
 光太郎は、学生時代から運動一筋でやって来た。自衛隊の部隊に赴任してからも、女性との付き合いなどほとんどなかった。そんな光太郎にとって、久美代はとても新鮮に見えた。光太郎はすぐに返事をした。
「はい、よろしくお願いします。今日はありがとうございました。」
 数日後に、先輩がやって来て、メモを渡しながら言った。
「連絡先はここだ。あとはお前がうまくやれ。」
メモには、久美代の住所と電話番号、メール・アドレスなどが書いてあった。
 光太郎は、早速久美代に次の土曜日デートをしないかと電話をした。久美代はその場でお願いしますと返事をした。
 土曜日がやって来た。光太郎は車を持っていなかった。自衛隊の正門前で待っていると、久美代が赤い車でやって来た。会う時間と場所は決めていたが行き先は決めていない。
「今日は、私が案内しますわ。」
久美代はそう言うと、車を走らせた。
              −続く−







赤い糸・白い糸−05−
赤い糸・白い糸−05−

 新米医師の陽一は、しばらく悩んだ。看護師の孝子には、今まで生活面を含めて自分を支えてもらった恩義がある。しかし、結婚しても一生貧しい生活を送らなければならない。一方、院長の娘と結婚すれば将来が約束される。貧乏な暮しから開放されるのである。そんな悩みは隠して、孝子との生活を続けていた。
 院長からの話があってから1か月が過ぎた。いつまでも返事を延ばしているわけにもいかないのだが、迷いでそのままになっていた。
 そんなある日、院長に呼ばれた。
「この前の話、考えてくれたかね。」
院長室に入ると、早速、聞かれた。
「はい、私で良ければよろしくお願いします。」
咄嗟に出た返事だった。
「うん、良かった。悪いようにはしないからよろしく頼むよ。」
 その日から、孝子に何と言い出そうかと悩む日が続いた。言い出そうとしても、孝子の笑顔を見るとそれができずに、話題を変えてしまうことになる。
 悶々とした日が続き、次第に憂鬱な気分になる。そんな陽一に、孝子は心配そうに聞いた。
「ねえ、最近元気がないけど、どうかしたの?」
「いや、何でもないよ。ちょっと忙しいから、疲れているのかなあ。」
「なら良いけど、無理しないでね。」
今では、孝子の優しささえ苦痛であった。
 そんなある日、家に帰ると孝子が聞いた。
「あなた、院長のお嬢さんと結婚するの?」
「えっ?」
「今日ね、瑞江さんから聞いたの。院長が、あなたにどうかって勧めたんだそうね。」
 瑞江は、孝子の同僚看護師である。
「・・・・・」
「ねえ、本当のことを言って。」
「うん・・・・・」
 陽一は、返事ができないでしばらく黙っていた。 陽一は、やっと重い口を開いた。
「実はそうなんだ。」
「あなたも承知したそうね。」
「うん・・・・・」
「いいわ、別れてあげる。明日、ここを出て行きます。」
「ごめん・・・・・」
「いいの、私は、余計なことは言わないわ。幸せになってね。」
 翌日、孝子は出て行った。
 陽一は、後ろめたい気持ちはあったが、それでも一件落着と安堵した。しばらく平穏な日が続いた。院長の家に呼ばれて娘を紹介され、デートもするようになった。ところがある日、院長に呼ばれた。
「君、今まで同棲していたようだね。」
「えっ、はい・・・・・」
「君は、僕を馬鹿にしているのかね。」
「いえ、とんでもないです。」
「しかも相手はこの病院の看護師だと言うじゃないか。僕の顔に泥を塗って、よくも平気でいられるものだね。」
「・・・・・」
「娘からも、ひどく責められたよ。とにかく、今回の話はなかったことにしてくれたまえ。」
「はい・・・・・」
「それと良い病院があったら、そっちに転職も考えた方が良いだろう。君も、ここには居づらいだろうしね。」
「・・・・・」
 それから一週間後に陽一は病院を辞めた。
 瑞江は、陽一と孝子のことを前から知っていた。陽一の態度に憤慨した瑞江は、二人のことを院長に告げたのであった。

 その頃、雲の上の神様が話をしていた。
「宮崎の神様も、酒さえ飲まなければ、良い人だけどねえ。酒がいけないんだよ。今回も、良い話をひとつ壊してしまったね。」
            −続く−







赤い糸・白い糸−04−
赤い糸・白い糸−04−

 神様達は、休憩時間をも惜しむように働いていた。その成果によっては、ボーナスの額が違うというお達しが出ていたのである。
 しかし、さすがに3日目、4日目の夕方になると疲れが出て来る。夕食のとき、酒を飲む者も出て来る。なにしろお神酒には事欠かない。神社に行けばこも被りの樽が山のように置かれているが、それらは人間が献上したものである。
「宮崎さん、そんなに飲んで大丈夫ですか?」
「ウイッ、大丈夫だとも。こう見えても芋焼酎で鍛えていますからな。」
「でも、今日も残業があるんでしょう。」
「な〜に、このくらい飲んでも平気ですわ。九州男児、何のこれしき。」
 そう言うと、宮崎から来た神様は、コップの酒を一気に飲んだ。見ると、テーブルには既に徳利が5本も倒されていた。
「さ〜て、仕事にかかるか。」
そう言って立ち上がった足はふらついていた。
 その頃下界では・・・・・
 宮川陽一は、小室孝子と交際を始めて5年になる。陽一は医師で孝子は看護師だった。陽一がインターンとしてこの病院にやって来たときから交際が始まった。最初に積極的だったのは陽一だった。忙しい仕事の中で、慰めが欲しくて孝子を誘って食事に行ったのが最初で、その後交際を続けた。見習い医師の給料は忙しい割には安く、経済的な面や生活面で孝子は陰になり日向になってずっと陽一を支え続けていた。そのことは陽一も恩に着ていたし、感謝もしていた。そして2年前から同棲をするようになった。そんな二人に、周囲もいずれもが、陽一が一人前の医師になったら結婚するものだと思っていた。
 2年間のインターンが終り、陽一は一人前の医師になった。
 その夜、二人はささやかなお祝いのパーティをした。孝子は、腕を振るって手料理を作り、シャンペンを食卓に並べた。陽一は孝子の手料理に舌鼓を打ち、孝子は陽一がインターンを終えたことを心から喜んでいた。
 それから1週間ほどしたときの昼休みのことである。病室を回って診療していた陽一が廊下に出たとき後ろから肩を叩かれた。見ると院長である。院長は、「これが終ったら、ちょっと僕の部屋まで来てくれないか。」と言った。今まで院長に呼ばれたことなどなかったので何事かと驚いた。
 診療を終えて院長室に行くと、すぐに椅子を勧められた。
「君は、この度インターンを終えたそうだね。おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「ところで君はいくつになったのかね。」
「はい、25です。」
「結婚する気はないかね。」
「・・・・・・・」
「実は娘がいてね。薬科大を出ているんだが、早めに結婚させたいんだ。そうして君がこの病院を継いでくれればと思っているんだよ。」
「・・・・・・・」
「なに、急いで結論を出すことはない。考えて見てくれないか。」
「はい。」
 陽一は、そそくさと部屋を出た。
 貧しい家庭に育った陽一は、一生開業などできそうもなく、今のまま行けば病院勤めで終るのがおちである。降って湧いたような話に、瞬間孝子のことも忘れていた。
           −続く−







赤い糸・白い糸−03−
赤い糸・白い糸−03−

「お〜い、こっちは30歳の男でサラリーマン、年収は350万円だけど、いい女はいませんか。」
右の壁にいる神様が、左の壁にいる神様に向かって叫んでいる。
「こっちは25歳の女でOL、会社も近くだし、いいんじゃないでしょうか。」
「よ〜し、それで行きましょう。共稼ぎにさせれば何とか生活できるでしょうから。」
「それで行きましょう。」
二人の神様はそれぞれの糸を引っ張って中央にやって来て、ふたつの糸を結んだ。
 その頃、下界では・・・・・

 「なあ、清水君、帰りにちょっと飲んで行かないか?」
「いいねえ。駅前の居酒屋、あそこには若い女の子もたくさん来るみたいだし、雰囲気も良いものね。」
話が決まると、清水と宮村は連れ立って会社を出た。
 金曜日の居酒屋は混んでいて、二人が入ったときはほぼ満席だった。店の女の子が相席で良いかと聞いたので、それでいいと答えた。案内されたテーブルの隣には、若い女性が二人で飲んでいた。女性達はご多分に漏れずお喋りに夢中のようである。
 清水と宮村は、しばらく飲んでいたが、二人とも隣の女性達が気になって仕方がない。とうとう宮村が声を掛けた。
「きれいな人達ですね。この店には、よく来るのですか?」
「まあ、上手な方ね。ええ、ときどき来ます。あなた方も?」
「そうですね、酒でも飲んで憂さを晴らさないとやってられませんよ。」
「そうですね、私達もそうなんですよ。」
 4人は意気投合した。結局、ちょっとのつもりだったのが、店を出たときには10時を過ぎていた。宮村は、店を出るとき彼女達からちゃんとメール・アドレスを聞いていた。
 翌日、宮村は小村咲子に「付き合って欲しい、今度二人で飲みに行きたい。」とメールを送った。咲子からはすぐに返事が来た。
 それから交際が始まった。次の金曜日には二人で飲みに行ったし、休日にはデートをした。二人の交際は順調だった。そして二人が両親の許しを得て婚約をしたのは2ヵ月後だったし、結婚したのはそれから僅か半年後のことであった。結婚式には、清水と咲子の友達の喜美恵の姿もあった。新郎側、新婦側と席は離れていたが、二人ともお互いの姿を確認したようである。新婚旅行に出発する新郎新婦を見送った後、二人は一緒に歩いていた。歩きながら、清水は喜美恵に交際を申し込んでいた。
 その頃、雲の上では、宮村と咲子の糸を結んだ神様達が声を掛け合っていた。
「さっきの糸の隣の糸を持って来てくれないか。もう一本結べそうなんだ。」
「了解、すぐに持って行くから。」
二人の神様は、赤い糸と白い糸を結んだ。
 清水と咲子が結婚したのは、更に1年後のことであった。
雲の上では、以上のような作業が繰り返されている。神様が赤い糸と白い糸を結ぶ度に、下界では結婚式が行われているのである。
 神様も、人間と同じである。朝の元気の良いうちは真面目に働けるが、疲れたり二日酔いだったりすると失敗もある。これから縁結びの神様の仕事と、それに伴う人間の行動を紹介して行くことにする。
            −続く−







赤い糸・白い糸−02−
赤い糸・白い糸−02−

 「皆さん、今年もたくさんお集まりいただいてありがとうございます。これから会長の伊勢さんの挨拶があります。ご静聴ください。」
 今までガヤガヤと騒いでいた神様達が一斉に話をやめ、壇上を見た。白く長い髭をたくわえた老人が壇上にあがって、エヘンと咳をしてから話を始めた。
「諸君、今年も全国津々浦々からの参加をありがとう。さて、ここのところ、我が国の人間の結婚事情は最悪のところまで来ている。男も女も結婚をしたがらない者が多く、特に男にいたっては女からプロポーズされても逃げている者が多いという。見合いの制度は廃れ、女の方から婚活しているというような報道さえある。これは由々しい問題である。このままの状態で行けば人口減少は免れず、賽銭すら少なくなって行くであろう。そうすると神の世界の経済にとっても大きな痛手である。本日集まってもらった諸君には、是非頑張って下界の結婚の促進に努めて貰いたい。諸君の健闘を期待する。」
 会長の挨拶の後で、更に明治神宮の神様、生田神宮、春日神宮、熱田神宮などいろいろな話が続いたが、真面目に聞いている者は少ないようだった。
 その後で宿舎が割り当てられ、食事が振舞われた。
「宮崎さん、お久し振りです。ところで、日向の方はどうですか。」
「いけませんなあ。地方は基本的に嫁不足です。女達が都会の男に憧れているもので、どうしても農家の男達は結婚に苦労しています。中には、外国から出稼ぎに来ている女性と結婚する者もいます。ところで都会は華やかでいいでしょう。」
「それがそうでもないんですよ。男も女も結婚したがらないのが多いんです。」
「そうですか、どこも大変ですなあ・・・・・」
 旅の疲れか、食事が終って宿舎に戻ると、みんな早々に眠りに就いた。
 翌日、神様達は5時に起こされ、食事をして、雲の上の大きな体育館のようなところに案内された。中は工場のようになっている。
 中に入ると、右の壁からは白い糸が、左の壁からは赤い糸の端が見えている。その向こうの方には赤い糸と白い糸が結ばれたのがたくさん見える。案内の出雲の神様が説明した。
「何度もお見えになっている神様達には今更と思われるでしょうが、初めての方もおられますので再確認のためにご説明致します。目の前に見えている糸は、白い糸が男、赤い糸が女です。それぞれの糸には名前、年齢、経歴などを書いたタグが付けられています。皆さんには、そのタグを見ながら良い組み合わせだと思ったら結んでいただきます。結んだ時点で、下界ではその男と女が結婚することになります。また向こうに見えている結ばれた糸は、既に結婚している夫婦ですから、これには触らないようにお願いします。去年も、ある神様が酔っ払って転んでしまい、何本かの糸を切ってしまいました。下界では離婚がいくつかあったようです。特に、中には結び目が解けそうになっているのもありますから、気をつけてください。なお作業は8時から開始します。
 会場がざわついた。
「去年は10時からだったのに、何で今年は8時からなんだ?」
「なんでも伊勢さんがえらい張り切っているようなんだ。」
「そんなに焦っても、仕方がないのになあ。」
「出雲さんだって、そろそろ出世を考えているんじゃないのか。」
「そうだよなあ、はっぱを掛けられていたようだからなあ。」
 それぞれ勝手なことを言っていたが、笛の音とともにそれぞれの持ち場に就いた。
             −続く−