男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/06/03 4:19:33|小説「春の行方」
春の行方−17−
春の行方−17−

 光太郎が元の場所に戻って飲んでいると、ちょっとしてから一恵がトイレから戻ってきた。さっき、“二人で行こう”と言われたことが気にかかる。一恵は、何もなかったように他の男性達と楽しそうに話している。光太郎は、他の人がいるため何も話すことができない。
 何となく落ち着かないまま3時間のバーベキュー大会は終った。幹事役以外の人達は、三々五々に帰って行った。
後 片付けも、残された光太郎達2年生社員の仕事である。網を洗い、かまどを掃除し終わったときに、大室が言った。
「三永君、これが終ったら幹事の打ち上げをやろうよ。」
「そうだねえ・・・・・」
 光太郎が、一恵の言ったことがあるので生返事をしていると、久恵が「ねえ、やりましょうよ。」と言った。確かに、そっちの方が大事である。後片付けを終わったときには4時近くになっていた。
「じゃあ、6時から駅前のいつもの居酒屋にしよう。」と約束をした。
 光太郎は、寮に帰るとすぐに一恵に断るため彼女の部屋のチャイムを鳴らした。しかし、返事はなかった。既に出掛けているようである。
 シャワーを浴びて出掛ける支度をしたが、一恵の言ったことが気にかかる。一方的な話しなので約束とは言えないかも知れないが、相手が先輩であるし気にかかる。とりあえず、みんなと一緒に居酒屋に向かった。
 居酒屋での打ち上げが始まった。
 ひとつの仕事を成し終えた充実感は大きい。2年生社員にとっては、こうしたバーベキュー大会や宴会のセットひとつ大事な仕事である。そんなことから、打ち上げは盛り上がった。しかし、その中で光太郎一人が浮かない顔をしていた。
 それに気付いた久恵が言った。
「三長君、どうしたの? 何だか元気がないみたいだけど。」
「いや、そんなことはないよ。大丈夫だよ。」
そうは言いながらも、一恵のことが気になる。
 一恵に言われた7時が近付いたとき、光太郎は「ごめん、ちょっと。」と言って席を外した。そして店を出ると、歩いても5分ほどのカラオケ店に走って行った。一恵はいない。
 受付けで聞いて見ると、既に部屋に入っているようである。光太郎は、教えられた部屋のドアをノックした。
「三永君、来てくれたのね。嬉しいわ!」
ドアを開けた一恵が笑顔で迎えた。
「いえ、先輩、そうじゃないのです。実は・・・・・」
「そんな、いいのよ。来てくれて嬉しいわ。三永君もカラオケは好きなのでしょう。久恵さんからも聞いたわよ。」
 光太郎に話す機会を与えないままに、一恵は話し続ける。
「今日は楽しみにしていたのよ。私も歌は好きだし、いつか三永君と一緒にカラオケに行きたいと思っていたの。でも、なかなか話をする機会がないでしょう。だから、今日はゆっくり歌いましょうよ。」
 光太郎は、自分で話をする機会も与えられないまま時計を見た。もう7時をかなり過ぎていた。
           −続く−







2026/06/02 6:29:06|小説「春の行方」
春の行方−16−
春の行方−16−

 正月が開けると、年度末に向けて仕事はかなり忙しくなった。顧客の会社も新年度の予算を立てたりするので、そのための売り込みや見積もり書の提出など作業も多いし、出歩かなければならないことも多い。忙しくしているうちに、あっと言う間に3月になった。社内でも、4月1日の定年の人や、それに伴う人事異動の噂が流れるようになる。
 寮からも転出する人もいれば、新しく入ってくる人もいる。寮の入居は、長くて10年と決められていた。新しく地方から出て来る人達に優先的に入居して貰うためである。多くの人は、その前に結婚したり、自分でマンションを買ったり借りたりして出て行った。
 新年度になった。新しく寮に入って来た新人は3人であった。他にも、転勤で来た単身赴任者もいて、5人の歓迎バーベキュー大会をすることになった。
 光太郎達は、同期5人で準備をするために最初のミーティングを持った。寮の集会所でビールを飲みながらのミーティングである。その結果、光太郎がリーダーに、大室がサブ・リーダーをすることになった。
 場所の予約、天気予報の確認、買い出し、運搬の計画など、けっこう大変な作業である。しかし、5人でこなしバーベキューの日を迎えた。
 新入社員は、男2人、女一人である。男は大石と黒木、女は前中といった。
 準備を手伝おうという彼等に、1年先輩社員達は、「今日まではお客さんなんだから、食べて飲むだけにしてくれないか。」と言った。
 前中陽子は、ちょっとひょうけた明るい茶目っ気のある感じの女の子だった。バーベキューが始まると、アッという間にみんなの人気者になっていた。
 そんな新人達の様子を見ながら、光太郎と大室、久恵達達は一生懸命になってバーベキューの肉を焼き続けていた。
 肉を食べ、ビールの酔いが廻るころには、みんなすっかりうち溶け合っていた。
 男達は、女性を中心にして集まっている。圧倒的に多いのは、陽子の周り、他の女性には数人ずつの男が取り巻いている。やはり人気者は陽子である。ポチャっとした可愛い感じの顔立ちで、とにかく陽気で冗談ばかり言っている。去年のヒロインは久恵だったが、今年はその立場を奪われた感じだった。久恵も陽気だが、ちょっと模範的な感じがする。
 それに比べて、陽子は天然系と言っても良いくらい天真爛漫なのである。それに端正な顔立ちも、久恵にとってはマイナスだったのかも知れない。光太郎は、先輩の女性の近くで飲んでいた。
 広末一恵という庶務課の女性で28歳、寮の女性の中では一番の先輩で、いかにも姉御肌といった感じである。
「三永君、2年生社員のお勤め、ご苦労さま。」
 今まで、他の男性達と笑いながらお喋りをしていた一恵が、突然光太郎に話し掛けた。
「あっ、いえ、去年は僕達がお世話になりましたし、順番ですから。一恵先輩も、されたのでしょう。」
「そうね、遠い昔のことだけど。」
その言い方に、ちょっとニヒルな感じがした。
 光太郎は、かなり飲んだ。ビールが多かったので、トイレも近くなる。ビールのトイレは、始まると忙しくなる。何度目かに行ったとき、一恵と途中で一緒になった。
 そのとき、一恵が言った。
「三永君、これが終ったら、二人でカラオケに行きましょうよ。7時に駅裏のシダックスで待っているわ。」
 それだけ言うと、さっさと女子トイレに入って行った。
            −続く−







2026/06/01 4:36:55|小説「春の行方」
春の行方−15−
春の行方−15−

 松戸の寮に戻った光太郎は、一旦部屋に荷物を置くとすぐに、買ってきたお土産を渡すために久恵の部屋のチャイムを鳴らした。しかし、まだ帰って来ていないようで出てくる気配がなかった。
 部屋に戻ってパソコンを開いて見ると、佳津枝からのメールが入っていた。
「無事に、東京に着きましたか。
お正月、光太郎君のお陰で楽しく過ごすことができました。光太郎君を見送ってから何となく寂しくて、家で一人ビールを飲んでいます。普段は、そんなことはしません。さっき会ったばかりなのに、次に会えるのを心待ちにしています。光太郎君が、東京に行くまでは、こんな気持ちになったことはありませんでした。
私達は、産まれたときからずっと一緒でしたものね。一緒にいることが当たり前の二人だったと思います。こうして別々に暮らすようになって、初めて光太郎君とのことについて深い絆で結ばれていたことに気が付きました。
夏休みを楽しみに、明日からまた元気に頑張って行きましょう!
          佳津枝」
 メールを読み終わったときに、玄関のチャイムが鳴った。出て見ると、雪焼けした久恵だった。「浜松のお土産です。」と言いながら、手に持っていた箱を手渡した。スキーの後で浜松に帰っていたようである。
 光太郎は、それを受け取ると、急いで部屋からみやげを持ってきて、「これ生もので長持ちしないけど田舎ではこんなものしかないんだ。」と言いながら、買って来た蒲鉾の入った箱を手渡した。そして、一緒に夕食に行かないかと誘った。
 久恵は笑顔で頷いた。
 二人は、そのまま駅前の居酒屋に行った。正月明けの休日、店は比較的空いていた。テーブルで飲んでいたとき、入り口に向かって座っていた久恵が突然手を挙げて言った。
「大室君、こっち、こっち。」
大室は、それに気が付いて、すぐにテーブルにやって来た。
「なんだ、二人で来ていたのか。誘ってくれれば良かったのに。」
「帰って来ているって知らなかったんだ。」
「そうか、昼過ぎには帰って来ていたんだよ。」
「でも、みんなここしか来ないもんな。飲みたい時には、ここに来れば誰かに会えるよ。」
 それからは、大室と久恵の間でスキーの話が中心になった。二人の話を聞いていると、大室はスキーの指導員の資格を持つほどの技量のようである。久恵は、経験はあるが初心者程度のようであった。話の内容から、そんな久恵を大室が手取り足取り教えていたことが伺われる。
 二人の話を聞きながら、光太郎は一人ビールのグラスを傾けていた。
 そんな光太郎に気付いた久恵が言った。
「三永君は、どんなお正月だったの?」
「ああ、大掃除と餅つき、それに静かな正月だった。でも、お袋が喜んでくれたよ。」
「そう、良かったわね。どこにも行かなかったの?」
「うん、近くの神社に初詣に行ったくらいだね。」
「でも、ご家族と一緒で良かったわね。」
「うん・・・・・」
 本当は、佳津枝と一緒にいたことが一番の幸せであったのだが、そのことは口にしなかった。
 再び、話はスキーのことに戻った。そして大室が言った。
「今年の年末は、三永も来いよ。楽しかったぜ。」
「そうだね。」
 光太郎は、何となく煮え切らない返事をした。
            −続く−







2026/05/31 4:26:22|小説「春の行方」
春の行方−14−
春の行方−14−

 初詣からの帰り道、光太郎は佳津枝に、また広島に寄ってから帰りたいと言った。6日から仕事なので、広島に寄るためには4日には、家を出なければならない。佳津枝は、私は最初からそのつもりで家族には言ってあると言って笑った。
 2日の日には、佳津枝が家族に挨拶にやって来た。佳津枝は、光太郎の家族にも評判が良かった。妹の美子は懐いているし、両親にも礼儀正しく、細かい気遣いをすることから好評を得ていた。勿論、佳津枝もそのことを十分に知っていて、挨拶に来たのである。光太郎の家族4人と佳津枝は、2日の午後をゆっくりと過ごした。
 正月の三が日は、あっと言う間に過ぎた。
 昼過ぎに駅に向かうのであるが、母親が駅まで見送ると言ってきかない。
 駅に来たとき、父親に連れられて来た佳津枝と会った。光太郎は実家に帰って来てから、佳津枝の両親には挨拶に行っていなかった。
 光太郎は、「おめでとうございます。」と神妙に言った。
「おめでとう。」父親も、無表情のまま挨拶をした。
 列車が到着するまでの時間が長かった。二人きりならそうも感じないのであるが、お互いの親と一緒だと落ち着かない。母親と佳津枝の父親は、とりとめのない会話を交わしている。
 これから二人が広島で一夜を過ごすことは、どっちも知っているだろう。そんな親の前で何を話して良いかわからず、光太郎は佳津枝に対しても無口であった。
 やっと電車がやって来たとき、光太郎はホッとした思いで乗り込んだ。
 光太郎と佳津枝は並んで座り、両親に手を振った。
 列車が動き始めると、光太郎はホッとした。佳津枝の父親も良い人である。二人のことは十分に認めている。しかし、光太郎は何となく苦手である。佳津枝という一人の女をめぐる父親と恋人の関係は微妙である。理性では許しあっても、感情の底には娘を取られたくないという気持ちは否めない。しかも佳津枝はまだ20歳過ぎの若さだから、その気持ちは仕方がないのだろう。
 広島に着くと、マンションに向かう途中で買い物をする。スーパーで、光太郎がカゴを持ち、佳津枝がその中に買う物を入れて行く。この日も、手が掛からないように鍋のメニューだった。
 佳津枝の作る鍋は美味しかった。前回、食べた時、ちょっと感想を言ったら、味付けもちゃんと改善されている。その時は何気なく聞いていたようであったが、ちゃんと覚えていたのである。佳津枝には、そんなところがあった。細かいところに気付きながらそれを口に出したりしないのである。
 そういう点では、久恵ははっきりしていた。アピールすべきところは、はっきりと言う。しかし、そこに嫌味はない。明るい性格と笑顔が、それをカバーしていた。
 広島では一夜であるが、光太郎も佳津枝も満足した時間を過ごした。一緒にいるだけで佳津枝は、満足そうであった。
 しかし夜が明けると、楽しい時間が、別れを前にした切ない時間に変わる。広島を出るのは午後であるが、残された時間は僅かしかない。
遅い朝食を済ませてリビングのカーペットで寝そべる光太郎の横に佳津枝が来て寄り添い、抱擁とキスの時間を過ごした。
「次は、夏休みね。」
「うん・・・・・」
「長いわね。」
「うん・・・・・」
 しかし、夏休みがどうなるのか、今回のスキーのような誘いがあるのか、ないのか光太郎には予想がつかなかった。
              −続く−







2026/05/29 1:19:32|小説「春の行方」
春の行方−12−
春の行方−12−

 玄関のチャイムを鳴らすと、すぐに佳津枝が出て来た。エプロン姿である。
「おかえりなさい。私も、今日は納会なので早めに帰って来たの。疲れたでしょう、シャワーでも浴びて来て。」
 その言い方は、長い出張から帰ってきた夫を迎える新妻のようだった。
「これ、おみやげなんだ。」
光太郎が、ネックレスの入った箱を渡した。
「何?」
「開けてみてよ。」
佳津枝が、包みを開いた。
「マア、嬉しい。でも、これ高かったんでしょう?」
「いや、大したことはないよ。似合えば良いんだけど。」
「ありがとう。嬉しいわ。」
佳津枝は、そう言うと光太郎に抱き着いてキスをした。
 鍋の食事は美味しかった。佳津枝は、光太郎が鍋が好きなのを知っていた。落ち着いて佳津枝を見ると、夏のころより顔の肉も引き締まり、随分大人びて見えた。すっかりOLの雰囲気である。
 そのことを言おうとすると、先に佳津枝が言った。
「光太郎君、すっかりサラリーマンっぽくなったわね。顔つきも引き締まって来たわ。仕事も大変なのでしょうね。」
「佳津枝こそ、大人になったって感じだよ。それにきれいになったし。」
「あらっ、やだわ。営業だから、口も上手になったのね。」
楽しい時間が過ぎて行く。
 ビールで、佳津枝の頬もほんのりと紅色に染まっていた。
 二人は、狭いベッドで愛の時間を過ごす。これから1週間は、自由に逢うことができるという安堵感のようなものがある。
 愛の行為の後、佳津枝は光太郎の腕の中で静かな寝息を立てていた。
 光太郎は、佳津枝といるときは、母親の胸に抱かれているような安堵感を覚えていた。もし久恵と同じような関係になったとして、これと同じ安堵感を得ることができるだろうかと考えてみた。久恵は、明るい性格で誰とでも付き合えるし、知識や付き合い方も洗練されている。それはしかし、夫婦としても適当なものであろうか。結婚すれば、当然であるが、他人行儀では済まされない。小さなことが、大きなしこりにもなりかねない。しかし、それを知るには光太郎はまだ未経験であった。久恵の洗練された魅力に抗し切れないことも確かであった。
 翌日は、二人で故郷に向かう。
 新幹線は混んでいそうなので、鈍行列車で帰ることにした。昼前に起きて、そのまま駅に向かい、ホームで弁当と缶ビールを買った。所要時間はおよそ1時間、途中の駅で停まりながら行く列車を二人は弁当とビールで楽しんだ。
 鈍行列車は空いていた。二人はボックス席の向かい合わせに座り、弁当を食べながらビールを飲み、ときどき目を見合わせていたが、そのときの佳津枝は本当に幸せそうだった。
 昨日もかなり飲んだのだが、光太郎も佳津枝も飲んだ。途中の乗り換え駅で、光太郎はビールを買い足した。
               −続く−