春の行方−17−
光太郎が元の場所に戻って飲んでいると、ちょっとしてから一恵がトイレから戻ってきた。さっき、“二人で行こう”と言われたことが気にかかる。一恵は、何もなかったように他の男性達と楽しそうに話している。光太郎は、他の人がいるため何も話すことができない。 何となく落ち着かないまま3時間のバーベキュー大会は終った。幹事役以外の人達は、三々五々に帰って行った。 後 片付けも、残された光太郎達2年生社員の仕事である。網を洗い、かまどを掃除し終わったときに、大室が言った。 「三永君、これが終ったら幹事の打ち上げをやろうよ。」 「そうだねえ・・・・・」 光太郎が、一恵の言ったことがあるので生返事をしていると、久恵が「ねえ、やりましょうよ。」と言った。確かに、そっちの方が大事である。後片付けを終わったときには4時近くになっていた。 「じゃあ、6時から駅前のいつもの居酒屋にしよう。」と約束をした。 光太郎は、寮に帰るとすぐに一恵に断るため彼女の部屋のチャイムを鳴らした。しかし、返事はなかった。既に出掛けているようである。 シャワーを浴びて出掛ける支度をしたが、一恵の言ったことが気にかかる。一方的な話しなので約束とは言えないかも知れないが、相手が先輩であるし気にかかる。とりあえず、みんなと一緒に居酒屋に向かった。 居酒屋での打ち上げが始まった。 ひとつの仕事を成し終えた充実感は大きい。2年生社員にとっては、こうしたバーベキュー大会や宴会のセットひとつ大事な仕事である。そんなことから、打ち上げは盛り上がった。しかし、その中で光太郎一人が浮かない顔をしていた。 それに気付いた久恵が言った。 「三長君、どうしたの? 何だか元気がないみたいだけど。」 「いや、そんなことはないよ。大丈夫だよ。」 そうは言いながらも、一恵のことが気になる。 一恵に言われた7時が近付いたとき、光太郎は「ごめん、ちょっと。」と言って席を外した。そして店を出ると、歩いても5分ほどのカラオケ店に走って行った。一恵はいない。 受付けで聞いて見ると、既に部屋に入っているようである。光太郎は、教えられた部屋のドアをノックした。 「三永君、来てくれたのね。嬉しいわ!」 ドアを開けた一恵が笑顔で迎えた。 「いえ、先輩、そうじゃないのです。実は・・・・・」 「そんな、いいのよ。来てくれて嬉しいわ。三永君もカラオケは好きなのでしょう。久恵さんからも聞いたわよ。」 光太郎に話す機会を与えないままに、一恵は話し続ける。 「今日は楽しみにしていたのよ。私も歌は好きだし、いつか三永君と一緒にカラオケに行きたいと思っていたの。でも、なかなか話をする機会がないでしょう。だから、今日はゆっくり歌いましょうよ。」 光太郎は、自分で話をする機会も与えられないまま時計を見た。もう7時をかなり過ぎていた。 −続く− |