春の行方−50−
しばらく間をおいて佳津枝が言った。 「私、子供の頃から願い事があると神様にお祈りしたの。神様は、私の願いを何でも聞いてくれたわ。きっと光太郎君の願いもきいてくれるわよ。」 そして駐車場で人がいるにもかかわらず、光太郎に抱きついてキスをした。 二人は車を移動させると、岬の方に歩いて行った。静かな入り江の海が、正月の太陽に輝いている。 「でも、まだいろいろしなきゃならないことがあるね。仕事をどうするかも決めなくちゃいけないし、ご両親にもお願いしなければならないし。」 「そうね、それはゆっくり相談しましょう。でも、これで目標は決まったわ。目標さえ決まれば、後は二人で色々な問題を解決して行けば良いのよ。まずは、それぞれの両親に報告ね。今晩帰ったらまず自分の両親に報告して、明日、二人揃ってそれぞれの両親にお願いするのよ。ただ、結婚の時期については、相談しなくちゃならないわね。私の仕事もあるし、今すぐにってわけにはいかないの。」 光太郎は、今まで控えめだった佳津枝が、ここまでテキパキと話を進めて行くのに、目を見張っていた。佳津枝もまた、社会人になって大きく成長していたのである。光太郎は、佳津枝の横顔を不思議なものでも見るような目で見ていた。 正月の太陽が、二人の背中を照らしていた。 光太郎は、松戸の寮に戻った。去年は事故でできなかったが、久し振りに久恵のためのみやげも買った。部屋に戻って荷物の整理をしていたとき、玄関のチャイムが鳴った。出て見ると久恵だった。 「これ、浜松のおみやげ、相変わらず鰻よ。」 「そうか、ありがとう。僕も、蒲鉾だよ。」 みやげを交換した後で、久恵が言った。 「ねえ、お話があるんだけど、これからいつもの居酒屋に行かない?」 「うん、いいけど。」 「じゃあ、1時間後に。私、用事があるから先に行ってるわね。」 「うん。」 光太郎は、話とは何だろうと思いながら、居酒屋に向かった。 店に入ると、奥の方の席に久恵の姿があった。隣には、大室が座っていた。まだ飲んでいないらしく、テーブルには3人前の突き出しが置かれているだけだった。 「やあ、なんだ、大室も一緒だったのか。」 「うん、実は話があってね。」 「そうか、とりあえずビールにしようか。」 「そうだね。」 3人は、ビールで乾杯した。 「スキーはどうだった?」 光太郎が聞いた。 「うん、相変わらずさ。けっこう楽しかったよ。去年は大変だったね。」 「迷惑を掛けたけど、神様がもう止めろと言ったのかも知れないね。でも、スキーは初めてだったし良い経験をさせてもらったよ。」 「三永君も、楽しいお正月だったのでしょう。」 「うん、お陰さまで。」 そのとき、大室はしきりに何か言いたそうにしていた。 −続く− |