男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2020/11/06 6:04:47|その他
タクシードライバー−49−
タクシードライバー−49−

 翌日も、その翌日も淑子の機嫌は良くなかった。今まで俺のアパートに来ていた頃はそんなことはなかった。だからと言って、何となく不機嫌なだけで、具体的にこれといって咎めるようなこともない。その夜、俺は淑子が欲しくなり、布団の中で身体に触れようとしたら、拒まれた。これも初めてのことである。
「どうしたんだ?」
「今は駄目なの。」
「えっ?」
「駄目な日なのよ。」
「そうか・・・・・」
やっと俺は今までの不機嫌なわけがわかった。生理だったのである。女が生理のとき万引きに走ったり、やたら不機嫌なことがあるということは聞いていた。しかし現実に目の前で見ると、女というものは男とは違う不思議な生き物のような気がした。
 翌日からは、元の機嫌が戻っているようだった。
「生理のときは、いつもそうなの?」
「ええ、全身がだるくなって、人と話もしたくなくなるの。」
淑子は、そう言って微笑んだ。淑子の笑顔を見るのは久し振りのような気がしていた。
 乗務は特に変ったこともない日が続いた。サラリーマンを乗せて、後ろで携帯電話で話しているのを聞いていると、自分がサラリーマンだった時代を思い出す。あの頃に比べると、今の俺の方が生き生きとしているように思える。
 人間には、社会に属していなければ落ち着かない者と、社会の中では落ち着かない者がいる。俺なんかは後者である。組織の上からああでもないこうでもないなどと言われると、それだけで不安になってしまう。
 タクシーの運転手として収入はマアマアであるが将来に希望はない。おそらく運転手をしている限り、昇給はあまり望めない。それでも俺は構わなかった。自分の心を苦しめながら生きて行くよりは、他から責められることなく気楽に仕事をしている方が気楽だった。
 淑子と住むようになって半年ほどしたときである。この日も淑子に何となく元気がない。俺はまた生理でも始まったのかと思い、知らん顔をしていた。とにかく不機嫌なときは知らん顔をしているのが一番無難であることを悟っていた。
 更に一週間ほどしたとき、淑子がポツリと言った。
「生理がないの。」
「えっ?」
俺は驚いた。
そう言えば、心当たりがないわけではない。
「いつからなんだ。」
「実は、もう2週間も遅れているの。今までこんなことはなかったわ。」
「ということは・・・・・」
「もしかしたらね。」
「とにかく医者に行ってみるしかないなあ。」
「ねえ、もし妊娠していたらどうする?」
「どうするって、まさか・・・」
「私、堕した方がいいのかしら。」
淑子は不安そうにそう言った。
                 −続く−







タクシードライバー−48−
タクシードライバー−48−

 文雄とはその後も口をきかない日が続いていた。俺の方は毎日顔を合わせるわけではないが、淑子の方は嫌でも毎日顔を合わせなければならない。
「怒っているのかなあ。」
「そうねえ、私達一緒に暮らすことを、前もって言っておけば良かったわね。」
「もしかしたら、彼、今でもお前のことを好きなんじゃない?」
「そんなことないわよ。以前から、そんなことおくびにも出さなかったわ。」
「だって、この前3人で飲みに行ったとき、お前の方をチラリチラリと見ていたけど、あれは好きな女を見る目だったぜ。」
「そんなことないって。」
そう言っている淑子だったが、まんざらでもなさそうな態度である。お陰で俺達の仲までおかしくなって来そうだった。淑子と話し合った結果、もう一度誘って飲みに行こうということになり、淑子から誘ってみることにした。
 その日帰ってから聞くと、最初は迷っていたようだったが、飲みに行くことは賛成してくれたとのことだった。
 再び、俺達3人は”ひろみ”にいた。俺と文雄は何となく気まずい雰囲気だったが、博美がいるのであからさまな態度はしなかった。
「ちゃんと話さなくて悪かったな。」
俺の方から謝った。
「いいんだ。」
文雄は、口数少なくそう言った。
「最近、仕事の調子はどうなんだ。」
「マアマアさ。」
俺の方から話し掛けるのだが、返事が少なく会話が続かない。淑子も神妙な顔をしている。博美は真剣な雰囲気を察してか、奥に引っ込んだままである。
「ねえ、今度うちに遊びに来ない?」
淑子が突然言った。
「狭いマンションだけど、お酒くらい準備しておくわ。」
文雄はしばらく考えていた後で、「ああ、行くよ。」と言った。
 そのときから、雰囲気が明るくなった。以前の調子に戻ったのである。文雄は明るさを取り戻した。
「実は、俺も淑子さんのことを好きだったんだ。」とも言い、「でも、先を越されたなあ。」と言ったが、そこに恨みのようなものはなかった。
 次の週、文雄が来たときには、手土産に鉢植えの薔薇を持って来たし、飲んでいるときも明るかった。3人の笑い声も出たし、酒の飲み方も早かった。俺達は相当飲んで、文雄が帰るときには足取りもふらついているほどだった。またいつものような日々に戻っていた。
 ある日、家に帰ると、淑子の機嫌が良くない。遅く帰った俺が、玄関を開けて「ただいま!」と言うが、返事をしないのである。食事のときもよそよそしいし、何か話しかけても「ええ。」とか、「いえ。」とか言うだけである。俺は、心当たりもなく、なぜ機嫌が悪いのか原因を思いつかなかった。
                  −続く−







タクシードライバー−47−
タクシードライバー−47−

 「こんばんは!もう来ていたの?」
俺と淑子が挨拶をしながら一緒に店に入って行くと、文雄は一瞬オヤッというような感じでこっちを振り返った。
「ああ、さっき来たんだ。お前たちは、一緒に来たの?」
「うん。」
俺はそれだけ言った。文雄の顔を見ていると、今一緒に住んでいることを言い出しにくくなっていた。
淑子が文雄の隣に、俺が更にその隣に座った。
「ビール?」
「うん。」
「私も!」
博美が聞いたので、俺と淑子は同時に返事をした。
「一緒に飲むの、随分久しぶりだなあ。」
「うん、そうだね。」
文雄の述懐のような言い方に、俺はつい口数が少なくなる。
淑子の方は、「今日は、いいお天気だったわね。」などと、世間話のようなことを博美と話している。文雄と俺は、淑子を真ん中にして話をする。
「最近、調子はどうなんだ?」
「うん、マアマアだな。」
「俺の方も、景気がイマイチなんだ。今日なんかも、外人の客を拾って、英語で言われて往生したよ。」
「困るよなあ、日本に来たんだから日本語くらい話して欲しいよな。」
「横田かどこかの兵隊らしく、イラクがどうのこうのって言っていたよ。」
「兵隊じゃ、日本語は無理だなあ。」
そんな話をしているうちに、益々俺達が一緒に住んでいることを言い出しにくくなってくる。
 しばらく飲んでいたが、淑子の方もそんな雰囲気を察してか、会社の仕事の話とか、誰々さんが売り上げを誤魔化しているのを景子が見つけたとか、そんな話をしていた。
 結局、二人とも言わずじまいになったまま、”ひろみ”を出た。店を出て、帰るときになってはたと困った。俺と淑子は一緒に帰らなければならない。今までだと、文雄と淑子が同じ方向の電車、俺は違う方向だったのである。
困った俺は、咄嗟に言った。
「実は、俺達、一緒に住むようになったんだ。」
「・・・・・」
文雄は、ポカンとしたような顔をした。
「1週間ほど前からなんだ。」
「・・・・・」
「木場にマンションを借りたんだよ。」
相変わらず、文雄は返事をしなかった。
淑子は、少しうつむき加減に、俺の後ろに立っている。
「じゃあな!」
文雄は、一言そう言うと、駅の方に向かって歩いて行った。
 翌日から、俺と文雄は何となく気まずい雰囲気になった。こっちからは声を掛けにくいし、向こうも出会っても挨拶もしなかった。それは淑子も同じようで、売り上げを渡すときも言葉を交さないようだった。
「早く言えば良かったわね。」
夕食のとき、淑子が言った。
 今まで仲が良かっただけに、いざこじれると余計に難しくなる。どうしたものか、俺も淑子も悩んでいた。
                    −続く−







タクシードライバー−46−
タクシードライバー−46−

 その日、淑子の家で俺は散々褒められた。いい人だとか、優しそうだとか、しっかりしているなどと言われ、まんざらでもなかったが面映い思いもした。
 両親が荷物を運ぶのを手伝ってくれたし、あまり荷物もなかったので、引越しはすぐに終った。新しいマンションに着いて、荷物を運び込み整理をしたが、少ないのであまり手はかからなかった。その代わり部屋の中はガランとしている。
「やっと、落ち着いたわね。」
片づけを終ったとき、淑子がホッとしたように言う。
「うん、夕食はどうしよう。どこかに食べに行こうか?」
「そうね、新しい暮しのお祝いに行きましょうか。」
「”ひろみ”はどう?」
「そうね、挨拶がてら行ってみましょうか。」
 ”ひろみ”は、まだ店を開けたばかりだった。
「おや、いらっしゃい。今日は、二人でお揃いね。」
「ええ、私達、今日から一緒に暮らすことにしたんです。」
「アラッ、いつの間にそうなっちゃったの?」
「ええ、いつの間にかです。」
淑子は、笑いながらそう答えていた。
 俺達は、2時間ほど”ひろみ”にいた。その間、博美は「若さが羨ましいわね。」とか、「やがて二人は結婚するのね。」などと言っていた。結婚の話になったときは、二人で顔を見合わせたが、淑子はニコッと笑っただけだった。
 マンションに戻ると、早速風呂に入って寝ることにした。昼間の疲れもあったし、俺も淑子もけっこう酔っていた。
 翌日から、新しいマンションからの出勤が始まった。早出のときは俺が先に出て先に帰り、遅出のときは淑子が先に出て先に帰っていたから、一緒に通勤することはなかった。俺達が、一緒に暮らすようになったことはまだ文雄には言っていなかったが、これをいつ言うかも気になっていた。ここのところ、文雄を交えて3人で飲んでいなかった。文雄の方も、二人の仲は薄々感づいてはいるようだったが、敢えて話題にもしないので、言わずじまいになっていたのである。
 俺にしてみれば、最初は文雄と淑子の仲が良かったのに、後から入り込んだ形である。もっと言えば、黙って淑子を横取りしたと思われてもおかしくない。
ある日、俺は淑子に相談した。
「ねえ、文雄にはなんて言おう?」
「そうね、はっきり言っておいた方がいいわね。売り上げを納めるとき、時々、私の方をじっと見ることがあるのよ。」
「ふ〜ん・・・」
淑子の話を聞いていると、どうやら文雄も淑子に気があるようである。俺から話すか、淑子から話すか、あるいは3人で一緒にいて話すか相談したが、結局、また”ひろみ”に飲みに行って話をしようということになった。
 3日ほどして、3人は”ひろみ”に行った。俺と淑子が”ひろみ”に着いたとき、もう文雄は飲みながら博美と話をしていた。
                  −続く−







タクシードライバー−45−
タクシードライバー−45−

 いよいよ引越しの日が近づいて来た。俺のアパートに来ていた淑子に、俺は荷物のことについて聞いてみた。
「ねえ、お前の荷物を運ぶんだけど、家に取りに行った方がいいよね。」
「うん、そうしてくれる?」
「それはいいけど、両親に何と言おうか。まさかこれから同棲するなんて言えないだろう。」
「それは大丈夫よ。好きな人ができたから、一緒に暮らすことになったって言ってあるの。」
「それで親は何て言ってるの?」
「仕方がないって言ってるわ。」
「でも、何となく顔を合わせにくいなあ。」
「大丈夫よ。私が紹介するわ。」
「う〜ん・・・・・」
俺はちょっと困ったが、淑子の言うとおりにすることにした。
 いよいよ当日がやって来た。俺は朝一番でレンタカーのトラックを借りて、部屋の物を積んだ。荷物を積むときには淑子が手伝った。大した物はないので、比較的簡単に済み、午前中には新しいマンションに運び終えた。午後からいよいよ淑子の荷物である。俺は、淑子を横に乗せて彼女の家に向かう。途中、淑子の両親に何と挨拶をしようかと考え続けていた。淑子の家は狭い路地にあった。俺がトラックを停めて路地で待っていると、淑子は中に入って行った。しばらくすると、淑子が両親を連れて出て来た。
「やあ、淑子がお世話になっています。」
まず父親が俺に挨拶をした。
「はあ、光山です。」
「すみません、淑子がお世話になりますが、よろしくお願いします。」
今度は母親であるが、あまり丁寧に言われるので、こっちが戸惑ってしまう。
「マア、上がってお茶でもどうぞ。」
「いえ、時間があまりないものですから。」
「まあ、そう言わずに。荷物は大してないし、我々も手伝いますから。」
俺は、仕方なく座敷にあがり、出されたコーヒーとケーキを食べた。
「光山さんには、淑子が本当にお世話になっています。」
「いえ・・・・・」
「淑子は、家にいるときはいつも光山さんのことばかり言っているんですよ。」
「そうですか・・・」
「最初、光山さんの家に泊まったときは、どんな人か心配しましたが、こうして会ってみていい人なので安心しました。」
「はあ・・・・・」
「一緒に暮らすことになりますが、こんな我が儘娘、よろしくお願いします。」
「はあ・・・・・」
俺達は結婚の約束をしたわけではない。俺は、何と言っていいかわからず、何となく気まずい思いをしながら出されたコーヒーを飲んでいた。  
                −続く−







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