タクシードライバー−68−
喫茶店からの帰り、俺と恭平はひろみに行った。 「兄貴、なかなかの美人じゃないですか。」 行く途中で、恭平が言った。 「だけど、お前はそんな顔をしていなかったじゃないか。」 「だって、俺、美人は苦手なんだ。なのに、その相談相手になれなんて、そりゃ無理ですよ。」 「でも、嫌じゃないんだろう?」 「マア、嫌じゃないですけど、でもどうすればいいんだろう?」 「会って、話を聞いてやればいいんだよ。お前から、あんまり喋らなくていいんだ。」 「でも、俺、面と向かっていると、何か喋っていないと落ち着かないよ。」 「だから、うんとか、はいとか言っていればいいんだよ。」 「そんなものかなあ。」 「女ってのは、喋っていりゃあ安心するんだ。こっちが何か助言的なことを言っても、聞いちゃいないんだから。」 「そんなものですかね。」 「そうさ、早速、明日にでも電話してやれよ。」 恭平は、わかったような、わからないような顔をしていた。 この男は、決断のはっきりしないところがある。明日にでも、また電話するように言ってやらなければならないと思った。 もう一方の智子の方は、ちょっと大変だと思った。放っておけば、智子の方から電話することはあり得ないし、もしかしたら恭平から電話してもつっけんどんな返事でもしかねない。そうなると気の弱い恭平は二度と電話をしなくなるだろう。 翌日の朝、俺は智子に電話をした。 「昨日はどうも。寛です。」 「ああ、寛さん、こちらこそ。」 「昨日、お話したように、これからは俺と恭平で智子さんの相談相手になりたいのですが。」 「でも、あの人、ちょっと頼りなさそうに見えるけど、大丈夫かしら?」 「ええ、ああ見えても、あいつはいい奴なんですよ。ちょっと気が弱いところがあるけど、優しいところがあるんです。」 「それはそうでしょうけど・・・」 「ネッ、あいつから電話があったら、いろいろと話してやってください。」 「はい・・・」 「何も、結婚してくださいなんて言っているのじゃないのだから。」 「はい。」 「僕だけの意見より、あいつの意見も聞いた方が、きっといいと思いますよ。」 「そうねえ・・・」 智子は相変わらず、気乗りのしない返事である。 「僕だって智子さんのところに電話はしますし、たまには行きますよ。」 「ええ、お待ちしていますわ。」 このときだけは、智子の返事もはっきりしていた。 その日の帰り、今度は恭平のところに電話をした。 「ねえ、智子さんのところに電話をした?」 「いや、まだなんだ。」 「最初が肝心だよ。早くしてやりなよ。」 「う〜ん、大丈夫かなあ。俺、嫌われるんじゃないかと心配なんだ。」 「大丈夫さ。俺からも電話をしておいたんだ。」 「でも何と言えばいいんだ?」 俺は、恭平の煮え切らない態度に、思わず怒鳴ってやりたくなった。 −続く− |