タクシードライバー−71−
考えて見れば、これがうまく行くと目出度い話である。お互い再婚同士であるが、一人では生活に不安もあるだろう。恭平は根っからのお人好しだし、智子の方も気の弱いところはあって寂しがり屋である。女房に逃げられた恭平と、亭主に浮気をされた智子の組み合わ せは、恭平は浮気をするような男ではないし、智子も優しいところがある。しかも恭平はその気になっている。決して悪い話ではない。問題は智子の気持ち次第である。俺は片肌脱いでみる気持ちになった。 「よし、わかった。何とか、二人でいい方法を考えよう。」 「エッ?兄貴、力になってくれますか。」 「うん、うまく行くといいけどな。」 「俺は、兄貴が智子さんのことを好きなんじゃないかと思っていたんだ。」 「馬鹿を言うな。俺は結婚しているんだぜ。」 「でも、男と女のことはわからないから・・・」 「冗談じゃない。とにかく、これからどうするか考えなくちゃならないんだ。」 「うん、それで俺、どうしていいかわからなくて。」 「そこなんだ。」 二人は黙り込んでしまう。 結局、その場では結論が出ず、それぞれに考えてまた相談しようということになった。 恭平と別れてから、俺は考えた。もし恭平に任せていたら、気の弱い彼はいつまでも言い出さないでいるだろう。かと言って、俺が出掛けて智子に言うのも何となく不自然である。3人で一緒にいて恭平が告白し、俺が後押しをすることも考えたがこれも俺が何と言えばいいのかわからない。いろいろ考えたが、やはり恭平に告白させるのが一番だと思った。 翌日、早速仕事の帰りに恭平のところに寄って、そのことを話すと、恭平は、「大丈夫かなあ・・・」と不安そうな顔をした。相談の結果、俺がマンションのところまで着いて行き、恭平が彼女に気持ちを伝えるのを下で待っていることにした。 その日、二人で智子のマンションに行き、入り口で恭平に言った。 「いいか、必ず好きだとはっきり言うんだぞ。」 「うん。」 「もし、彼女がいいような感じだったら、その場で結婚してくれと言うんだ。」 「うん。」 「さあ、しっかり行って来い!」 俺は、恭平の背中を叩いて、入り口の方へ押しやった。 マンションの広場で俺はタバコを吸いながら待っていた。30分が過ぎ、1時間が過ぎるが恭平は出て来ない。待っている俺の方がやきもきしてくる。タバコを10本も吸った頃、やっと恭平が出て来た。 「どうだった?」 「うん、考えさせてくれと言うんだ。」 「どこまで話したんだ。」 「好きだから結婚して欲しいと言ったよ。するとしばらく考えてから返事をさせてくれと言うんだ。」 「それはそうだな。誰だって、女はその場で返事なんかしないものだよ。で、雰囲気はどうだった?」 「それがわからないんだ。兄貴、今度聞いてみてくれないか?」 「そうだなあ、向こうだってお前に直接は返事がしにくいだろうからなあ。」 「なっ、頼むよ。」 「うん、2、3日してから聞いてみるよ。」 「2、3日かあ、長いなあ。」 「そんなこと言っても、明日すぐにってわけにはいかないだろう。」 「それもそうだな。」 そんな話をしながら、二人は”ひろみ”に向かって歩いて行った。 −続く− |