タクシードライバー−75−
次の日、俺は淑子に言われるまま、智子のところに連れて行くことにした。別に段取りを決めていたわけではない。果たしてどうなるのか、想像もつかないまま一緒に付いて行った。俺は、朝、夕方淑子を連れて行くことを電話をしておいた。 玄関のチャイムを鳴らすと、すぐに智子が出て来た。 「いらっしゃいませ。」 智子は、淑子の方を見ながら挨拶をする。その目は、いかにも警戒しているようだった。 「突然、すみません。この人から事情を聞いたもので、何かお役に立てないかと思いまして、厚かましくもやって来ました。」 「さあ、どうぞ、どうぞ。今まで命を助けていただいたことから始まって、光山さんには随分お世話になりまして。」 俺達は勧められるまま、テーブルに着いた。 「この人、何も言ってくれないんですよ。昨日、初めて事情を聞きまして・・・」 「すみません、いろいろご迷惑をお掛けしまして。」 「赤ちゃんがいらっしゃるのね。」 「はい、もうすぐ半年になる女の子です。」 「あらっ、うちの優美子と同じくらいね。」 二人は、赤ん坊の話で、すぐに打ち解けたようだった。しばらく世間話のようなことを話していた後で、淑子が言った。 「実は、先日ラジオを聴いておりましたの。名古屋の小児精神科医の先生が言っていたのですが、子供を育てる上で、ふたつのことが必要なのだそうです。ひとつはお母さんの優しさと、もうひとつはお父さんの厳しさです。お母さんの優しさがないと子供は凶暴になり、お父さんの厳しさがないと優柔不断な子供になると言うのです。たくさんの心の障害を持つ子供を診て来たお医者さんの言うことですから、間違いはないでしょう。」 これを聞いた俺も驚いたし、智子も驚いているようだった。 「しかも子供の心は3歳までに作られると言います。どうでしょう、愛ちゃんにもお父さんが必要なのではないでしょうか。」 「はい・・・・・」 智子は、俄かに返事がしづらいようだった。 「この人から、恭平さんのことを聞きました。私も知っていますが、彼は優しいいい人です。愛ちゃんのためにも早く結婚してあげてはいかがでしょう?」 「はい・・・」 「無論、あなたの幸せもありますけど、愛ちゃんはこれから人生が決まります。愛ちゃんのためにも考えてみてはいかがでしょう?」 「はい・・・」 「こういう話は、今すぐ返事とはいかないでしょうけど、よく考えてみてください。返事は、この人にでもいいですから。」 「はい、わかりました。少し考えさせてください。」 それからしばらく話題を変えて、育児の話などをしていた。女同士、子供の話になると共通の話題が多い。けっこう二人の話は弾んでいた。 1時間ほど智子の家にいて、俺達は引き上げた。帰りしなに淑子が言った。 「大丈夫、智子さんは承知するわ。」 「そうかなあ・・・」 「大丈夫、これは私の勘だけど、きっと当たるわ。」 淑子は自信満々にそう言った。 −続く− |