男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2021/01/29 6:01:33|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−10−
小鳩の風景−10−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 春は良い季節、私のお母さんも妹も恋に余念がありません。今朝も、他の雄鳩達に追いかけられて嬉しそうにしていました。
 数日前に咲き始めた桜も、このところの暖かさで急に開いてもう7分咲きになっていました。
 朝からたくさんの人達が公園にやって来て、そのうちの何人かが私がいつもとまっている桜の枝の下あたりにシートを敷いていました。
 午後になるとあたりは、すっかりシートで埋まってしまいます。夕方近くになると、私のすぐ下のシートの上にいろいろな荷物が運ばれて来ました。缶ビールの箱、弁当の包み、バーベキューのセットなどです。
 日が暮れると、たくさんの人がやって来ました。
「ええー、本日はお忙しいところを課の花見に参加していただきまして、ありがとうございました。最初に、課長からご挨拶をいただきたいと思います。課長、よろしくお願いします。」
「ええー、年に一度の課の花見です。昨年度は、皆さんのお陰で無事に課の仕事をいい成績で終えることができました。日頃の仕事のことは忘れて、今日は無礼講で大いに飲みましょう!」
 そんな挨拶があって、「乾杯!」という大きな声で途端に賑やかになりました。最初はみんな賑やかに楽しそうにお喋りをしながら食べたり飲んだりしていました。あまりにうるさいので他の枝に行きたいのですが、鳥目なので飛んで行くこともできません。
 そのうちにちょっと様子が変わって来ました。
「君〜イ、この間のあの態度は何なんだね。会議の席で、よりにもよって僕に批判的な発言をするなんて。君は僕に恨みでもあるのかね。」
よく聞けば、最初に今日は無礼講だと言っていた課長です。
「はい、でも会社の将来を考えればその方がいいと思ったものですから、つい・・・」
「君ねえ、あの席には部長もいたんだよ。あの発言で僕の立場は台無しだよ。これで部長昇進も危なくなってきたよ。」
「はい、すみません。そこまで気が回りませんでしたもので・・・」
「君ねえ、この会社に入ってもう7年になるんだろう。気が回らなかったで済むと思っているのかね。」
「すみません!」
聞いていると、この課長、どうやらしつこい性格のようで、最初は近くにいた人達が次第に遠ざかっています。
 そのうちに叱られていた人がトイレにと言って立って行きました。課長は一人取り残されています。
 そのとき別の若い男が課長のところにやって来ました。
「課長、いつもいつもお世話になっています。課の仕事がうまく行くのはみんな課長のお陰だと思っています。」
「あ〜、君か。なかなか頑張っているようだね。」
「はい、課長の指導のお陰で何とかやっています。」
「この間の提案書、あれはなかなか良くできていたよ。」
「ああ、あれですね。あれは課長が手直ししていただいたからですよ。お陰で部長にも褒められました。私は、課長が手直しして下さったからだと、部長にも言っておきました。」
「そうか、そうか。君は本当によく気がつくねえ。サア、どんどん飲みたまえ!」
「はい、ありがとうございます。」
二人が意気投合して飲んでいる間、他の人たちはいかにも白けた感じでそれぞれ話をしながら飲んでいました。
 しかし、同じシートの端っこの方にもうひとつ元気なグループがありました。女性3人のグループです。
「あ〜、ヤダ、ヤダ。あんなゴマスリばかり!」
「そうよ。あれじゃあ、うちの課どころか、会社ももう終わりだよね。」
「横で聞いていたけど、お笑い草の提案書よ。3年前ならあれでいいでしょうけど、今の世の中そんな甘いものじゃないわ。それに若者の気持ちなんかちっともわかっていない提案なのよ。あれじゃあ、専務にこっぴどく叱られるに決まっているわ。」
「そう言えば、あなたこの前まで専務の秘書をしていたわね。」
「あの専務は、あれでなかなか世の中のことがわかっているのよ。それなりに勉強しているわ。」
「あなた、まだ専務と続いているの?」
「それはどうでもいいわよ。でも今度課長は地方に左遷なんだって。」
「馬鹿ねえ、そんなことも知らないで。二人で慰めあっていればいいわ。」
「この前もね、飲んだ後で私にホテルに行こうってしつこく誘うのよ。頭に来たから、次の日、コーヒーに雑巾水を入れてやったわ。」
「ああ、あのときの。あなたが課長にコーヒーなんか入れるから珍しいと思っていたけどそうだったの。課長ったら、ありがとうって言って、美味しそうに飲んでいたわね。」
「私、思わず吹き出しそうになるのを我慢したのよ。」
 そのとき、幹事役の人が大きな声で言いました。
「ええ、宴もたけなわですが、夜も更けてまいりました。遠くに帰られる人もいますのでこの辺でお開きにしたいと思います。課長、これから後は私達が片付けますのでお先にお帰りください。」
それを聞いた課長が、女の子達に近付いて来て言いました。
「そうかね、じゃあ、女の子達、僕ともうちょっと付き合わないかね。」
「いいえ、私達も片付けのお手伝いをしてから帰ります。両親もうるさいものですから。課長はお先にどうぞ。明日はおいしいコーヒーを入れさせていただきますから。」
「そうか、そうか、この前のコーヒー、とてもおいしかったよ。それじゃあ残念だけど、僕は先に帰るよ。」
 それから後片付けはすぐに終わりました。
「さあ、みんなで飲みに行こうか。」
「ハーイ!」
幹事役の男の誘いに、女の子達は声を揃えて言いました。
                  ―続く―







2021/01/28 4:41:18|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−9−
小鳩の風景−9−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 彼岸の入りの今日は、朝から冷たい風が吹いていましたが、それでも時間とともに太陽がポカポカしてきて暖かくなってきました。
 公園の中に、公営のテニスコートがあります。土日はたくさんの人で賑わっているのですが、平日の今日はそんなにたくさんの人はいません。6面のコートがあるのですが、半分は空いていました。
 テニスをしているのは、中年の女性ばかりです。しばらくプレイしていたのですが、昼時になって昼食のため、いつも私がいる枝の下のベンチにやって弁当を開き賑やかにお喋りを始めました。
「ねえ、あなたのさっきのスマッシュ、すごかったわね。」
「ああ、あれ。アハハッ、あれはボールを亭主の頭だと思えばいいのよ。力が入るわよ。」
「そう言えば、あなた、あのときは真剣な顔をしてスマッシュを打っていたわ。」
「そうね、すごかったわよ。」
「だって、うちの主人ったら、毎晩、毎晩飲み歩いて帰りはいつも午前様なのよ。許せないわよ。でも金蔓でしょ、あまり無碍にもできないし、せめてテニスボールにでも八つ当たりしなくちゃやり切れないわよ。」
「お宅のご主人、営業だわね。それが仕事だから仕方がないんじゃない。」
「そうね、うちの主人、去年部長になったでしょ。それは仕事だから仕方がないんだけど。」
なんだか”部長”のところだけ声が大きいように思われました。
「うちの主人も毎晩、毎晩残業で忙しいみたいで、やっぱり遅くまで帰って来ないのよ。技術部長で、今新しい商品を開発しているとかで忙しいみたいなの。」
「そうなの、うちのも部長だけど、なんやかんやで忙しいらしくて帰って来ないわ。でもそれが口実じゃないの。酔っ払って鼻歌なんか歌って帰って来るのよ!」
「そう言えば、付き合いだなんて言っているけど、どこで何をしているかわかったものじゃないわね。」
「うちのなんか浮気する甲斐性もないのよ。酔ってはいるけど、あっちの方は全然駄目なの。だけど、お宅なんか危ないわよ。だって営業って、銀座とか赤坂とか、いろいろな店に行くのでしょ。そんな中には、営業の人に体を張ってでも取り入って稼ごうとするホステスがいるんだって言うわ。」
「まさか、私とだってできないのに、外でするなんて考えられないわ。」
「あなただからできないのかも知れないわよ。主人なんか、相手が変わればいつだってできるなんて言っているわ。」
「じゃあ、お宅こそ危ないわよ。」
「まさかね、そんな甲斐性があればうれしいわよ。」
 話の調子はとても明るくて楽しそうなのですが、枝の上で冷静に聞いているとなかなか辛らつな内容を含んでいます。不思議なのは、それでいて決して喧嘩にならないことです。
「最近ねえ、うちの主人ったらあっちの方が全然駄目なのよ。あなたのところはどう?」
「そうねえ、ここ10年ほど全然駄目なの。それまでは元気だったのよ。」
「そうそう、うちのも駄目、特に50歳の声を聞いたら、サッパリ駄目になっちゃったわ。」
「嫌ねえ、うちのなんか40歳でだめになっていたわ。もう私達できないのかしら。」
「ああ、主人に地位もあるし、外で男を作る訳にもいかないわねえ。」
「そうねえ、私達こんなに若くて魅力的なのにねえ。」
「そうそう、男って女を見る目がないわよ。」
 この人達の旦那さんは今頃会社で汗水たらして働いているのでしょうに、あの会話の大胆さは私が図々しいと思っていた自分の母親よりも、もっともっと図々しいものでした。
 でも見ていると、そんな中でただ一人静かに笑顔でみんなの話を聞いている女性がいました。その女性に向かって一人が言いました。
「ねえ、三浦さん、あなたのご主人は何をなさっているの?」
「はい、主人は会社の守衛です。早くリストラされてしまったのですが、子供が受験を控えて遠くに行くこともできず、元いた会社で守衛をしています。」
その奥さんは、悪びれることもなくそう言いました。
「そうなの、大変ねえ!」
一人がそう言うと、みんな黙って頷いていました。
「そうなの、うちの主人は皆さんのご主人と違って、会社ではいるかいないかわからないほどの存在です。夜勤もありますけど、毎日決まった時間には必ず帰って来ます。そして私を毎晩のように抱いてくれます。まだ営業で頑張っている頃は、それこそ皆さんと同じで、私になんか目もくれず家に帰るやいなやすぐに大いびきで寝ていました。でも、今は違います。とても元気になりました。心も優しくなりましたし、体も元気になりました。皆さんのように高い給料はありませんけど、私は私なりに幸せなのです。」
 それを聞いた人達は、途端におとなしくなってしまいました。
                  ―続く―







2021/01/27 5:56:14|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−8−
小鳩の風景−8−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 この公園には桜の木がたくさんあって、今にも咲きそうなくらい蕾が大きくなっています。
 天気のいい昼休みには、近くのオフィスからたくさんの人がやって来て弁当を広げてここで食べて行きます。
 今日も良い天気、お昼になってOL達が私のいる桜の木の下のベンチに座っておしゃべりをしながら昼食の弁当を食べています。
「ねえ、聞いて!この間ね、部長ってエレベーターでいっしょになったと思ったら、私のお尻に触るのよ。嫌だと言ったらありゃしないわ。」
「それならまだいいわよ。私なんか、宴会の後でキスをされたわ。」
「ほんと、あの部長ったら、いやらしいわ。」
「それに総務課の木山っているでしょう。彼も、遊ばないかって私のことをしつこく誘うのよ。」
「あらっ、彼って前からプレイボーイで有名だわ。誰にでもそうやって誘うのよ。」
聞いていると、被害者なのか、自慢話かわからないような会話です。
「それにしても、うちの会社にはいやらしい男が多いわね。」
「でも、社長は社内恋愛とか不倫にはうるさいんでしょう。」
「社長だって、銀座かどこかのクラブのママさんとできてるって話よ。」
「それじゃあ、仕方ないわね。」
「でも男はそれくらいの方がいいんじゃない?」
「そうね、堅いのばかりじゃ面白くないわね。」
「ねえねえ、聞いて!私の彼ったら、この間セックスのとき変な体位をさせるのよ。男って、みんなそうなのかしら。」
一瞬、沈黙が走りますが、すぐに別の女の子が口を開きます。
「私の彼はずっと正常位よ。パワーがあってすごいのよ。セックスはやっぱりテクニックよりパワーよ。」
「そうとばかりも言えないわ。上手にされると、それはそれでいいものよ。私の彼は、指使いがとても上手なの。この前なんか、指だけで行かされたわ。」
見ていると、みんなまだ20歳過ぎたばかりの女性、話からすれば中年女性達の会話のようです。
 そんな中で一人だけおとなしくて黙って聞いているだけの女性がいました。
「ねえ、由紀。由紀は、彼はいないの?」
「ええ・・・・・」
それだけ言うと、相変わらず黙っています。
「早く彼を作りなさいよ。男っていいものよ。嫌なことがあっても、セックスをすればストレスの発散になるわよ。由紀はそんなにきれいなんだから、その気になれば、彼氏の一人や二人はすぐにできるわよ。」
「そうよ、そうよ。男って本当にいいわよ。私なんかも、嫌なことがあるとすぐに彼に電話をするの。彼の方も、すぐにやって来るわ。」
「そうね、男って寝てあげると言えば、飛んでくるわ。単純だから、操るのは簡単だよね。」
「そんなものかしら。」
由紀と呼ばれた女の子は、あまり関心なさそうにそう言っただけでした。
「あっ、もうこんな時間だわ。帰らなくっちゃ。うちの係長ったら、時間にはうるさいのよ。」
「ああ、あのもてない係長の田川さんね。もてない男だから、変に女にうるさいのよ。もてる男でなくっちゃあ、心が狭くてだめだわね。」
そんな話をしながら帰って行きます。
 私は知っています。あのおとなしい由紀と呼ばれた女の子は、実は先日の夜このベンチで課長とキスをし、いっしょにどこかに行った彼女なのです。
 本当に遊んでいる人は、決してそんなことは人に言わないものなのです。それに比べれば、お喋りとしていた女の子達のしていることは、まだ可愛いと言っても良いのでしょう。
                 −続く−







2021/01/26 6:11:34|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−7−
小鳩の風景−7−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 季節は春、私達鳩にとってもいい季節です。草の葉っぱもおいしいご馳走ですが、それに何よりも人間達が公園にやって来て食べ物の余りなどを投げてくれるのが一番のご馳走です。
 しかし一旦雨となると、そうはいきません。羽は濡れて冷たいし、人が来ないから食べ物もあまりありません。私は、他の数羽の仲間といっしょに公園の中にある東屋の屋根の下の張りにとまっていました。
 雨の日の公園は静かで、人出もないのですが、ただこの公園にも住んでいる人間がいるのです。母から聞いた話ですが、数年前から一人、また一人とこの東屋にホームレスが住み着くようになったそうです。そして今では3人の人が住むようになりました。
 それでも冬の間はどこに行ったものか姿が見えませんでしたが、春の到来とともにまた公園に帰って来たみたいでした。人間の世界がどうなっているのかはわかりませんが、やはり私達と同じように屋根のないところで暮らす人もいるようです。
 私が巣立ってからこの東屋にもよく来ましたが、不思議なことに住んでいるのは男の人ばかりでした。ところが、今日見ると中に一人女の人がいるではありませんか。
「お前、どこから来た?」
男の一人が聞きます。
「ちょっとね、遠くから来たんだよ。」
女がこたえます。
「遠くからじゃ、どこからかわからねえけど、まあいいか。俺達だって、お互い誰がどこから来たか知らねえし、聞きもしねえものな。」
「だけどよお、お前みたいないい女がなんでこんなところに来たんだ?」
今度は別の男が聞きました。
「ちょっと事情があってね。」
「事情か!どんな事情か知らないが、それも関係ないものな。マッ、いいか。」
「お前、酒は飲めるのか?」
3人目の男が、ウイスキーのボトルを差し出しながら聞きます。
「ああ、ちょっとならね!」
「じゃあ、いいやね。これは挨拶代わりだ。さあ、飲みねえ!」
「あいよ、ありがとう。」
女はそう言うと紙コップを差し出しました。
男が、ウイスキーを注ぎながら言います。
「まあ、都会はいいよなあ。俺も最初は地方の都市にいてこの世界に入ったんだが、地方じゃ酒なんか手に入らなかったぜ。だけど、都会にいりゃあ何でも手に入るんだ。この前も高級レストランの裏のゴミ捨て場に行ったら、半分しか飲んでいないワインやウイスキーなどがたくさんあったぜ。それを全部拝借して来たんだ。」
「それも良し悪しだぜ。去年、新宿の地下街にいた太った男がいただろう。どうやら糖尿病で死んじゃったらしいぜ。身元を知らないかという貼り紙があっちこっちの電柱に貼ってあったよ。」
「そうか、俺達もダイエットには気をつけないとねえ。栄養の取りすぎが、身体には一番良くないらしいぜ。」
「私ね、手土産代わりにこれを持ってきたんだ。」
そう言いながら、弁当を配りました。
「お前、こんな立派なものをどうしたんだ。まさか、かっぱらったんじゃないだろうなあ。俺達は、痩せても枯れても、人様のものを盗むようなそんな卑劣な真似はしねえんだ。もしそうだったら、今すぐこれを持って帰ってくれ。」
「いやだねえ。私を疑っているのかえ。私だって、昨日、今日この世界に入ったんじゃないわ。そのくらい嫌というほど知っているわよ。これはコンビニが、賞味期限が切れて捨てようとしているのを拝借してきたのよ。」
「だけど、それって、手に入らないようになっているだろう。」
「それがね、町外れのコンビニに優しい女の子がいて、お腹が空いているのが4人いるって言ったら、くれたのよ。さあ、早く食べないと本当に危ないわよ。」
その言葉に4人とも弁当を開いて食べ始めました。お酒を酌み交わしながら、弁当を食べながら、いかにもみんな楽しそうです。
 いつもここに来たり、あるいはその近くを飛んでいくときに彼等の様子を見ていましたが、お互いが話をしているようなことは全くありませんでした。
彼らは、すぐ傍にいても、いさかいがあるわけでもありませんでしたが、逆に話をすることもなかったのです。
 ところが今日は、女が一人入っただけで東屋の雰囲気がまるで違っていたのです。優しい雰囲気と和やかさがありました。
 私達鳩の世界もちょっと似たところがあります。
雄ばかりだと争いが絶えませんが、メスが一羽いると雄の気持ちがメスに集中してあまり喧嘩にならないのです。
 神様が動物を雄と雌に分けて作られたのには、仲間同士で喧嘩しないようにという配慮があったのかも知れません。
                  ―続く―







2021/01/25 5:50:08|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−6−
小鳩の風景−6−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 3月も末、気候もすっかり暖かくなり、昼間はたくさんの子供達が遊ぶようになりました。
 その日は、公園で子供達のくれるお菓子のクズやパンくずなどを食べてお腹一杯になり、夕暮れになったのでいつもの木の枝で休んでいました。
 すっかり夜も更けて公園に人がいなくなった頃、突然の人の声に私は目を覚ましました。
「ねえ、秋川君、ちょっとここで休んでいったほうがいいよ。」
「すみません、課長。私、ちょっと飲み過ぎたみたいで苦しくて。」
「うん、このベンチに座ろう。今、ハンカチを敷くからね。」
そう言うと、男の方はポケットからハンカチを出してベンチに敷くと、その上に女を座らせました。
「今日は、飲んだね。」
「ええ、山田さんがあんなにすすめるんですもの。断れずに、つい飲んでしまいました。」
「山田君、君に気があるんじゃないかな。」
「私、あの人好きじゃありません。頼りないんですもの。」
「そうかなあ、なかなかいい男だと思うけど。ところで、君はどんな人がいいの?」
「課長みたいな人!」
「き、君!急に何を言い出すんだ。」
「うふふっ!だって、本当ですもの。課長って、自信に満ちていて、頼り甲斐がありそうですもの。」
「そんな、僕は結婚して子供もあるんだよ。」
「そんなこと関係ないでしょ。課長は男、私は女ですわ。」
「そりゃあそうだけど・・・」
「それで十分じゃありません?実は私、前から課長のことを好きでした。」
「・・・・・」
「課長は、私のこと嫌いですか?」
「い、いや、僕も好きだよ。でも君はうちの課のアイドル、僕は結婚している。だから好きになってなんかいけないと思っていたんだ。」
「私も、前から課長を好きでしたけど、課長って冷たそうに見えるんですもの。言う機会もありませんでしたわ。」
「そうかなあ。」
「そうですわ。オフィスにおられるときは、怖い顔をなさっていますわ。」
「そんなつもりはないんだけどねえ。」
「それに仕事の話しかなさいませんわ。」
「うん、そう言えばそうかなあ。」
「でも、今日の宴会ではよくお喋りなさいましたわ。課長があんなに愉快な方とは思いませんでした。」
「うん、今日は君が隣に座ってくれたしね。つい、興奮して喋ってしまったんだ。」
「マア、私が課長を楽しくさせていたのですか。嬉しい!」
「アッ、・・・・・」
驚いたような男の声がするとしばらく静かになり、やがてチュッ、チュッというキスの音がしました。
 どのくらい沈黙が続いたでしょうか、ささやくような甘ったるい男の声がします。
「秋川君、好きだよ。」
「私も、課長を大好きです。」
再び、キスの音がします。
「ねえ、君を離したくない!」
「ああ・・・、課長、大好きですわ。」
男と女の甘い会話が続きます。
「ねえ、このまま君を帰したくない!」
「はい。」
二人は立ち上がると、そのまま男が肩を抱くようにして歩いて行ってしまいました。
 私達、鳥の仲間にもいろいろなことがあります。
 人間が調べたところによると、ツバメは季節になると夫婦で巣作りをして卵を産み、雛を育てるのですが、4羽のうち1羽はその夫の子供ではないというのです。つまり巣作りをしながら、妻は浮気をしているのです。一方、アホウドリは、お互いが生きている限り、一生相手を変えないそうです。私達鳩の仲間はお母さんや妹がそうであるように、いつも男の気を惹きながら自分を競わせ、一番強い相手と結ばれます。今日のような姿を見ていると、人間はツバメに似ているようにも思われます。
 翌朝のこと、目が覚めて見るとベンチの上にハンカチが敷かれたまま残されていました。
                  ―続く―







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