男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2021/02/03 5:16:07|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−15−
小鳩の風景−15−

 私は、公園の森に住む小鳩です。去年産まれました。
 春、桜の季節が過ぎて、今は八重桜が満開です。
 朝の食事が終っていつもの枝で休んでいますと、車椅子におばあさんを乗せたおじいさんがやって来て、私の留っている枝の下のベンチに座りました。
「おじいさん、本当にすみませんねえ。私が先にこんな身体になるなんて思ってもいなかったのですけどねえ。」
「いや、それは仕方ないよ。どっちが先に身体を壊すかなんて、神様が決めることだよ。」
「それにしてもリュウマチだなんてねえ。私は、そんなに長くないと思いますよ。」
「そんな気弱なことを言うんじゃないよ。医者も養生すれば大丈夫だって言っていただろう。」
「私にはわかるんですよ。自分の身体ですものね。身体の中から力が湧いて来ないんですよ。元気な頃はそうじゃなかった。私が死んだら、おじいさんは自由になれるわ。」
「馬鹿な!俺は、お前がいるから生きる張り合いがあるんだ。お前が死んだら、俺だって長く生きてはいれないよ。」
「私達、幸せだったわねえ。若い頃にはいろいろあったけどねえ。」
「いろいろって?」
「あなたがまだ働き盛りだった頃、バーのホステスと浮気したでしょう。あのときは、私、本当に死ぬか離婚しようと思っていたのよ。」
「ああ、あれは悪かった。ほんの気まぐれの浮気だったんだよ。」
「あなたって、間の抜けているところがあるわねえ。連れ込みホテルのマッチなんかポケットに入れたままなんですもの。」
「なぜあんな間抜けなことをしたのか、自分でも恥ずかしいよ。」
「それと、もう一回あったわね。あれは、会社の部下のOLだったでしょう。あれは許せないと思ったわ。」
「ああ、あれか。あれも本当にすまなかった。」
「水商売ならある程度許せるような気もしたけど、部下に手を出すなんて最低よ。」
「うん、気の迷いだったんだ。」
「でも、みんな遠い過去のこと。今では全部許してあげるわ。」
「ありがとう。本当に済まなかった。」
「私も、死ぬ前にひとつだけ告白したいの。」
「何?何でも言っていいよ。僕は驚かないから。」
「そう。それなら言うわ。胸にしまったまま死んだのでは地獄に行きそうなの。」
「そう、秘密は良くないよ。」
「決して怒らないと約束してくれる?」
「ああ、大丈夫だよ。」
「実は、私も一度だけ浮気したことがあるの。」
「えっ!」
「一度だけよ。」
「一体、いつ頃なんだい。」
「あなたが最初の浮気をした後だから、40歳の頃かしら。」
「相手は誰なんだい。」
「私が勤めていた会社の上司よ。あなたの浮気のことで相談に行ったの。そしたら、そのままホテルに誘われたの。」
「・・・・・」
「私、最初からそんな気があったわけじゃなかったの。ただあなたの浮気のことがあって優しくされたから、ついそうなっちゃったの。」
「ああ・・・・・」
おじいさんは、座り込んだまま、頭を抱えてしまいました。
「ああ、なんてことだ。俺は、お前だけは信じていたのに・・・」
「あなたには、本当にすまないと思っています。」
「・・・・・」
おじいさんは、頭を抱え込んだまま、身動きをしません。
「お前は・・・・、お前は・・・・」
「すみませんでした。ただ、後にも先にも、それ一回だけです。」
「・・・・・」
「あなた、怒っているの?」
「・・・・・、いいや、いいや、いいんだ。」
しかしその返事は力がないものでした。
「さあ、帰ろう。」
おじいさんは、力無くそう言い、車椅子を押し始めました。その背中は、来るときにはなかったほど力が抜けたものでした。
 夫婦の幸せの総和は同じで、一人が心の解放で幸せになった反面、一人が心の重荷を背負った典型的な例を見たような気がしました。 
                 ―続く―







2021/02/02 5:00:48|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−14−
小鳩の風景−14−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 いつもベンチの上の桜の枝にとまっています。桜の季節が過ぎ、宵でも暖かい陽気になって来ました。
 ある夜のこと、若い夫婦がやって来てベンチに座りました。
「ねえ、あなた。お義母さんったら、とかく私に小言を言うのよ。今朝も、お味噌汁が辛過ぎるって、あなたが会社に行った後でしばらく言われたわ。」
「ごめんよ。僕も知ってはいるけど、言ってもねえ・・・。あの性格だから素直に言うことをきくとも思えないんだよ。」
「だって、毎日、毎日言われるんじゃたまらないわ。」
「親父が死んだから、一人で置いておくわけにもいかず引き取ったけど、今のマンションは狭いし、困ったよねえ。」
「老人ホームにでも入れられないかしらねえ。」
「いくら何でもねえ。まだ元気だし、それじゃああまりに可哀想だよ。」
「そうだわねえ。そんなことしたら、私だって近所や親戚から何て言われるかわからないわね。」
「申し訳ないけど、今のままにしてくれないかなあ。僕からも、おふくろには言うよ。」
「あまり強く言うと、かえって私に当たってくるわ。やんわりとね。」
「うん。」
「それに私達がセックスをしようとすると咳払いをしたり、トイレに行ったりするでしょう。あれが困るわ。私達、ずっとしていないわね。」
「うん、あれには僕も困っているんだ。第一、聞かれていると思うとその気にもなれないんだよ。」
「ねえ・・・」
「うん・・・」
それからチュッ、チュッというキスの音が聞こえました。
しばらくするとそれが絹擦れの音に変わります。
「ああ、あなた素敵!」
「うん、お前も素敵だよ。」
ささやくような小さな声ですが、静かになった公園の中ではっきりと聞こえ、やがてため息やうめくような声に変わります。
 ここから先何が起こったかは、私は描写するに耐えません。読者のご想像にお任せすることにします。
 しかし、しばらくこの夫婦が仲良くできることだけは確かなようです。
                  ―続く―







2021/02/01 5:21:49|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−13−
小鳩の風景−13−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 花の時期が過ぎ、一時期の賑やかさが過ぎ去って、今は比較的静かです。
 今日は、40歳くらいの夫婦が、私のいる枝の下のベンチにやって来ました。
「ねえ、あなた。この間祐介の先生に、学校に呼ばれたのよ。先生が言うには、祐介の成績がひどいんですって。どんどん下がっているみたいなの。この分だと、クラスで一番後ろになってしまうなんて脅かされたわ。それに、悪戯で困るって言うのよ。女の子にちょっかい出してばかりいるんですって。どうしたらいいのか、私にはわからないのよ。」
「うん、困ったもんだね。そろそろ高校を受験だしね。」
「私から言ってもだめなの。ねえ、あなたから言ってくれない?」
「うーん、言ってはみるけど、あまり強くは言わない方がいいんじゃないかなあ。」
「そんなこと言ったって、男のあなたから言ってくれなければ仕方ないじゃないの。」
「そうは言ったって、僕も子供の頃親から言われたけど、かえって反抗するだけだよ。時期をみて、僕から言うよ。」
「時期をみてっていうけど、あなたいつもそうやって逃げてばかりいるのよ。」
「でも仕事で忙しいし、タイミングを失うこともあるけど、言ってはいるよ。」
「そうやって、あなたは仕事のせいにして逃げてばかりいるわ。」
「男の子の気持ちは、僕が良く知っているけど、あの年頃の子供に高飛車に言ってもだめなんだよ。」
「でも言わなければ、益々成績が落ちちゃうじゃないの。今が一番大事なときなのに、取り返しがつかなくなっちゃうじゃないの。」
「成績が悪いのは、仕方がないよ。お前と俺の子供だからねえ。良い種を蒔いても、畑が悪いんじゃねえ。」
「何よ、私のせいだと言うの?」
「そうは言わないけど・・・・・」
「何よ!私に似て頭が悪いって言うけど、私に無理に結婚してくれって頼んだのはあなたなのよ。そんなに言うなら、あなたは頭のいい人を選べば良かったのよ。それに、祐介が女の子に悪戯ばかりしているのは誰に似たのよ!あなた、昔から女癖が悪かったわね。」
「よせよ。それは問題の転嫁だよ。」
「問題をすり替えたのはあなたじゃあないの。祐介の成績を人のせいにしたりして!」
「でもねえ、あまりに無理していい学校に行っても、そこで最下位じゃかえって良くないかもしれないよ。」
「まだそんなこと言っているの。あの子にとっては、今が一番大事なときなのよ。今、頑張らなくては取り返しがつかないじゃないの。あなた、ちっともわかってないのね。」
「そうヒステリックになるなよ。まだ2年生だろう。もう少しすれば本人も自覚するよ。」
「3年になってからじゃ遅いって言っているのよ。隣の和子さんなんか、毎晩12時まで勉強しているみたいなのよ。クラスでトップだって、奥さんがいつも自慢しているわ。」
「ハハーッ、お前、隣の奥さんに自慢されるのが、嫌なのか。」
「そうじゃないわよ。祐介のことを本当に心配しているの。そもそもあなた毎晩帰りが遅いの、仕事のせいにしているけど、女でもいるんじゃないの?子供に対してあまりにも無責任よ。作ったのはあんたでしょう。」
この時点で、今までの「あなた」が「あんた」になっていました。
 それから先は、聞いていてあまりに馬鹿馬鹿しくなったので、私は他の枝に飛んで行きました。
 それにしても、親があんな調子じゃ子供が勉強に熱が入らないのも仕方がないのではないかと思いました。
                  ―続く―







2021/01/31 5:53:53|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−12−
小鳩の風景−12−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 桜も散ろうとしている頃、お母さん達は小枝を運んでは巣作りに忙しそうにしていました。今シーズンの結婚相手が決まったようで、出産の準備をしているのです。
 私はそんなこともなく、良い天気なので一日あちこちを飛び回って餌を食べ、夕方になっていつもの枝に戻って来ました。
 日が暮れた頃、若い男女が手を繋いでやって来て、ベンチに座りました。
「ねえ、あなた。結婚式に来て下さった方で、あの髭の人どなたって言ったかしら。確か、あなたの親戚だったわね。」
「うん、あれは叔父さんだよ。母の弟で、大阪に住んでいるんだ。」
「何をなさっているの?」
「うん、絵を描いているよ。時々個展を開いたりしているよ。」
「それでご祝儀が多かったのね。きっと、売れているんだわ。」
「うん、その世界ではちょっとは売れているみたいだよ。」
「人間の才能って、不思議だわね。私なんか、絵はまるで駄目なの。」
「でもピアノは上手じゃないか。」
「ねえ、私達にはどんな子供が産まれるのかしらねえ。」
「君に似た可愛い女の子が産まれるといいね。」
「あらっ、あなたに似た賢い男の子がいいわ。」
「でも子供ができると会社を辞めなくっちゃね。」
「エッ、なぜ?出産のための休暇も取れるし、育児休業だって取れるわ。会社を辞めることはないわよ。」
「でも、子供は小さいときに母親がいっしょにいてやることで情操が育つんだよ。」
「それなら保育園の方がしっかりと教えてくれるわよ。」
「保育園じゃ、母親の代わりは勤まらないよ。」
「アラッ!そんなことはないわよ。今どきの子供は、みんな保育園育ちよ。あなただってそうだったんじゃない。」
「そりゃあそうだったけど、それで寂しい思いをしたから言っているんだ。」
「私は嫌よ。その後もずっと家庭に閉じこもっているなんてとても我慢できないわ。」
「そんなこと言ったって、子供のためが一番大事だよ。君は、家庭にいるべきだよ。」
「嫌よ、それならあなたが育児休暇を取ればいいのよ。子供ができるには、あなただって半分は責任があるんだから。」
「男は昔から働くようになっているんだ。」
「アラッ、そんな考えが古いのよ。封建的だわ。」
「僕は真実を言っているだけだよ。子供の情操には、母親の愛情が一番大事なんだ。」
二人の語気がだんだん荒くなっています。
「でもあなたの給料だって考えてみてよ。教育費だって今は馬鹿にならないのよ。今のあなたの給料ではとてもやって行けないのよ。」
「そう言ったって、同じ会社にいたんだから、給料があれだけだってことはわかっていて結婚したんじゃないか。」
「じゃあ、結婚しなかった方がいいと言うの?あなたが頼むようにプロポーズするから結婚したんじゃないの!」
「お前だって、あのとき僕を好きだって言って、身体を許したじゃないか。」
「あなたが、あんなに頼むからよ!」
「嫌だったって言うのかい?」
「あなたが可哀想だったからよ。他にも私を好きだって言ってくれる男はいたわ。」
「じゃあ、その男と結婚すれば良かったじゃないか。」
二人の会話は、だんだん険悪なムードになっています。
「じゃあ、勝手にすればいいよ。」
「ええ、勝手にさせていただきます。」
そう言うと、女の方が先に立って歩いて行きました。男の方はしばらく座っていましたが、やがてゆっくりと立ち上がり、後を追うように帰って行きました。
 どうやら二人が心配していた子供はまだ産まれそうにもないようです。
                  ―続く―







2021/01/30 5:54:41|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−11−
小鳩の風景−11−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 いつもとまっている桜の枝もすっかり満開、休みの日には大勢の人達が花見にやって来ましたが、休日が明けると昼間は普段の子供達の遊び場の公園に戻ります。
 朝から春休みの子供達の元気に遊ぶ声が聞こえてきていましたが、遊び疲れたのでしょうか、ベンチの方にやって来ました。
まだ小さい子供達5、6人です。
「ねえ、伸ちゃん、伸ちゃんちに赤ちゃんができたんだって!」
「うん、そうだよ。僕の妹だよ。」
「いいなあ。僕は妹も弟もいないんだ。」
「僕もいないよ。」
「私は、お兄ちゃんがいるわ。」
みんな口々に自分の兄弟の紹介をし合っています。
「でもねえ、あんまり良くもないよ。今まで僕を可愛がってくれたいたお母さんもお父さんもみんな絵里の方ばかりを可愛がるんだ。」
「ふーん。いいことばかりでもないんだね。」
「おばあちゃんだってそうなんだよ。いつも来るときは僕におみやげを持って来てくれていたんだけど、絵里が産まれたときは持ってくるのを忘れたんだよ。」
 そんな話をしているときに、一人の女の子が聞きました。
「ねえ、ねえ、赤ちゃんってどうして産まれるんだろうね。」
「・・・・・」
ちょっとの間、沈黙が流れましたが、一人の男の子が言いました。
「僕がね、お母さんに聞いたときには、コウノトリが運んで来たって言ってたよ。」
「コウノトリって、どんな鳥なの?」
「さあ・・・」
「この前、テレビで佐渡で絶滅が何とかって言っていたよ。コウノトリは檻の中にいたよ。」
「絶滅して、檻にいて、赤ちゃんを運んで来られるのかなあ?」
「私は、川で拾ったって言われたわ。」
「川かあ!でもどこの川なんだろうね。」
「この前お父さんに荒川に連れて行って貰ったけど、汚い川だったよ。それに世の中にはたくさんの赤ちゃんが産まれているんだから、一人や二人は見つかってもいいはずだけど、荒川には一人も見つからなかったよ。」
「じゃあ、川も嘘だね。」
みんな少しがっかりした様子です。
 すると3人目の男の子が言いました。
「この前、テレビで見ていたけど、病院にたくさんの赤ちゃんがいたよ。」
「うん、そう言えば、絵里もお母さんといっしょに病院からやって来た。」
「そうだ、そうだ、僕も見たよ。きっと病院でたくさんの赤ちゃんができるんだ。」
「でも病院でたくさん赤ちゃんができて、どれが誰の赤ちゃんになるんだろうねえ。」
「さあ・・・・」
また沈黙が流れます。
「僕、知っているよ。お母さんから産まれるんだよ。だってお母さんのお腹が大きかったもの。」
「そうか、保育園のけいこ先生だってお腹が大きいものね。あれも赤ちゃんだよね。」
「うん、そうだよ。赤ちゃんは、お母さんから産まれるんだよ。」
「そうだね、でもお腹からどうやってお母さんのお腹から出てくるんだろうね?」
「・・・・・」
沈黙が流れます。
「それに、子供のいる人といない人がいるけど、どうして赤ちゃんが産まれるんだろうね。」
「それなら、お母さんが、結婚したら生まれるんだって言ってたよ。」
一人の男の子が自信ありそうに言いました。
「でも、結婚していても子供のいない人もいるよ。」
「隣の女の人、結婚していないのに赤ちゃんがいるよ。」
「・・・・・」
次々の質問に、また沈黙が流れます。
 「アッ、お昼だから私帰るわ。」
一人の女の子が言いますと、次々と「私も!」、「僕も!」と言いながら、みんな三々五々に家に帰って行きました。
 私は、彼等がこれからお母さんにどんな質問をするのだろうかと心配になりました。
 そして聞かれたお母さんの困惑した顔が目に浮かぶようでした。
                  ―続く―







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