男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2021/02/08 5:48:08|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−20−
小鳩の風景−20−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 今日は悪者のカラスもやって来ないようですので、いつもの枝に留って休んでいました。
 昼休みのこと、サラリーマンらしい若い男が数人やって来て、ベンチに座りました。早速、お喋りを始めます。
「俺さあ、この間、課長の家に呼ばれたんだ。飲んだ勢いで、家に呼ばれたんだけど、大変だったよ。行って見ると、奥さんの機嫌が良くないんだ。夜の11時で、しかも突然のことだから仕方ないんだけど、こっちの立場にもなってみろよ。いたたまれないぜ。課長は、奥さんの機嫌をとりながら、自分で冷蔵庫からビールを出したり、つまみを出したりしているんだ。奥さんの方はパジャマのまま「いらっしゃい。」とだけ言って、後はだんまり。あんな時間じゃ帰るに帰れず、結局泊めて貰ったんだけど、針の筵に座らされているような気分だったよ。」
「あの課長、会社では威張っているんだけど、家じゃあまるで奥さんに頭が上がらないみたいだね。この間も、給料をごまかす方法はないかなんて、庶務の美佳ちゃんに相談していたみたいだぜ。」
「そう言えば、部長も奥さんに弱いみたいだよ。この前、顔にひっかき傷があったろう。あれって、夫婦喧嘩の後だぜ。本人は、髭剃りのときの傷だってわざわざ言ってたけど、あれは絶対カミソリの傷なんかじゃないよ。」
「そう言えば、あの部長は女に手が早いからなあ。きっと浮気でもバレたんだよ。」
「うん、経理のYちゃんと噂があるみたいだしね。いいザマだよ。なのに、俺達にゃうるさいんだからなあ。」
「みんな、会社じゃうるさいのに、家に帰るとまるで奥さんに弱いんだ。何とかして欲しいよ。」
 そんな話をしていたときです。
今まで黙って話を聞いていた人が、口を開きました。
「俺、だいぶ前のことだけど、係長の家に呼ばれて行ったんだ。あの人、仕事ではおとなしいけど、家に帰ったら、奥さんが三つ指を突いて出迎えるんだ。着替えとかも奥さんがちゃんと面倒を見るし、料理を出すときなんかも、俺達を下にも置かない丁寧さなんだよ。会社であんなにおとなしい係長が、家ではあんなに丁寧に扱われている、俺には驚きだったね。」
「ふーん、あの係長がねえ。係長は、確か部長や課長と同期入社じゃなかったかなあ。でもよく考えてみると、係長は仕事もきちんとしているよなあ。」
「うん、俺から見ていると、係長が一番仕事ができるんじゃないかな。問題は目立たないんだ。その点、部長なんか調子がいいぜ。社長の前じゃあ、俺達がした仕事を、まるで自分の手柄みたいな言い方をするんだ。」
「そうそう、社長の前じゃ、揉み手だぜ。見ていて、嫌になるよ。」
「その点、係長は大したもんだよな。この前も、部長の前で堂々と反論してたよ。絶対、係長の方が正しいと思うんだけどなあ。」
「マア、うちの会社もそんなに長くないのかなあ・・・」
「この前、別の会社に行っている学生時代の同級生と飲んだとき聞いたけど、どこの会社も同じようなものだってよ。」
「そうかあ、それじゃ転職しても同じなんだなあ。」
「それにしても、我が社にも優しい女なんかいないねえ。」
「うん、係長の奥さんのような女性はいないなあ。」
「あ〜あ、やっぱり転職かなあ。」
「馬鹿だなあ、優しい女なんか、どこに行きゃあいると思っているんだ。あれは朱鷺と同じで、絶滅寸前なんだ。」
「おい、そろそろ時間だぜ。遅れると、また課長の怒鳴り声を聞くハメになるぜ。」
 そう言うと、男達は急いで会社の方へ戻って行きました。
                  ―続く―







2021/02/07 6:19:20|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−19−
小鳩の風景−19−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 最近、困ったことが起こりました。ならず者のカラスが公園にやってきたのです。昔からカラスはいたのですが、おとなしい嘴の小さいカラスでした。しかし最近やって来たのは嘴の大きいカラス、凶暴なハシブトガラスなのです。
 餌があると私達の群を襲うようにやって来て、横取りしてしまいます。それだけならまだいいのですが、巣の卵を食べたり、雛を襲ったりして公園のやくざ者なのです。
 その日も私がいつもの枝で休んでいますと、悪いカラス達がやって来たので私は慌てて逃げ出しました。取り敢えず逃げたものの、公園から遠く離れたことのない私は、どこに行っていいかわからず、ある大きな屋敷の庭に逃げ込みました。家の傍の一本の木の枝にとまると、しばし息を休めていました。
 ふと家の中を見ると、ちょっとでっぷりとした男が葉巻をくゆらしていました。
その時です。3人ほどの黒い背広を着た男が、その男のところにやって来て言いました。
「親分、大変です。○○組の者達が、うちの縄張りで商売をしています。」
「なに!一体、何をしでかしているんだ。」
「はい、ヤクを売っています。うちの若い者が止めに入ったのですが、さんざんやられて帰って来ました。」
「あいつら、またか。今度こそ、目に物見せてやるしかないのか。」
「はい、親分。俺たちも随分泣かされています。今まで親分が止めるので我慢していましたが、もう忍袋の緒が切れました。是非、殴り込みをかけさせて下さい。お願いします。」
「よっしゃ、俺もこれで腹が決まった。今度こそ、我慢できねえ。オイッ、武器はあるのか。」
「ハイッ!拳銃に機関銃、一通り揃えてあります。」
「しかし、殴り込みなんてのはちょっと野蛮だ。密かに相手の若頭の△△を殺るんだ。何人かの若い者を見張らせておいて、チャンスを待ってやるんだ。絶対に焦るんじゃないぞ。」
「ガッテンでさあ!」
 その時です、部屋のドアが開いて、一人のなかなかの美人が入って来ました。
「アッ、姉御!」
「なんだ、お前か!」
親分と子分達が、同時に声を上げました。
「お前達、ちょっと部屋を出ておいで!」
その女は、落ち着いた声で言いました。
男達は、反論することもなく、渋々と部屋を出て行きました。
 男達が出ていくと、女は残った親分の方を見て言いました。
「あんた、まさか○○組と喧嘩をする気じゃないんだろうね。」
「いや・・・、その・・・、どうにも若い者が納まらなくてね。」
「あんた、相手を誰だと思っているの?あんたが考えるような柔な相手じゃないんだよ。敵に回して勝てる相手でないことくらい、あんたでも分かっているでしょう。」
「そうは言っても、俺だって若い者を抱えているんだ。若い者の手前、そう下がってばかりもおれんのだよ。」
「だからあんたは足りないって言うんだよ。今の世の中、やくざにも頭がいるんだよ、頭がね。隣の××組の親分に頼むんだよ。あの親分は、人もできているし、この辺じゃあの親分に頭のあがる人はいないんだからね。」
「でも、それじゃあ俺の顔が・・・・・」
「だからあんたは足りないって言うんだよ。今時、顔だの面子だの言っていたんじゃこの世の中は生きていけないんだよ。」
「そうかなあ・・・・・」
 どうやらこの親分、子分達の前では威張っているものの、姉御と呼ばれる女の前ではまるで頭が上がらないようです。
「わかったわね。私がいいと言うまでは、絶対変なことしちゃ駄目だからね。」
「うん・・・・・」
そこまで言うと、女は部屋から出て行きました。
 親分は、すぐに子分達を呼び戻して言いました。
「さっき言ったことはちょっと待て。いいな、俺が指図するまでは、絶対に手を出すな!いいな、絶対にだぞ。わかったか、わかったら良いから出ていけ!」
 男達は、再び部屋を出て行きました。
帰りしな、男達がブツブツ言うのが聞こえました。
「親分も俺達にはあんなに威張るのに、姉御の前じゃまるでだらしがねえよなあ。いくら若い女房を貰ったからって、チンピラでも女房の前じゃもうちょっと威張ってるぜ。この組も、もう終りだよな。」
「お前、馬鹿だな。この組は、姉御がいるから何とかなっているんだぜ。親分の言うとおりにしてたら今頃どうなっていることか。」
「それもそうだな。それにしたって、兄貴のところも若いかみさんだが、兄貴もなかなか頭が上がらないようだけど。」
「ああ、あいつか、俺も最初はいろいろ言ってみたんだが、口では女にゃあ敵わないよ。」
「じゃあ、兄貴も親分と同じなのか。」
「うん、マア、そうかな。」
それから二人は、離れの別の棟に戻って行きました。
「俺は、絶対に結婚なんかしねえぞ。今のやくざはだらしなさ過ぎる。」
弟分の男が、一人になったとき、そっとつぶやきました。 
                 ―続く―
 







2021/02/06 6:13:48|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−18−
小鳩の風景−18−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 桜も終って今では花の後に小さなサクランボの実がついていて、それがやがて私達の餌になるでしょう。
 ある朝のことです。テニスウエアを身にまとった中年の男がやって来て、私がとまっている枝の下のベンチにやって来て座りました。しばらくすると、30歳前後かと思われる女性がやって来ました。
「遅れて、すみません。待ちました?」
「いや、今来たばかりだよ。」
「出掛ける前に、主人が用事を言い出すものですから。」
「気にしてないよ。ここに座ったら。」
「はい。」
 女性が座ると、男はいきなり彼女を抱き締め、キスをしました。彼女の方も、手を男の背中に回してキスに応じています。
 しばらくの間、二人は抱き合ったままキスを続けていました。長いキスが終った後で、男が言いました。
「しかし、驚いたよ。君が同じテニス・サークルに入って来るなんてね。」
「私も驚きましたわ。7年振りですもの。」
「そうか、君が寿退社してもう7年になるんだね。」
「係長は、もう課長になられたんでしょう?」
「うん、去年なったばかりなんだ。」
「あの頃、私は悩みました。係長、あらっ、ごめんなさい、課長でしたわね。課長のことは好きでしたし、今の彼は私にプロポーズしてくれましたし、本当に悩みました。そして今の結果になったのですが、課長には申し訳ないことをしたと思っています。」
「いいんだよ。僕の方こそ、君が幸せになってくれればその方が良かったんだ。」
「でも課長のことを好きな気持ちは、ずっと持ち続けていたんですよ。」
「あの頃も君は素敵だったけど、一段と艶っぽくなったね。ご主人とはうまく行っているんだね?」
「はい、特に問題はないのですが、何となく新鮮みがなくて。」
「倦怠期というところかな?」
「最初は元気だったのですが、最近、どうも元気がないんです。」
「セックスのこと?」
「ええ、課長より20歳も下なのに、全然力強くないんです。」
「それは大変だねえ。君は、まだとても魅力的なのにね。」
「課長は、上手でしたし、力強かったですわ。」
「それは君が魅力的だからさ。」
「マア、そんな上手な言葉、昔とちっとも変わっていらっしゃらないわ。」
「変わっていないのは言葉だけじゃないよ。君を好きなことも変わっていないよ。」
「あらっ!」
「良かったら、昔のように愛してあげるよ。」
「まあ!」
女性の方は驚きの返事はしますが、拒絶の様子はありません。
「じゃあ、そのうち連絡するからね。君は携帯電話を持っている?」
「はい。」
「じゃあ、後でメールを送るからね。アドレス教えてくれる?」
「はい。」
女はバッグからメモを出すと、それに何やら書いて男に手渡しました。
「アッ、そろそろテニスが始まる時間だね。コートの方に行こうか。」
そう言うと、男はもう一度彼女を抱き締めて、キスをします。彼女の方も、しっかりと男を抱き締めてキスに応じています。それは私が思っていたよりも、ずっとずっと長い時間でした。
 どうやら完全に焼けぼっくりに火がついてしまったようです。
                  ―続く―







2021/02/05 4:30:58|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−17−
小鳩の風景−17−
 
 私は、公園の森に住む小鳩です。
 春が過ぎましたが、いい気候が続いています。私たちにとっては、桜の花よりも今のさくらんぼの実の方が嬉しい季節です。
 今日も昼間のこと、いつもの枝に留まっていますと、夫婦らしい中年のカップルがやって来てベンチに座りました。
「あなた、昨晩は遅く酔っ払って帰って来たけど、どこで飲んでいたの?」
「ちょっとね、同僚と居酒屋で飲んでいたんだよ。」
「それにしては遅かったわね。」
「うん、ちょっと話しこんじゃってね。」
「どんな話をしていたの?」
「仕事の話とか、上司の悪口だよ。サラリーマンって、みんなそんなものだよ。」
「それにしても帰って来たのは午前様よ。居酒屋さんが、そんなに遅くまでやっているの?」
「うん、10時には閉まるんだけど、客がいるうちは開けてくれているんだ。」
「ふーん、そうなの?」
「うん、そうなんだ。」
「じゃあ聞くけど、この名刺は何なの?」
奥さんの方は、手に持っていた名刺を差し出しました。
それを見た夫の方は、一瞬顔色が変わったようでした。
「アッ、いや。それをどうして?」
「あなたの背広のポケットに入っていたのよ。クリーニングに出そうと思ってポケットの中を見てみたの。ねえ、どういうこと?」
「あっ、いや、それは・・・・・」
「そりゃあ、クラブにでもバーにでも行ってもいいわよ。でも、それをなぜ私に嘘をついてまで隠すの?」
「・・・・・」
「ねえ、何とか言いなさいよ。」
「お前に心配させたくなかっただけだよ。」
「嘘をつくなんてひどいわ。この洋子って人どんな人なの?」
「ママさんだよ。」
「若いの?」
「いや、もう50歳を過ぎていると思うよ。」
「他に女の人いるの?」
「ああ、二人いる。」
「若い人なの?」
「うん、まあね・・・」
「あなた、うまいことなんか言って彼女達とベタベタしているんじゃないわよね。」
「とんでもない。そんなことなんかしないよ。」
 聞いていると、奥さんの鋭い質問が続き、夫の方はたじたじとなりながら返事をしています。
 最後に、奥さんの方がこう言って、ベンチを立ちました。
「あんた、これからは絶対に嘘はつかないでね。もし、そんなことをしたらすぐに離婚ですからね。」
その後を、男の方がショボショボと歩いて行きました。
 私の母や妹は、自分の体を上手に使って、雄鳩達を見事に操っています。やり方は違っても、男を操る女の狡猾さは鳩も人間も同じようです。
                  ―続く―







2021/02/04 5:47:50|小説「小鳩の風景」
小鳩の風景−16−
小鳩の風景−16−

 私は、公園の森に住む小鳩です。
 桜の花も終りに近づき、花の後に緑の葉っぱが芽吹いてきはじめています。
 夕暮れになって人も帰って行った後、私がいつものように枝で休んでいたとき、突然木が震え、びっくりして目が覚めました。
目を凝らして見ると、中年の男が木に登って来るではありませんか。手にはロープのようなものを持っているようです。私は危険を感じたので飛んで行きたかったのですが、何分にも鳥のこと、目が見えないのでじっとしていました。
「ああ、この枝なら大丈夫だ。折れることもないだろう。」
そう独り言をいうと、ロープを枝にひっかけています。
「俺の人生もこれまでか。なんまんだぶ、なんまんだぶ・・・・・」
そのときです。
「おじさん、何してるの!」
下から若い女の声がしました。
見ると17、8歳でしょうか、茶髪にしているけど、目を見ると利発そうな女の子です。
その声に驚いたのか、男は木からドスンと落ちました。
「なんだ、びっくりするじゃないか!」
「おじさん、何してたのよ。」
「見りゃあわかるだろう。この世からおさらばしようと思っていたんだ。」
「馬鹿なことは止めなよ。死んだら何にもならないわよ。」
「この世に未練なんかないんだ。みんな俺のことをコケにしているんだ。」
「何があったの?聞いてあげるから、それから死んでも遅くないでしょ。」
「そりゃ、そうだな。急ぐことでもないよな。」
「急いだって、何にもなりゃあしないわ。死ななきゃならないなんて、一体何があったの?」
「ああ、会社をリストラになったんだ。30年以上勤めた会社だぜ。忙しい時は、毎晩のように徹夜をさせられたこともあったんだ。それなのに、『君、今月限りで来なくていいよ。』なんて、俺より10年も後に入社した若い課長が平気で言うんだ。冗談じゃないよって言いたいけど、どうしようもないよ。女房に言うのに2、3日悩んだよ。」
「そうなの、大変だったねえ。」
「それに、女房の奴にも頭に来るんだ。会社をクビになったって言ったら、『あんたがしっかり仕事をしないからだ。』って言いやがるんだ。冗談じゃないよ。今まで給料は全部女房に渡して、僅かな小遣いでやってきたんだぜ。冗談じゃないよ。」
「それで死ぬ気になったの?」
「取り敢えずハローワークに行って仕事を探したんだけど、見つからないんだ。不景気だしこの歳でできる新しい仕事なんかないんだよ。それをまた女房が毎日のようになじるんだ。」
「ふーん、大変だねえ。でも、おじさん聞いて。私も死のうと思ったことがあるの。」
「えっ!まだ若いじゃないか。その歳で死ぬなんて、まだ早いよ。」
「私ね、中学校の時、両親が離婚したの。離婚の前は、毎晩のように大声で夫婦喧嘩よ。勉強どころじゃなかったわ。」
「・・・・・」
「離婚したら、父は家から出て行ったわ。母は飲み屋に勤めるようになり、すぐに男を作ったわ。朝帰りすることが多くなり、私は一人家にいることが多くなったの。」
「ふーん、大変だったんだねえ。」
「ある日学校から帰ったら男が家にいたのよ。しかも、母と同じ布団で寝ていたの。」
「私はそのまま家を飛び出したわ。そして、行く当てもなく町を歩き回り、この公園に来たの。そのとき、フッと死のうと思ったの。」
「それから、どうしたの?」
「その時は家に帰ったけど、それから夜一人で家にいるときは死ぬことばかり考えていたわ。誰も自分のことを考えてくれる人がいないってことは、本当に寂しいことなのね。」
「ああ、その気持ちわかるよ。」
「でも思ったの。死んでもまた寂しいんじゃないかって。誰も悲しんでくれない死に方なんて、また侘びしいものだって思うと、死ぬ気さえも失せてしまったの。」
「それでどうしたの?」
「高校をやめて、家を出たわ。今は、ちょっとしたアルバイトをしてるの。」
「ふーん。」
「おじさんね、世の中で不幸なのはおじさんだけじゃないよ。」
「うーん。」
「生きていきなよ。奥さんが嫌だったら、離婚してもいいんだよ。でも子供がいるんなら止めた方がいいよ。離婚すると、子供は可哀想だよ。」
「うん。」
男はうなだれて少女の話を聞いています。
「私も生きて行くさ。贅沢な生活はできなくても、生きて行くだけならどうやったって生きていけるよ。おじさんも頑張りなよ。」
「うん、もう一度やってみるよ。」
「じゃあ、もう大丈夫だね。このロープ、捨てておくね。」
「ああ、ありがとう。お嬢さんのお陰で生きていく気になったよ。」
「お嬢さんかあ、お嬢さんなんて呼ばれたのは初めてだよ。おじさん、ありがとう。じゃあ、行くね!」
「うん、ありがとう。」
女の子はロープを持つと出口の方に歩いて行きました。
その後ろ姿に、男は何度もお辞儀をしていました。
                  ―続く―







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