小鳩の風景−20−
私は、公園の森に住む小鳩です。 今日は悪者のカラスもやって来ないようですので、いつもの枝に留って休んでいました。 昼休みのこと、サラリーマンらしい若い男が数人やって来て、ベンチに座りました。早速、お喋りを始めます。 「俺さあ、この間、課長の家に呼ばれたんだ。飲んだ勢いで、家に呼ばれたんだけど、大変だったよ。行って見ると、奥さんの機嫌が良くないんだ。夜の11時で、しかも突然のことだから仕方ないんだけど、こっちの立場にもなってみろよ。いたたまれないぜ。課長は、奥さんの機嫌をとりながら、自分で冷蔵庫からビールを出したり、つまみを出したりしているんだ。奥さんの方はパジャマのまま「いらっしゃい。」とだけ言って、後はだんまり。あんな時間じゃ帰るに帰れず、結局泊めて貰ったんだけど、針の筵に座らされているような気分だったよ。」 「あの課長、会社では威張っているんだけど、家じゃあまるで奥さんに頭が上がらないみたいだね。この間も、給料をごまかす方法はないかなんて、庶務の美佳ちゃんに相談していたみたいだぜ。」 「そう言えば、部長も奥さんに弱いみたいだよ。この前、顔にひっかき傷があったろう。あれって、夫婦喧嘩の後だぜ。本人は、髭剃りのときの傷だってわざわざ言ってたけど、あれは絶対カミソリの傷なんかじゃないよ。」 「そう言えば、あの部長は女に手が早いからなあ。きっと浮気でもバレたんだよ。」 「うん、経理のYちゃんと噂があるみたいだしね。いいザマだよ。なのに、俺達にゃうるさいんだからなあ。」 「みんな、会社じゃうるさいのに、家に帰るとまるで奥さんに弱いんだ。何とかして欲しいよ。」 そんな話をしていたときです。 今まで黙って話を聞いていた人が、口を開きました。 「俺、だいぶ前のことだけど、係長の家に呼ばれて行ったんだ。あの人、仕事ではおとなしいけど、家に帰ったら、奥さんが三つ指を突いて出迎えるんだ。着替えとかも奥さんがちゃんと面倒を見るし、料理を出すときなんかも、俺達を下にも置かない丁寧さなんだよ。会社であんなにおとなしい係長が、家ではあんなに丁寧に扱われている、俺には驚きだったね。」 「ふーん、あの係長がねえ。係長は、確か部長や課長と同期入社じゃなかったかなあ。でもよく考えてみると、係長は仕事もきちんとしているよなあ。」 「うん、俺から見ていると、係長が一番仕事ができるんじゃないかな。問題は目立たないんだ。その点、部長なんか調子がいいぜ。社長の前じゃあ、俺達がした仕事を、まるで自分の手柄みたいな言い方をするんだ。」 「そうそう、社長の前じゃ、揉み手だぜ。見ていて、嫌になるよ。」 「その点、係長は大したもんだよな。この前も、部長の前で堂々と反論してたよ。絶対、係長の方が正しいと思うんだけどなあ。」 「マア、うちの会社もそんなに長くないのかなあ・・・」 「この前、別の会社に行っている学生時代の同級生と飲んだとき聞いたけど、どこの会社も同じようなものだってよ。」 「そうかあ、それじゃ転職しても同じなんだなあ。」 「それにしても、我が社にも優しい女なんかいないねえ。」 「うん、係長の奥さんのような女性はいないなあ。」 「あ〜あ、やっぱり転職かなあ。」 「馬鹿だなあ、優しい女なんか、どこに行きゃあいると思っているんだ。あれは朱鷺と同じで、絶滅寸前なんだ。」 「おい、そろそろ時間だぜ。遅れると、また課長の怒鳴り声を聞くハメになるぜ。」 そう言うと、男達は急いで会社の方へ戻って行きました。 ―続く― |