遅かった春−07− 加代子が話を続ける。 「でもそのときよ。また玄関のチャイムが鳴ったの。私、今度こそ出てやるものかと思ったわ。するとしつこいの。何度も何度も鳴らすのよ。とうとう彼が言った。出て行ってみなさいよってね。行ってみると、今度は宅急便だったわ。すぐに判子を押して荷物を受け取ると、部屋に戻ったわ。彼は、ベッドに横になったままで私を待っていた。私は、ブラウスを脱ぐとブラジャーを外して、彼の上に抱きついて言ったの。『さあ、続きをお願い。』って心の中で言ってね。彼は、私を抱くと、続きにかかったわ。私のスカートに手を入れると、太腿のあたりを撫でるの。初めての経験なので、胸が震えたわ。」 沙千恵がまたビールを飲む。 「そのとき、机の上の時計が見えた。5時を過ぎていたのよ。5時半には母親が帰って来るの。私は、いけないって言った。だって彼が勉強を教えに来るってことも内緒だったのよ。昔風の母親だったから、見つかると何を言われるかわからないわ。そのことを先輩に話すと、先輩も急いで身づくろいをしたわ。」 沙千恵は、なんだつまらないと言うような顔をすると、店員に「焼酎をお願い!」と言った。 「でもね、先輩が帰るときに、この次は絶対ねと約束したの。先輩もすっかり気をそがれてしまったようだったけど、うんと言って帰って行ったわ。私は、先輩を送り出すと、玄関で見送った。先輩の姿が通りの角から見えなくなったとき、入れ違いに母の姿が見えたの。間一髪だったのよ。」 「それでその先輩とはその後どうなったの?」 そう沙千恵が聞いたとき、隣の席にまた客がやって来た。どこかで飲んだ二次会の後らしく、随分賑やかである。とても話をするような雰囲気ではない。 「続きは次回にネ! また来ましょうよ。」 「そうね、こんな話のできる雰囲気じゃないわね。」 沙千恵も残念そうに席を立った。 −続く− |