男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2021/04/07 5:57:58|小説「遅かった春」
遅かった春−12−
遅かった春−12−
 
 その後も、加代子の告白は続いた。中には不倫の話もあった。相手は奥さんがいることを承知で付き合ったが、長くは続かなかったようである。こんな話の後で、更に高校時代の同級生と同窓会の後で関係ができたとも話したし、旅先で出会った男とのことも話したが、みんな半年から1年で別れてしまったようであった。
 沙千恵の方は、最近はもっぱら聞き役である。自分のことを喋れば喋るほど、惨めな気持ちになった。最初は、加代子がこれほど男性経験豊かだとは思わなかった。
 その日も、加代子のそんな話を聞かされて、気が重くなっていた。羨ましがっていると思われるのも癪なので、止めさせるわけにもいかない。加代子は、何人かの男との関係を淡々と話すのだが、それがだんだん自慢話に聞こえてくる。
 居酒屋を出て、自分のアパートの近くまで帰って来ると、ガード下の店に入った。店には、数人のサラリーマンらしい男達が飲んでいたが、沙千恵が入って行ってもまるで無関心の大きな声で話を続けている。沙千恵は、生ビールを一杯だけ飲むと、そそくさと店を出た。
 アパートに着いて、ドアの鍵を開けようとしたとき、中でゴソゴソと物音がしたような気がした。おかしいと思って、ドアを開けたときには物音はしなかった。玄関のライトを点けて、部屋の様子を伺うが何も聞こえない。そっと靴を脱いで、ダイニング・ルームから奥の寝室に入ったときである。ベッドの向こうにいた男が、いきなり逃げ出すために窓を開けようとした。
「誰? そこから逃げても無駄よ。外にはパトカーがいたわ。」
沙千恵は咄嗟にそう言った。逃がしてなるものかと思ったのである。しかし窓の下は裏の空き地である。パトカーなどいる筈はない。男は動転しているのか、そのことには気付いていないようである。
 男は振り返ると、今度は沙千恵の方に向かって来た。
                     −続く−







2021/04/06 5:57:05|小説「遅かった春」
遅かった春−11−
遅かった春−11−
 
 その後も飲みに行く度に、加代子の男遍歴の回想は続いた。
「私、会社の人とは付き合わない主義なんだけど、一度だけあるの。小沢専務よ。お客さんの接待のときに連れて行かれたの。彼って、社内でも実力者だけあって強引だったわ。鳩山社長も専務の言いなりみたいだったですものね。」
「そうねえ。もっぱらそんな噂だったわね。社長って、お金持ちの息子で坊ちゃんタイプでしょう。あれじゃあ、やり手の小沢専務には適わないわね。」
「専務ったら、会合が終った後で、もう少し付き合えっていうのよ。私、嫌だったけど、有無を言わせない感じなの。いつも行っているらしい銀座のクラブに連れて行かれたわ。」
「それで?」
「そこまでは良かったの。その店を出ると、送るよと行ってタクシーに乗せられたの。着いたところがどこだと思う?ホテルよ。東京プリンス・ホテル。フロントで予約しておいた小沢だなんて言っていたから最初から計画的だったのよ。部屋に入るといきなり私を抱いてキスをしたわ。私は、狼の前の子羊のような気持ちになっていた。逆らえない雰囲気なの。私が、お風呂に入ってからと小さな声で言うと、いやそのままがいいんだなんて言うのよ。」
「まあ、嫌らしいわねえ。」
「でもセックスのテクニックはさすがだったわ。相当遊んでいるのね。最初は、気味が悪かったけど、最後の頃になると彼のテクニックで、私、すっかり感じていたの。女って、心も大事だけど、あっちのテクニックが上手なことだけでも感じられるのね。」
「そんなものかしらねえ。」
「そうなのよ、あの専務のことだから、愛情なんかこれっぽっちもないと思うの。でも身体は感じてしまう、これってどうなのでしょう。私って、淫らなのかしらねえ?」
「そうとも言えないわねえ。女って、業が深いのかも知れないわ。ほら、大岡越前の守がお母さんに、女の性欲はいくつまであるのかと聞いたら、お母さんが黙って火鉢の灰をかき混ぜたって言うでしょう。焼かれて灰になるまでだそうだから、死ぬまでなのよ。」
「そっか、私もそんなに異常じゃないわけね。」
そう言って加代子は笑った。
                      −続く−







2021/04/05 5:12:47|小説「遅かった春」
遅かった春−10−
遅かった春−10−
 
 更に加代子の話は続いた。
「彼は、そのまま私をタクシーに乗せたわ。そして新大久保って言うの。あのあたりにはラブホテルがたくさんあるでしょう。結局、私はその中の一軒に連れて行かれていた。彼は、私にキスをしながら、来てくれて良かった、断わられたらどうしようかと思ったなんて言うのよ。女に自分の存在価値を認めさせるような言い方なのね。私、遊ばれるのがわかっていても嬉しかったわ。彼は、上手だった。私の着ているものを脱がせる動作だってとても繊細な動きだったし、愛の行為だって優しく繊細だったわ。終った後で、彼が言った。こうなるためには付き合い始めて長い時間を置いてからじゃだめなんですって。会って3回目までが目安だって言うの。それを過ぎると、何もしないことが当たり前になって、結局何もないまま終ってしまうらしいわ。」
「そうなの・・・・・」
「そうね、何事にも勢いってものがあるわね。いろいろ考えていたり、躊躇していると、勢いも失せちゃう。私、彼から教えられて本当にそう思った。」
「そうかも知れないわね。私も、飲み友達の男の子は何人かいたけど、何度も一緒に飲んでいると、男だってことを意識できなくなっちゃうわね。ただの友達以上になれないの。」
「その点、彼は上手だった。その後も何回かベッドで一緒に過ごしたけど、男と女のことをいろいろ教えてくれたわ。感じ方の違いや、男の心理や女の心理のこと、男と女では身体の構造が違うけど、考えていることも違うんだって。」
「そうなんだ・・・」
「そんな彼だから、別れ際もきれいだった。結局、1年ほどで彼とは会わなくなったのだけど、決して彼から別れようとは言わないの。ただ遊びだってことを上手に匂わせるのよ。だから今でもときどきメールを寄越すし、多分、今でも町で出会ったら一緒に飲みに行くかもしれないわ。」
「でも、勿体ないわね、そんないい男を。」
「彼、遊ぶにはいい男だけど、結婚する相手じゃないと思った。あんな調子で、外で飲み歩かれたんじゃ、私、気が気じゃない毎日を過ごさなければならないわ。」
「そうかもねえ。」
 沙千恵は、だんだん自分のことを言うのが嫌になっていた。この歳になっても、まだ男と結ばれたことがなかったからである。
                       −続く−







2021/04/04 6:06:49|小説「遅かった春」
遅かった春−09−
遅かった春−09−
 
 沙千恵が話を続けた。
「彼は、優柔不断に考え込んでいるようだったから、私はここで押さなければと思った。ねえ、行きましょうと言って、無理に彼の手を引いてホテルに入ったの。部屋に入ってもしばらく彼は迷っているようだったわ。私、自分から彼に抱きついてキスをしたけど、彼は、まだ躊躇しているの。私が彼の上着を脱がせたときにもまだどうしようかという態度なのよ。私は、かまわず上着を脱がせて、自分もスーツを脱いで抱き合ったままベッドに誘った。自分も下着姿になって彼のワイシャツを脱がせたときになって、彼が言い出したのよ。僕にはできないってね。聞けば、彼は結婚していて、もうすぐ子供が生まれるって言うの。だから奥さんや、生まれて来る子供を裏切るなんてことはできないって。冗談じゃないわよね。今まで結婚しているなんて一言も言わずに、ラブホテルまで来て結婚しているだなんて。私、頭に来て、服を着るとホテルを飛び出したわ。あのときほど恥ずかしい思いをしたことはないわ。次回から、納品のときも彼は来なくなった。代わりに年配の人が来るようになったわ。」
「そう、そうだったの。」
加代子は、残念そうに返事をしたが、その声には同情の響きが隠せなかった。
 今度は、加代子が話し始めた。
「先輩の彼とは、私が受験を諦めたときに終っちゃった。だって勉強なんかしないで、あんなことばかりしていたでしょう。成績が上がるはずないわよね。結局、半年ほどで終っちゃったの。」
 更に加代子は話を続ける。
「次は、スナックで飲んでいるときよ。そうそう、会社で岩山さんの送別会があったでしょう。あの後で、飲み足りない気がしたから、一人でスナックに寄ったのよ。するとカウンターの向こうの方に座っていた男が、隣に来てご一緒してよろしいですかって聞くの。私、笑顔で頷いちゃった。彼、とても優しい感じだし、ハンサムなのよ。」
「そう・・・・・」
沙千恵は、気乗りのしない返事をした。
「彼、とてもスマートなの、垢抜けしているっていうのか、動きは繊細だし、言葉遣いにも無駄がないの。多分、言葉は選んで言っているのでしょうけど、それを感じさせないのよ。私は、彼が余程遊び慣れているのだと思ったわ。1時間ほど一緒に飲んだとき、もうちょっと僕に付き合ってくれませんかと言ったの。私は、誘惑されているのだと思った。」
                     −続く−







2021/04/03 5:25:27|小説「遅かった春」
遅かった春−08−
遅かった春−08−
 
 翌日、二人はまた居酒屋で会っていた。加代子の話は続いた。
「結局、彼と結ばれたのは、その2週間後だったの。次のときは、彼は十分その気だったようだけど、私に生理が来てだめだったの。私は、この前の続きだからと自分からシャツを脱いでブラジャーも外したわ。最後に、彼がいいねと聞いたときには、私もこれで処女とさようならするのかちょっと感傷的になったけど、でも私は彼を好きだったから黙って頷いたの。彼は優しくしてくれた。終ったとき、私は彼にしがみついていた。」
「そう・・・・・・」
沙千恵は小さく返事をした。
「ねえ、先輩。先輩はその後も恋したことあるのでしょう。」
「そうね、次は私が24歳のとき、相手はいつも消耗品の納入に来る人だった。年齢は30歳前後だったかしら、ある日冗談で、たまには飲みに連れて行ってくださいよと言ったの。すると彼はいいですよって言うのよ。私は、場所と時間を書いたメモを彼に渡したの。恵比寿にあるスナックよ。その日、退社前にちょっと念入りにお化粧をしてそのスナックで彼を待っていた。」
「で、彼は来たの?」
「ええ、私が約束の時間に行くと、先に来て待っていてくれたわ。」
沙千恵は話を続けた。
「彼とは3時間ほど楽しく飲んだ。彼って、話が上手なのよ。話題も豊富だし、私の話題に合わせてくれるの。そのとき、次に会う約束をして、それから月に1、2回の割合で飲みに行くようになったわ。場所はいつも恵比寿の同じ店よ。ところが一向に彼の方からそれ以上誘って来る様子がないのよ。私、意を決したわ。自分の方から誘ってみようってね。彼と付き合うようになって3ヶ月ほどしたときかしら、私は朝から下着を選んだ。どれにしようかと悩んで、淡いピンクの下着にしたのよ。」
沙千恵は、喉を潤すようにビールを飲んで話を続ける。
「店で1時間ほど飲んだ後で、駅に向かう途中にラブホテルがあるでしょう、あの前まで来たとき、ネッ、寄って行きませんって言ったの。私、胸がドキドキして声が上ずっていたと思うの。」
「で、彼は何と言ったの?」
待ちきれないように加代子が聞いた。
                        −続く−







<< 前の5件 [ 1331 - 1335 件 / 2755 件中 ] 次の5件 >>  << 最新の記事へ >>