遅かった春−12− その後も、加代子の告白は続いた。中には不倫の話もあった。相手は奥さんがいることを承知で付き合ったが、長くは続かなかったようである。こんな話の後で、更に高校時代の同級生と同窓会の後で関係ができたとも話したし、旅先で出会った男とのことも話したが、みんな半年から1年で別れてしまったようであった。 沙千恵の方は、最近はもっぱら聞き役である。自分のことを喋れば喋るほど、惨めな気持ちになった。最初は、加代子がこれほど男性経験豊かだとは思わなかった。 その日も、加代子のそんな話を聞かされて、気が重くなっていた。羨ましがっていると思われるのも癪なので、止めさせるわけにもいかない。加代子は、何人かの男との関係を淡々と話すのだが、それがだんだん自慢話に聞こえてくる。 居酒屋を出て、自分のアパートの近くまで帰って来ると、ガード下の店に入った。店には、数人のサラリーマンらしい男達が飲んでいたが、沙千恵が入って行ってもまるで無関心の大きな声で話を続けている。沙千恵は、生ビールを一杯だけ飲むと、そそくさと店を出た。 アパートに着いて、ドアの鍵を開けようとしたとき、中でゴソゴソと物音がしたような気がした。おかしいと思って、ドアを開けたときには物音はしなかった。玄関のライトを点けて、部屋の様子を伺うが何も聞こえない。そっと靴を脱いで、ダイニング・ルームから奥の寝室に入ったときである。ベッドの向こうにいた男が、いきなり逃げ出すために窓を開けようとした。 「誰? そこから逃げても無駄よ。外にはパトカーがいたわ。」 沙千恵は咄嗟にそう言った。逃がしてなるものかと思ったのである。しかし窓の下は裏の空き地である。パトカーなどいる筈はない。男は動転しているのか、そのことには気付いていないようである。 男は振り返ると、今度は沙千恵の方に向かって来た。 −続く− |