遅かった春−22− 光治は、通信教育の道を選んだ。仕事が始まった時、通学できる保証がないからである。教材が送られて来ると、よく勉強をした。沙千恵が仕事から帰って来ても、テーブルに広げた教科書を広げていることがあったし、夜、沙千恵が寝た後にも勉強していることが多い。 ある日の昼休み、沙千恵の携帯に光治からのメールが入った。内容は、「就職が決まった。詳しいことは帰って来てから話す。」というものだった。 沙千恵は、残業を断って、急いで帰宅した。光治は、仕事先は、アパートからそう遠くない電子部品を作っている小さな町工場で、最初に仕事を覚えるのが大変だが、今は景気も良いのだと言った。翌日、沙千恵は仕事の帰りにスーパーに寄って買い物をし、ささやかながらご馳走を作って就職が決まったお祝いをした。 仕事が始まると、光治は忙しくなった。残業も多かったし、仕事も通信教育の勉強もしなければならない。沙千恵が一人で先にベッドに入ることが多かった。セックスの悦びを知った沙千恵には、それが不満に思えることもあったが、自分との結婚のために頑張っているのだと思うと寝室に誘うのを我慢した。 寝ながら沙千恵は考えた。光治が高校で今までに取った単位を証明して貰っても、通信教育に最低あと2年はかかる。そうすると自分は35歳になってしまう。それまで待てるだろうか。結婚しても、光治の勉強は続けられる・・・・・ しかし、いつも一生懸命勉強をしている光治を見ると、なかなかそれを言うきっかけがなかなか掴めない。 沙千恵は、加代子に相談してみることにした。 「ねえ、私、光治と結婚した方がいいと思うんだけど、どう思う?」 今の状況を話した後で、沙千恵は加代子に聞いた。ここはいつもの居酒屋である。 「そうねえ、お姉さんももう33歳だものねえ。ご両親だって、焦っているんじゃない。」 「そうなのよ。最近でこそあまり言わなくなったけど、心の中ではそうに違いないのよ。」 「籍だけでも入れちゃえば。そうすればご両親だって安心するわ。」 「そうねえ。」 「ところで、彼と同棲していること、両親には話してあるの?」 「いえ、まだ何も・・・・・」 「じゃあ、早く言っておいた方がいいわよ。付き合っている人がいるくらいのことはね。ご両親だって心の準備が必要だわ。」 「そうね。」 「いきなり同棲しているなんて言ったら、お父さん卒倒するかも知れないわよ。」 「そうねえ・・・・・」 次の日、沙千恵は両親に手紙を書いた。電話で話していろいろ聞かれるより、手紙の方が良いと思ったからである。同棲していることは書かず、好きな人がいて結婚を意識しながら交際しているのだと書いた。 3日後、母親から電話があった。そんな人が見つかって良かった、お父さんもあなたがなかなか結婚しないので心配していたのだなどと言い、どんな人だとか、歳はいくつだとか聞いたが、沙千恵はまだ結婚すると決めたわけではないからと返事をはぐらかせていた。その後で、母親が行った。 「お父さんが、一度あなたのアパートに行きたいんですって。そのときに、あなたからいろいろ話を聞きたいって言っていたわ。」 沙千恵は、瞬間、何と返事をして良いかわからなかった。 −続く− |