男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2021/04/23 5:48:25|小説「恋盗人」
恋盗人(こいぬすびと)−02−
恋盗人(こいぬすびと)−02−
 
 私が、人のものを欲しがるのは、ある意味で病的だったと思います。普段は欲しいと思わない物でも、人が持っていると欲しくなるのです。親に言って同じものを買ってもらえばよいようなものですが、それでは満足できないのです。窓香さんの人形がまさにそうでした。彼女の人形は、しばらくは一人のときに遊んでいましたが、すぐに飽きて遠くまで行ってゴミ箱に捨ててしまいました。
 私には、3歳下の妹の明美がいました。明美もよく私に懐いてくれて、私も明美を可愛がっていました。雨の日、外で遊べないときには、いつも明美の相手をしていました。両親は、仲の良い姉妹だと喜んでいました。
 小学校に入る頃になると、窓香さんと私は、よく明美と一緒に遊んでいました。二人とも、まだ歩けるようになったばかりの明美が可愛くて仕方がなかったのです。
 それでも2年、3年と進むに従って、友達も多くなりました。私自身は、明るい性格だと思っていました。誰とでも、抵抗感なく話せましたし、けっこうウィットの効いた冗談ばかり飛ばしていたので、近寄って来る友達は多かったのです。女友達もいれば、男友達もいました。
 小学校4年のことです。クラス替えで隣の席に座ったのは春佳さんでした。ぽっちゃりとした顔の可愛い女の子で、彼女に憧れている男の子も多く、彼女に話し掛けたり、あるいはわざとからかったり悪戯をしたりしていました。私が見ていても、悪戯は好意の逆の表現だというのがわかります。
 そのうち、春佳さんは一人の男の子とよく話をするようになりました。隆介君です。隆介君も、眉毛の濃い、目の大きな男の子で、クラスでは人気者でした。二人は、家が近いのか下校時にはよく一緒に歩いて帰っていました。二人は、いかにも仲良さそうにお喋りをしながら歩いています。青いランドセルと赤いランドセルが並んで歩いている後姿を見ていると、羨ましいというか、私も彼のような友達が欲しいと思いました。
 私には、よく話し掛けて来る男の子がいました。同じクラスの義男君です。「一緒に帰ろう」とか、「今度一緒に遊ぼうよ」などと言って来ます。でも、私は相手をしませんでした。言い寄られると興味が湧かなくなるのです。
 ある日の学校からの帰り、隆介君が私の前を一人で歩いていました。私は、彼のところに行って話し掛けました。
「今日は、1人?」
「うん。」
「一緒に帰りましょう。」
「うん、いいよ。」
 彼の返事に、私は妙に胸がドキドキしていました。
                ―続く―







2021/04/22 5:41:03|小説「恋盗人」
恋盗人(こいぬすびと)−01−
恋盗人(こいぬすびと)−01−
 
 隣の芝生は青く見えると言います。自分のものより、隣のものの方が立派に見え、しばしば羨ましくて欲しくなります。
私は、子供の頃から人が持っている物が欲しくなっていました。自分の方が良いものを持っていても、人が持っている物の方が欲しくなるのです。その傾向は誰にでもあるかと思いますが、私の場合はそれが激しくちょっと度を越していました。
 幼稚園に通っていた頃、お隣の窓香さんとよく遊んでいました。彼女も私も、同じ幼稚園に通っていたのですが、隣に住んでいる彼女とは、休みの日や幼稚園から帰って来て遊ぶようになっていたのです。家の近くに小さな公園があって、よくそこでままごと遊びなどをしていました。
 暮のある日、窓香さんがうちに遊びに来たのですが、そのとき可愛い日本人形を持っていました。窓香さんは、いつもその人形を手に持っていて離しません。私が聞きました。
「その可愛いお人形、どうしたの?」
「ええ、クリスマスのサンタさんのプレゼントなの。朝起きたら、ツリーの下にあったのよ。お人形さんなら、京美さんも持っているじゃない。」
「いいわねえ。私のは、ドレスを着た西洋のお人形さんなの。窓香さんのお人形の方が、着物もきれいだし可愛いわ。」
「そんなことないわ。京美さんのも立派なドレスを着ているし、大きくて可愛いわ。」
その後で、絵本を読んだり、テレビを見たりして遊んでいましたが、私は窓香さんの人形が欲しくて仕方がありませんでした。 
 ある日のことです。公園に行くと、窓香さんの人形がベンチに置いてありましたが、彼女の姿は見えません。探してみるのですが、いないようです。その瞬間、私は彼女の人形を抱えると、家に向かって走っていました。そして人形をベッドの下に隠すと、また公園に戻りました。
 何食わぬ顔で公園のベンチに座って待っていると、やがて窓香さんがやって来ました。ベンチに人形がないのを見て、言いました。
「ねえ、私のお人形知らない?」
「知らないわ。どうしたの?」
「さっきここに来て、このベンチに置いていたの。おしっこがしたくなって家に帰ってから戻って来たらないのよ。」
「どうしたのかねえ。そう言えば、私が来たとき誰かがあっちへ歩いて行ったわ。」
「男の人、女の人?」
「よく見えなかったけど、男の人だったみたい。そこのお宮のところを曲がって行ったの。」
窓香さんは、急いでそっちに走って行きました。私もその後を追い掛けましたが、当然、そんな人がいるはずはありません。
 がっかりしている窓香さんに、私は声を掛けていました。
「いけない人がいるのねえ。」
                ―続く―







2021/04/20 5:45:03|小説「遅かった春」
遅かった春−25−(最終回)
遅かった春−25−(最終回)
 
 「わしは、人間は最後に幸せになれば良いと思っている。田舎じゃあ、先に子供ができてから結婚をする者を冷たい目で見る者もおるけど、あれだって幸せになれば良いんじゃ。形どおりの手順で結婚して、将来不幸になるよりは、順番は逆でも最後まで幸せでいる方がどれだけ良いか。さあ、光治君、飲もう。」
そういうと、父親は光治の盃に酒を注いだ。
 それからは和気藹々の時間が過ぎた。光治は父親に注ぎ、父親は光治に注いだ。だんだん酒のペースは落ちて行ったが、父親も光治もかなり酔うまで飲んだ。夕陽が沈む頃には、二人ともすっかり酔っていた。
 その日、父親はダイニングに布団を敷いて寝、光治は沙千恵とベッドに寝た。
 父親が帰って行くと、光治も沙千恵もすっかり婚約した気分になった。もう進むべき道はひとつになったのである。問題は、いつ結婚するかである。光治は、勉強もあったし、仕事に就いたばかりである。光治は相変わらず、勉強に、仕事にと頑張っていた。子供ができても父親が高校も出ていないなんて言えないというのが口癖だった。すぐに式を上げるには時間的にも経済的にも余裕がない。そこで加代子が籍だけでも入れたらと言ったことを思い出した。
「ねえ、あなたが良ければ、籍を入れない。式は後でもできるわ。」
光治はしばらく考えてから返事をした。
「そうだね。お父さんにあゝ言ったからには、早く安心させてあげなければならないしね。」
相談がまとまると、沙千恵は早速母親にそのことを連絡した。
 それから光治を田舎に連れて行って、母親や兄達に会わせた。母は、光治の歳が若いということで、ちょっと心配しているようだったが、それよりも娘の結婚を喜ぶ気持ちの方が大きいようだった。両親共に賛成してくれた。母親が話してくれていたのか、兄達も何も言わなかった。
故郷に帰ってからすぐ、昼間沙千恵が婚姻届の用紙を受け取り、その夜二人で記入押印し、翌日二人揃って役場に行って提出した。役場の若い女性職員は、二人の顔を見ながら笑顔でおめでとうございますと微笑んだ。
 役場からの帰り道、沙千恵は光平の腕にすがりながら歩いていた。二人の背中を春の柔らかい日差しが照らしている。沙千恵は、光治の腕の温かさと太陽の暖かさを両方感じていた。
そして自分のより細い光治の腕が、力強く逞しく思えていた。
                      −完−







2021/04/19 2:21:29|小説「遅かった春」
遅かった春−24−
遅かった春−24−
 
 気持ちは焦るのだが、しきりに田舎のことを喋っている父親の話に割って入る勇気もなかった。きっかけがないのは、沙千恵の逡巡にも理由があった。子供の頃から、兄には大らかだった父親も、沙千恵には口うるさかったからである。もし、今、同棲していると言ったら、どんな反応をするだろうかという恐れもあったからである。
 電車は、亀有の駅に着いた。もう後がない。やっと沙千恵は光治とのことを話した。
「お父さん、実は私、もう彼と暮らしているの。」
「えっ!」
父親は、途端に黙り込んだ。
 アパートに着くまで、父親は黙り込んだままだった。玄関のチャイムを鳴らすと、「ただいま。」と言いながら先に入り、父親を招き入れた。光治は、すぐに出て来て、「初めまして、三浦光治です。」と言った。
父親は「うん。」とだけ言った。元々、無口であまり表情に表さない父親だが、何を考えているのかわからず沙千恵は不安だった。
「ねえ、お父さん。食事にしましょう。」
「ああ。」
「お父さん、お茶より、お酒のがいいんでしょう。日本酒を買って来ておいたわ。」
「ああ。」
すぐに沙千恵は台所に入って食事の支度を始めた。父親と光治はテーブルに座ったまま無言である。やっと食事の支度ができて、沙千恵が「さあ、食べましょう。」と言ったとき、さすがに光治はホッとした様子だった。
「さあ、どうぞ。」
沙千恵が父親の盃に酒を注ぎ、次に光治の盃に注いだ。
小さい盃だったが、父親は一気に飲み干した。父親は、昔から酒が好きで毎晩飲んでいた。晩酌のときは機嫌が良かった。沙千恵は自分の食事が終ってもよく傍にいたものである。そんなときの父親は、本当に嬉しそうだった。そんなに多い量ではなかったが、昼間にあったことなどを話しながら、時間をかけてゆっくりと飲んでいた。しかし、今日はペースが速かった。黙ったまま、最初の数杯はかなり早い勢いで飲んでいる。光治の方は、緊張した様子で黙ってゆっくりと飲んでいた。
 しばらくすると、父親の顔が次第に赤くなって行った。酒は強い方だが、飲めばすぐ顔に出るのだった。
「光治君といったかな?」
徳利が3本目になったとき、やっと重い口を開いた。
 光治は、緊張した面持ちで「はい。」と返事をした。
「沙千恵のことをよろしく頼むよ。」
途端に、光治も沙千恵も笑顔になった。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
光治は深々とお辞儀をした。
「駅前で、沙千恵から聞かされたときはちょっと驚いたが、まあ沙千恵も30歳過ぎだからなあ。そんなことがあってもおかしくはないんだよねえ。」
「・・・・・」
「この娘は、優しいところもあるけど、けっこう気が強いから大変だと思うけどよろしくな。」
「はい、僕の方も頼りないかと思いますが。」
「うん、頑張るんだな。女は、最初が肝心だからな。」
「まあ、お父さんったら、そんなことを言って。」
沙千恵は、父親の態度にすっかり安心して笑いながら冗談めかして言った。
                      −続く−
 







2021/04/18 5:34:27|小説「遅かった春」
遅かった春−23−
遅かった春−23−
 
 結局、その場で「うん、わかった。」と言ったものの、どうしようと青くなった。
 アパートには、光治がいる。父親が出て来れば、隠しようがない。同棲しているなどと知れば、父親は何と言い出すか。
沙 千恵は一人で悩んだ。光治にさえ、相談するのを憚られた。仕事に、勉強に頑張っている光治に余計な心配をさせたくない。しかし、父親がこのアパートに来るのなら、言わないではおれない。
 2日悩んだ後で、光治に言った。
「ねえ、実は、お父さんがここに来るって言うの。」
「えっ!」
「私、あなたと一緒に暮らしていることを話していないのよ。」
「・・・・・・・」
「どうしよう。」
光治はしばらく考えたのち、口を開いた。
「いいじゃないか、ちゃんと見て貰おうよ。僕達の、いつものままの姿を。」
「でも大丈夫かなあ。」
「いずれ、全てを話さなくちゃならないのだろう。怒られるにしても、早いか遅いかだけの違いだよ。」
「そうね。」
「勿論、僕もお父さんが来られるときは、家にいるよ。ただ、僕だけがいるときに来られると困るけどね。」
「勿論だわ。」
 沙千恵は、光治がそう言ってくれたのが嬉しかった。沙千恵は、光治がこんなに頼もしく思えたのは初めてだった。その日、二人は久しぶりに身体を交えた。その後で、沙千恵は父親と連絡を取り、週末に来てもらうことに決めた。
 その朝、二人は部屋を念入りに掃除して、沙千恵だけが新宿駅まで迎えに行った。沙千恵の顔を見ると、たくさんの荷物を持った父親が嬉しそうに近付いてきた。
「おお、元気だったか。」
「お父さんも元気そうね。お母さんも元気なんでしょう。」
「ああ、お前が結婚するんじゃあないかと喜んでいたよ。」
地下鉄の駅に案内すると、父親はキョロキョロしながら言う。沙千恵は、父親の荷物を手に持つと先に歩き始めた。
「東京の地下鉄は、どうなっているのか、さっぱりわからん。」
「そうね、私も初めてのところは前もって調べないとわからないわ。」
そんな話をしながらも、父親は沙千恵の後から着いて歩いている。
 隣の息子が仕事を辞めて東京から帰って来たとか、誰それが嫁に行ったとか、父親は話を続ける。沙千恵は、家に着くまでに光治と住んでいることを話さなければと思うのだが、なかなかきっかけが掴めない。いっそのこと、彼氏とはどうなっているのかと聞いてくれれば話せるのだが、今日に限って聞いてくれない。
                   −続く−







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