恋盗人(こいぬすびと)−14− 人の物が欲しくなる、これは私の悪い癖だと思っています。しかし、自分ではその欲望を抑えることができず、どうすることもできませんでした。 次の日曜日は、秋晴れの良い天気、私は朝から何を着て行こうかと悩んだ末、短めのピンクのスカートとブルーのブラウスの上に薄いピンクのカーディガンを羽織りました。そして昨日作っておいた、サンドイッチの入ったバスケットを手に、約束の高尾山口の駅に行きました。彼も同じ電車に乗っていたらしく、私達はホームで出会うことができました。 「おはよう!」 「おはよう!」 田野内君も、ご機嫌のようです。 山に登るにはケーブルカーやロープウエイもありますが、私達は行きは歩いて登ることにしました。田野内君は、無口なわりには細かいところに気が付いて、ちょっと急な坂道になると私の手を引いてくれました。それは私の作戦でもありました。お互いに身体を触れ合えば、親しさも湧いて来るはずです。急な坂道に差し掛かったとき、私は足を滑らせて転びそうになりました。私は、支えようとした田野内君の胸に身体を預けるような格好になりました。田野内君は、ちょっと驚いたようで「大丈夫?」と聞きましたが、無論大丈夫です。二人の目と目が合いました。しばらく見つめ合っていましたが、私が目を瞑ると、彼は私にチュッとキスをしました。しかし後ろから人の声にすぐに身体を離し、また坂道を登り始めました。 キスしたことで、田野内君も親しみを覚えたようでした。少しずつ私のことも聞くようになりました。家族のこととか、日頃は何をしているのかなどと言っています。私は、妹がいること、普段は本を読んだり映画を見たりしていることなどを答えていました。今まで、無口であまり女性に関心がないように見えていた田野内君の中に明らかに心境の変化が生じているのがわかりました。 頂上近くにある神社の前を通り過ぎ、更に行くと、広場があります。遠くには、富士山も見えています。私は、シートを敷いて、サンドイッチの入ったバスケットを開けました。 「君が作ったの?」 「ええ、卵とハムと野菜だけですけど。」 「美味しそうだね。」 「美味しいと良いんだけど。」 そんな会話の後で、サンドイッチをつまんだ田野内君は、「美味しい、美味しい」と言いながら食べてくれました。私は、そんな田野内君を眩しそうな目で見ていました。 「僕の顔に何かついてる?」 私が見詰めているので田野内君が聞きました。 「いいえ、美味しそうに食べてくれるのが嬉しくて。」 私は、そう言ってほほ笑みました。 ―続く― |