恋盗人(こいぬすびと)−33− 向かい合って座っているので、飯塚さんからは私の胸が正面に見えています。私の胸を、ときどきチラッと見ては目を逸らしています。私は、そんな飯塚さんの気持ちを察して、恥ずかしがらせないように、ビールを注ぎながら話を続けました。 「飯塚さんは、どちらのご出身ですの?」 「山梨の甲府の田舎です。農家の次男坊なんですよ。」 「甲府、良いところですわね。あの辺りは、見どころも多いのでしょう。」 「そうですね、山や渓谷がきれいです。特に新緑や紅葉のときはきれいです。行かれるなら、その頃がお勧めです。」 「そうですね、ぜひ行ってみたいですわ。」 飯塚さんは、相変わらず私の胸に目をやっていました。その度に、ビールを飲み干しています。私は、またビールを注いであげました。 「飯塚さんって、素敵ですわね。明美が羨ましいですわ。」 「お姉さんこそ、きれいで素敵です。恋人とかいらっしゃるのでしょうね。」 「いいえ、そんな者はいませんわ。うちの会社は仕事、仕事で、それどころじゃないんですよ。」 「そうですか。こんな素敵な女性を放っておくなんて、酷い会社ですねえ。」 ビールのせいか、飯塚さんはいつの間にか饒舌になっていました。 「でも、飯塚さんのような素敵な男性がいたら、きっと私の方から恋人志願していると思いますわ。」 「僕だったら、決してお姉さんみたいな人を放ってはおきませんけどねえ。」 そんな話をしているうちに、「ただいま〜!」という大きな声がして、妹の明美が帰って来ました。 「今日は、何を作るの?何を買って来たの?」 「うん、素麺よ。暑いときは、素麺がいいと思って。つまみ用のお刺身とか生ハムもあるわ。それにアボガドも買って来たの。あれ、お酒のつまみにも美味しいわよね。デザートも買って来たわよ。」 「そう、何か手伝うことある?」 「いいわ、お姉ちゃんは満さんのお相手をしていて。」 「わかった、手伝うことがあったら言って。」 明美は、台所で買い物の袋を開きながら、料理に取り掛かっているようでした。しばらくすると、アボガドを添えた生ハムと刺身をテーブルに持って来ました。 「あなたも飲んだら。素麺は後でいいと思うわ。」 「そうね。私もいただくわ。ところで、二人は私の留守中、何の話をしていたの?」 「ううん、どうってことない話よ。飯塚さんの出身地のこととか。」 「あたしの噂をしていなかった?買い物の途中でくしゃみが出て困ったわ。」 「ウフフッ、そんなことしていないわよ。それこそ飯塚さんは、あなたのことを褒めていたけど。」 「あらっ、どんな風に?」 「とても優しいって。」 「そう、それだけ?」 「そうよ、それ以外に何か言って欲しかった?」 「ううん、そうじゃないけど・・・」 明美の言葉には、何か彼女の心に引っかかるものがあるようでした。 ―続く― |