恋盗人(こいぬすびと)−38− 私は、明美のことが気になってさらに話を続けました。 「ねえ、吉岡さんはあなたと親しそうに話をしていたけど、あなたはどう思っているの?」 「彼も良い人だわ。」 「そうね。好感が持てる人よね。彼と付き合ってはどう?」 「飯塚さんには振られちゃったから、彼でもいいかなあ。」 「彼も誠実そうな人だから、結婚の相手としてもいいんじゃない?」 「それって、穴埋めのつもり?」 「そんなことはないけど、あなたが彼のことを好きならそれも良いんじゃないかと思ったのよ。」 「そうねえ・・・」 明美は考えているようでしたが、まんざら嫌でもなさそうでした。 飯塚さんからプロポーズがあったのは、その週の週末でした。私達は、六本木のレストランで会い、その場でプロポーズを受けたのでした。私が両親に飯塚さんと結婚すると報告すると、二人とも怪訝そうな顔をしていました。両親は、明美と飯塚さんが結婚するものとばかり思っていたのです。 しかし、そのとき困ったことが起こりました。吉岡さんから、私に告白のメールが届いたのです。そこには概ね次のように書かれていました。 「随分考えた挙句にメールをしました。自分は一目会ったときから貴女を好きになりました。飯塚君に相談したら、彼は諦めろと言いました。しかし、自分は諦め切れません。貴女への想いは募るばかりです。どうか一度二人きりで会って、僕の話を聞いていただけませんか。どうぞお願いします。・・・」 メールは長文で、彼の私への想いが切々と書かれていました。私は、彼と会うべきかどうか、迷いました。というか困りました。無碍に冷たくするのも彼に悪いですし、二人きりで会うのは、飯塚さんにも明美にも悪い気がします。 おそらくこれからもテニスを通じて顔を合わせる機会は多いでしょう。彼にとって真剣な問題をメールだけで返事をするのも悪いような気がして、結局、翌週の金曜日に渋谷駅で会うことにしました。 金曜日、ハチ公の前は待ち合わせの人達で賑わっています。仕事で遅くなって約束の時間に少し遅れて到着すると、彼は既に来て待っていました。 「すみません。遅くなって。」 「いえ、こちらこそ、忙しいときに無理を言って申し訳ありません。」 挨拶を済ませると、駅の近くの喫茶店に入りました。コーヒーを注文すると、彼はすぐに切り出しました。 「先日は、突然のメールで驚かれたと思います。メールにも書きましたが、思い余って出さずにいられなかったのです。」 「お気持ちは十分にわかりました。私も嬉しく思っていますが、私には既に決めた人がいます。」 「飯塚君ですか。彼が、僕が貴女を好きだと言ったとき、強い調子でダメだと言ったので、そうではないかと思いました。」 「おっしゃる通りです。彼にお約束してしまいました。」 「思い直すことはできませんか。僕も、貴方を想う気持ちは、決して彼に劣らないと思っています。」 そう言うと、じっと私の目を見詰めていました。 ―続く― |