晩秋の歌−02− 車内では、彼女について幾つか知ることができた。彼女は、白鳥美紀、年齢は40歳だと言った。家は、手賀沼の畔の丘の上にあって、離婚して今は一人で住んでいること、曾祖父が白樺派の文学者であったことなど、かなり詳しく話した。 私も、60歳になってこの春に会社を定年になり、今は第二の就職で、比較的時間のゆとりがあること、離婚して柏の駅の近くに住んでいることなどを話し、女と男の二人の子供がいたが、彼等も成人し、今では養育費を払わなくてよくなったことなどを話した。離婚経験があるという二人の境遇が似ていることも、親近感を覚えさせた。 東京駅に着いた時には、すっかり暗くなっていた。私達は、常磐線のグリーン車に乗った。40分もすれば柏に着いてしまう。私は、彼女の電話番号とメールアドレスを聞いた。彼女は、快く教えてくれた。二人はスマホを取り出して、アドレスと電話番号を交換した。柏で電車を降りて家に着くと、すぐに彼女にメールを送った。 「今日は、ありがとうございました。お蔭様で、嫌な出張帰りの時間も楽しいものになりました。また会えれば嬉しいです。よろしくお願いします。 三橋光一」 30分後、彼女から返事が来た。 「こちらこそ、ありがとうございました。疲れも忘れる、とても楽しい時間でした。三橋さんのご都合が良ければ、またお会いしたいです。 美紀」 一人住まいの私は、途中で買って来た惣菜で一人寂しい食事をした。離婚して10年になるが、一人の食事は侘しいものである。彼女のメールを見ながら、彼女はどんな食事をしているのだろうかと想像した。外食なのか、あるいは家で食べているのか。彼女と一緒の食事だったら、どんなに楽しいだろうとも思う。 私は、すぐにでも誘いのメールを送りたい気持ちだったが、彼女の迷惑になるかも知れないと思い止めた。出張の疲れもあって早めにベッドに入ったが、彼女のことを考えていると、なかなか寝付けなかった。 翌朝は良い天気、目覚めると窓から陽が差し込んでいた。晩秋の日の出は遅い。いつもは早起きの私だったが、昨日までの仕事の疲れでかなり寝坊をしたようである。 目が覚めてすぐに、美紀のことを思い出した。人間関係、特に男女のことについては、付き合いの間を置くことは良くない。お互いが、最初に会ったときの気持ちや感動を忘れてしまうからである。学生の頃、故郷のガールフレンドと親しい関係にありながら、遠く離れたがゆえに疎遠になった話をいくつか聞いたことがある。男と女は、常に近い距離に居なければ仲を保つのが難しいのである。私は、すぐに美紀にメールを送ることにした。 11月に入って、ちょっと寒いが良い天気である。私は、朝起きるとすぐに彼女を誘い出したいと思って、メールをした。 「おはようございます。昨日新幹線でご一緒した三橋です。良い天気、お目覚めはいかがでしょう。 昨日、家に帰って一人で食事をしていて、新幹線の中であなたとビールを飲んでいる時間の楽しさを思い浮かべました。あの時間のどんなに楽しかったことか。できれば、今日、あなたと一緒に食事ができたらと思うのですが、いかがでしょう。 光一」 ―続く― |