男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2021/06/18 4:58:55|小説「晩秋の歌」
晩秋の歌−11−
晩秋の歌−11−
 私は、梅さんに質問を続けた。
「梅さんは、ずっと前からこの家にいたの。」
「はい、私は小学校のとき、病気で相次いで両親を失いました。そのとき、こちらに引き取っていただいたのです。お嬢さんのおじいさんの頃です。中学校を卒業すると、高校に行くように言ってくれましたが、私は断りました。これ以上、迷惑をかけてはいけないと思ったのです。その代わりに、このうちに置いていただくようにお願いしました。お嬢さんのお母さんと私は、姉妹のようにして育てられました。」
「美紀さんのお父さんは、婿養子だったの。」
「そうです、ここのおうちは、女系家族のようで、おじいさんも婿養子でした。」
「美紀さんの元の旦那さんも婿養子だったの。」
「いいえ、美紀さんはお嫁に行かれましたが、ご両親はこの結婚には反対でした。美紀さんが頑として譲らず、結婚なさったのです。でも、そこのこともその後の離婚の原因のひとつだったようです。」
 この日の梅さんは饒舌だった。普段、殆ど話もしない梅さんが、ここまで喋るとは思わなかった。私は、気になっていたことを聞いてみた。
「僕がこうして出入りして、美紀さんに迷惑が掛かっているのではないでしょうか。」
「いいえ、むしろお嬢様は喜んでおられます。それはピアノの練習でもわかります。お嬢様は、よく2階でピアノの練習をなさいますが、あなたがお出でになるようになって、曲が明るく弾むようになりました。私に音楽のことはよくわかりませんが、ピアノにお嬢様の気持ちが表れていることくらいはわかります。もう何十年もご一緒していますから。」
「そうですか、それで安心しました。」
「お嬢さんは、寂しかったのです。近所の付き合いはあまりなく、ピアノや生け花の生徒さん達との付き合いくらいでしたから、心を寄せる人がいなかったのです。そんなとき、あなたと知り合えたのが嬉しかったのでしょう。最近は、明るくなられました。」
 1時間ほど梅さんと話をして、私は家に帰った。部屋に戻ったとき、美紀からメールが入った。
                 ―続く―







2021/06/17 4:20:26|小説「晩秋の歌」
晩秋の歌−10−
晩秋の歌−10−
 
 1時間ほどして、美紀は手に荷物を持って部屋から戻って来た。普段はスカートが多い彼女が珍しくスラックスを穿いている。それもまた新鮮である。
 私は、彼女の荷物を持つと、タクシーに乗り込んだ。駅までは10分ほどの距離である。車中、二人は無言だった。私は彼女の手に自分の手を添えていた。
 我孫子の駅で一緒にタクシーを降りた。彼女が下りの電車乗るのを見届けると、私は反対方向の電車を待って家に戻った。晩秋の風は冷たい。家まで歩いて帰るとき、私はコートの襟を立てていた。
 翌日は休みである。私は、朝目覚めると、いつも通り美紀にメールを送ろうと思ったが躊躇った。見舞いに行っている彼女は大変な思いをしているだろう。昨夜は寝ていないかも知れない。そんなときにメールを送るのは不謹慎なような気がした。
 しばらくは新聞を読んだり、テレビを見たりして過ごし、9時を過ぎて彼女の家に、置いてきた車を取りに行く。天気は良い。私は、運動を兼ねて歩いていくことにした。秋の手賀沼は静かだった。1時間ほど歩いて彼女の家に着くと、梅さんが庭の落ち葉を掃いていた。
 私が、門のところから、「おはようございます」と声を掛けると、梅さんはこっちを振り向いた。
「車を取りに来ました。」
「どうやって来ましたか。」
「天気が良いので、歩いて来ました。」
「それは大変でしたねえ。」
 言葉の調子からは、梅さんは私に嫌な感情は持っていないようだった。
「いえ、意外と近いのですよ。柏からなら、1時間ほどです。ところで、白鳥さんから連絡はありましたか。」
「はい、2、3日泊りになるからとありました。」
「そうですか、義弟さんの怪我も大変なのですね。」
「はい、一時は生死も危ぶまれたようですが、命は大丈夫だとのことです。」
「大変ですねえ。」
「すみません、気が付きませんで。今、お茶を持ってきます。」
私は辞退したが、彼女はそれを無視するように奥に入って行った。
 戻って来た梅さんが、お茶を出しながら聞いた。
「お嬢さんとは、新幹線で知り合ったのですか。」
「ええ、たまたま隣に座ったものですから。」
「お嬢さん、きれいな方でしょう。」
「そうですね、常磐線沿線では、彼女ほどきれいな人はなかなか見ません。」
「小さい頃からとてもきれいでした。中学校、高校の頃は、男の子たちの憧れの的でした。東京の大学に行っても、男子学生達のアイドルだったようです。ミス・キャンパスにも選ばれたようですよ。」
「そうだろうね。今でも、あんなにきれいなのだから、若い頃はもっともっときれいだったのだろうね。」
「卒業してしばらくは東京の会社に勤めておられたのですが、そこの社長さんに見初められて、その息子さんと結婚なさいました。」
「離婚されたのですよね。」
「ええ、最初は仲が良かったのですが・・・・・」
その後は、話したくなさそうだったので、私は話題を変えた。
                 ―続く―







2021/06/16 5:34:16|小説「晩秋の歌」
晩秋の歌−09−
晩秋の歌−09−
 
 金曜日になった。私は、彼女を迎えに行くと、そのままテニスコートに向かった。平日にテニスをしているのは高齢者が多い。そんな中で、彼女は若く、一際美しい。彼女とプレイをしていると、何人かの男達が、彼女の方を見ているのがわかる。私は、誇らしい気持ちになっていた。
 テニスが終ると、彼女の家に向かった。彼女は、早速私にシャワーを勧めた。私がシャワーを終えて出て来ると、入れ替わりに彼女がシャワールームに入って行った。飲みながら待っているようにと言ったが、私は彼女が出て来るのを待った。その間、梅さんは台所で料理をしていた。私は、美紀がシャワーを浴びている姿を想像した。洋服を着ていても美しい彼女は、裸でもきっと美しいに違いないと思えた。
 この日の食事は梅さんが作ったのだろう煮魚や天婦羅、煮物などの和食が中心だった。シャワールームから出て来た彼女は、よく見ると化粧を落としたままだった。しかし彼女は美しかった。肌がきめ細かく色白のせいである。普段から化粧の濃い方ではないので、気を付けて見ないと化粧をしていないことがわからなかった。
 早速、ビールで乾杯をする。今日のテニスの話などで、会話もビールも料理も進んだ。彼女は、しきりに笑っている。そんな彼女の笑顔につられて、私は冗談を飛ばし、自分も笑っていた。梅さんは、時おり料理や飲み物を運んで来る以外は、ずっと台所にいた。
 2時間ほど食事をした頃から、お酒も食事もだんだん緩やかになって来る。美紀が、それを見計らったように、私に「2階に行きましょう。ピアノを弾いて差し上げますわ。」と言い、梅さんには「ブランデーを持って来て。」と言った。
 2階の部屋の窓からは、手賀沼が一望できた。夏にはボートやモーターボートなども出て賑やかなのだが、晩秋の湖面は静かだった。私は、彼女の演奏に魅了された。クラシックの曲もあれば、リチャード・クレイダーマンのアルバムで聞いたことのある曲もあった。私は、イージーリスニングの方が気楽だった。そんな私の気持ちを察したのか、セレナーデを弾いた。バイオリンとは違った趣がある。彼女は、ときどき私の方を向いて微笑む。
 私は、ブランデーグラスを置いて立ち上がると、後ろから彼女に近付いて行った。彼女の肩に手を置くと、その瞬間にブルッと身体を震わせ、ピアノの演奏が止まった。私は、彼女の頬に手を添えると自分の方に向かせ、キスをしようとした。彼女も目を瞑ってそれを待っているようだった。
 そのとき、ドアをノックする音がした。私は、慌てて長椅子に戻ってブランデーグラスを手にした。入って来た梅さんが言った。
「お嬢様、大変です。取手の洋一様が事故に遭われて大怪我をされたそうです。」
「えっ。」
「とりあえず、電話を回しますので、話してみてください。」
 電話で話している美紀は、明らかに動揺していた。電話を切った彼女が言った。
「すみません、私、これからすぐに行かなくては。」
「わかりました。タクシーを呼びましょう。すみませんが、僕の車は明日まで置かせてください。」
「申し訳ありません。」
「いえ、ご心配ですね。親戚の方ですか。」
「妹の旦那さんです。妹も動揺しているようですので、行ってやりませんと。」
「じゃあ、タクシーを呼んでおきましょう。我孫子の駅までご一緒します。」
「ありがとうございます。急いで支度をして参りますわ。」
そういうと、美紀は自分の部屋に入って行った。
                ―続く―







2021/06/15 4:24:54|小説「晩秋の歌」
晩秋の歌−08−
晩秋の歌−08−
 
 美紀をマンションの玄関まで送って行き、部屋に戻ると早速恵子が聞いた。
「彼女、お父さんの恋人。」
「いや、まだ恋人なんて関係じゃないよ。」
「だけど、家まで来て二人で食事なんて、ただならぬ関係には違いないでしょう。」
「お前が信じるか信じないかはどうでもいいけど、そんな関係じゃないよ。」
「それにしても、きれいな人ね。それにとても上品そうだわ。」
「うん、我孫子に住んでいて、曾祖父は白樺派の文学者だったと言っていたよ。」
「ふ〜ん、良いところのお嬢さんなのね。」
「ところで、お前の方はなぜ恵一君と喧嘩をしたんだ。」
「京太郎のことよ。学校に行きたくないというのは、私のせいだというの。日頃、子供のことは何もしないくせによ。私が、あの人のせいだと言ったら、私のことを叩いたのよ。許せなくて、飛び出して来たの。」
「お前たちは、それで気が済むかもしれないけど、京太郎の気持ちにもなって考えなさい。親が喧嘩をしていたのじゃ、余計に学校になんか行きたくなくなると思うよ。悪いことは言わないから、今から家に電話をしなさい。お前が嫌なら、僕から電話をしようか。」
「わかったわ。私から電話をする。」
その件はいったん落ち着き、恵子は、今宵は泊まって、明朝帰ることにした。
 その晩、恵子が寝てから、私は美紀に詫びのメールを入れた。彼女からも、気にしないでくださいと言って来た。しかし、私は何か満たされないものを感じていた。彼女に、またテニスをしましょうと書いて送った。
 土曜日は彼女が活け花の稽古で忙しいし、平日は私の仕事があった。日曜日は、テニスコートを確保するのが大変だった。抽選で何倍もの競争率だったし、混んでいるところで二人きりでコートにいるのも気が引けた。結局、翌週の金曜日にコートを取った。
 彼女からは、テニスが終ったら今度は私の家に来てくださいと言って来た。
                 ―続く―







2021/06/14 4:56:18|小説「晩秋の歌」
晩秋の歌−07−
晩秋の歌−07−
 
 彼女の方も、そんな私の気配を察したようである。目が艶めかしく輝いている。互いに孤閨を囲って来た二人である。そこは以心伝心だった。私が、立ち上がろうとしたとき、突然電話が鳴った。私は、おもむろに受話器を取り上げた。
「もしもし、お父さん。わたし、恵子よ。」
「どうしたんだ。日頃、電話も寄越さないのに急に。」
「ねえ、今から行っていい。」
「どうしたんだよ。」
「あの人と喧嘩をしたのよ。あまり勝手なことを言うものだから。」
「お前の方が悪いんじゃないか。謝って、仲直りしたらどうなんだ。」
「実は、柏まで来ているのよ。10分後には、そちらに行くわ。」
「そうか・・・」
瞬間、どうしたものかと思った。
 美紀は、私の電話を気にしている様子はなかった。水炊きを美味しそうに食べ、ビールはゆっくりと飲んでいる。しかし、隠しても仕方がない。私は、美紀に事情を話した。彼女は、帰ると言ったが引き留めた。バタバタして追い返すのも気が引けたからである。
 すぐに恵子はやって来た。玄関を入ると、部屋の様子にちょっと驚いたような顔をした。
「テニス仲間の白鳥さんだよ。」
「恵子です。初めまして。」
「お邪魔しています。お父さんとは、テニスをご一緒させていただいています。」
「食事がまだなんだろう。一緒にどうだ。」
「そうね、お父さんのところに来たら、急にお腹が空いたわ。」
「まだ冷蔵庫に肉や野菜があるだろう。持っておいで。」
 恵子が来たために、私の欲望はどこかに行っていた。美紀の方は、すっかり冷静さを取り戻している。こういうときの女の対応は大したものだと思う。それは別れた妻にも見られたことであった。
 それから2時間ほど3人で飲みながらの食事をして、美紀はタクシーで帰って行った。
                 ―続く―







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