男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2021/06/20 16:46:54|小説「晩秋の歌」
晩秋の歌−16−
晩秋の歌−16−
 
 私は、梅さんに聞いた。
「美紀さんは疲れているだろうに、申し訳ないです。」
「いいえ、お嬢さんは大丈夫です。運動もされているし、丈夫な人ですよ。それに三橋さんが来られているので疲れも感じていないようです。」
「梅さんにも、迷惑を掛けますね。」
「いいえ、私は大丈夫です。こうしてお嬢様が喜んでいただけるのが、私の幸せですから。もうそんな暮らしを50年以上も続けています。」
 そんな話をしていると、美紀が風呂から出て来た。ピンク色のスカートに同じくピンクのセーター姿である。
「あらっ、二人でどんな話をしていたの。」
「お嬢さんが、とても良い人だってことです。」
私は、梅さんがそんな機転の利いたことを言うのに驚いた。
 二人の食事が始まる。昼食後も飲んでいたから、そんなには食べられない。そのことを計算してからか、梅さんは、食事は蕎麦にすると言った。刺身を肴に日本酒をゆっくりと飲みながら、蕎麦の出来上がりを待つ。その間も、しばしば二人は目を見詰め合って微笑んだ。
 梅さんが自分で打ったのだという作った蕎麦は、美味しかった。飲んだ後の喉を心地よく通過していく。私達は、時々目を合わせて微笑みながら蕎麦を食べた。
 蕎麦を食べ終わってお腹がいっぱいになると、することがなかった。梅さんがお茶を出してくれたが、それさえも飲みたいと思わなかった。そんな私の気持ちを察したのか、美紀が「2階で、少しくつろぎますか」と聞いた。私は、そうですねと答えた。
 階段を上って、先程の部屋に入る。美紀は、早速オーディオにCDをセットした。すぐにメロディーが流れる。私は、CDのセットを終った美紀の手を掴んで自分の方に引き寄せた。
                 ―続く―







2021/06/20 5:20:40|小説「晩秋の歌」
晩秋の歌−15−
晩秋の歌−15−
 
 坂道を下って、下の道路に出る。細い道を歩いて行くと「白樺文学館」があった。すぐ近くには、志賀直哉の住居跡もある。そのあたりを歩きながら美紀が話した。
「曾祖父は、白樺派の人達と文学をしていました。志賀直哉などとの交流もあったようです。小説なども書いていたみたいですが、売れなかったようです。」
「でも、あんなに立派な家に住んで、お金持ちじゃなかったのですか。」
「先祖からの財産はあったようですが、曾祖父がかなり食い潰したようです。それを祖父が事業を始めて取り戻しました。」
「そうだったのですね。」
祖先も波瀾万丈のようだったが、両親の死、離婚など彼女の人生もまた同じだった。
 そんな話をしているうちに、私達は湖畔の遊歩道を歩き、公園に出ていた。薄暗くなっている公園に人はいなかった。私は、彼女を抱いてキスをした。遠くには、沈んだ太陽の残光がわずかに残っていた。
「寒くなった。それに暗くもなったし、帰りましょうか。」
私達は、身体を離すと家に向かって歩き始めた。
 家に帰ると、梅さんが言った。
「お風呂が沸いております。」
美紀は、私に先に入るようにと言った。
 私は、美紀に勧められるまま風呂に入った。広い風呂だった。浴槽に浸かりながら、これからの夜の時間にどうすべきかを考えた。私は、美紀を欲している。おそらく美紀もそうであるに違いない。それには確信があった。
 しかし、恋には手順か勢いのどちらかが必要である。最初に彼女が家に来てくれた時、もし娘の恵子が突然来なかったら、私達は勢いで結ばれていただろう。そして2度目にこのうちに来たときも、義弟の事故がなかったら結ばれていたと思う。
 恋は、一気に燃え上がる。その瞬間なら、恋人同士はすぐに行くところまで行ってしまうだろう。しかし、燃え上がった炎も、時の流れとともに徐々に落ち着いて行く。私と美紀の関係も、最初の燃え上がった状態からは気持ち的にも落ち着いてきたと思う。それは私だけかも知れなかった。私は還暦だったが、美紀はまだ40歳で女盛りだったからである。
 私が風呂から出ると、入れ替わりに美紀が入って行った。
私がダイニングのテーブルに戻ると、梅さんが、「お嬢さんが、先に飲んでいて欲しいそうです。」と言いながら、私のグラスにビールを注いだ。私は、それを一口だけ飲んだ。
                 ―続く―
 







2021/06/19 17:55:05|小説「晩秋の歌」
晩秋の歌−14−
晩秋の歌−14−
 
 美紀は私をソファに座らせると、オーディオの前に行き、棚からCDを取り出してセットした。軽音楽が流れる。音楽が流れ始めると、彼女も私の横に並んで座った。私は、彼女の手に自分の手を乗せようとした。そのとき、ドアがノックされた。私は、慌てて手を元に戻した。梅さんが、ブランデーを運んで来たのだった。彼女は、ブランデーと生ハムのセットを置くと、すぐに部屋を出て行った。
 私は、改めて彼女の手に自分の手を重ねた。彼女も、更にその上から反対の手を重ねた。
 静かな時が流れる。それは短い時間だったかも知れないが、私には長い時間のように思えた。耳には、イージーリスニングの心地よい音楽が入って来る。私は、美紀の肩に手を乗せてゆっくりと引き寄せた。彼女は、すっかり私の手に身を任せている。顎に手をやり、こっちを向かせてキスをする。彼女は、目を瞑ってそれを受けた。私は、彼女の身体を抱き、彼女も私を抱き締めていた。抱擁とキスの長い時間が続いた。その間、CDの曲は何曲変わっただろう。
「こうしたかった。」
「私も・・・」
「初めて新幹線で会ったとき、何と素敵な人だろうと思った。」
「運命の出会いだったのね。」
「神様に感謝しなくちゃ」
 軽いキスを繰り返しながら、二人の会話が続く。どんな会話も楽しかった。私もそうだし、美紀も同じようだった。会話がないとき、私は彼女の肩を抱き、彼女は私の身体に頭を預けていた。いつしかCDの曲は終わっていた。階下からは、梅さんが夕食を作る包丁の音が僅かに聞こえていた。二人は、肩を寄せ合ったまま、いつの間にか軽い眠りに落ちていた。
 ふと目を覚まして見ると、時計は4時を指していた。丘の上なので、日差しはまだ明るかったが、晩秋の太陽は西に沈みかけている。私は、窓辺に立った。
「夕陽がとてもきれいだ。」
そう言うと、美紀が私の傍にやって来た。私は、彼女を抱き締めてキスをした。
「お腹ごなしに、散歩でもしません。」
美紀が言った。
 眠ったことで、疲れがとれたのかも知れない。私は、「いいですね」と言って、一緒に家を出た。
                 ―続く―







2021/06/19 5:08:54|小説「晩秋の歌」
晩秋の歌−13−
晩秋の歌−13−
 
 私は、返事を躊躇した。
「でも・・・」
「三橋さんには、お世話になりっぱなしだし、お忙しくはないのでしょう。」
「ええ、そうですけど。」
「じゃあ、いいじゃないですか。泊まっていただいても良いのですよ。部屋は、たくさんありますし。」
しきりに勧められて、私は腹を決めた。
「わかりました。じゃあ、ビールをいただきます。」
 ビールで食事が始まった。美紀は疲れていたのだろう、ビールを美味しそうに飲んだ。
「疲れたでしょう。」
「ええ、でも良かったです。あとは回復を待つばかりですが、足の骨折は大変です。しばらく仕事には行けません。」
「もう介護をしてあげなくて良いのですか。」
「ええ、退院のめどがつきましたし、もう私の助けはなくても大丈夫なようです。」
「そうですか、それは良かった。」
 そんな話をしながら、1時間ほどで食事は終わった。美紀が、2階でくつろぎましょうと言った。私は、導かれるまま彼女の後ろから2階に上がって行った。2階には、廊下を挟んで4つの部屋があるようだった。今日は、先日のピアノの部屋の隣だった。8畳ほどの洋間で、壁際にオーディオセットが置かれ、その上には大きな肖像画が懸けられていた。正面には、ソファとテーブルが置かれ、窓際には籐椅子が並べて置いてあった。
「私、一人でくつろぎたいときは、この部屋で過ごします。」
「落ち着いた良い部屋ですね。」
「この部屋には、他の人は入れたことがありません。生徒さん達だって入れたことはないのですよ。」
 彼女は、私に身内並みの好意を示していることを主張しているのだった。
                 ―続く―







2021/06/18 15:49:23|小説「晩秋の歌」
晩秋の歌−12−
晩秋の歌−12−
 
 私は、急いで美紀からのメールを読んだ。そこにはこう書かれていた。
「昨日は申し訳ありませんでした。ご心配をお掛けしました。お蔭様で義弟も命は取り留めました。しかし、あとしばらくは看護が必要です。妹は子供もおり、私の手助けが必要なようですので、しばらくはこちらにいるつもりです。帰ったら、またテニスのお相手をして頂きたいと思っています。取り急ぎ、ご報告まで。    美紀」
 私は、すぐに返事を送った。
「大変ですね。気にはなっておりましたが、迷惑ではないかと思いメールを控えていました。義弟さん、命を取り留められたとのこと、不幸中の幸いです。早く良くなられることを祈っています。 光一」
 私は、美紀とメール交換できたことでホッとした。それにも増して嬉しかったのが、梅さんの話で美紀が私に好意を持ってくれているのがはっきりとわかったからである。彼女が私に好意を持っていてくれることは嬉しかった。
 1週間ほどしたとき、美紀から「明日は家に帰る予定だ」と言って来た。私は、駅まで迎えに行くと返事をした。梅さんの話を聞いていなければ、そういう申し出もできなかったかも知れない。しかし、今では梅さんに遠慮する必要ななくなっていた。
 土曜日の昼前、私は我孫子の駅で彼女を出迎えた。途中で食事をして行こうと提案したが、彼女は、「梅さんが、作って待っているから、ご一緒にどうぞ。」と言った。どうやら、私が出迎えに行くと言ったときに、梅さんに2人分の食事を準備しておくように指示をしていたようであった。
 彼女の家に着くと、早速2人で食事をした。梅さんも、美紀が帰って来たことが嬉しいらしく、甲斐甲斐しく給仕をしていたし、私も、久しぶりの美紀との食事に胸が躍っていた。食事をしながら、美紀は義弟の事故の様子などを話していた。頭を強く打ち、一時は意識不明だったが明け方には意識も取り戻し、脚を骨折していることがわかったようだった。その後、脳の検査結果もわかり、こちらには異常がないことが判明したとのことであった。
「お嬢様、お飲み物は何に致しましょうか。」
梅さんが聞いた。食事なら、こんな聞き方はしない。暗にアルコールを勧めているのである。
「そうね、ビールがいいかしら。三橋さん、いかがでしょう。」
「あっ、でも僕は車で帰らなくてはいけませんから。」
「大丈夫ですわ。また置いて行ってもいいですし・・・」
                 ―続く―
 







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