春の行方−05−
夏のボーナスの時期がやって来た。 光太郎は両親にその一部を送ると、残りのお金で佳津枝と相談してパソコンを買うことにした。最近になってインターネットなるものができて、電子メールもできるという。たまたま週末に見た映画「ユー ゴット ア メール」に感化されたのである。電話回線に繋ぐのであるが、マニュアルを見ながら1日がかりでやっと繋ぐことができた。 佳津枝は大丈夫だろうかと心配していたら、先輩が助けてくれたと話していた。その先輩が男か女かは敢えて聞かなかったが、こういうことをできるのはおそらく男だろうと想像した。 朝の通勤のとき、パソコンや電子メールの話をしたら、久恵も買いたいと言った。光太郎は、週末に一緒に電器店に買いに行くことを約束した。秋葉原の電器店に買いに行き、そのまま部屋にセットするのであるが、彼女も電気は苦手そうである。光太郎は、手伝うことにした。 久恵の部屋は、女性の部屋らしくきれいに飾られていた。カーテンも華やかで、光太郎の部屋とはまるで雰囲気が違う。ベッドの脇には人形なども置いてある。パソコンは、二度目なので、簡単にセットすることができた。 メールのチェックでは、自分のパソコンにテスト文章を送ってみた。自分の部屋に戻ってそれを確認して返信する。今度は、久恵から返事が来た。そこにはこう書いてあった。 「ありがとう。お礼に食事にご招待したいのですがいかがですか? 良かったら、6時に私の部屋に来てください。 久恵」 光太郎は、すぐに「了解です。」と返事を送った。 夕刻がやって来た。光太郎は、近くの酒屋で買ったワインを持って久恵の部屋のチャイムを鳴らした。久恵はすぐに出て来てドアを開けた。 「いらっしゃい、昼間はありがとう。電子メールって便利だわね。」 「うん、何とか無事に使えるようになって良かったね。」 「今日は、ブイヤベースにしたのよ。私って、あまり料理が得意じゃないの。」 部屋には良い香りが漂っていた。居間の小さなテーブルの上にはコンロの上に鍋が置かれ、その側には料理の本が開いてあった。光太郎がそこに目をやったのに気付いた久恵が、「あらっ、ネタがバレちゃったわね。」と言ってチロっと舌を出した。 光太郎は、「ちょうど良かった、じゃあこれが合うね。」と言いながら、持って来たワインを渡した。 久恵は小皿にブイヤベースをよそおい、光太郎は用意されていたグラスにビールを注ぐ。 「今日はありがとう!」 「美味しそうな料理に乾杯!」 食事は楽しかった。久恵は、機嫌良さそうによくお喋りをした。会社での出来事、東京に出て来るまでのことなどを話した。 久恵は、兄と2人兄妹であった。ずっと浜松で育ち、大学は静岡である。高校時代からバレーボールをしていて、けっこう活躍していた。スラリとしているが、腕には筋肉質なところがある。 光太郎も自分のことを話したが、佳津枝とのことは話さなかった。 見ると、ビールの空の缶が数本並んでいる。光太郎は、料理のお礼を言って自分の部屋に戻った。風呂に入ってから、パソコンを開いてみると、2通の新着メールが来ていた。 −続く− |