春の行方−10−
みんな休み明けで飲みに行きたいのであろう、居酒屋はたくさんの人で賑わっていた。 3人は、席についた。大室と光太郎が並んで座り、久恵とは向かい合う形である。久恵は、浜松であったことなどを笑顔で楽しそうに話している。光太郎は、そんな久恵の顔をじっと見詰めている大室の顔に気付いていた。 翌日の出勤のとき、大室が光太郎に言った。 「松島さんって、きれいだなあ。」 「ああ、性格も明るいし、魅力的だよね。」 「俺、ああいう人が良いなあ・・・・・」 「そうだねえ、僕も彼女の魅力には惹かれるものがあるね。」 光太郎は、故郷に佳津枝がいることは誰にも言っていなかった。後ろめたい気持ちはあるものの、今、久恵を大室に譲る気はしなかった。 それからときどき3人で飲みに行くようになったが、そのことを知った寮の仲間が更に加わって、月に1、2回は数人で行くようになった。そのことで光太郎はむしろホッとしていた。 佳津枝からは、相変わらず2日に一回の割でメールが来ていた。光太郎も、残業で遅くならないときは返事を返していた。 佳津枝と久恵の魅力について、考えることが多かった。幼い頃からの付き合いで、佳津枝の気心は知れている。佳津枝となら一緒にいて安心できる。 誰かが、男が女に求めるものは、ときめきか安らぎであると言ったが、まさに佳津枝は安らぎの女だった。 それに対して、久恵は胸をときめかせるものがある。あの明るさ、洗練させた性格、そのどれもが一緒にいると胸をときめかした。 寮で飲みに行くメンバーは5、6人になっていた。男が3、4人、女が2、3人のことが多かった。若い仲間同士が多かったが、時には単身赴任の人が来ることもあった。 あるとき、単身赴任の部長が言った。 「もう単身赴任をして3年になる。夫婦でも、一緒にいるときにはそうでもなかったが、別々に暮らしていると、意外に新鮮に感じるものだ。男と女、お互いの距離がけっこう大きな問題になることがある。結婚前だと、離れて住んでいると心も離れてしまいがちだが、一旦結婚してしまうとある程度の距離が必要なのかも知れない。」 それを聞いた誰かが言った。 「でも、アメリカなどでは単身赴任は離婚の原因にもなると言うんでしょう。」 「そういう話も聞くけど、日本人は基本的に違うんじゃないのかなあ。うちなんかは、子供の教育の関係なんだが、女房にとっては亭主よりは子供の方が大事みたいなんだ。」 「そう言えば、亭主が風邪を引いても心配しないけど、子供が病気になると本当に心配するみたいですねえ。」 「うちの課長なんか、飼っている犬の病気ほどにも心配してくれないとボヤいていましたよ。」 ここでみんながドッと笑った。 光太郎は、結婚について考えてみた。自分はまだ22歳である。多分、早くても27、8歳までは結婚しないだろう。そうするとあと5年はあることになる。佳津枝にしても久恵にしても、同じ歳であるから、もし結婚することが決まればそれ以上遅らせることは望まないであろう。 −続く− |