男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2021/09/14 6:42:45|小説「パピーの冒険」
パピーの冒険−16−
パピーの冒険−16−

 慌てて運転席から降りて来たのは、若い女の人でした。
「マア、ごめん、ごめん。こんなところを歩いているなんて知らなかったんだよ。大丈夫?」
そう言いながら、僕に手招きをしています。
 僕は、車にぶつけられ痛い思いはしましたが、怪我はしていませんでした。尻尾を振って女の人のところに行きました。
「可愛い犬ねえ。お前はどこに行くところなの?首輪をしているから飼い犬なのね。飼い主のところに帰るのかしらねえ。」
そう言いながら僕の頭を撫でてくれます。
「ねえ、お腹が空いているんじゃない。今からお昼ご飯を食べに帰るところなんだけど、お前も一緒においでよ。友達もいるよ。」
そう言って、トラックの助手席側のドアを開けました。僕は、言われるままに助手席の床に飛び乗りました。
 軽トラックは、しばらく走って大きな農家の庭に止まりました。広い屋敷の向こうから犬の鳴き声が聞こえて来ました。真っ白な毛の長い犬が女の人の方に向かって尻尾を振りながら鳴いています。
「サリー、今日はお客さんを連れて来たよ。」
女の人はそう言って、僕をその犬のところに連れて行きました。
 その犬はメスのスピッツでした。僕の方を見ると、尻尾を振っています。僕もサリーのほうに近付いて行きました。
「君は、この家に飼われているんだね。」
「ええ、あなたはどうしてここに来たの?」
「うん、旅先でご主人にはぐれて家に帰るところなんだけど、途中でお姉さんに出会って、連れて来られたんだ。」
「あたし、サリー。あなたは?」
「僕はパピー。」
 さっちゃんとの散歩で知り合ったメリーとは違って、とても陽気で人懐っこいのです。僕達は、最初の出会いですっかり意気投合してしまいました。お互いのにおいを嗅いだり、身体を舐めあったりして遊んでいました。
 しばらくしたら、お姉さんがドッグフードの入ったお皿をふたつ持って来て「すっかり仲良くなったみたいね。さあ、食べるのよ。」と言って僕達の前に置きました。
                    ―続く―







2021/09/13 5:11:28|小説「パピーの冒険」
パピーの冒険−15−
パピーの冒険−15−

 朝のご飯が終ると、おばあさんは畑に出掛けます。僕は、おばあさんの後に着いて行きながらも、このままここにいた方が良いのか、家に向かって歩いて行くべきか迷っていました。ここにいれば、食べ物をくれる優しいおばあさんもいますし、おじいさん犬だっています。何ひとつ申し分ありません。でも心の奥で、「お前はさっちゃんのところに帰らなくちゃいけないんだ。」という声がします。このふたつの考えの間で迷いましたが、しかし空腹のことを考えるとなかなか出発する勇気が出ませんでした。
 迷いつつも2日、3日と過ぎて行きます。4日目になったとき、おじいさん犬が言いました。
「お前、どうするんだ。ずっとここに居るのかい。」
「いいえ、いずれは帰らなくちゃいけないと思っています。でも、お腹が空くことと怖いことがあると思うと、なかなか出発する勇気が無いんです。」
「うん、だけど飼い主さんのところに帰る積りなら、早くしないとだんだんその気が萎えてしまうよ。追い出す気はないけど、帰るのなら急ぎな。」
「ええ、わかりました。」
僕は、おばあさんとおじいさん犬に尻尾を振って別れを告げました。
 飼い主のさっちゃん達とはぐれてから1週間が過ぎて、土地勘も次第に身に付いてきました。行くべき方向が何となくわかりますし、危険を察知して避ける術も徐々にですが身に付いて来たように思います。
 道路では、車に轢かれた犬や猫の死骸をいくつか見ました。それを見てから、道路が危ないことを悟り、なるべく川の土手とか田んぼ道など車の少ない道を選んで歩くようにしました。
 でもそうばかりも言っていられません。川を横切るときは橋を渡りますが、そのときは歩道も狭く、向こうから人が来たときは車道に出なければなりません。ビュンビュン走っていく車には、本当に怖い思いをしました。何度か車に轢かれそうになりましたが、何とか避けていくうちに、危険を逃れる方法を身につけました。例えば信号が赤いうちは危ないということがわかりました。町を歩いていて、人間達が信号を見て歩いたり止まったりしていることに気がついたのです。
 ある町を通り過ぎたときです。葡萄畑の中の農道を歩いていたら、いきなり軽トラックに轢かれそうになりました。今まで止まっていた軽トラックが急に後ろ向きに動いたのです。トラックの後部にぶっつけられた僕は、あまりの痛さに「キャン、キャーン」と鳴いて飛び退きました。
                ―続く―







2021/09/12 6:32:26|小説「パピーの冒険」
パピーの冒険−14−
パピーの冒険−14−

 夕方になりました。おばあさんが畑仕事を終えて家に戻って来たようです。おじいさん犬も僕も、三和土に座っておばあさんが料理をするのを見ていました。ご飯の炊ける良いにおいがしてきます。ご飯ができる頃、ジャガイモの煮物もできました。
「さあ、食べるよ。でも、お前達は熱いのは駄目なんだよね。お皿に入れてあげるから、冷めるまで待ってから食べるんだよ。」
そう言いながら、おじいさん犬と僕のために、ご飯を盛った皿を出してくれました。昼間、走り回ったせいか、お腹が満てると眠気が襲って来ました。僕は、三和土で横になって寝てしまいました。
 ふと目が覚めると、おばあさんがおじいさん犬の頭を撫でながら独り言を言っていました。
「お前も、一人ぼっちなんだねえ。あたしとおんなじだね。人と一緒に住むって、煩わしいことも多いけど、所詮人間は一人じゃ生きて行けないんだ。お前だって、飼い主がいたんだろう。なのに捨てられちゃったんだね。お前は良い犬で可愛いからうちの犬になって欲しいけど、お前を鎖に繋ぐ気はないよ。せっかく自由になったんだから、自由を楽しんだらいいよ。」
おじいさん犬は、頭を撫でられて気持ち良さそうにしています。
「だけどね、お腹が空いたらいつでもおいで。百姓をしているから、贅沢はできないけど、食べるものはあるからね。あたしは、あんたが来てくれるのが嬉しいんだよ。親戚がいないわけじゃないけど、それもだんだん遠くなって行って、めったに会うこともないしね。あんたが慰めなんだ。」
そんな独り言を聞きながら、僕はまた眠ってしまいました。
 翌日は、外が明るくなる前に目が覚めました。おばあさんも、おじいさん犬も起きています。おばあさんは、オジヤを炊いていました。野菜や卵の入ったもので美味しそうなにおいがして来ます。
 おじいさん犬は、ゆっくりと尻尾を振りながらおばあさんの方を見ています。おばあさんも、その様子を見ながら嬉しそうにしていました。
 おじやができて、おばあさんは僕達の皿に入れて出してくれました。おばあさんは、僕の方を見ながら言いました。
「この子は首輪をしているけど、どうしてこんなところに来ちゃったんだろうねえ。多分、いい家で飼われていたんだろうけど、何かの拍子に家族とはぐれてしまったんだろうね。飼い主さんがどんな人かは知らないけど、きっと今頃は必死になって探しているのだろうねえ。」
                   ー続くー







2021/09/11 1:51:03|小説「パピーの冒険」
パピーの冒険−13−
パピーの冒険−13−

 僕は、おじいさん犬の後ろから歩いて行きました。町を離れて田んぼの畦を歩いて行きます。しばらく歩くと、村のはずれの一軒の小さな農家に行きました。屋根も崩れかけ、庭も草が生えてかなり荒れています。家の中に人がいる気配はありません。おじいさん犬は、真っ直ぐ家の裏の方に歩いて行きました。
 家の後ろには小さな畑があって、おばあさんはそこで鍬をふるっていましたが、僕達の方を見て言いました。
「おお、来たか。おやっ、今日は友達も一緒かい。」
 おじいさん犬は、急いでおばあさんの方に行きました。僕は、そこで立ち止まりました。おばあさんは、おじいさん犬の頭を撫でながら、僕の方を向いて「さあ、お前もこっちにおいで。」と言いながら手招きをします。僕は、おばあさんのところに行きました。
 おばあさんは、僕の頭もなでてくれます。僕は、おばあさんの手を舐めます。
「お前達、お腹が空いているんだろう。さあ、こっちにおいで。今朝の残り物だけど、ちゃんと取っておいたからね。」
 おばあさんは、そう言うと鍬を置いて家の方に歩いて行きます。僕達も尻尾を振りながらおばあさんの後ろに着いて行きました。
「お前の茶碗はあるんだけど、友達のがないね。少しお待ちよ。死んだおじいさんの使っていたのがあるから、それに入れてあげよう。」
食器戸棚から皿を取り出すと、そこにご飯を入れ、味噌汁をかけてくれます。
 おじいさん犬はゆっくりと、僕はガツガツと食べます。
「おやおや、この子はお腹が空いていたんだねえ。そうだ、いのししの肉の煮たのがあるから、あれをあげよう。」
そう言うと鍋を持ってきておじいさん犬と僕のお皿に肉を載せてくれました。僕は、これも急いで食べました。
「おやっ、もうこれも食べちゃったのかい。でももう無いから、夕方までお待ち。そうしたら多めにご飯を炊いて食べさせてあげるからね。」
そう言うと、おばあさんはまた畑に戻りました。僕達は、並んで座っておばあさんの畑仕事を見ていました。
 そのうち僕の方はじっとしているのが退屈で、家の周りを走り回りました。近くの竹林にはたくさんの筍が出ています。その向こうの森には、木々の新緑が見えています。これから遊ぶところも多そうです。今までの暮らしで森を知らなかった僕には、珍しいことばかりでした。
 その間、おじいさん犬の方は、畑でずっとおばあさんの畑仕事を見守っていました。
                  ―続く―







2021/09/10 6:13:01|小説「パピーの冒険」
パピーの冒険−12−
パピーの冒険−12−
 
 おじいさん犬は、話を続けました。
「ああ、こう見えても昔は人間に飼われていて幸せだった。俺は赤ん坊のときにその家に飼われて来たんだが、飼い主さんの夫婦はとても優しい人だった。とても仲の良い夫婦で、毎日のようにその夫婦と一緒に散歩に連れて行って貰っていたんだよ。」
「じゃあ、なんで今は野良犬なんかしているの?」
「うん、おじいさんもおばあさんも亡くなったからだよ。最初に、おばあさんが亡くなったら、今まで元気だったおじいさんも後を追うように死んじゃったんだ。おじいさんが死んだとき、子供や親戚の人が相談していたのを聞いたんだけど、誰も俺を引き取ろうとは言わなかった。俺は、これはいけないと思った。ここから遠くに引き裂かれると予感がしたんだ。引き取られる前に、長い間、俺を可愛がってくれた人達に恩返しをしなければと思ったんだ。」
「それで逃げ出しちゃったの?」
「そうだよ。あの中に、優しそうな人はいなかった。みんなお金の話はしていたけど、亡くなった人達の心配をする人はいなかったんだ。それで俺は逃げ出すことにしたんだ。」
「うまく逃げられたんだね。」
「うん、それは簡単だった。俺は普段からおとなしかったから、誰も鎖をしなかったんだ。だから、逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せた。でもご主人様達がいる頃は、逃げ出そうなんて気持ちにもならなかったけどね。」
「でも、食べ物とか困らなかったの?」
僕は、自分のお腹が空いているので、一番聞きたかったことを聞きました。
「うん、それは大きな問題だった。最初は、いつも腹ペコだったよ。昆虫や蛙を食べたり、ときには盗みもした。庭先に置いてあった干物とかをね。でも今じゃ、秘密の飼い主さんがいるんだ。郊外の家に一人で住んでいるおばあさんなんだけど、寂しがり屋で俺が行くといつも食べ物をくれるんだ。ところで、お前はお腹が空いているんじゃないのか。」
「うん、ペコペコだよ。」
「じゃあ、これからそのおばあさんのところに行こう。きっと食べ物をくれると思うよ。着いて来るんだ。」
                   ―続く―







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