男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2021/10/15 18:56:32|小説「秋雨の詩」
秋雨の詩−3−
秋雨の詩−3−

 私は、話をしながらも外の雨が気になっていた。
窓辺の部屋からは広い庭が見える。日本庭園になっているが、手入れが十分とはいえない。繁った木々の枝に強い雨が降りかかっていて、雨はなかなか止みそうにない。そんな私を気にしてか彼女が言った。
「お茶のお代わりをお持ちしましょう。少しお待ちください。」
「いいえ、どうか構わないでください。見ず知らずの私にこんなに親切にしていただいて申し訳ありません。」
「いいですのよ。誰がいるわけでもないし、遠慮なさらずに下さい。私も退屈していたところです。お茶より、お酒の方がよろしいでしょうか。お酒はお飲みになりますわね。」
「ええ、でも・・・」
「お急ぎではないのでしょう?お仕事はお済みですの?」
「ええ、一応仕事が終って、これから家に帰るところです。」
「じゃあ、いいですわね。遠慮はご無用ですわ。少しお待ち下さい。」
 そう言うと、彼女は再び奥の方に入って行き、すぐにウイスキーのボトルと氷を持って帰って来た。水割りを作りながら、庭を眺めていた私に気がついた彼女が言う。
「庭が荒れているでしょう。主人がいた頃はこまめに庭師を呼んで手入れをしていたのですが、私は庭師を呼ぶのも無精なものですから。」
「でも随分広くて立派ですね。庭があるだけでもマンション住まいには憧れなのに、こんな広くて立派な庭があるなんて羨ましいを通り越していますよ。」
「でも一人暮らしには重荷ですわ。手入れの手間も費用もけっこうばかにならないんですのよ。」
 彼女の口から一人暮らしという言葉が出たのは三度目である。
私という見知らぬ男がいるにもかかわらず一人暮らしだ敢えて言うことが気になった。
「私も、昔はけっこう飲んだんですよ。結婚する前は会社勤めをしていましたし、父親もけっこう飲めた方ですから。でも主人が死んでから出掛けることも少なくなり、一人で家で飲むこともあまりなくなりました。女が一人、家で飲んでいる姿って考えただけで惨めでしょう。でも、たまには飲みたいときもあるんですよ。」
 そんなことを話しながら水割りをふたつ作ると、ひとつを私の方に差し出した。
「今日は私のお酒に付き合ってくださいますわね。良かったわ。私もお酒を飲むのは久し振りです。」
「じゃあ、遠慮せずにいただきます。」
私はグラスを受け取った。
               −続く−







2021/10/14 18:15:42|小説「秋雨の詩」
秋雨の詩−2−
秋雨の詩−2−

 部屋に入ると彼女が言った。
「どうぞお掛けください。今、お茶をお持ちしますから。」
そう言いながら私に座るように勧める。
「どうぞ構わないでください。雨宿りさせていただくだけで十分なのですから。しかも、それさえ厚かましいと思っているのですから。」
「いいえ、私も退屈していたのです。もしよろしかったらしばらく私の話し相手になっていただけません?」
そう言いながら奥に入って行った。
 私は、彼女が今は一人しかいないと言った言葉が気になった。「今」と言うのは今の時間ということだろうか、あるいは昔は誰かといっしょだったが、今は一人という意味だろうかなどと考えていた。
 しばらくすると、彼女がお茶とお菓子の載ったお盆を持って戻って来た。
「随分、立派なお屋敷ですね。広いし、とてもしっかりした造りです。」
「でも古いでしょう。古い家って、使い勝手が悪いんですよ。」
「さっき、今は一人だっておっしゃったけど、一人でお住まいなのですか?」
「ええ、そうです。」
「じゃあ、家の管理も大変でしょう?」
「そうなのです。主人とか、主人の親がいた頃には庭もきれいだったのですが、女の私一人ではとても気も手も回らないんですよ。」
「結婚されていたのですか?とてもお若く見えますが・・・」
「そうです。5年前にこの家に嫁いで来たのですが、それからすぐに主人が急死し、後を追うように母親も死んでしまったのです。それ以来一人でここに暮らしています。里に帰ろうかとも思ったのですが、里も居辛いですし、この家の処分にも困るものですから、ずっとここに居座っています。」
 しばらくそんな話をしながら外を見ていたが、雨は一向に止む気配がなかった。
                    −続く−







2021/10/13 15:31:44|小説「秋雨の詩」
秋雨の詩−1−
秋雨の詩−1−
 
 その日は、朝から怪しい雲行きだった。
午後になって、私は9月の決算が終った後のお得意さんへの挨拶廻りに出掛けることにした。天気予報では何とか持ちそうなことを言っていたし、外廻りで荷物になるのも嫌だったので、傘を持たないで出掛けた。
3つの会社を回ったところで5時近くになっていた。遠くまで来ていて会社からは遠いし家に近い方向だったので、私はあらかじめ会社には直帰すると言っておいた。
 最後の挨拶廻りを終ってから電車の駅に向かう途中、私が近道の狭い路地を歩いているとき、晩秋には珍しく大粒の雨が降り始めた。しかも降り始めた途端に強い雨である。私は走って近くの家の門の庇に雨宿りをした。背広についた水滴を払い、空を見上げるがすぐに止みそうな気配はない。駅までは1キロ以上の距離である。この雨では歩いていける状態ではない。だからと言って、こんな狭い路地ではタクシーも来ない。途方にくれながら門の奥を見ると、立派な造りの家である。どんな人が住んでいるんだろうかなどと考えながら、どうしたものかと思い悩んでいた。
 次第に風も出てきて、横殴りの雨が私を次第に濡れさせていた。諦めて門の屋根の下から駆け出そうとしたときである。門の奥から和服姿の女性が出てきて私に声を掛けた。
「もし、お困りのようですね。よろしかったら、雨が止むまで中で休んで行かれませんか。」
私は瞬間どうしたものかと思ったが、素直に言った。
「いやー、参りました。天気予報は見ていたのですが、こんなに急に降り始めるなんて思っていませんでしたものですから・・・。少しだけ避難させてください。」
 彼女のさしかけてくれる傘に入りながら玄関まで歩いて行った。大きな屋敷に大きな家であるが、庭の手入れは今ひとつ行き届いていないようである。
 私は、彼女の案内するままに玄関に入った。玄関は広く、大きな家だった。
「どうぞ、中にお入りください。ご遠慮には及びません。今は、私しかいないんですよ。」
「すみません、助かります。傘も持たずに、どうしようかと思い悩んでいました。」
「すぐには止みそうにありませんけど、そんなに長い雨でもないでしょう。ご遠慮なさらず、雨がやむまでここで休んで行ってください。」
 私は、玄関のすぐ傍の応接間のような部屋に通された。
                −続く−







2021/10/01 5:28:28|小説「パピーの冒険」
パピーの冒険−33−(最終回)
パピーの冒険−33−(最終回)

 お父さんは、係員に言いました。
「どうしても教えて貰えませんか。こうして娘と一緒の写真もありますから、うちの犬であることに間違いはないのですけどねえ。」
「すみません、規則でそうなっているものですから。」
しばらく押し問答をしていましたが、そのうちさっちゃん達は、諦めて帰って行きました。
帰りの車の中で、さっちゃんが言いました。
「わたし、これから町を探して歩くわ。きっと近くにいると思うの。」
「そうだね、僕も一緒に探そう。」
 僕の方は、おばさんに可愛がられていました。餌はちゃんとくれますし、いつも構って貰えます。そして朝と夕方には散歩に連れて行ってくれました。僕達犬にとっては、一人ぼっちにされるのが一番寂しくて辛いのです。こうして可愛がって貰えることはとても幸せなことでした。でも、僕の本当の飼い主はさっちゃん達の家族です。一度、さっちゃん達の姿をみてから、余計に帰りたいと思うようになりました。
 その家に行って3日目のこと、散歩をしているとき僕は、おばさんが握っている鎖を引っ張って逃げ出しました。奥さんは「お待ち!」と言って追い掛けて来ますが僕は後ろも見ずに走りました。恩を忘れたわけではありませんが、さっちゃん達の元に帰らなければならないという気持ちが強かったのです。
 そのときです。向こうからさっちゃんとお父さんが歩いている姿が見えました。僕は、必死で二人の方に向かって走りました。さっちゃんも僕の姿を見付けました。
「パピー、パピー!」と叫びながらこっちに走って来ました。僕は、さっちゃんの胸に飛び込みました。さっちゃんは、僕を抱き締め頬擦りをしてくれます。
「パピー、元気だったのね。遠くからよく帰って来たね。もう会えないかと思っていたのよ。」
僕は、嬉しさで大きく尻尾を振りながら、さっちゃんの顔を何度も舐めました。
 その後で、追いついてきたおばさんとお父さんが何かを話していました。結局、新しい犬を買っておばさんにプレゼントをすることにして、僕はお父さんに渡されたようでした。
 また昔のような日々が戻って来ました。僕は、家族から離れて辛くて怖かった日々、僕に優しくしてくれた人々のことを思い出しながらも、散歩に行けばまたメリーにも会えるのではないかと思うと、本当に帰って来て良かったと思いました。
                  ―終り―







2021/09/30 3:54:52|小説「パピーの冒険」
パピーの冒険−32−
パピーの冒険−32−
 
 次の日にやって来たのは、昨日の3人組のおばさんの一人でした。今日は、旦那さんと一緒です。
 おばさんが、僕の方を指差して言いました。
「ねえ、あなた。この犬よ。賢そうだし、飼ってもいいでしょう。」
「うん、お前がそこまで言うんじゃ仕方がないね。」
「じゃあ、係員の人に言って来るわ。」
保健所の係員が来て、早速僕を檻から出してくれました。
 僕は、二人に連れられて車に載せられました。車が走り始めたときです。窓から見覚えのある車が見えました。中には、さっちゃんと両親が乗っています。僕は、必死で尻尾を振りながら吠えました。でも窓は締っているし遠くなのでとてもさっちゃん達には聞こえません。
 助手席で僕を抱いていたおばさんが言いました。
「マア、この子嬉しいのね。おお、可愛い子。」
そう言って、僕に頬擦りをしました。さっちゃん達の車は、保健所の方に曲がって行ってすぐに見えなくなりました。
 15分ほど走って、車はおばさんの家に着きました。
「さあ、昨日買って来た鎖に繋いであげるからね。犬小屋も買って来ておいたのよ。本当は、家の中で飼ってあげたいんだけど、主人が犬嫌いだから仕方がないのよ。我慢してね。」
そう言って、僕を軒下の鎖に繋ぎました。
 しばらくすると、ドッグフードの餌を持って来てくれました。
「さあ、お食べ。缶詰だから美味しいわよ。」
僕は、保健所の餌は少なくしかも美味しくなかったので喜んで食べました。
 そのとき、奥の方から声が聞こえて来ました。
「お〜い、俺の食事はどうなっているんだ。
するとおばさんが言いました。
「あなたのご飯は電気釜にあるでしょう。おかずは冷蔵庫にあるから勝手に出して食べてちょうだい。」
それを聞いて、僕は旦那様よりも可愛がられているのだと思いました。
 保健所に着いたさっちゃんのお父さんが、係員と話をしていました。お父さんは、パピーの写真を見せながら言いました。
「実は、うちで飼っていた犬がこちらにいると知り、引き取りに来たのですが。」
「ああ、この犬ね。さっき引き取り手があって、連れて行かれましたよ。」
「どなたが引き取られたか教えていただけないでしょうか。」
「それが個人情報になるのでお教えできないんですよ。」
 さっちゃんは、がっかりしたような顔になっていました。
                 ―続く―







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