初冬の風―07− 私達は、山頂のベンチに並んで座って話をしていた。 話をしながらも、私は、彼女が私を男として見ているのか、あるいは父親を見る目で見ているのかが気になった。 これまでの会話で、彼女が素直な性格であることがわかっていた。人を疑う気配がなく、むしろ純真無垢といった感じだった。そのことからすると、父親のような目で見ているかとも思える。 彼女は、私のジョークに対してはよく笑い、会話にも知性とウィットがあった。彼女の美しさも私を魅了したが、会話もまた楽しいものだった。彼女も、私のユーモアを楽しんでいるようだった。多少艶っぽいジョークを言っても、気にする様子はなかった。看護師という職業柄、性に関して羞恥心は薄いのかも知れなかった。 30分ほどして、山を下りることにした。幾つかあるコースのうち、一番緩い道を選んだ。緩い分距離があるが、その方が話をしながら歩いて行ける。 小一時間ほどして麓に着いた。私が、食事をして行きませんかと誘うと、彼女は「いいですね。」と言った。 この町には、一緒に食事をするのにふさわしいようなレストランはなく、私達はファミレスに入った。そこで私はステーキを、彼女はカレイのムニエルを食べた。 彼女の食べ方は上品だった。ナイフとフォークを使って、上手にカレイやご飯、サラダなどを口に運んでいる。その動きが、実に優雅でしなやかだった。 食事をしながら、私が魚釣りを始めた話をした。 「最近、釣りを始めました。」 「まあ、良い趣味ですこと。趣味と実益を兼ねていて良いですね。」 「ところが、なかなか釣れなくて、趣味にはなっても実益にはなりません。こっちは趣味でも、魚にとっては命がかかっていますからねえ。」 「何が釣れますか?」 「このあたりではキスですね。何回かに一度は釣れます。」 「キスは、きれいな魚ですね。それに美味しいですわ。天ぷらでもフライでも。」 「白鳥さんは、魚について詳しいですね。」 「はい、家は下関でしたから、子供の頃から魚に接することが多かったのです。それに唐戸市場があって、今でも実家に行くとよくあそこで買い物をします。」 「唐戸市場はいろいろな魚があっていいですね。子供が小さい頃はよく連れて行きました。」 「私も、釣りをしてみたいですわ。魚が好きですし、山登りだけではつまらないです。」 「今度、行ってみますか?」 私は、彼女と一緒に釣りをしている様子を想像して、思い切って言ってみた。 ―続く― |