男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2021/11/17 12:48:19|小説「初冬の風」
初冬の風―07−
初冬の風―07−
 
 私達は、山頂のベンチに並んで座って話をしていた。
 話をしながらも、私は、彼女が私を男として見ているのか、あるいは父親を見る目で見ているのかが気になった。
 これまでの会話で、彼女が素直な性格であることがわかっていた。人を疑う気配がなく、むしろ純真無垢といった感じだった。そのことからすると、父親のような目で見ているかとも思える。
 彼女は、私のジョークに対してはよく笑い、会話にも知性とウィットがあった。彼女の美しさも私を魅了したが、会話もまた楽しいものだった。彼女も、私のユーモアを楽しんでいるようだった。多少艶っぽいジョークを言っても、気にする様子はなかった。看護師という職業柄、性に関して羞恥心は薄いのかも知れなかった。
 30分ほどして、山を下りることにした。幾つかあるコースのうち、一番緩い道を選んだ。緩い分距離があるが、その方が話をしながら歩いて行ける。
 小一時間ほどして麓に着いた。私が、食事をして行きませんかと誘うと、彼女は「いいですね。」と言った。
 この町には、一緒に食事をするのにふさわしいようなレストランはなく、私達はファミレスに入った。そこで私はステーキを、彼女はカレイのムニエルを食べた。
 彼女の食べ方は上品だった。ナイフとフォークを使って、上手にカレイやご飯、サラダなどを口に運んでいる。その動きが、実に優雅でしなやかだった。
 食事をしながら、私が魚釣りを始めた話をした。
「最近、釣りを始めました。」
「まあ、良い趣味ですこと。趣味と実益を兼ねていて良いですね。」
「ところが、なかなか釣れなくて、趣味にはなっても実益にはなりません。こっちは趣味でも、魚にとっては命がかかっていますからねえ。」
「何が釣れますか?」
「このあたりではキスですね。何回かに一度は釣れます。」
「キスは、きれいな魚ですね。それに美味しいですわ。天ぷらでもフライでも。」
「白鳥さんは、魚について詳しいですね。」
「はい、家は下関でしたから、子供の頃から魚に接することが多かったのです。それに唐戸市場があって、今でも実家に行くとよくあそこで買い物をします。」
「唐戸市場はいろいろな魚があっていいですね。子供が小さい頃はよく連れて行きました。」
「私も、釣りをしてみたいですわ。魚が好きですし、山登りだけではつまらないです。」
「今度、行ってみますか?」
 私は、彼女と一緒に釣りをしている様子を想像して、思い切って言ってみた。
             ―続く―







2021/11/16 18:12:22|小説「初冬の風」
初冬の風―06−
初冬の風―06−
 
 一緒に下山しているとき、突然彼女が言った。
「あっ、アサギマダラがいます。」
一瞬、私は何のことかと思った。しかし、すぐに今朝のニュースのローカル版で、最近アサギマダラが飛来していると言っていたのを思い出した。
「えっ、どこに?」
「ほら、ここです。」
彼女が指さす方を見ると、蝶が一羽、花の蜜を求めて飛んでいた。いかにも優雅な飛び方だった。
「ニュースで見ましたが、実物を見るのは初めてです。」
「毎年、この季節にはよく見られます。遠く、沖縄や台湾まで飛んで行くのだと言われています。」
「こんなか弱い感じなのにすごいですね。」
「驚きですわ。」
一見弱々しく見えるアサギマダラのどこにそんな力があるのかと思った。それとともに、美しい彼女が看護師と言う過酷な仕事をしているのに、姿を重ねていた。
 そのとき、二人の身体が近付いて、彼女の髪の匂いが私の鼻を刺激した。
私は、金曜日が待ち遠しかった。その日のために、新しいジャンバーと靴を買った。今まで、山に登るのに身だしなみなど気にしたことはなく、こんなことは初めてだった。
 金曜日、私は髪を撫でつけると、早めに家を出て、山頂で本を読みながら待っていた。
 彼女は、前回と同じように10時過ぎにやって来た。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
いつものように挨拶を交わす。彼女が言った。
「今日は、途中で追い付けるのではないかと思って、あなたと同じコースを登って来ました。」
「そうでしたか。じゃあ、待っていれば良かった。」
「いえ、こうしてここでお会いできましたら良かったです。」
 こうした会話からも、彼女が私に好意を持っていることが感じられた。
             ―続く―







2021/11/15 17:30:50|小説「初冬の風」
初冬の風―05−
初冬の風―05−

 私は、話を続けた。
「看護師さんの仕事って、本当に大変ですよね。以前、入院したことがあって、本当に感心しました。」
「そうですね、本来の仕事よりも患者さんとの対応が大変です。けっこうわがままを言われることがあるんですよ。」
「わかります。中には、酷い人もいますからねえ。」
「でも病気なので気持ちがわからないでもないのですが。」
「あなたは、優しいのですねえ。病院でも笑顔を絶やさないのでしょうね。」
「そうですね、それは心掛けています。私達が暗い顔をしていたのでは、患者さんの心まで暗くなってしまいますから。」
そう言って、彼女は微笑んだ。笑うときの笑窪が可愛かった。
「次は、いつがお休みですか?」
私は、聞きたかったことを聞いた。
「次は木曜日が夜勤明けで、金曜日がお休みです。」
「じゃあ、また山に登りますか?」
「ええ、そのつもりです。」
「また会えるといいですね。」
「そうですね。」
 私は、彼女の予定を聞いて、所期の目的を達したことに満足していた。
 更に話をしていて、彼女が下関の出身で、看護学校を出て今の病院に勤務するようになったこと、そのため今のところのマンションに住んでいることなどがわかった。しかし肝心のことを聞いていないことに気が付いた。
「僕は、三国と言います。お名前を聞いていいですか?」
「ええ、白鳥と言います。」
「白鳥さんですか。良いお名前ですね。」
「いいえ、名前負けですわ。」
そう言って、笑った。その笑顔もとても美しかった。
             ―続く―







2021/11/14 15:17:48|小説「初冬の風」
初冬の風―04−
初冬の風―04−

 山を下りながらも、私は、彼女との会話の楽しさに、普段になく饒舌になっていた。
 10分ほど歩いたところで、分かれ道である。
「今日は、あなたと出会えて良かったです。ありがとうございました。」
「いいえ、こちらこそ楽しかったです。」
「また会えるといいでね。」
「そうですわね。」
私は、そのまま下山に掛かったが、その足取りは軽かった。
 次の日から、私は何とか彼女に会えないかと思うようになっていた。土曜日になれば、彼女も休みで会えるのではないかと思い、次の土曜日には先日と同じ時間に行ってみた。私は、山頂で本を読みながら彼女が来るのを待っていた。しかし彼女は来なかった。1時間待っても来ないので、がっかりして山を下りた。
 その次の月曜日、私は山頂で本を読みながら休んでいた。その時、下から人が登って来る気配がしたので、見ると彼女だった。
「やあ、またお会いしましたね。」
「あらっ、今日も登られていたのですね。」
「今日は、お仕事は?」
「ええ、今日は休みです。シフト勤務なので、休みが不規則なのですよ。」
 彼女は、隣町の病院で看護師をしているのだと言った。平日勤務もあれば、夜勤もある。夜勤の後は休みでその翌日も休みなっているようである。
 私は、再び会えたことが、本当に嬉しかった。今日は、次の休みの予定を聞いておかなければと思った。
             ―続く―







2021/11/13 12:58:28|小説「初冬の風」
初冬の風―03−
初冬の風―03−
 
 彼女は、私に気が付くと「こんにちは」と挨拶をした。私も、「こんにちは」と挨拶を返しながら見ると、とてもきれいな人だった。年齢的には30歳前後と思われた。色白で眉が濃く、切れ長な目をしているが、その瞳は優しさをたたえている。山登りをする人に共通の細い身体である。
 私から話し掛けた。
「良い天気ですね。山にはよく登るのですか?」
「そうですね、休みの日には登るようにしています。こうして頂上に立つと、気が晴れます。」
「いいですよねえ。僕も、山や海が好きで、仕事を辞めてからよく山や海に行くようにしています。今まで住んでいて気が付かなかったのですが、本当に自然に恵まれた良い町ですね。」
「私もそう思います。この町と自然が好きです。」
「そして、あなたのようなきれいな人とも出会える。素晴らしいところです。ところで、近くにお住まいなのですか?」
 私の言葉に笑いながら、彼女が言った。
「ええ、駅の向こう側、虹ケ浜に住んでいます。」
「じゃあ、僕と線路を挟んで反対側ですね。僕は、虹ヶ丘です。」
「今日は、どのコースを登られました?」
「隣の下松市の駐車場からです。尾根を縦走して来ました。」
「あのコースは距離もあるし、大変でしょう?」
「そうですね、でも何度も登っていますから、もうすっかり慣れました。」
「若いのですねえ。羨ましいです。僕は、エヴェレスト登山並みの覚悟で登っています。」
 彼女は、また笑った。その笑顔が美しかった。
 そんな月並みな話をしながら、15分ほど山頂にいて、下山にかかった。
             ―続く―







<< 前の5件 [ 1146 - 1150 件 / 2751 件中 ] 次の5件 >>  << 最新の記事へ >>