初冬の風―12−
1時間ほど歩いたところに、小さな見晴らし台のようなところがある。私達は、そこで小休止を取ることにした。普段の慶子なら休むことなく歩いて行くのだろうが、今日は私に気を使っているのだろう。
目の前には、瀬戸内の海が広がって、島々が浮かんでいるのが見える。二人で小さな木製のベンチに並んで座ると、彼女がリュックからレモン味のキャンディを、私がカンロ飴を同時に取り出した。お互い、笑いながらそれを交換して口に入れた。
「こっちから登るのは初めてですが、尾根のコースなのでけっこう景色が良いですね。」
「私は、運動のためにも、いつもこっちから登っています。今日は平日なので人もあまりいませんが、土日だと麓の駐車場もけっこういっぱいで、車が停められないときもあるのですよ。」
「そうですか。僕は、家から真っすぐ登るので、その心配はありません。」
5分ほど休憩して、二人は再び歩き始めた。歩き始めるとき、慶子が「三苫さん、先に歩いてください。」と言った。どうやら、私の体力に気を使っているようである。歳とはいえ、女性に同情されるのは何とも寂しい気がした。
私は、慶子を女性として意識していた。しかし彼女の立場に立って考えてみるとどうなのだろうかと思う。彼女は、自分の息子とそんなには違わない年齢である。彼女が、私のことを父親のような目で見ているのか、あるいは男として見ていてくれるのかはわからない。
それはそれで良かった。私は、こうして彼女と一緒にいるだけで楽しかった。彼女の私に対する好意は失いたくなかった。だから父親として見られようが、男として見られようが、嫌われることに比べればどっちでも良いことだった。
私は、彼女の前を迷惑をかけまいとして急いで歩いて行った。尾根とはいえ、平坦ばかりではなく、かなりの起伏がある。登りのときは良いが、下りはけっこうバランスを崩しがちである。道脇にある木に摑まりながらそろそろと下りて行くのだが、後ろから慶子が心配そうに見ていた。
―続く―