男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2021/12/06 17:08:28|小説「初冬の風」
初冬の風―26−
初冬の風―26−
 
 山頂のベンチで食事をしながらも、私は「大丈夫ですか」と聞いた。慶子は、何を言われたのかわからないようで、私を見ながらキョトンとした顔をした。
「いえ、何となく慶子さんの元気がないみたいだから、ちょっと心配になって。」
「すみません。私は大丈夫なのですが、母親のことが心配でしたから、余計なことを考えていました。ご心配をかけてすみませんでした。」
「いえ、とんでもない。慶子さんは、忙しいようですものね。決して無理はしないでください。」
「ありがとうございます。ちょっとしたことでも、心配事があると人間は心が暗くなってしまうものですね。大したことはないのですが、どうしても母親のことが気になりまして。」
 慶子は、本来明るい性格だった。これまではいつも笑顔を絶やさなかった。それなのに、年が明けて以来その笑顔が見られない。
 幼いころ父親を亡くした慶子は、母親の手だけで育てられた。兄弟もいなくて、母一人子一人で育った彼女にとって、母親は唯一の親族と言って良かった。だからその気持ちがわからないことはない。私は、下山しながらも、これからどうすべきか迷った。
 年末以来、ずっと逢っていない。逢いたいという欲望、結ばれたいという強い欲望が、私にはあった。一方で、傷心の慶子に対して、そういう欲望を露骨に示して良いものかという理性もあった。若い頃ならともかく、この歳になって欲望が抑えられないことはない。大事なのは、慶子の心の傷が大きくならないことである。
私は、彼女の家に行って良いものかどうか、踏ん切りのつかないまま下山にかかった。二人は、話も少ないまま下りて行き、分かれ道に差し掛かった。私は、どうしたものか考えの纏まらないまま立ち止まった。
 私の様子を見た慶子が、振り向いて言った。
「どうかなさいました?」
「い、いや。君のところに行きたいけど、君はお母さんのことでそんな気になれないのじゃあないかと思って。」
私は、正直にそう言った。このまま黙って別れるのも変だし、図々しく一緒に行くのも気が引けたからである。
             ―続く―
 







2021/12/05 14:14:42|小説「初冬の風」
初冬の風―25−
初冬の風―25−

 慶子は、正月に続けて病院を休んだこともあって、戻って来てもすぐに仕事が忙しいようで、山に登るゆとりはなさそうだった。そのことを、申し訳なさそうにメールで言ってきた。
 その間、私は一人で山に登っていた。山頂からは、慶子のマンションも見えている。それを見ると、逢いたいと思う気持ちが昂じて来る。しかし彼女からは、7日しか時間が取れないと言って来ていた。
 7日になった。私は、山の登山口で彼女を待っていた。しかし約束の時間になっても彼女は現れなかった。どうしたのかと思って、メールをしたが返事は来ない。私は、しばらく待ったが、諦めてそのまま山に登った。
 下山する頃になって、返事が来た。そこには母親が倒れて急遽下関に帰らなければならなくなったと書かれていた。私はがっかりしたが、仕方がない。彼女も落ち着けば、やがては逢える。そう思って、自分を慰めた。
 次に彼女からメールが来たのは、その翌日だった。母親の容態も落ち着いているので、あと2、3日で光に帰れるだろうと言って来た。
 私は、お母さんが元気になって、早く帰って来て欲しいと書いた。心からそう思っていた。
 やっと慶子に逢えたのは、正月も半ばになってからだった。その日は、冬にもかかわらず良い天気で、私達は麓で落ち合ってから一緒に山に登った。
 登る途中で、下関のお母さんのことなどを聞いたが、体調は一進一退で、当面は大丈夫だが、いつ悪くなるかわからないので心配だと言った。病気はがんだった。
 心配顔で話す慶子に、私はこれから彼女の家に行って良いものかどうか迷った。いつもなら、そういう気持ちを態度で表し、慶子も了解して、言葉を交わすことなくお互いに行動を共にしていたが、今回はそうして良い物かどうかはばかられた。
 山頂では、並んでベンチに座って、慶子が持って来たペットボトルのコーヒーでサンドイッチを食べたが、それはコンビニで買って来たものだった。彼女は、実際に忙しいし、精神的にも大変なのだろうと思った。私は、この後でどうすべきか本当に迷っていた。果たして、彼女に私との情事をする心のゆとりがあるのかどうかが心配だった。
             ―続く―







2021/12/04 18:47:58|小説「初冬の風」
初冬の風―24−
初冬の風―24−
 
 私は、後ろから声を掛けられて、一瞬誰かと思ったが、すぐに寿枝だと気が付いた。
「あっ、山口さん。今日は一人ですか?」
「はい、主人は実家に行きました。」
「そうですか。一緒に行かないのですか?」
「私、主人のお母さんが苦手なものですから。」
「そうですか、お時間があれば、お茶でもいかがでしょう?」
「いいですわ。家にいてもすることもありませんから。」
 私達は、近くの喫茶店に入り、コーヒーを飲みながら話をしていた。
「慶子君は、里帰りをしているみたいだね。お母さんと久し振りにゆっくりしているのだろうね。」
「そうですね。母一人、子一人ですから、お母さんも喜んでいることでしょう。」
「ところで、彼女はどうして結婚しないのでしょうね。お母さんも心配していたけど。」
「あの子、一度失恋しているのです。」
「そう、僕は聞いていないけど、何があったのだろうね。」
「もう5、6年前のことになりますが、彼女はお医者さんと恋をしました。相当深い関係まで行って、結婚まで意識していたようです。でも結局振られてしまいました。医者の方が、病院の理事長の娘と結婚することになったのです。」
「そうですか、そんなことがありましたか。」
「それでかなりショックを受け、それ以来男の人が信用できなくなったみたいです。」
「それは知らなかった。」
「そうですね、お母さんにも話していないみたいですから、叔父さんがご存じなくても仕方がありませんわ。」
 私は、寿枝の話を聞いて、快活な慶子にもそんな過去があったのかと驚いた。
「あっ、私がこんなことを言ったって、慶子には言わないでくださいね。」
 寿枝は、念を押すようにそう言った。
 3日には、慶子からメールで明日は光に戻ると言って来た。私は、逢えるのを心待ちにしていると返事をした。
             ―続く―







2021/12/03 14:45:49|小説「初冬の風」
初冬の風―23−
初冬の風―23−

 行為が終ったあとの静寂が、二人に戻って来た。慶子は、私の腕枕で軽い寝息をたてている。そんな彼女の顔を見ながら、私は幸福感に満たされていた。
 師走も押し迫って来たころ、妻が帰って来た。この季節は、釣りも寒いしあまり魚も釣れないので、慶子とは山で逢うしかなかった。
 クリスマスが過ぎたある日、私達は、麓で会ってから一緒に山に登った。山道を登りながら、私は慶子に正月はどうするのかと聞いた。暮は仕事だが、年が明けたら休みで下関の実家に帰るのだと言う。彼女の仕事の都合と、里帰りでしばらくは逢えない。近くにいなくなると思うと、急に寂しさを覚えた。
 途中の休憩所まで来たとき、私は慶子を抱いてキスをした。キスをしながら言った。
「逢えないと思うと寂しい。君が、本当に好きだ。」
「私も、三苫さんのことを大好きです。でも、年が明けたら、また逢えますわ。」
二人は、抱き合ったままキスを続けていた。二人が身体を離したのは、遠くから人の話し声が聞こえてきたときだった。
 山に登った後で、そのまま慶子の家に行った。帰省に向けての準備だろう、部屋にはスーツケースが置かれていた。私達は、身体を交えた。しばらくの別れに、二人は燃えた。ちょっとした別れなのに、それがこんなに寂しいものかと驚いていた。
 翌日から、慶子は仕事で忙しいようだった。夜勤のときにはメールが来て、「逢えなくて寂しい」と言った。私も、同様な返事を書いて送った。大晦日には、明日から下関に帰ると書いて寄こした。
 慶子は帰って行き、元旦、2日と、私は海に散歩に出ては、慶子のマンションの前を通った。窓はカーテンが閉められて、人のいない部屋は寂しげだった。
 年が明けて3日の日、私はプリンタのインクを買うため、一人で隣町まで買い物に出掛けた。電気店でインクを探しているとき、後ろから声を掛けられた。
「三苫さんじゃないですか。」
見ると、以前慶子の家に来た寿枝だった。
             ―続く―







2021/12/02 14:47:21|小説「初冬の風」
初冬の風―22−
初冬の風―22−
 
 後ろから息を吹きかけられて、慶子はくすぐったそうにしていたが、すぐに振り向いて私にキスをしてから言った。
「さっきは、とんだ邪魔が入りましたね。」
「僕は、君の叔父さんになっちゃったよ。」
「玄関にはあなたの靴がありましたし、急なことで咄嗟に出た言葉です。」
「それにしても彼女は、僕達の関係を疑っている様子はなかったね。君のとっさの判断が良かったです。」
「でも、これからは彼女の前ではずっと叔父さんでいなきゃなりませんわ。」
「アハハッ、そうだね。町で出会って、今度は「上司です」なんて言ったらすぐにバレちゃうね。」
そんなことを言う私の口を塞ぐように、彼女は振り向いてキスをした。
 台所の片付けを終えると、私達はシャワーを浴びることにした。妻の心配をせずにゆっくりここにいられると思うと、心にゆとりがあった。焦る必要がない。ゆっくりとシャワーを浴びて、それから彼女を求めれば良い。そんな私の気持ちは、慶子にも十分に伝わっているようだった。
 シャワーを浴びながら、お互いにキスや愛撫を交わす。途中、寿枝の来訪によって一旦冷めた情熱に、再び火がついた。再燃した炎は大きい。私達は強く抱き合ってキスをしていた。
お互いの身体を十分に愛撫し、身体を洗った後で、裸のままベッドに向かった。ベッドでの慶子は、いつになく大胆だった。私の妻がいないことで、より大胆になっているのか知れない。そんな彼女に、私もいつになく激しく挑んで行った。
 二度目のとき、私は慶子に上になってくれないかと言った。いつも登る山が茶臼山であることから思い付いたのである。
茶臼は、お茶を引く石臼である。普通の石臼と違って上の部分の方が小さいことから、女性上位のセックスのことを茶臼という。そのことを知ってか知らずか、慶子は素直に私の言葉に従った。
 私の物に手を添えると、腰を沈めて行く。今までにない快感に、私も慶子も思わず呻き声を出していた。そして彼女は、大きく律動を繰り返したと思うと、私の上に突っ伏した。
             ―続く―







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