男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2022/01/11 12:26:53|小説「寒椿」
寒椿−2−
寒椿−2−

 スナック“夢”に通い始めてしばらくしたある日のことである。私が店に顔を出すと、一人の青年がカウンターに座り、由紀子と話をしていた。前にこの店で見たことのある顔である。いかにも親しそうな話しぶりだったが、それはいつもの由紀子のことで最初は気にもしていなかった。
 しかし気になったのは、その後の由紀子の態度だった。いつもなら私が行くと、すぐにでも私の方に来てくれるのだが、この日に限って頼んだビールを持って来ると、一言二言、話をしただけですぐにその青年のところに戻って行ってしまったのである。その瞬間、私はその青年に対して軽い嫉妬のようなものを覚えていた。
 その後、何回か由紀子の店に行ったのだが、その青年は必ずと言っていいほど来ていた。私は、会社の時間が終ってから行くので、どうしても遅くなる。その青年は色白で痩せていてちょっと暗い雰囲気がし、どこか陰のようなものを感じさせていた。
 いつも由紀子の方に向かって静かな調子で話をしていたし、由紀子の方は黙ってその青年の話を聞いているようだった。
 そのことに対して、私の嫉妬心はだんだんと強いものになっていた。考えて見れば、私は既に50歳を過ぎているし、由紀子は30代半ば、その青年はまだ20代であるから、いずれの場合も男女の仲としては不自然である。それなのに嫉妬する、それは自分でも不思議な感情だった。
 ある日、店に行くとその青年はいなかった。
由紀子が私のところにやって来た。
「今日は、いつもの人は来ていないの?」
「ええ、来ないみたいね。」
「彼、君に気があるんじゃないのかな。」
「それはわからないけど、可哀相な身の上で、いろいろ相談を持ちかけられるの。彼は大学生で、今、悩んでいるようなの。人生は不可解だとか何とか哲学的なことを言っているわ。難しいことはわからないけど、あたしが相談に乗ってあげないと、彼、自殺でもしかけないの。」
「それが、君の心を惹き付けるための、彼の手じゃあないのかな。」
「彼は嘘のつけない人よ。私には、わかるわ。彼の目は、嘘を言う目ではないわ。」
由紀子が、ちょっと語気を強くして言った。そんな言い方に、私は余計に嫉妬を覚えた。
               −続く−







2022/01/10 18:23:42|小説「寒椿」
寒椿−1−

寒椿−1−

 外は随分冷えている。通勤途中の通りの家々の庭には、椿や山茶花などが、咲き始めていた。
 私は、仕事の帰り、いつものように由紀子のいるスナック“夢”に寄った。“夢”のママさんは随分歳で、最近は由紀子が実質的に店を切り盛りしていた。
 由紀子は、店の人気者だった。世の中には、一緒にいるとほんのりと和やかになるようなタイプの人と一緒にいると緊張しなければならなくなるタイプの人がいるが、由紀子は典型的な前者だった。一緒にいるだけで落ち着くし、心が安まるのである。店に来る客達は、そんな由紀子を目当てにやって来ていた。
 ある作家が何かの本に、「男が女に求めるものは、ときめきか、安らぎである。」と書いていた。色気のある美人が前者であるとすれば、由紀子のように優しくて、男の心をふんわりと包んでくれるようなタイプの女性は典型的な後者である。
 由紀子は、話し方もおっとりとしていた。自分からは決して多くは喋らないが、こちらが話し掛けるとちゃんと受け答えをしてくれた。芸術から芸能界の話題、趣味や政治の話までいろいろな話題が出るのであるが、それにもキチンとした答えを持っていたから、かなりの物知りであることには間違いないのだが、決してそれをひけらかすようなことはなかった。私が間違ったことを言っても、その場では何も言わないで、あとで遠回しに教えてくれるような優しさを持っていた。
 それと由紀子の魅力のひとつは、決して嘘の言えない人柄である。どんなに上手に振る舞っていても、嘘を言う人は信用できない。
 何度か店に通っているうちに、私はすっかり由紀子と親しくなっていて、私が顔を出すと、他の客がいてもそれは若い女の子に任せて、私の方に来てくれるようになっていた。一人カウンターに座って飲むことが多いのだが、その時も余程忙しくない限り、カウンターの中から私の相手をしてくれていた。

         −続く−








2021/12/28 7:17:36|エッセイ
My10大ニュース
 今年も残り僅かになりました。僕の10大ニュースです。

1 コロナの年明け
  今年もコロナで年が明けました。年末にはオミクロン株などの出て来て、未だに収まる気配が見えません。来年は、収まって欲しものです。
2 瑞宝小綬章
  4月29日、瑞宝小綬章をいただきました。
3 転居
  8月4日、54年ぶりに故郷の山口県に帰って来ました。
4 別れ
  長年お世話になったテニス仲間と別れがありました。年末には、大変お世話になったYさんの訃報もありました。
5 マンション売却
  13年住んでいたマンションを売却しました。
6 山登り
  9月の初めから、健康のため裏の茶臼山に登り始めました。2日に1回のペースで今年中に45回を目指します。
7 釣り
  釣りを始めました。いろいろ試しましたが、初心者でも釣れるキス釣りが一番性に合っているようです。
8 出会い
  恩師や同級生達との久し振りの再会や、山や海でのいろいろな人との出会いがありました。
9 自然との出会い
  茶臼山で、蝶々のアサギマダラ、光の固有種ニジガハマギクとの出会いがありました。
10 墓地移転
  12月、山寺の墓地にあった先祖代々の墓を、市営の墓園に移しました。

 来年が皆様にとりまして良い年になりますよう。







2021/12/08 14:04:51|小説「初冬の風」
初冬の風―28−(最終回)
初冬の風―28−(最終回)
 
 慶子は、母親のところに帰って行った。いつ戻れるかはわからないと言う。
私は、正月のとき以上の寂しさを覚えた。なぜか、ずっと逢えなくなるのではないかという不安な予感がしたからであった。
 下関に帰ったときには着いた旨のメールがあったが、その後彼女からはメールが来なかった。私は、母親の看病で忙しいのだろうと思っていた。
 一週間ほどしたとき、母親が亡くなったと言って来た。葬儀やなんやかなで、光に帰るのは更に一週間後になるだろうと言って来た。私は、それを待つことにした。
それから3日ほどしたとき、何気なくニュースを見ていた私の目がテレビに釘付けになった。それは慶子の事故死の報道だった。高速道路でトラックに追突されて女性が即死したと言い、見慣れた彼女の車が大破している様子が映し出されていた。
 私は、葬儀にも出られなかった。寿枝も参加するだろうから、私との関係が明るみに出てしまうおそれがある。それでは、死んだ彼女の名誉さえ壊しかねない。
 私は、その後も山登りや海の散歩を続けた。散歩では、慶子が住んでいたマンションの前を通った。彼女の住んでいた部屋は、カーテンが取り払われて空き家であることを示していた。
 山には、なるべく人のいない時間帯を選んで、一人で登った。そして山頂で、一人物思いに沈んだ。
 目は麓の景色を眺めていたが、それは目を向けているだけで、以前のような感動はなく、心は別のところにあった。慶子との出会い、そして彼女との愛の時間、それらのひとつひとつが鮮明に脳裏に浮かび上がって来るだけである。
 物思いに沈んでいる私に、顔見知りの人達も遠慮しているようで、話し掛けることを避けているようだった。
 そのとき、冷たい初冬の風が私の頬を撫でた。私はそれを冷たいとは感じなかった。かって慶子と釣りをした海の風のような気がした。景色を眺めて、キスを釣り上げたときの慶子の笑顔が、まざまざと瞼に浮かんだ。
 いつか落ち着いたら、慶子の墓にお参りしなければと思った。
            ―完―







2021/12/07 13:05:16|小説「初冬の風」
初冬の風―27−
初冬の風―27−

 慶子は、私の目を見詰めていたが、すぐに言った。
「ごめんなさい。私が、暗い顔をしているので気を使われたのですね。私は、来ていただきたいのです。一人でいると、余計に暗い気持ちになってしまいます。三苫さんのご都合さえ良ければ、来てください。」
 私は、その言葉に胸のつかえが取れた気がした。
 二人は、急ぎ足で慶子のマンションに向かった。
「逢いたかった。」
「私もです。」
 二人は、玄関に入ると、しっかりと抱き合ってキスをした。僅か半月ほどの別れが、こんなに情熱的にするのかと思うほどの強い抱擁が続いた。
 身体を離すと、慶子が暖房のスイッチを入れ、浴室へと誘った。いつものように一緒にシャワーを浴びるのだが、その間も抱擁と愛撫を続けた。
 僅か3週間逢えなかっただけであるが、そのことが私達を燃えさせていた。ベッドに入ってからも、初めてのときのように激しい愛を交わした。
 私は、自分の人生で慶子と逢ったときほどの胸のときめきを覚えたことはなかった。それは、最初の出会いからだった。最初に会ったとき、次も会えないかと思った。その時には、既に彼女に恋していたのだった。恋、それは世間からも家族からも決して許されぬ恋だった。
 秘密の恋、禁じられた恋ほど燃えることはない。慶子との恋は、その両方を満たしていた。その日、私達は十分に情熱をぶつけ合った。
 その後も、幸せな日々が過ぎて行った。私達は、心身ともに愛し合っていた。山や海で逢ってその後で愛を交わす、それは私のとっても慶子にとっても、とても幸せな時間だった。
 月日は過ぎて、慶子と出会ってから一年以上が過ぎ、秋も深くなっていた。
 ある日、慶子が言った。
「母の容態が良くないようです。しばらく下関に帰って来ます。」
 その時、私は何故か妙に胸騒ぎがした。
             ―続く―







<< 前の5件 [ 1121 - 1125 件 / 2750 件中 ] 次の5件 >>  << 最新の記事へ >>