男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/06/06 3:52:04|小説「春の行方」
春の行方−20−
春の行方−20−

 結ばれることのない愛、そのために一恵はどれだけ耐え忍んでいるのだろう。光太郎は、それを考えると一恵に同情したくなる。しかし、故郷には佳津枝がいる。決して一恵と結婚することはないだろう。そこまでは考えるが、では久恵の存在は何だろう。彼女は魅力的である。もし佳津枝の存在を抜きにして、久恵と一恵だけが相手だったらどうなるだろうか・・・・・、当然、久恵を選ぶだろう。いつもそこまで考えて最初に戻り、思考は堂々巡りになってしまう。
 秋が過ぎ、12月がやって来た。
 いつもの飲み会で、大室が今年の暮もスキーを計画したいが、参加希望者があれば連絡して欲しいと言った。去年は故郷に帰ったが、今年はどうしようというのが光太郎の大きな課題になった。故郷に佳津枝という恋人がいることは、誰にも言っていない。無論、それは久恵を意識してのことである。
 その間も、佳津枝とは電子メールの交換を続けていた。佳津枝は、こまめに日々のことを書いて寄越し、光太郎もその都度返事を送り返していた。今までの夏休み、冬休みのこともあるので、佳津枝は当然光太郎が広島に寄って帰って来るものだと思っているようである。そこで急に年末はスキーに行くと言ったらどう思うだろうか。もし佳津枝がいなくて両親だけだったら、迷うことなくスキーに行くだろう。
 スキーに行った場合、帰省は元旦になってしまう。正月の5日には仕事が始まるから4日には帰って来なければならない。故郷への滞在は実質3日になり、佳津枝とゆっくり逢っている時間はなくなってしまう。
 光太郎は、行くべきか止めるべきか、去年よりその迷いは大きかった。
「三永君、スキーはどうするの?」
 朝の通勤のとき、久恵が聞いた。
「で、松島はどうするの。今年も行くの?」
「ええ、行きたいと思っているわ。」
「そうか、でも俺って、スキーの経験がないんだよ。」
「あらっ、大丈夫よ。去年も九州から来た下園君がいたけど、大室君がスキー教室みたいにして教えていたわ。わたしだって学生時代に何回か行ったことがあるだけで、まるで下手だけど、楽しいわよ。それにもっと楽しいのが、夜の飲み会ね。スキーで疲れているから、飲むとぐっすり眠れるのよ。宿は大部屋だし、本当に楽しいのよ。」
「そうか、そんなに楽しいのか。」
「そうよ、いらっしゃいよ。本当に楽しいわよ。」
「じゃあ、行くか。」
「ええ、楽しいわよ。私も、三永君が来てくれると嬉しいわ。だって、この会社に来て、最初の知り合いですものね。」
「うん、行くよ。今晩にでも、大室に頼んでおく。」
 結局、光太郎はスキーに行くことにし、その夜、佳津枝にメールを送った。
「今年の暮れは、会社の仲間とスキーに行くことになった。そちらに帰るのは、正月が明けてからになると思う。君に逢うのが遅くなるのは残念だけど、これも付き合いだから了解して欲しい。
          光太郎」
 その翌日、ポストを見ると一恵からのメモが入っていた。
                −続く−







2026/06/05 6:25:27|小説「春の行方」
春の行方−19−
春の行方−19−

 光太郎は、仕方なく後ろから歩いていたが、一恵はラブホテルのあるところまで行き、辺りを見回すと、そのまま中に入って行った。光太郎が躊躇していると、一恵は振り向いて手を取り、そのまま入り口で手続きをして階段を上り、部屋に向かって行った。全く、有無を言わせない感じだった。
 二人は、ベッドの中で裸で抱き合っていた。酔いの中で身体を交え、疲れで眠ってしまったらしい。
 目覚めた光太郎に一恵が言った。
「前から、三永君のことを好きだったわ。いつかこうなりたいと思っていたの。」
「・・・・・・・」
「でも、心配しないで。結婚してくれなんて言わないわ。こうしてたまに一緒に付き合ってくれれば良いの。」
「・・・・・・・」
「それに私、誰にも言わないから大丈夫よ。みんなにバレたら、お互い寮に居辛くなるものね。」
「はい・・・」
「私、ときどきあなたの郵便受けにメモを入れておくわ。あなたも、返事は私の郵便受けに入れておいてね。」
「・・・・・・・」
 光太郎は、一方的な言い分にムッとしたが、こうなった以上逆らえないような気がしていた。
 結局、ホテルを出たのは、翌日の朝早くであった。町は寝静まっている。
 寮の玄関に来たとき、一恵は光太郎にキスをしながら、耳元で囁いた。
「ネッ、昨日の約束を忘れないでね。」
 光太郎は、一恵と別れると、音をさせないようにそっと自分の部屋に戻った。
 その後、月に1回ほど一恵からのメモが郵便受けに入っていた。週末に、明日の夜飲みに行かないかいう内容のものである。勿論、飲むだけでは済まない。光太郎は、寮の人達に知れるのが怖かった。噂になれば、仲間に顔向けもできなくなる。
 最初は、都合が悪いからと断ったが、それも何回も続けられるものではない。3回目の誘いのとき、OKの返事をした。
 一恵から、上野で会おうと言って来た。寮のある松戸では、人目につくことを懸念したのであろう。
 そうした付き合いが、1ヶ月に一度ほどの割合で続いた。一恵は、ある意味では強引だったが、それ以上は求めなかった。飲むときには一恵が払ったり光太郎が払ったりしたが、ホテル代は大抵一恵が払った。そしてそのとき以外は、光太郎と接触することはほとんどなかった。
 光太郎の朝の通勤は、相変わらず久恵や大室と一緒で、たまに一恵と一緒になることはあっても、一恵は黙って話を聞いているだけでほとんど何も喋らなかった。
 しかし、一恵との関係は、光太郎の態度に微妙に影響を与えていた。まず久恵への接し方に後ろめたさというか、引け目というか、今までのようにフランクに付き合えない気持ちになっていた。その後も、大室達と一緒に飲みに行くことはあったが、何となく後ろめたさが付きまとっていた。
 就職して2回目の夏休みは、瀬戸内の故郷に帰って佳津枝や家族と過ごした。去年と変わらない夏休みだった。
 夏休みが終わっても、一恵との関係は続いた。
一恵は、普段は光太郎など眼中にないという態度を崩さなかったが、あるとき情事が終った後でポツリと言った。
「私達、いつまでこうしていられるのかしらねえ・・・・・」
その様子は、いかにも寂しそうだった。
           −続く−







2026/06/04 2:32:12|小説「春の行方」
春の行方−18−
春の行方−18−

 光太郎は、焦った。行き先も告げず、トイレに立つふりをして出て来たので、急いでみんなのところに帰らなければならない。しかし一恵は、一方的に話を続けている。
「あの〜、すみません。僕、今日のバーベキューの幹事だったので、今、打ち上げをやっているのです。帰らないと・・・・・」
 話の合間に、やっと光太郎が言った。
「そうだったの、それ、何時頃終るの?」
「多分、あと1時間ほどで終ると思います。」
「わかったわ。じゃあ、それが終ったらまたここに来て。私、待っているから。」
「でも・・・・・」
「いいでしょう。ネッ、早くみんなのところに戻ってあげなさい。」
「はい・・・・・」
 結局、一恵に押されるようにカラオケボックスを出て、みんなのいる居酒屋に戻った。
 席に戻ると、大室が言った。
「おい、どこに行ってたんだ。随分、長いトイレだったぜ。」
「ああ、俺、丑年なんだ。トイレは長いんだよ。」
そう言って誤魔化したが、一恵の言ったことが気になっていた。
 バーベキューでも飲んでいたので、さすがに誰も二次会に行こうとは言わなかった。
 打ち上げが終って、みんなが揃って寮に帰ろうとするのを、「俺、ちょっと用事があるから。」と言って別れ、そのまま一恵の待つカラオケボックスに向かった。
 部屋に入ると、一恵は一人で歌を歌っていた。
「三永君、待っていたわ。打ち上げは、もう終ったの?」
「ええ、先ほど。」
「そう、歌は得意なのでしょう。歌いましょうよ。」
「でも、僕、歌は苦手です。」
「そう、じゃあ、もうちょっと飲みに行きましょう。明日は、休みだし大丈夫でしょう。」
 一恵はそう言うと、インターフォンでフロントに電話をして、清算してくれるように頼んだ。
「すぐ近くに私の行きつけのスナックがあるの。」
 一恵はそう言うと、さっさと歩き始める。光太郎は、断わりきれずに黙って後ろから着いて行った。一恵が入ったのは、小さなスナックである。看板には、「再会」とあった。
 店に入ると、カウンターの中の中年のおやじが「おっ、一恵さんいらっしゃい。」と言った。その言い方から、一恵はこの店の馴染みらしい。
 一恵は、キープしてあるウィスキーのボトルを出すようにマスターに言い、水割りを頼んだ。光太郎は、今までにかなり飲んでいたので、あまり飲む気になれなかったが、水割りを薄くしてくれるよう頼んだ。
「今日は、お疲れさまでした。大変だったでしょう。」
「ええ、でもみんなが協力してくれたので、大したことなかったです。」
「ここは気楽な店だから、安心して飲んでね。私、仕事で嫌なことがあったりすると、たまに来るのよ。マスター も良い人だから、あなたも一人で飲みたいときは来たらいいわ。」
「はい・・・・・」
 一恵はウキウキした感じで、光太郎は何となく腑に落ちないものを感じながら飲んでいた。しばらく飲んでいたとき、一恵が「行きましょうか。」と言った。
 時計を見ると、11時を回っている。
 光太郎は、「帰ろうか。」ではなく、「行こうか。」と言う一恵の言葉に奇異なものを感じていた。
 店を出た一恵は、寮と反対方向に歩き始めた。
「あっ、先輩、方向が逆ですよ。」
 思わず光太郎が言ったが、一恵はそれを無視するように歩いていた。
            −続く−







2026/06/03 4:19:33|小説「春の行方」
春の行方−17−
春の行方−17−

 光太郎が元の場所に戻って飲んでいると、ちょっとしてから一恵がトイレから戻ってきた。さっき、“二人で行こう”と言われたことが気にかかる。一恵は、何もなかったように他の男性達と楽しそうに話している。光太郎は、他の人がいるため何も話すことができない。
 何となく落ち着かないまま3時間のバーベキュー大会は終った。幹事役以外の人達は、三々五々に帰って行った。
後 片付けも、残された光太郎達2年生社員の仕事である。網を洗い、かまどを掃除し終わったときに、大室が言った。
「三永君、これが終ったら幹事の打ち上げをやろうよ。」
「そうだねえ・・・・・」
 光太郎が、一恵の言ったことがあるので生返事をしていると、久恵が「ねえ、やりましょうよ。」と言った。確かに、そっちの方が大事である。後片付けを終わったときには4時近くになっていた。
「じゃあ、6時から駅前のいつもの居酒屋にしよう。」と約束をした。
 光太郎は、寮に帰るとすぐに一恵に断るため彼女の部屋のチャイムを鳴らした。しかし、返事はなかった。既に出掛けているようである。
 シャワーを浴びて出掛ける支度をしたが、一恵の言ったことが気にかかる。一方的な話しなので約束とは言えないかも知れないが、相手が先輩であるし気にかかる。とりあえず、みんなと一緒に居酒屋に向かった。
 居酒屋での打ち上げが始まった。
 ひとつの仕事を成し終えた充実感は大きい。2年生社員にとっては、こうしたバーベキュー大会や宴会のセットひとつ大事な仕事である。そんなことから、打ち上げは盛り上がった。しかし、その中で光太郎一人が浮かない顔をしていた。
 それに気付いた久恵が言った。
「三長君、どうしたの? 何だか元気がないみたいだけど。」
「いや、そんなことはないよ。大丈夫だよ。」
そうは言いながらも、一恵のことが気になる。
 一恵に言われた7時が近付いたとき、光太郎は「ごめん、ちょっと。」と言って席を外した。そして店を出ると、歩いても5分ほどのカラオケ店に走って行った。一恵はいない。
 受付けで聞いて見ると、既に部屋に入っているようである。光太郎は、教えられた部屋のドアをノックした。
「三永君、来てくれたのね。嬉しいわ!」
ドアを開けた一恵が笑顔で迎えた。
「いえ、先輩、そうじゃないのです。実は・・・・・」
「そんな、いいのよ。来てくれて嬉しいわ。三永君もカラオケは好きなのでしょう。久恵さんからも聞いたわよ。」
 光太郎に話す機会を与えないままに、一恵は話し続ける。
「今日は楽しみにしていたのよ。私も歌は好きだし、いつか三永君と一緒にカラオケに行きたいと思っていたの。でも、なかなか話をする機会がないでしょう。だから、今日はゆっくり歌いましょうよ。」
 光太郎は、自分で話をする機会も与えられないまま時計を見た。もう7時をかなり過ぎていた。
           −続く−







2026/06/02 6:29:06|小説「春の行方」
春の行方−16−
春の行方−16−

 正月が開けると、年度末に向けて仕事はかなり忙しくなった。顧客の会社も新年度の予算を立てたりするので、そのための売り込みや見積もり書の提出など作業も多いし、出歩かなければならないことも多い。忙しくしているうちに、あっと言う間に3月になった。社内でも、4月1日の定年の人や、それに伴う人事異動の噂が流れるようになる。
 寮からも転出する人もいれば、新しく入ってくる人もいる。寮の入居は、長くて10年と決められていた。新しく地方から出て来る人達に優先的に入居して貰うためである。多くの人は、その前に結婚したり、自分でマンションを買ったり借りたりして出て行った。
 新年度になった。新しく寮に入って来た新人は3人であった。他にも、転勤で来た単身赴任者もいて、5人の歓迎バーベキュー大会をすることになった。
 光太郎達は、同期5人で準備をするために最初のミーティングを持った。寮の集会所でビールを飲みながらのミーティングである。その結果、光太郎がリーダーに、大室がサブ・リーダーをすることになった。
 場所の予約、天気予報の確認、買い出し、運搬の計画など、けっこう大変な作業である。しかし、5人でこなしバーベキューの日を迎えた。
 新入社員は、男2人、女一人である。男は大石と黒木、女は前中といった。
 準備を手伝おうという彼等に、1年先輩社員達は、「今日まではお客さんなんだから、食べて飲むだけにしてくれないか。」と言った。
 前中陽子は、ちょっとひょうけた明るい茶目っ気のある感じの女の子だった。バーベキューが始まると、アッという間にみんなの人気者になっていた。
 そんな新人達の様子を見ながら、光太郎と大室、久恵達達は一生懸命になってバーベキューの肉を焼き続けていた。
 肉を食べ、ビールの酔いが廻るころには、みんなすっかりうち溶け合っていた。
 男達は、女性を中心にして集まっている。圧倒的に多いのは、陽子の周り、他の女性には数人ずつの男が取り巻いている。やはり人気者は陽子である。ポチャっとした可愛い感じの顔立ちで、とにかく陽気で冗談ばかり言っている。去年のヒロインは久恵だったが、今年はその立場を奪われた感じだった。久恵も陽気だが、ちょっと模範的な感じがする。
 それに比べて、陽子は天然系と言っても良いくらい天真爛漫なのである。それに端正な顔立ちも、久恵にとってはマイナスだったのかも知れない。光太郎は、先輩の女性の近くで飲んでいた。
 広末一恵という庶務課の女性で28歳、寮の女性の中では一番の先輩で、いかにも姉御肌といった感じである。
「三永君、2年生社員のお勤め、ご苦労さま。」
 今まで、他の男性達と笑いながらお喋りをしていた一恵が、突然光太郎に話し掛けた。
「あっ、いえ、去年は僕達がお世話になりましたし、順番ですから。一恵先輩も、されたのでしょう。」
「そうね、遠い昔のことだけど。」
その言い方に、ちょっとニヒルな感じがした。
 光太郎は、かなり飲んだ。ビールが多かったので、トイレも近くなる。ビールのトイレは、始まると忙しくなる。何度目かに行ったとき、一恵と途中で一緒になった。
 そのとき、一恵が言った。
「三永君、これが終ったら、二人でカラオケに行きましょうよ。7時に駅裏のシダックスで待っているわ。」
 それだけ言うと、さっさと女子トイレに入って行った。
            −続く−