春の行方−20−
結ばれることのない愛、そのために一恵はどれだけ耐え忍んでいるのだろう。光太郎は、それを考えると一恵に同情したくなる。しかし、故郷には佳津枝がいる。決して一恵と結婚することはないだろう。そこまでは考えるが、では久恵の存在は何だろう。彼女は魅力的である。もし佳津枝の存在を抜きにして、久恵と一恵だけが相手だったらどうなるだろうか・・・・・、当然、久恵を選ぶだろう。いつもそこまで考えて最初に戻り、思考は堂々巡りになってしまう。 秋が過ぎ、12月がやって来た。 いつもの飲み会で、大室が今年の暮もスキーを計画したいが、参加希望者があれば連絡して欲しいと言った。去年は故郷に帰ったが、今年はどうしようというのが光太郎の大きな課題になった。故郷に佳津枝という恋人がいることは、誰にも言っていない。無論、それは久恵を意識してのことである。 その間も、佳津枝とは電子メールの交換を続けていた。佳津枝は、こまめに日々のことを書いて寄越し、光太郎もその都度返事を送り返していた。今までの夏休み、冬休みのこともあるので、佳津枝は当然光太郎が広島に寄って帰って来るものだと思っているようである。そこで急に年末はスキーに行くと言ったらどう思うだろうか。もし佳津枝がいなくて両親だけだったら、迷うことなくスキーに行くだろう。 スキーに行った場合、帰省は元旦になってしまう。正月の5日には仕事が始まるから4日には帰って来なければならない。故郷への滞在は実質3日になり、佳津枝とゆっくり逢っている時間はなくなってしまう。 光太郎は、行くべきか止めるべきか、去年よりその迷いは大きかった。 「三永君、スキーはどうするの?」 朝の通勤のとき、久恵が聞いた。 「で、松島はどうするの。今年も行くの?」 「ええ、行きたいと思っているわ。」 「そうか、でも俺って、スキーの経験がないんだよ。」 「あらっ、大丈夫よ。去年も九州から来た下園君がいたけど、大室君がスキー教室みたいにして教えていたわ。わたしだって学生時代に何回か行ったことがあるだけで、まるで下手だけど、楽しいわよ。それにもっと楽しいのが、夜の飲み会ね。スキーで疲れているから、飲むとぐっすり眠れるのよ。宿は大部屋だし、本当に楽しいのよ。」 「そうか、そんなに楽しいのか。」 「そうよ、いらっしゃいよ。本当に楽しいわよ。」 「じゃあ、行くか。」 「ええ、楽しいわよ。私も、三永君が来てくれると嬉しいわ。だって、この会社に来て、最初の知り合いですものね。」 「うん、行くよ。今晩にでも、大室に頼んでおく。」 結局、光太郎はスキーに行くことにし、その夜、佳津枝にメールを送った。 「今年の暮れは、会社の仲間とスキーに行くことになった。そちらに帰るのは、正月が明けてからになると思う。君に逢うのが遅くなるのは残念だけど、これも付き合いだから了解して欲しい。 光太郎」 その翌日、ポストを見ると一恵からのメモが入っていた。 −続く− |