男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/06/11 0:55:34|その他
春の行方−25−
春の行方−25−

 電車が走り佳津枝の姿が見えなくなると、光太郎は空虚な世界に落ちたような気がした。今まで、佳津枝のことをこんなに意識したことはなかった。今回は、スキーに行ったため滞在できたのは正味3日、その中で佳津枝と一緒にゆっくりできたのはほんの数時間だけだった。そのことが、未練を大きくしたのであろうと思った。
 しかし、電車が東京に着いて寮に戻ったとき、光太郎の心はすっかり東京モードに戻っていた。部屋に荷物を置くと、そのままお土産を持って久恵の部屋のチャイムを鳴らした。部屋の明かりが見えるから帰って来ているはずである。久恵はすぐに出てきた。
「俺、今帰って来たんだ。これ、故郷のお土産、大した物じゃないけど。」
 光太郎は、そう言いながら買ってきた土産を差し出した。
「あっ、三永君も帰って来てくれたのね。わたしも、お土産があるの。ところで三永君のって、かまぼこじゃない。私のは、浜名湖のうなぎの白焼きなのよ。明日からの仕事の予定がわからないし、私の部屋で一緒に食べちゃわない?」
「うん、そうだね。じゃあ、俺、部屋からビールを持って来るよ。」
「ねえ、大室君にも声を掛けましょうか。」
「僕達二人だけで、いいんじゃない。」
「そうね・・・・・」
 そこまで聞いた光太郎は、部屋に戻って冷蔵庫から冷えているだけのビールを腕に抱えて、久恵の部屋に戻った。
 光太郎が戻ってきたとき、久恵は、自分で持ってきた鰻の白焼きと光太郎の持ってきた蒲鉾を切って皿に盛り付けていた。
 1年半が過ぎるが、久恵の部屋に入ったのは引っ越しのとき以来二度目である。部屋の雰囲気は、光太郎の部屋とは随分違うが、居間には小さなテーブルがあるだけだった。
 そこで、鰻の白焼きと蒲鉾でパーティーである。二人は、光太郎の持ってきたビールを飲みながら食べたが、どっちも地域の名産だけあって、美味しかった。
「三永君は、お正月楽しく過ごした?」
「うん。お陰さまで。久恵さんはどうだった?」
「ええ、ずっと家族と一緒だったの。でも、最初は良いけど、正月ってある意味退屈ね。だって、みんな忙しそうだし、ゆっくり話もできないでしょう。」
「そうだねえ、どんなに離れていても、家族で話し合わなければならないことなんて、そんなにたくさんある訳じゃないしね。」
「男の人って、特にそうみたいね。でも、女の気持ちって、ちょっと違うのよ。」
「どう違うんだろうねえ。」
 光太郎は、つまみを食べ、ビールを飲みながら聞いた。
「そうねえ、私だって女だからお喋りは好きよ。でもそのお喋りも、聞いて欲しい人の前で喋りたいわ。今は、その人が私の家族じゃないの。」
 光太郎には、久恵の言っている言葉の意味がわからなかった。
「ふ〜ん・・・・・」
 光太郎は、意味がわからないままに生返事をしていた。
              ―続く―







2026/06/10 4:45:27|小説「春の行方」
春の行方−24−
春の行方−24−

 岬の小山を越え、砂洲に差し掛かったとき、光太郎は佳津枝を抱き寄せてキスをした。
 正月に帰って来て、4日には東京に戻らなければならない。明日は、家にいるだろうから、ゆっくり会っていられるのは今日だけである。
 キスをしながら、光太郎がささやいた。
「二人でゆっくりした時間を過ごしたい。」
佳津枝が、小さく頷いた。
 車に戻ると、家とは反対方向に走り、国道沿いのモーテルに入った。そこで数時間愛の時間を過ごし、家に帰って来たときは、夕方になっていた。
 光太郎は、佳津枝に家に寄っていくように勧めたが、家族とゆっくり話があるでしょうと言って、そのまま引き返した。
 いつもは光太郎の行動に興味を示して質問する美子だが、この日はどこに行ったかも聞かなかった。何があったかは、ちゃんと承知しているらしい。
 3日は、家にいた。父親と飲みながら、家族で時間を過ごす。最初は、母親の質問に応じていたが、それも長続きはしない。午後になると退屈を覚えるようになった。美子は、友達のところに行くと言って出掛けて行った。
 光太郎は、佳津枝に電話しようかと思ったが、佳津枝も家族団らんのときを過ごしているはずであり、電話することを躊躇した。そしてその時頭に浮かぶのは、佳津枝の父親の顔だった。
 光太郎は、家族、親子であっても、男と女の感情は存在すると思っている。現に、光太郎の父親はどっちかというと美子びいきであるし、母親は光太郎を可愛がってくれる。光太郎自身、父親は煙たく思う部分があったし、母親には心から甘えられるような気がしていた。従って、佳津枝の父親の佳津枝に対する愛情には、底知れぬものがあるような気がする。ある意味で、二人は佳津枝という一人の女をめぐる男のライバル同士であるような気がしていた。
 結局、光太郎の方からは電話をしなかったが、夜になって佳津枝の方から電話が来た。明日、広島まで一緒に車に乗って行かないかというものだった。佳津枝も広島に帰らなければならない日である。光太郎は、喜んで応じた。
 翌日の朝、迎えに来た佳津枝に対して、父親は機嫌が良かった。普段、感情を表に表さない父親であったが、この日は冗談まで言ったりしていた。
「お父さんって、いい人ね。」
車が走り始めたとき、佳津枝が言った。
「うん、あれでけっこう偏屈で頑固なんだけどね。」
そう言った光太郎の気持ちには、肉親を褒められた嬉しさとともに、軽い嫉妬のようなものがあった。
 2時間ほどで広島駅に着いた。荷物を下ろして駅のホームに向かう。佳津枝もホームまで一緒に着いて来た。
 新幹線が着いた。光太郎は、「次は夏休みだね。寮に着いたらメールをするよ。」と言って、列車に乗り込んだ。
 佳津枝は、光太郎の席のところに来て、手を振った。列車が走り始めると、佳津枝は益々大きく手を振っていた。
              −続く−







2026/06/09 4:21:19|小説「春の行方」
春の行方−23−
春の行方−23−

 一恵のメモは、仕事納めの日に書かれたもので、これから岡山の実家に帰る、良い正月を迎えて欲しい。来年もよろしくという内容のものだった。光太郎は、それを読むと、再びポケットに仕舞い、眠りに就いた。
 故郷の駅に着いたのは、昼を過ぎた時間であった。本当ならそこから在来線に乗り換えるのだが、今回は佳津枝が車で迎えに来ていた。持っていた両手の荷物の片方を手に取りながら、佳津枝は笑顔で出迎えた。
「明けまして、おめでとう。スキー、お疲れさま。骨を折ったりしなくて良かったわ。心配していたのよ。」
「おめでとう。そんな怖いところには行かないから大丈夫だよ。もうちょっと上手になると危ないかも知れないけどね。」
「あまり、無理しないでね。まだ入社して日が浅いし、怪我でもすると大変だわ。」
「うん、でも佳津枝の車に乗るのと、どっちが危ないだろうね?」
「マア、憎らしい! こう見えても、私、ドライブテクニックには自信があるのよ。」
 ちょっと怖そうな目をしたが、そういう佳津枝の表情には光太郎と会っている安堵感のようなものが感じられた。
 車は、そのまま光太郎の家に向かった。当然のように佳津枝も引き止められ、一緒に夕食をした。お互いの家がすぐ近くであるから、運転の心配をすることはない。勧められるまま、佳津枝もビールを飲み、楽しい時間を過ごした。
 とは言っても、佳津枝だけはあまり喋らない。そんな佳津枝を代弁するように、妹の美子が言った。
「お兄ちゃん、スキーに行ったんだって。誰と?」
「うん、会社の仲間だよ。」
「女の人も一緒にいたの?」
 その質問に、光太郎はちょっと戸惑った。
「うん、いたけど、5人で行ったんだ。心配しなくても大丈夫だよ。それより、美子はスキーなんかしたことがないだろう。なかなか面白いぜ。」
 やっとの思いで光太郎が答えた。
「ふ〜ん・・・・・」
 美子は、納得していないような顔つきであったが、続けた。
「お兄ちゃん、明日はどうするの? 佳津枝さんと、初詣にでも行って来たら。」
「そうだねえ。でも佳津枝の都合はいいの?」
「ええ、私は大丈夫だけど、でもお家の方達との積もるお話もあるのでしょう。」
「いいのよ、光太郎。佳津枝さんと行ってらっしゃいよ。」
母親が、横から手助けをしてくれた。
 元旦の夕食が終り、光太郎は佳津枝を家まで送って行った。僅か数百メートルの距離であるが冬の夜道は暗い。佳津枝の家の近くまで来たとき、光太郎は彼女を抱き寄せてキスをした。
 翌日の朝、佳津枝がやって来た。車は、光太郎の家の庭に置いてあった。佳津枝は、家族に挨拶をすると、光太郎を乗せて走り始めた。
「普賢様にお参りする?」
「そうだね。去年もお参りしたよね。」
バスと違って、車で行くとすぐだった。バスだと1時間以上もかかるのだが、車だと15分もあれば着いてしまう。
 正月はさすがに初詣客が多く、参拝するのに行列を作らなければならなかった。佳津枝は、今年も長い間祈っていた。
 参拝が終ると、岬の方に車を走らせた。瀬戸内の海は、冬でも静かである。二人は車から降りて浜辺を歩いた。冬の日が暖かく二人を包んでいる。
 象鼻が岬は、島が砂洲で繋がれ、その先に更に砂嘴が伸びていて、その姿が象の鼻のように見えることからこの名前がある。瀬戸内海でも絶景の景色のひとつなのだが、交通の便が良くないせいか訪れる人は少ない。
 二人は、お互いの想いは秘めつつも黙ったまま海岸の松林を歩いていた。
               −続く−







2026/06/08 5:08:28|小説「春の行方」
春の行方−22−
春の行方−22−

 スキーは、28日から大晦日までの予定である。
 28日の午後に上野駅を出て、途中で乗り換えながら鈍行列車で行く旅であるが、これが楽しい。最初は混んでいた電車も、東京から離れる毎に座れるようになる。5人はボックスの席を確保して、ビールやジュースなどを買い込んで既に宴会である。ここでも陽子はヒロインだった。冗談を飛ばしながらも笑顔を絶やさず喋り続けている。今までのヒロインだった久恵も、完全にお株を奪われたという感じで、静かにしている。
 スキー場のホテルに着いたときには、既に冬の陽は沈みあたりは薄暗くなっていた。男3人、女2人の別々の部屋に荷物を置くと、そのまま夕食である。このときも、陽子は賑やかだった。その話に、男達の笑い声が絶えない。食事を終えてから温泉に入り、その日は床に就いた。
 翌日からスキーが始まる。光太郎と陽子のために、大室はスキーや靴を借りるのを手伝ってくれた。いざスキーを付けると、これが大変である。レッスンのために緩やかな傾斜を歩いて行くのに何度も転んだ。それは陽子も同じで、転ぶ度に照れ笑いをしている。
 光太郎と陽子は、スキー場の開催する初心者用のレッスンを受けることにした。久恵と飯坂は、大室が教えることになり、3人はリフトの方に向かっていた。
 レッスンは疲れたが、運動神経の良い光太郎は比較的早くコツを飲み込むことができ、午前中には、緩い斜面でのボーゲンくらいは滑れるようになっていた。それに比べて陽子は大変で、何度も転んでいた。
 一日が終わったときは、みんな疲れていたが、特に光太郎と陽子はグッタリとしていた。食事のときも、陽子は静かだった。食事を終って、飲みながらお喋りをしているとき、コクリコクリと居眠りをしていた。
 3日間のスキーはアッという間に終った。
光太郎は、緩斜面でなら何とか滑れるようになっていた。やっと面白さがわかった頃である。また来たいと思った。
 スキーを終えて寮に戻ると大晦日の夕方である。光太郎は、佳津枝の家に電話をした。最初、父親が出てきたが、すぐに佳津枝に代わった。
「今、スキーから帰って来た、明日、そっちに帰るよ。」
「スキー、どうだった?楽しかったのね。」
「うん、お陰さまで。」
「明日は、何時ごろ?」
「うん、朝なるべく早く出るから、昼には着けると思う。」
「じゃあ、時間が決まったら教えて。駅まで迎えに行くわ。私、免許を取って車を買ったのよ。」
「そう、大丈夫?」
「アラッ、やだ。出発したら、電話をちょうだいね。」
「うん、じゃあネ。」
「はい、良いお年を。」
光太郎は、スキーの疲れもあってすぐに寝た。
 元旦の朝は忙しかった。昨日の夜、疲れで早く寝たので、荷造りも残っている。やっと支度を終えて寮を出ようとしたとき、ふと郵便受けを見ると一恵からのメモがあった。それを読むゆとりもないままポケットに押し込むと、急いで駅に向かった。
 元旦の電車は空いていた。初詣に行ったらしい人達が、破魔矢を持っている。
 座席指定を取らなかった新幹線の自由席も空いていた。光太郎は、ポケットに手を入れたとき、紙片があるのに気が付いた。一恵からのメモだった。
           −続く−







2026/06/07 5:02:49|小説「春の行方」
春の行方−21−
春の行方−21−

 一恵からのメモは、クリスマスイヴの夜に会いたいというものであった。
 しかし、その日はスキーの打ち合わせを兼ねて寮の仲間と飲む約束があった。光太郎はその旨をメモで返したが、一恵は再度、じゃあその翌日にと言って来た。
 イヴの夜は、スキーに行く仲間5人が集まった。男は、大室、飯坂、光太郎、女は久恵と今年の新人の陽子である。
 陽子は、陽気にはしゃいでいた。彼女がいるだけで、その場の雰囲気が明るくなる。
 光太郎は、スキーのウエアは準備するが、スキーと靴は借りることにした。行き先は湯沢である。それだけ決まると、後は飲むだけである。みんな冬の休みに期待しつつ楽しく飲んだ。しかし、光太郎は明日の一恵との約束が気にかかっていた。久恵の顔を見る度に後ろめたい気持ちになる。
「三永さん、何か元気がないんじゃない?」
 陽子の言葉に、ハッとして言った。
「いや、何でもないよ。ちょっと考え事をしていてね。」
そんな会話を、久恵は怪訝そうな顔をして聞いていた。
 翌日、光太郎は残業があったので、会社から直接スナック「再会」に行った。時間は9時を過ぎていた。店では、一恵がカウンターで飲んでいた。他にも客がいて、カラオケを歌っている。光太郎がビールを頼んで、一恵と乾杯する。
「メリー・クリスマス!」
「メリー・クリスマス!」
一恵は、光太郎と目を合わせると、軽くウィンクをした。
 しばらく飲んでいたとき、客の誰かがブルース調の歌を歌い始めた。そのとき一恵が「踊りましょうか。」と言った。
 光太郎は、一恵に手を取られてフロアに立った。ダンスの知識も経験もなかった。
 しかし、一恵は上手に光太郎をリードした。ブルースの緩やかな曲に、光太郎は軽く身体を揺するだけだったが、けっこう雰囲気は盛り上がる。一恵の胸の膨らみが、光太郎の胸に触れた。光太郎の股間が膨らみ、一瞬腰を引くようにしたが、一恵はそれを感じ取っているようだった。
「これが終ったら出ましょうか。」
一恵が耳もとでささやいた。光太郎は小さく頷いた。
 店を出ると、そのまま最初に行ったラブ・ホテルに向かう。チェックインを終えて部屋に入ると、光太郎の方から一恵を抱き寄せてキスをした。一恵も、しっかりと光太郎を抱き、強いキスを返した。
 ダンスの効果か、光太郎はいつになく情熱的になった。普段は、どっちかというと一恵の方が積極的だったが、この日は違った。
 愛の行為が終った後で、一恵が言った。
「今日の三永君、とても素敵だったわ。」
「うん、前中さんの魅力に負けたのかな。」
「三永君って、恋人がいるのでしょう。しかも東京じゃないわね。故郷?」
「エッ?」
「わかるわ。だって、私だって女ですもの。」
「はい・・・・・」
「セックスが初めてじゃなさそうだし、しかも遊んだという経験じゃないわ。それに、心もどこかよそにあるみたいだし。」
「・・・・・」
「彼女を大事にしなければダメよ。私、彼女を守るためにこうしているのかしらね。」
 そう言って、一恵は笑ったが、その笑いには寂しさがあった。
           −続く−