春の行方−25−
電車が走り佳津枝の姿が見えなくなると、光太郎は空虚な世界に落ちたような気がした。今まで、佳津枝のことをこんなに意識したことはなかった。今回は、スキーに行ったため滞在できたのは正味3日、その中で佳津枝と一緒にゆっくりできたのはほんの数時間だけだった。そのことが、未練を大きくしたのであろうと思った。 しかし、電車が東京に着いて寮に戻ったとき、光太郎の心はすっかり東京モードに戻っていた。部屋に荷物を置くと、そのままお土産を持って久恵の部屋のチャイムを鳴らした。部屋の明かりが見えるから帰って来ているはずである。久恵はすぐに出てきた。 「俺、今帰って来たんだ。これ、故郷のお土産、大した物じゃないけど。」 光太郎は、そう言いながら買ってきた土産を差し出した。 「あっ、三永君も帰って来てくれたのね。わたしも、お土産があるの。ところで三永君のって、かまぼこじゃない。私のは、浜名湖のうなぎの白焼きなのよ。明日からの仕事の予定がわからないし、私の部屋で一緒に食べちゃわない?」 「うん、そうだね。じゃあ、俺、部屋からビールを持って来るよ。」 「ねえ、大室君にも声を掛けましょうか。」 「僕達二人だけで、いいんじゃない。」 「そうね・・・・・」 そこまで聞いた光太郎は、部屋に戻って冷蔵庫から冷えているだけのビールを腕に抱えて、久恵の部屋に戻った。 光太郎が戻ってきたとき、久恵は、自分で持ってきた鰻の白焼きと光太郎の持ってきた蒲鉾を切って皿に盛り付けていた。 1年半が過ぎるが、久恵の部屋に入ったのは引っ越しのとき以来二度目である。部屋の雰囲気は、光太郎の部屋とは随分違うが、居間には小さなテーブルがあるだけだった。 そこで、鰻の白焼きと蒲鉾でパーティーである。二人は、光太郎の持ってきたビールを飲みながら食べたが、どっちも地域の名産だけあって、美味しかった。 「三永君は、お正月楽しく過ごした?」 「うん。お陰さまで。久恵さんはどうだった?」 「ええ、ずっと家族と一緒だったの。でも、最初は良いけど、正月ってある意味退屈ね。だって、みんな忙しそうだし、ゆっくり話もできないでしょう。」 「そうだねえ、どんなに離れていても、家族で話し合わなければならないことなんて、そんなにたくさんある訳じゃないしね。」 「男の人って、特にそうみたいね。でも、女の気持ちって、ちょっと違うのよ。」 「どう違うんだろうねえ。」 光太郎は、つまみを食べ、ビールを飲みながら聞いた。 「そうねえ、私だって女だからお喋りは好きよ。でもそのお喋りも、聞いて欲しい人の前で喋りたいわ。今は、その人が私の家族じゃないの。」 光太郎には、久恵の言っている言葉の意味がわからなかった。 「ふ〜ん・・・・・」 光太郎は、意味がわからないままに生返事をしていた。 ―続く― |