春の行方−39−
光太郎は、病院のベッドで新年を迎えた。母親と佳津枝は、近くのホテルを取り、そこから病院に通っていた。その間に、医師と相談し、正月明けには光太郎を松戸の病院に移して、脳の検査をすることになった。
4日、光太郎は松戸の病院に移された。母親と佳津枝も一緒である。
「佳津枝、仕事は大丈夫なの?」
「大丈夫よ、会社にはちゃんと断ってあるから。」
母親は農閑期であるから心配はないが、佳津枝には仕事がある。どんな理由で休みを貰ったのか気になったが聞きはしなかった。
その間、先に帰って来ていた大室や久恵も見舞いにやって来たし、会社の課の仲間や寮の外のメンバーも見舞いに来た。その中に、一恵もいた。みんな、佳津枝のことを誰だろうというような顔で見ているのに気付いていた。明らかに妹でないことには気付いているようだった。
脳の検査の結果は、軽い内出血を起こしているということであった。現在のところ、特に障害はないが、状況によって固まった血が動いたりすると障害が出て来る可能性があるという。手術も脳の奥の方なので難しく、失敗すれば却って障害が出るとのことで、結局、医師も手術は断念した。
検査結果が出ると、佳津枝は帰って行った。母親は残って、光太郎の身の回りの世話をした。ベッドの傍にいた母親が、光太郎に言った。
「佳津枝さん、お前のことを随分心配していたんだよ。私がお前が怪我をしたと電話をしたら、すぐに行きましょうと言ったのは、彼女だったの。」
光太郎は、申し訳なさそうにその話を聞いていた。
松戸の病院に移ってから、しばらくすると、松葉杖を使って歩けるようになった。しかし、入浴だの着替えなどができないので、入院生活はギブスが取れるまでできない。母親も帰って行った。そのとき、見舞いに来ていた久恵に、すみませんが何かあったらよろしくお願いしますと頼んでいた。
久恵は、仕事の帰りなどに病院に寄ってくれて、何か用事はないかと聞いた。大抵のことは自分で出来たので、特に頼むことはなかったが、たまに本や雑誌などの買い物を頼んだ。そのとき、久恵が言った。
「お母さんと来ていた女性、三永君の婚約者だってね。とても、きれいな人じゃないの。私、三永君に婚約者がいるって全然知らなかったわ。」
「婚約しているわけじゃなくて、幼馴染みなんだよ。子供の頃からの近所付き合いなんだ。」
「でも、仕事を休んでまで来てくれたんでしょう。三永君のことを好きなのね。」
「うん、そうかも知れない・・・・・」
光太郎は、この期に及んで、まだはっきり言わない自分に呆れていた。
しかし、久恵は懲りずに病院に来てくれた。それが男女の気持ちの表れなのか、あるいは同期としての友情なのか、光太郎にはわからなかった。
1か月後にギブスが取れて、退院になった。脳の後遺症は特に出ないようで、退院前の検査でも特に異常は認められなかった。1か月半ぶりに、光太郎は仕事に復帰した。
−続く−