男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2022/02/23 7:56:06|小説「春の行方」
春の行方−37−
春の行方−37−

 日曜日の中華料理屋は、人も少ない。3人は、腰を落ち着けて飲んだ。光太郎は、ソウル旅行の後でどうしたのかと聞かれるのが怖かったが、大室と久恵もなぜ二人でこの店に来たのかと聞かれるのが怖いのか、話はソウル旅行中のことに集中していた。お互いに、痛いところに触れられたくない、触れないという黙契があったかのようである。光太郎も、敢えて二人がなぜここに来たのかは聞かなかった。
 食事を終えて、寮に戻る。光太郎と久恵は同じ階の隣同士であるが、大室は階が違う。二人は、大室と別れるとそれぞれの部屋に歩いて行く。いつも二人で出掛けたときなら、ここでキスをしたりすることがあるのだが、この日はお互いに小さな声で「おやすみ。」と言っただけで、それぞれの部屋に入って行った。
 その夜、光太郎は、久恵と大室が二人で食事に来ていたことが気になった。冷静に考えれば、そんなに変なことでもない。たまたま二人が出掛けるときに出会い、ラーメンが食べたいと思ったとしても不思議ではないのである。しかし、もし二人が二人だけで食事に行きたいと相談して行ったのなら、それはまた全く違う事情である。大室が久恵に気があることは、前にも告白を受けていた。しかし、久恵が自分に気があるとも思っている。あるいは、久恵の気持ちが大室に移ってしまったのか。そんなことを考えているうちに、酔いと疲れもあって、光太郎はいつしか眠りに就いていた。
 翌日から仕事が始まった。入社2年以上が過ぎた光太郎も、忙しい日々を送るようになっていた。日中はお得意さん回りが続き、オフィスに戻ってからは事務処理で忙しかった。寮に帰るのは12時近くになることも多くなっていた。そんな忙しさの中でも、週末は月に一回の割合で寮の仲間と飲んでいた。
 また一恵からも、ひと月に一回の割合で誘いがあった。一恵は、逢瀬には慎重だった。
 日曜日の夕方に、寮の人間の来ることのないスナック“再会”に誘った。ここだと場末であるし、他人の目に触れることはまずと言って良いほどない。そして寮の反対方向にあるラブホテル、彼女が冷静な性格と頭脳の持ち主であることがわかる。光太郎は、最初、彼女の強引さに不愉快さを覚えていたことが、次第に親しみに変わっていることに気付いていた。
 それにもうひとつ彼女の魅力に気付いていた。それは佳津枝とは違うセックスである。佳津枝は彼女の性格のとおり、受動的なセックスだった。それに比べると、一恵は積極的で自己主張のあるセックスである。男にとって、どっちが良いとは言えない。セックスもまた相性の問題なのである。
 秋も深まったある日、寮の仲間の飲み会のとき、大室が、「今年もスキーを計画した。」と言った。
光太郎にとって、行くべきかどうか、また決断のときが来たのである。
                −続く−







2022/02/22 6:12:34|小説「春の行方」
春の行方−36−
春の行方−36−

 福岡空港に到着すると、そのまま電車で光の町に向かった。駅には、佳津枝の父親が迎えに来ていた。
 故郷では1晩しか滞在できなかった。母親は寂しがったが、それでもお前が楽しい夏休みを過ごせて良かったと言ってくれた。
 翌日は、光太郎の父親が駅まで送ってくれた。佳津枝と彼女の母親をピックアップすると、そのまま徳山の駅まで行き、新幹線で佳津枝は広島に、光太郎は東京に向かう。
広島駅で降りる時、佳津枝が言った。
「また、どこか外国に行きましょうね。」
光太郎は、うんと返事をした。そのときは、本当に佳津枝と二人でヨーロッパにでも行きたいと思っていた。佳津枝は、電車を降りると、出発するまで光太郎を見送っていた。
 寮に戻り、取り敢えず部屋に荷物を置いて、夕食をどうしようかと考えた。久恵に声を掛けようかと思ったが、韓国旅行の後でどうしたのかと聞かれるのが億劫で一人で出掛けた。疲れもあって飲みたくなかったので、寮の近くの中華料理店に入った。韓国にいるときから、なぜかラーメンが食べたい気になっていたのである。
 ビールを1本だけ飲んで、注文したラーメンと餃子が出て来たときである。店のドアが開いて客が入って来た。見ると、大室と久恵だった。
「なんだ、三永じゃないか。」
いち早く光太郎を見付けた、大室が言った。
「ああ、君達も来たの。」
光太郎は、二人が一緒に来ることを訝りながらも、それは表情に出さずに言った。
「いつ、帰って来んだ。昼に行ってみたけど、帰って来ていなかったみたいだったけど。」
「うん、さっき帰って来たばかりなんだ。取り敢えず、お腹が空いていたもので。」
 この間、久恵は黙っていた。あるいは、大室と二人で行動していたことを見られて気にしているのかも知れない。この店は、寮の仲間が一緒に来る店ではなかったからである。二人も、それぞれラーメンを注文した。ちょっと気まずい雰囲気が流れる。
 食べるのを遠慮していた光太郎に、久恵が言った。
「麺が伸びるから、遠慮しないで食べて。」
その言葉に救われたように、光太郎はラーメンに箸をつけた。その間、大室と久恵はビールを飲んでいた。光太郎が食べ終わったときに、二人のラーメンが出来て来た。再び、気まずい雰囲気が流れる。
 光太郎は、帰るのも変だし、かと言って二人が食べているのを見ているのも変な感じである。
「すみません、ビールを1本!」
光太郎は、店員にそう告げた。
 二人がラーメンを食べている間、光太郎は一人でビールを飲んでいた。沈黙が、余計に3人を気まずくさせた。久恵より先に食べ終えた大室が、「すみません、ビール!」と言った。
そして二人に言った。
「やっぱり飲むか!」
「そうだな。」
男二人の言葉に、初めて久恵の笑顔が見られた。
              −続く−







2022/02/21 6:00:34|小説「春の行方」
春の行方−35−
春の行方−35−

 翌日のみんなの出発は朝の10時である。仁川の空港に見送って行ったが、それから佳津枝が来るまでに5時間もある。光太郎は、それまでの時間をどうすることもなく、空港内の店を見て回ったり、食事をしながらひたすら佳津枝が来るのを待っていた。
 佳津枝の乗っている便の到着を告げるアナウンスがあった。到着ロビーで出迎える。佳津枝はノースリーブのシャツにジーンズ姿である。光太郎の姿を見付けると、大きく手を振った。
 二人は、これから泊まるホテルにタクシーで向かった。二人共韓国語はダメなので、運転手に地図の入ったホテルの案内書を見せた。タクシーの中でも、佳津枝はやや興奮気味で、話続けていた。
 ホテルでチェックインを済ませると、部屋に入ってキスを交わす。抱擁の中、佳津枝の乳房の膨らみが光太郎を刺激した。光太郎が佳津枝をベッドに押し倒そうとすると、「待って、シャワーを浴びてから。」と言った。一緒にシャワーを浴び、愛の時間を過ごした。
 夏の日もすっかり沈んで、外は暗くなっている。光太郎は、佳津枝を夜の明洞の町に連れて行った。行き先は、昨日の居酒屋である。韓国酒と韓国料理に佳津枝も舌鼓を打っている。異国でのことだと思うと、いつも佳津枝のマンションで飲んでいるのとは違った雰囲気である。
 隣に座った青年が韓国語で佳津枝に話し掛けて来た。佳津枝がキョトンとしていると、今度は英語で話し掛けて来る。どこから来たのかとか、韓国は初めてかなどと聞いている。佳津枝は、笑顔で話に応じていた。更に、市内を案内しようかなどと言っている。光太郎は、嫉妬のようなものを覚えていた。その感情が刺激になったのか、光太郎はホテルに帰ると、再び佳津枝に挑んで行った。
 翌日は、ソウル市内の観光である。光太郎は、昨日まで見て来たところを案内して歩いた。まずは、市内が見渡せるソウルタワーに上り、その後で景福宮、博物館、李王朝の位牌の祀られた宋廟(チョンミョ)などを見て歩き、午後には南大門の市場に行った。ここは、日本で言えばアメ横のような雰囲気の町である。食材や、ブランド物に見立てられたバッグなどを売っている。
「おねえさん、これ本物の偽物。安いよ。」などと声を掛けて来る。佳津枝は楽しそうにその様子を見ていたが、さすがに豚の頭が並べられている店の前に来ると気味悪そうにしていた。
 南大門の後は、仁寺洞(インサドン)の町を歩く。ここは骨董品や美術品などを売っている店が並んでいて、佳津枝は興味深そうに見ていた。そしてお土産にするのだと言って、小さな人形を買っていた。
 この日の夕食はレストランでとったが、メニューはやはり韓国料理である。光太郎は焼肉を、佳津枝は鶏料理であるサンゲタンにした。ビールを飲みながらの韓国料理は美味しい。佳津枝は、本当に楽しそうにしていた。
 3日目は、午前中に明洞の町を散策して過ごし、午後からはスーパーでキムチやお菓子などのみやげを買いに行った。
 観光地を歩き回るのも楽しいが、こうしてゆっくり過ごすのも異国の旅の楽しみである。佳津枝はしばしば光太郎のと腕を組んで歩いていた。
 4日目は帰国である。楽しい時間の過ぎるのは早い。飛行機に乗っても、佳津枝は楽しかったを繰り返していた。
 帰りの飛行機の中、佳津枝が言った。
「また、外国に行きたいわね。」
「そうだね。」
光太郎が答えた。
               −続く−







2022/02/20 6:44:25|小説「春の行方」
春の行方−34−
春の行方−34−

 お盆の休みが始まると、その日に成田からソウルに向けて出発する。メンバーは5人、山野、大室、光太郎と男が3人、女は久恵と新入社員の陽子である。
 陽子は海外旅行は初めてらしく、空港に着いたときからはしゃいでいた。いつものおどけた調子である。飛行機が成田を出発すると、2時間ちょっとでソウルに着き、現地のガイドの案内でホテルに向かう。ホテルは、明洞(みょんどん)の町の近くにあった。部屋は2室、男3人と、女2人がそれぞれ1部屋ずつである。部屋に荷物を置いて落ち着くと、夕刻である。早速飲みに行こうということになった。
 明洞の町は繁華街である。飲み屋が並んでいて、若者がたくさん歩いている。ちょうど原宿の町を歩いているような雰囲気だった。居酒屋のような店に入ると、キムチのにおいがする。5人は、ビールや韓国のお酒などをそれぞれ注文すると、早速突き出しのキムチを肴に乾杯をした。
 韓国は、食の国である。出てくる食べ物は日本人の口に合っているし、お酒も美味しい。店は、既に韓国の若者で一杯になっている。隣に座った韓国の若者が、久恵や陽子に英語で話し掛けて来る。
 久恵は上手に相手をしているが、陽子の方は笑顔で話しながらも、言っている内容はとんちんかんなものだった。韓国の若者に親しそうに話している女二人に、日本の男達は憮然として酒を飲んでいた。
 その店で2時間ほど飲んで、5人は店を出て明洞の通りを歩いた。通りは若者達で溢れかえっていて歩くのもままならないほどだった。見るもの全てが珍しかったが、光太郎は3日後に佳津枝が来たらどこに連れて行こうかと観察を怠らなかった。
 翌日はソウル市内を観光した。その翌日は李王朝の宮殿である景福宮(キョンボックン)や博物館、宋廟などを観光した。聞けば秀吉の朝鮮出兵のおりに宋廟も焼かれており、この頃からこの国は日本の犠牲者だったのである。夜は、南山のソウルタワーに登る。この塔から見えるソウルの夜景は素晴らしかった。光太郎は、佳津枝と二人で登れば、どんなに喜ぶだろうかと思っていた。
 その翌日は、板門店に行くことになっている。板門店は、南北朝鮮の唯一の交渉の場、今でも北と南は休戦状態なのであり、戦争が終ったわけではないのである。「何事があっても自己責任です。」の書類にサインをさせられて、5人は緊張の中で板門店に入った。さすがに久恵も陽子も神妙な顔をしていた。今まで陽気にはしゃいでいた陽子でさえ静かである。
 明日は帰国の日、ソウルの町に帰って来ると、5人は再度明洞の町に繰り出した。お代わり自由のキムチだけで飲むものもいれば、サンゲタンや焼肉などを食べている者もいる。食の国韓国の夜を思い切り楽しんでいた。
 飲んでいるとき、久恵が光太郎に言った。
「明日は、どうするの。私達の後で帰るんでしょう?」
「うん、みんなを見送ってからしばらくしてから福岡の方に帰るよ。」
「そう、気をつけてネ。」
「うん、久恵さんもね。浜松に帰るんだよね。」
「ええ、そうよ。またウナギパイでも買って来るわ。」
「じゃあ、僕はまた蒲鉾かなあ。」
 そんな話をしている二人に、大室の目が向いていることに気がつかなかった。
          −続く−







2022/02/19 4:58:37|小説「春の行方」
春の行方−33−
春の行方−33−

 久恵は話を続けた。
「でも、それからの三永君は、おとなしかった。脱いだシャツとズボンをキチンと折り畳むと、そのまま床にゴロンと寝てしまったわ。だから、何もなかった。心配しなくて良いのよ。でも、私にとっては残念なような気もするんだけど。」
「そうか。そうだったのか・・・・・」
 光太郎は、半分ホッとしたような、半分残念なような気がしていた。以前から思っていたのだが、今日話して見て、まんざら久恵も自分に気がないでもないことが確認できる。そんな久恵と二人きりでいながら、何でもなかったのは残念である。でもお陰で、佳津枝を裏切らなかったという安堵感もあった。
 一恵と身体の関係がありながら佳津枝を裏切らないということについては、矛盾もあるだろう。しかし、光太郎の立場に立ってみれば、心まで移した場合が真の愛情である。愛情抜きの肉体関係は必ずしも佳津枝を裏切ったとは言えないと思っていた。
「それを聞いて、三永君の感想は?」
ニヤニヤしながら久恵が聞いた。
「そうか、寝るときにはちゃんと着ている物を畳むように母親から躾けられていたからなあ。」
光太郎は、ホッとしながらそう言った。
 そのときから、二人で飲みに行くときは、池袋の「ふるさと」に決まっていた。大抵は寮の仲間と一緒に駅前の居酒屋でワイワイ飲むのだが、たまには久恵と二人で飲みたいときがある。そんなときはメールで誘い合って飲みに行くのだが、光太郎は営業で週日は予定が立たないことが多いので、週末に行くことになり、2月に一回くらいの割でしか行けなかった。
 入社3年目の夏休み前のこと、寮の仲間で飲んでいるときに、先輩の山野が韓国に行かないかと言い出した。何人かが「いいね。」と言い、その中には大室も久恵もいた。3泊4日のツアーで安いのがあるようだった。光太郎は、今回も返事を躊躇した。すぐに思い浮かぶのは佳津枝のことである。
 佳津枝からは、毎日のようにメールが来ていた。その中には、夏休みに逢えることを楽しみにしているようなことが書いてある。その都度、自分も帰ることを楽しみにしているような返事を出していたから、韓国旅行に行くので帰れないと言えば佳津枝は失望するだろう。また光太郎の悩みの日々が続くことになった。
 光太郎は考えた。夏休みは、土日を入れれば9日になる。旅行は4日である。旅行が終って、ソウルから福岡空港に帰れば故郷まで近い。3日は故郷に滞在できることになる。光太郎は、佳津枝に仲間と韓国に行くことになりそうだとメールを送った。すると佳津枝から、自分も行きたいと言って来た。再び、光太郎は考えた。寮の仲間と一緒に佳津枝を連れて行くことはできない。では韓国で落ち合うというのはどうだろう。早速、光太郎はそのことをメールで提案した。佳津枝からは、すぐに賛成の返事が帰って来た。
 光太郎は、早速、計画を立てた。最初に、寮の仲間とソウルに行き、ツアーが終るとそのままソウルに滞在して佳津枝を待ち、合流するともう一度ソウルを観光し福岡空港に戻る計画である。
 光太郎は、山野に「自分も行きたいが、帰りは別行動にしたい。」と言った。その方が、故郷に近いことを理由にした。
 計画を作ると、早速、パスポートの取得などの準備にかかった。
            −続く−







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