春の行方−37−
日曜日の中華料理屋は、人も少ない。3人は、腰を落ち着けて飲んだ。光太郎は、ソウル旅行の後でどうしたのかと聞かれるのが怖かったが、大室と久恵もなぜ二人でこの店に来たのかと聞かれるのが怖いのか、話はソウル旅行中のことに集中していた。お互いに、痛いところに触れられたくない、触れないという黙契があったかのようである。光太郎も、敢えて二人がなぜここに来たのかは聞かなかった。 食事を終えて、寮に戻る。光太郎と久恵は同じ階の隣同士であるが、大室は階が違う。二人は、大室と別れるとそれぞれの部屋に歩いて行く。いつも二人で出掛けたときなら、ここでキスをしたりすることがあるのだが、この日はお互いに小さな声で「おやすみ。」と言っただけで、それぞれの部屋に入って行った。 その夜、光太郎は、久恵と大室が二人で食事に来ていたことが気になった。冷静に考えれば、そんなに変なことでもない。たまたま二人が出掛けるときに出会い、ラーメンが食べたいと思ったとしても不思議ではないのである。しかし、もし二人が二人だけで食事に行きたいと相談して行ったのなら、それはまた全く違う事情である。大室が久恵に気があることは、前にも告白を受けていた。しかし、久恵が自分に気があるとも思っている。あるいは、久恵の気持ちが大室に移ってしまったのか。そんなことを考えているうちに、酔いと疲れもあって、光太郎はいつしか眠りに就いていた。 翌日から仕事が始まった。入社2年以上が過ぎた光太郎も、忙しい日々を送るようになっていた。日中はお得意さん回りが続き、オフィスに戻ってからは事務処理で忙しかった。寮に帰るのは12時近くになることも多くなっていた。そんな忙しさの中でも、週末は月に一回の割合で寮の仲間と飲んでいた。 また一恵からも、ひと月に一回の割合で誘いがあった。一恵は、逢瀬には慎重だった。 日曜日の夕方に、寮の人間の来ることのないスナック“再会”に誘った。ここだと場末であるし、他人の目に触れることはまずと言って良いほどない。そして寮の反対方向にあるラブホテル、彼女が冷静な性格と頭脳の持ち主であることがわかる。光太郎は、最初、彼女の強引さに不愉快さを覚えていたことが、次第に親しみに変わっていることに気付いていた。 それにもうひとつ彼女の魅力に気付いていた。それは佳津枝とは違うセックスである。佳津枝は彼女の性格のとおり、受動的なセックスだった。それに比べると、一恵は積極的で自己主張のあるセックスである。男にとって、どっちが良いとは言えない。セックスもまた相性の問題なのである。 秋も深まったある日、寮の仲間の飲み会のとき、大室が、「今年もスキーを計画した。」と言った。 光太郎にとって、行くべきかどうか、また決断のときが来たのである。 −続く− |