春の思い出−7−
大学を卒業して、私は、隣の県に就職した。小さな商社であったが、地元では堅実で有望ということであった。久美子の方は、教員採用試験を受かり、中学校の教諭になっていた。休みの度に、久美子は私に会いに来ていた。私が久美子のところに行くと、教諭という立場もあって目立つからである。 就職して2年ほど過ぎたときである。久美子が突然のように、私に言った。 「私、結婚することになったの。」 親の勧める縁談があって、どうしても断れないのだと言った。 私は驚いた。当然のように、私と結婚してくれると思い込んでいたのだ。「私も、気の進まない縁談だわ。でも親の義理のような関係で、どうしても断れない事情があるの。私が好きなのは、あくまであなただわ。あなたのことは、決して忘れないわ。」 久美子は、そう言った。 久美子の結婚式には私も呼ばれたが、盛大なものだった。後で、噂で知ったのだが、彼女の父親の経営する会社が倒産寸前になったとき、新郎の父親が多額の融資をし、経営難を救ったらしいのである。そしてその父親が久美子を気に入り、是非息子の嫁にということになったようであった。 久美子が結婚してからしばらくは、私は元気がなかった。やはりショックだった。今更どうなるわけでもなく、私は諦める努力をした。諦めようとすればするほど久美子のことが忘れられなかった。 1年が過ぎ、やっと久美子のことを忘れていた頃である。突然、久美子から電話があった。 「会いたい。」というのである。「どうしたの。」私が聞く。「とにかく会いたいの。訳は、後で話すわ。」 土曜日の午後、久美子は電車に乗って、私のところにやって来た。私は駅まで迎えに行って、そのまま喫茶店に入ろうとすると、「あなたの部屋に行きましょう。」と言う。私は、自分のマンションに久美子を連れて行った。 私が久美子を部屋に案内すると、久美子はいきなり私に抱きついてキスをした。 「私、あなたのことが忘れられないの。何があっても、あの結婚はすべきでなかったわ。あなたを愛しているわ。」 涙ながらにそう言った。その言葉を聞いて、私は強く久美子を抱きしめた。 −続く− |