若草の唄−04−
紀美子は女、相手は男二人、所詮かなう相手ではなかった。掴み掛かって行ったものの、すぐにねじ伏せられてしまった。男の一人は、紀美子に馬乗りになって押さえつけている。私は当時体格も小さく力もなかったので、すぐに出て行く勇気もなくしばらく様子を見ていた。
「さあ、謝れ!」
馬乗りになった男が言った。
「いやよ、なんで謝らなければいけないの?」
紀美子は、頑として謝ろうとはしない。
「それならこうしてやる!」
男の子は、平手で紀美子の頬を叩いた。
「痛い!何をするの?」
「まだ謝らないか!」
更に男の子が叩こうとした。
このとき、私は出て行って、馬乗りになっている男の子を突き飛ばした。もう一人の男の子が私に突っかかってきた。取っ組み合いの喧嘩になったが、すぐに私はねじ伏せられて、二人の男の子達からボカボカと殴られた。10分ほど殴られ続けて、顔中傷だらけになったところで、男の子達は帰って行った。
「ごめんね。私のために。」
「いや、いいんだ。あいつら、いけない連中だ。」
そう言いながら、私は殴られても、出て行って良かったと思った。もし、あのまま知らない顔をしていたら、きっと将来とも後悔していたに違いないと思う。私は紀美子に幼いながらも恋心を抱いていたのではないだろうかと思う。自分の女が苛められていることにどうしても我慢ができない、そんな気持ちがあったのではないかという気がしている。 そして、その時が、私が紀美子を助けた唯一の場面であったように思う。
小学校も高学年になるに従って、紀美子の存在は学校でも有名になって行った。成績は抜群であるし、可愛さでも群を抜いていた。テストはほとんど満点であったし、先生の質問にもほぼ完璧な答えを出していた。
一方、私はといえば相変わらず平凡で目立たない存在だった。学校ではお互いに話をすることはなかったが、家への帰り道などでいっしょになると話をした。
そんな彼女であったが、自分の成績の良さを驕るようなことは少しもなかった。
−続く−