男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2022/05/25 5:31:49|小説「若草の唄」
若草の唄−20−
若草の唄−20−

 翌日、娘の美和子から電話がかかって来た。
「お父さん、お母さんから電話あった?」
「うん、あったけど。」
「どう言ってた?」
「どうって言うか・・・・、賛成なのか、反対なのか、よくわからないんだ。おまえには何と言ってたの?」
「お父さんに相談してみるって・・・」
「どうやら、自分だけ置いてけぼりで話が進められたように思っているらしいんだ。僕と紀美子さんも知っていたように思っているみたいなんだよ。」
「やっぱりね。」
「何が?」
「光太郎さんもそれを心配していたの。はっきり言うと、お父さんと紀美子さんのことをお母さんがヤキモチ焼いているんじゃないかってね。」
「馬鹿な・・・」
娘の手前そうは言ったものの、私も同じことを考えていた。
「紀美子さん、きれい過ぎるわ。それに頭もいい人だし、女だったら素晴らしいと思う反面、誰だってヤキモチを焼くと思うわ。」
「そうか・・・」
「心配しないで。私達、諦めはしないから。二人の気持ちは決まっているの。ただ家族には賛成して欲しいから、もうちょっと時間をかけてお母さんを説得するわ。」
「近いうちに一度家に帰るよ。お母さんと話してみる。」
「そうね、そうしてもらえると嬉しいわ。」
それだけ言うと、電話を切った。しかし、私は家に帰っても何と言っていいのかわからなかった。
 嫉妬は難しい問題である。理屈や理性ではなく、感情の問題だからである。昨日の美和子の言葉から察するに、結婚そのものに反対しているのでもなさそうである。反対するとすれば、理由は光太郎が片親であることと、私の幼馴染みの紀美子の息子であることであろうが、光太郎には片親の暗さは微塵もなかった。となると、理由は後者であり、明らかに背景には嫉妬がある。しかし、妻は決して嫉妬していることは口には出さないであろう。他に理屈を言うはずである。嫉妬を口に出してくれれば潔白の証しもできるのだが、それを抜きに他のところで話をしながら説得しなければならない。話の糸口をどう掴んで行ったらいいのか、それを考え続けていた。
 何と言っていいかはっきりわからないまま、一週間後私は新幹線に乗っていた。
                       −続く−







2022/05/24 5:43:47|小説「若草の唄」
若草の唄−19−
若草の唄−19−

 娘の美和子から電話があったのは、それから3か月ほどしたときだった。
「お父さん、元気?」
「ああ、元気だよ。」
こんな会話から始まって、とりとめもない話が続く。いつも電話では用事以外にはあまり話さない美和子がこんなに長話をするのは変だと思っていたら、10分ほどしてやっと本題に入った。
「実は、私、光太郎さんと結婚したいの。」
「そうか・・・」
「お父さんは賛成してくれるわね。」
「うん。それでお母さんにはもう話したの?」
「いえ、まだなの。先にお父さんに賛成して欲しくって。」
「うん、それはいいけど、お母さんはどういうのかなあ。」
「私、これからお母さんが帰って来たら話そうと思って。」
「僕から話そうか?」
「いえ、いいの。私から話すわ。でも、もし反対されたらお父さん助けて。」
「うん、いいよ。」
「じゃあ、切るわね。結果は、明日電話するわ。」
「うん、しっかりね。」
本題が終わるとすぐに美和子は電話を切った。
 妻がどういうか、私には想像がつかなかった。他のことなら長年いっしょにいたので何を考えているかおおよそ想像がつくのだが、この件についてはまるで想像がつかない。私は、気を揉みながら待っていた。
 翌日まで待つ必要はなかった。その日の夜遅く、妻から電話があった。
「あなた、今日、美和子が結婚したいって言い出したの。」
どうやら美和子は、私に話したことは妻には言っていないようである。私は、話を合わせることにした。
「そうか、それで相手は誰なんだ。」
「光太郎さんよ、紀美子さんの息子さん。」
「そうか・・・」
「あなた、どうお思いになるの。」
「どうって?」
「何で、あの二人がそんな仲になったのか不思議じゃない?」
「うん、この前来たとき、メール交換をしているって言っていたけど。」
「あなたは、この話を知っていたのね。」
「知っていたというか、そんな気配はあったけどね。まさか結婚とはね。」
「あなたは賛成なの?」
「当人同士が好き合っているのなら、仕方ないと思うけどな。おまえの気持ちはどうなんだ。」
「私は、何となくすっきりしないわ。」
「何が?」
「何だか、私だけ置いてけぼりにして話が進められていたような気がするの。」
「・・・・・」
「この話、紀美子さんも知っていたんでしょう。」
「さあ、それはどうかな。今頃、光太郎君が話している頃じゃないのかな。」
「本当に、二人だけで話を進めたのかしら。」
「そうじゃないのかな。僕だって、結婚の話は今お前から聞くのが初めてだからね。」
「でも二人が付き合っているのは知っていたんでしょう!」
「うん。」
「なぜ私に話してくださらなかったの?」
「二人の問題だからねえ。どうなるかわからないし、まさか結婚とはね。」
「だって美和子は私達の子供よ。それが付き合っている相手のことも話してくださらないなんて、おかしいわ。」
「う〜ん・・・」
 どうやら妻は、私と紀美子が知っていて自分だけがのけ者にされたことを不満に思っているらしかった。結局、その日はすっきりしないまま電話を切った。
              −続く−







2022/05/23 5:31:06|小説「若草の唄」
若草の唄−18−
若草の唄−18−

 3月に入って、学校を卒業した娘がやって来た。母親と私のむさ苦しい家が、若い娘がやって来たことで途端に明るくなった。娘は既に大阪の方に就職が決まっていたが、その報告だの、妻の様子などを楽しそうに話していた。
 そんな会話の中でのことである。
「ねえ、お父さん、光太郎さんっていたでしょう。」
「うん、小さい頃はよく一緒に遊んでいたよね。」
「私、光太郎さんに会いたいの。」
「えっ、でも中学校のときは話もしなかったじゃないか。」
「実はね、大学に入ってからのことだけど、彼とメールを交換をしていたの。」
「よくアドレスがわかったね。」
「ええ、彼から電話があって、私のアドレスを教えたの。」
「そうだったのか・・・」
 それを聞いて、私は複雑な気持ちだった。光太郎と美和子が結ばれればいい、そうは思っていたものの、実際に娘と彼がメールの交換をしていたとは夢にも思っていなかった。ここで会いに行きたいというからには、お互いの好意を持っているはずである。
 紀美子の息子と自分の娘が結婚する、親ができなかったことを子供達が成就する、本当に複雑としかいいようのない気持ちだった。おそらく紀美子もこのことは知らないだろう。知っていてとぼけるような紀美子ではなかった。
 結局、ここにいる一週間の間に、何度か娘は光太郎と逢ったようであった。その間に、どんな話をしたのか、気にはなったが、敢えて私は聞かなかった。
 娘は、大阪に帰って行った。私は娘を駅まで送って行った帰り道、そのまま紀美子の家に向かった。
「娘と、光太郎君が付き合っているみたいだね。」
「ええ、私も知らなかったわ。でも、お嬢さんとても素敵になったわね。」
「どうだろう、二人は好き合っているのかな?」
「光太郎も、付き合っていること以外、何も言わないのよ。」
「そうだね。若い者達のことは任せておくしかないのかな。」
「そうね、たとえ親でも口出しできることじゃないわね。」
「二人がいっしょになったとしても、それはそれでいいよね。」
「私はいいんだけど、そちらはいかがなの。奥さんがどう思うのかしら。」
「女房には、必要があれば僕からも話をするよ。」
 紀美子が妻の心配をするには、それなりの理由があると思う。ひとつは、光太郎が未婚の子供であること、もうひとつは私が紀美子に好意を持っていることを知っていて口には出せない抵抗感を持っていることである。妻がどう言うかはわからなかったが、反対されてもおかしくない理由は確かにあったのである。
            −続く−







2022/05/22 6:18:01|小説「若草の唄」
若草の唄−17−
若草の唄−17−

 帰り道、私はふと自分の娘と紀美子の息子の光太郎が結婚したらと考えてみた。私と紀美子は小さい頃から想い合っていた。それがはっきりとした恋愛感情ではないにせよ、好き合っていたことは確かである。その子供同士が結婚する、考えるだけで胸がわくわくした。
 しかし現実はなかなかうまく行かない。美和子は結婚なんかまるで考えていないようだし、聞けば光太郎だって結婚する気はないようだった。二人が最後に会ったのは美和子がまだ中学生の頃だったし、そのときは言葉さえ交わしていない。やっぱり無理な相談かと、一人笑いして諦めた。
 母親との生活は単調だった。寝たきりではないので食事は交代で作ったし、たまに町の病院に連れて行くくらいで、さほど手はかからなかった。昔からの畑で野菜を作ったり、僅かの田んぼを作るのは、小さい頃から農作業を手伝っていたので、苦にはならなかったし楽しみでもあった。静かに平和な時が過ぎて行った。
 単調な中にも楽しみはあった。採れた野菜を紀美子のところに持って行って、ゆっくり話をすることは大きな楽しみである。紀美子もまた私が行くのを楽しみに待っていてくれたようである。
 「私ね、この間プロポーズされたのよ。」
ある日、紀美子がおかしそうに笑いながらそう言った。
「えっ、それでどうするの?」
「どうって、この歳よ。まさか今更結婚だなんて。」
「愛に年齢はないんじゃない?」
私は、紀美子の言葉にホッとしながらもそう言った。
「でもねえ、光太郎も独立したし、一人でいると寂しいと思うこともあるわ。」
「うん、そうだね。結婚は、愛と言うより癒しの結婚があってもおかしくはないのかな。」
「光一君は、奥さんと離れていて寂しくないの?」
「うん、そうでもないよ。家とは毎日のように連絡を取っているし、あっちもうまくやっているようなんだ。」
「そう、じゃあ安心ね。」
行けばそんな会話を交わしながら、1時間ほど居るのが常だった。
 春が来た。娘の美和子も今年で大学を卒業である。そんなある日、娘から卒業したら一度お父さんに逢いたいと言って来た。
            −続く−







2022/05/21 5:28:30|小説「若草の唄」
若草の唄−16−
若草の唄−16−

 歳月は過ぎて行き、いつしか私も50歳になっていた。一人娘の美和子は20歳を過ぎ、大学を卒業しようとしていた。この頃、世の中はバブルの好景気が終わって、経済に日陰が見えていた。紀美子からの手紙によると、店も客が少なくなり、食べて行くのは何とかなるが、店の女の子の何人かには辞めて貰ったとも書いてあった。
 私は平の取り締まりになっていたが、この景気ではいつ退社を言い渡されるかわからない状態だった。辞めても子会社の席くらいは何とかなるのであろうが、それも気乗りがしなかった。幸いもうすぐ娘は卒業するから、経済的に逼迫することはないであろう。
 この頃、私の父は既に亡くなっていて、80歳に近い母親は体が不自由だった。ある日私は妻に、「会社を辞めることになったら、田舎に帰りたい。」と言った。妻は反対した。田舎に住んだことのない妻にとって、それは当然のことだった。その場ではそれ以上言わなかったが、私の故郷に帰りたいという思いは次第に募って行った。
 54歳のとき、社長に呼ばれて「後進に道を譲ってくれないか。」と、退職を申し渡された。私は家に帰ってそのことを妻に言うとともに、併せてもう一度故郷に帰りたいと言った。相談した結果、私だけしばらく母親の面倒を見るため田舎に帰ることにした。
 会社を辞めた4月の半ば、私は生活に必要な僅かな荷物とともに故郷の家に帰った。母親は喜んでくれた。早速、紀美子にも挨拶に行った。息子の光太郎は町で広告会社を設立していた。この不景気にも拘わらず仕事は順調とのことだった。紀美子の方は、たまに店には出るが、大抵のことは10年ほど前に雇った久美子という女の子に任せていると言った。私も何度か見たことがあるが、離婚経験があるが、気が利いていて感じのいい女性だった。
「光太郎君も立派になったし、店も任せられる人ができて、安心だね。」
「ええ、これまで長い人生だったわ。」
「ああ、確かに長かったね。」
「光一君も、これまで会社でよく頑張ったわよね。重役にまでなったんでしょう?」
「うん、そうは言っても平の取り締まりだから。」
「それでもすごいわよ。」
「紀美ちゃんも、あの店を立派に経営して来たものね。そして女手ひとつで光太郎君を立派に育て上げたんだから大変だったよね。」
「そうね、今まで言わなかったけど、中学、高校の時は大変だったの。あのときばかりは父親にいて欲しいと思ったわ。」
「反抗期がないと大人になって駄目みたいだよ。今、立派になっているんだからいいじゃないか。」
「そうね、でももうすぐ30歳、お嫁さんを捜さなきゃと思うんだけど、なかなか本人がその気にならないみたいなの。」
「うちにも適齢期の娘がいるんだけど、これがまた結婚する気なんかまるでないらしいんだ。」
「お互い、心配の種は尽きないわね。」
そう言って、二人は笑った。
                     −続く−







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