食虫花−01−
お盆の休みを利用して、好きな山登りのために、光太は朝早く家を出た。大山に登るためである。標高1,729mのこの山は、中国地方では唯一の日本百名山のひとつであり、冬はスキー場があることでもこの地方では珍しい存在である。光太は、電車で米子まで行き、市内で一泊し、翌日から登る予定である。 翌日も良い天気だったが、天気予報では夕立があるかも知れないと言っていた。朝早くバスに乗り、麓の登山口まで行くことにした。 大きなリュックサックを持っている光太を見て、隣に座った地元の男性が言った。 「お客さん、大山に登るのですか?」 「はい、日帰りで登るつもりです。」 「今の季節の大山はいいですね。でも気を付けてください。毎年、遭難したり行方不明になっている人がいるんですよ。去年も、若い男性が一人行方不明になっていて、未だに見付かっていません。」 そんな話を聞きながらも、光太は自分とは関係がないと思っていた。 登山口に着くと、早速、登山を始めた。登山ルートは幾つかあるが、比較的難しいルートを選んだ。往復で約8時間のコースとある。 朝早かったので、人は多くなく、まばらに見えている。若い人もいれば、けっこう年配の人もいた。 約2時間でブナの林を抜けるとガレ場に出て、ここからは急な登りが続く。尾根の道を1時間ほど歩くと、山頂の避難小屋に着いた。時間はまだ昼前である。そこで持って来た食事を摂って、休憩した。そこから剣ケ峰、天狗ケ峰に抜けて、別のルートから下山する予定である。 尾根道からの眺めは良かった。遠くには日本海が見えている。この辺りに来ると、人は少なかった。 昼過ぎになると、急に風が出て来て、霧がかかった。霧はだんだん濃くなり、10メートル先が見えなくなった。そのうちに雨も降り始めた。光太は、リュックからポンチョを取り出して着たが、雨は次第に強くなって行った。 ―続く― |