食虫花−10− 朝目が覚めると、勝手の方で包丁を使う音がしていた。ゆう子が、朝ご飯の支度をしているらしい。 光太の夏休みは、全く予定と違ったものになった。彼は、時間の許す限りここにいようと思った。夏休みは、1週間取っていた。 朝の食事が終ると、ゆう子は着替えを出して来た。昨日とは違うものだから、何着かあるようだった。着替えをしたが、特にすることはない。鎌と鉈を借りて、家の周りの草刈りや庭木の枝を下ろすことにした。これにはけっこう時間がかかる。一日や二日で終わる作業ではない。これだと昼間退屈しないで済みそうである。夜には、ゆう子との愛の時間が待っている。それを思うと、草刈りも庭木の手入れも苦にならなかった。 10時になるとゆう子が井戸で冷やした冷たいお茶を持って来た。 「お疲れ様。暑いでしょう。」 「いえ、町の暑さに比べれば、ここは涼しいですよ。」 「そうですね、夏はまだ良いのですが、冬は大変です。雪が多いので、完全に閉ざされた世界になってしまいます。」 「寂しくないですか?」 「それは寂しいですが、すっかり慣れました。」 「買い物などはどうしているのですか。」 「雪の降る前に買い溜めしておきます。野菜などは、雪の下に埋めておくとけっこう長持ちします。」 「それにしても女一人では大変でしょうね。」 「ええ、でも女の方が男より強いところがありますわ。」 ゆう子は、そう言って笑った。光太は、ゆう子の笑顔を見て、ここに残って良かったと思っていた。 ―続く― |