遭難記−05−
女の後に着いてジャングルの小道を30分ほど歩くと、集落のある広場に着いた。集落には、木と椰子の葉で作られた簡素な家が数十軒あった。 女は、その中の大きな家の前に立つと、そこで待つように手で合図して、家の中に入って行った。 しばらくして、女と一緒に老人が出て来た。60歳くらいだろうか、少女と同じような麻の衣類をまとって腰の部分を紐で縛っている。精悍な顔つきで、肌は赤銅色をしており、腕は太くなかなか風格があった。 老人は、俺をまじまじと見ていたが、女に何か話すと家に戻った。女は俺の前に戻って来ると、俺の背を叩いて自分の後に着いて来るように言った。女が案内したのは、小さな家だった。女は、中に入るように指差すと、戻って行った。どうやら、その家が俺に提供されたようだった。 小屋は8畳ほどの広さで、真ん中に囲炉裏のような焚き火の場所と椰子の葉でできた敷物があり、部屋の隅には食器の入った簡単な棚や寝台があった。 俺は、しばらく寝台に横たわっていたが、これまでの疲れと安心感からかいつしか寝てしまったようだった。 肩を揺さぶられて目が覚めた。見ると、昼間の女が俺を起こしていた。手招きで、自分の後に着いて来いと言っている。外に出ると、既に薄暗くなり始めていた。俺は、黙って女の後に着いて行った。 女は、俺を昼間の老人の家に連れて行った。中に入ると、老人とその周囲に数人の男と女がいた。女には、老人と同じくらいの歳の者が一人の他は、若い者が多い。後で知ることになるのだが、老人は村の長、女達は一人の妻と複数の愛人のようだった。男達は30歳代くらいで、老人の子供のようである。 村の長である老人は、自分を指差してムイと言った。どうやら自己紹介のようである。俺は、自分を指差してコウタ(光太)と言った。 部屋には、椰子の葉を編んだ敷物が円形に敷かれ、真ん中には果物や蒸した芋、焼いた魚などが並べられている。 女達が、木でできた大きな皿に料理を取って男達の前に置いた。村の長には高齢の女が、俺の前には若い女が皿を置いた。それに合わせて、竹で作られたコップにどぶろくのような液体が注がれた。若い女は、そのまま俺の横に座っていた。 村の長が、コップを手に取って乾杯するように持ち上げた。俺も見習うように、コップを持って乾杯した。液体には、アルコールが入っていて甘酸っぱい味がした。 ―続く― |