背中を差し出した俺は、紗智子が迷っている様子なので、催促するように聞いた。 「どうします。ここで一人で待っていますか?」 紗智子は、ムッとしたような顔をしたが、ここに一人で残るのも怖いのかすぐに俺の背中に乗った。 島に上がって、ひとまず海岸沿いに歩いて行った。長い砂浜が続いていて、その先が小高い丘の岬になっている。そこまでは2、3キロはあるのだろうか、砂に足を取られ、歩くのもちょっと大変だった。1時間近くかかって、やっと岬に着いて丘の上に上ってみるが、人家のようなものは見えない。 紗智子の顔に、失望の色が見えた。 俺も途方にくれたが、とにかくしばらくここで過ごすことを考えなければならない。取り敢えず、当面の食料はヨットの中にあるので、もう一度ヨットに戻って荷物を降ろすことにした。 俺はヨットに戻り、荷物を降ろし始めた。無人島であることを前提に考え、生活に必要な物はすべて降ろした。しかしヨットのあるところは、海岸から50メートルほど離れており、作業はなかなかはかどらない。この間、紗智子は海岸の砂浜に座り、俺の作業をじっと見ているだけだった。 結局、一応の荷揚げが終わったときには、午後も遅くなっていた。 ヨットにあった缶詰で昼食を取るのだが、ここでも紗智子が我が儘を言った。 「俺、缶詰なんか食べないわ。」 「でも、とりあえず今はこれしかないんですよ。食べないと、体力を消耗しますよ。それに明日から何があるかわからないですし。」 「今は、食べたくないの。」 俺は、仕方なく自分で鰯の缶詰を開けて食べた。 間もなく夕方がやって来る。とりあえず、寝るところも作らなければならない。ヨットは風が吹けば流されるかもしれないので、とにかく陸地にいる方が安全である。俺は、椰子の林に入って行き、適当なねぐらを探した。 幸いにすぐに林の奥の方に岩場があってそこが小さな洞穴になっていた。そこに椰子の葉を集めて敷き、その上に毛布を置くと、雨露は凌げる。 「さあ、寝床が出来ました。今日は、ここで寝ましょう。」 俺がそう言ったときに、最初の紗智子の言葉が出たのである。 「嫌よ。私、こんなところでは寝れないわ。ヨットに帰りましょう。」 「ヨットは危ないのです。夜中のうちに潮が満ちてきて流されたら、もう 帰って来られなくなるかも知れません。エンジンの動かないヨットは危険なのです。」 「・・・・・」 紗智子は、観念したように黙り込んだ。 それが終わっって、今度は自分の寝床を作る。紗智子のところから10メートルほど離れたところに、もうひとつ小さな洞窟があったので、そこに椰子の葉を敷いた。暗くなったので、木や葉っぱを集めて焚き火をし、缶詰を開ける。 「さあ、夕食にしましょう。食べないと、お腹が空いて眠れませんよ。」 俺が言うと、紗智子もお腹が空いていたのだろう、今度は比較的素直に缶詰に手を伸ばした。 ―続く― |