男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/07/25 14:29:37|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−19−
夜の訪問者−19−

 浴室から出て来た利之は、すぐにベッドに入った。幽子は、寝室の天井にいて、「うらめしや〜。」を繰り返す。しかし飲んでいた利之は、すぐにいびきをかいて寝てしまった。
 幽子はしばらく「うらめしや〜。」を繰り返していたが、寝ている利之を見て、「ふん、馬鹿馬鹿しい。」と言って姿を消した。
 そんな日を3日間続けたが、利之は一向に気にする様子がない。4日目には、光義のところにやって来た。
「首尾はどうだった。」と聞く光義に、幽子が言った。
「それが全然駄目なのよ。あいつ図太いから、あたしが恨めしいと言っても全然堪えないの。」
「そうか。それじゃあ、俺が脅かすかな。今度は、電話作戦だ。電話で強請ってやる。」
「そうね、いずれにしてもあいつを今のままにしておくことはできないわ。あたしだけじゃなくて、一緒に死んだお腹の子供のためにも復讐しなくちゃ。」
「そうだ、絶対に諦めないでやろうぜ。」
 そう言うと、幽子が持って来た料理と酒で夕食を始めた。
 翌日の昼、光義は会社にいる利之に電話をした。出て来た女の子に、黒岩部長を呼んでくれと言うと、すぐに利之が出た。
「もしもし、俺はこの間痛い目に遭った者だが、あの恨みも忘れていないぞ。それに優子殺しの件も知っている。警察に知らせられたくなかったら、金を寄越せ。いいな、少しでも変なことをしたらすぐに警察に駆け込むぞ。」
「いくら欲しいんだ。」
「そうだなあ、ひとまず1千万円かな。」
「なんだ、そのひとまずって言うのは。」
「それだけじゃ終らないってことさ。」
「いい加減にしないと、お前の命はないぞ。」
「そんな偉そうなことが言えるのか? 俺が死ぬのと、お前が刑務所に入るのとどっちが先か、よく考えて見ろ。」
「よし、わかった。金はどうすれば良いんだ。どこでどうやってお前に渡すんだ?」
「それは明日にでも指示するから、それまで待っていろ。」
 そう言うと、光義は一方的に電話を切った。
          −続く−







2026/07/24 16:45:32|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−18−
夜の訪問者−18−

 ここは利之のマンションである。
 幽子は、玄関前で姿を消して待っていた。夜中の12時を過ぎて利之が帰って来た。利之が玄関のドアを開けると、姿を消したまま一緒に中に入った。
 利之は、背広を脱ぐとそのまま浴室に向かった。この日、幽子は白い着物を着ていた。典型的な、古典的幽霊の恰好である。
 浴室の天井のところでぼんやりと姿を現して言った。
「うらめしや〜。」
「あれは、なんだ? 俺、けっこう酔っ払っちゃったなあ。」
「うらめしや〜。」
「ムッ、幽霊か。俺は、そんなものは怖くないぞ。」
「あたしが誰かわかる? あんたに殺された優子よ。絶対、あんたに恨みを晴らしてやるわ。」
「お前か、この間偽刑事を俺のところに寄越したのは。」
「そんなことはどうでもいいわ。問題は、あんたが殺人者であることを知っているのがこの世の中にいるってことよ。いずれ、警察に知れたらあんたは掴まって刑務所行きよ。」
「うるさい、警察が今更あの事件なんか相手にするものか。お前は自殺で片付けられているんだ。」
「まあ、今に見てらっしゃい。あたしは、生きている頃は素直だったけど、死んだ今はしつこいのよ。絶対にあんたを刑務所に送ってやるから。それとも事故で死ぬようにしてやろうか。」
「うるさい!」
 利之は、洗い桶を掴むと幽子に向かって投げた。幽子が姿を消すと、洗い桶は大きな音を出して壁から跳ねて床に落ちた。
           −続く−







2026/07/23 18:19:04|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−17−
夜の訪問者−17−

 光義は、幽子が差し出したウィスキーを一気に飲んだ。それから今日あったことをゆっくりと話した。
「という訳で、俺の作戦は失敗、全然ダメだったよ。」
「そんなことはないわ。あいつは、あたしが殺されたことを知っている人間がこの世にいることを知っただけで大きな恐怖感を持っていると思うの。これからは、むしろあいつの前に姿を現さない方が良いわ。」
「それもそうかな。」
「しばらくゆっくりして身体を治すことね。」
「そうだな。そうするよ。」
 その夜、明け方近くまで看病をしていた幽子は、空が白みかける頃に帰って行った。
 光義は、しばらくアパートでゴロゴロしていた。幽子は、毎日夜のとばりがおりるとやって来た。そして持って来た食事を食べて、一緒に飲んだ。幽子は酒は飲むが食べ物は食べなかった。一緒に食べないかと言ってみたが、食べられないのだと言った。
 1週間ほどして、光義の痛みはすっかり取れた。幽子が言った。
「あなたも元気になったし、そろそろ第2段の幽霊作戦で行きましょうか。」
「そうだな。」
「でも、あたしが彼のところに出ると、あんたのところに来られないわ。」
「そうか、でもそれは仕方がないよ。それがお前が幽霊でいる存在価値なんだから。」
「あんた、寂しくない?」
「そりゃあ寂しいけど、そう言ってもいられないだろう。」
 その日も一緒に飲んで、明け方近くに幽子は帰って行った。
            −続く−







2026/07/22 17:21:43|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−16−
夜の訪問者−16−

 翌日の夕方も、光義は利之を尾行するために出掛けて行った。
 会社の前で利之が出て来るのを待っていると、8時に出て来た。今日も2人の仲間と一緒であるが、昨日とは顔ぶれが違っている。そして今日はタクシーに乗らず、会社の裏側の方に歩いて行った。裏通りは人通りも少なく静かである。あと数百メートル歩くと繁華街がある。
 通りの角を曲がったところで、見失ってはいけないと思い慌てて走り出したときである。いきなり当て身をくらってその場に倒れた。「う〜ん」と唸っているところに、上から声が聞こえた。
「お前、偽刑事だろう。なんでこんな真似をするんだ。言わないと、酷い目に遭うぞ。」
 利之は、そう言うとわき腹を思い切り蹴った。光義は、再び唸り声を出して気を失った。
 気が付いたときには、一人の男が立っていた。おそらくこの男が来たので、利之達は立ち去ったのだろう。
「おい、大丈夫か?」
 男が声を掛けた。
「大丈夫です。」
 そうは言ったものの、あちこちが痛む。やっとのことで立ちあがると、礼を言ってその場を離れた。
 痛むお腹を押さえながら、やっとのことでアパートに帰り着くと、既に幽子が来ていた。
「マア、どうしたの?」
 痛々しい光義の姿に、幽子が驚いて聞いた。
「刑事でないことがバレちゃったよ。あいつら、昨日のことで怪しんだんだ。」
「だから言ったでしょう。でも大変、まだ痛いんでしょう。」
「うん、お腹を蹴られちゃってね。」
「お医者さんに行く? 救急車を呼ぼうか?」
「いや、やめてくれ。警察に通報されて事情を聴かれても困るし、それに偽物の警察手帳を使ったのがバレたら俺が捕まっちゃうよ。」
「そうね、とりあえず痛いところを冷やした方がいいわ。」
 そういうと幽子は立ち上がって台所に行き、冷やしたタオルを持って来て光義のお腹に当てた。
「怪我をしているのだからお酒はやめた方がいいわね。」と言う幽子に、光義は「いや、あったら出してくれ。」と言った。                                                                  
           −続く−







2026/07/21 22:35:37|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−15−
夜の訪問者−15−

 アパートに帰ると、12時を過ぎていた。
 幽子は、先に来て待っていた。
「随分遅かったわね。何をしていたの?」
「よせよ、お前と相談して利之を尾行していたんじゃないか。お前は、俺の行動を見ていたのじゃないのか。」
「だって、こんな時間じゃない。あなたの食事の準備に奔走していたのよ。」
「そうか、そりゃすまなかった。」
「あなたも御苦労さまでした。まずはお食事をしながら一杯どうぞ。」
「うん、でも汗をかいたから、風呂に入るよ。」
「そう、背中でも流しましょうか。」
「いや、いいよ。先に飲んでいてくれ。」
「そんな、働いて来たあなたより先に飲むなんてできないわ。早く入って来てね。」
 光義は、お湯に浸かりながら、もし幽子が裸になったらどんな姿をしているのだろうと思った。幽霊だから脚はないはずである。すると、どこからどうなっているのだろう。興味がないではなかったが、ちょっと気味が悪い気もして、背中を流すと言うのを断って良かったと思った。
 風呂から出ると、幽子が持って来た寿司をつまみながら冷酒を飲んだ。部屋こそ狭かったが、今では冷蔵庫も買ったし、テレビも買ってある。
 早速、幽子が今日の様子を聞いたので、光義はさっきまであったことを話した。それを聞いていた幽子が言った。
「あなた、やり過ぎよ。そんなことをしたらバレてしまうわ。あなたは元々刑事になんか向いていないのよ。」
「うん、ちょっとドキッとしたよ。」
「あいつは、人を殺しても平然としている奴よ。大丈夫かしら?」
 光義は、途端に酒の味が悪くなったような気がした。
 夜が遅かったので、夜明けが早くやって来た。小鳥の鳴き声が聞こえて来て、幽子は姿を消して行った。
          −続く−