男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/07/31 0:11:44|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−24−
夜の訪問者−24−

 「いよいよ警察が動き始めたみたいだな。」
その夜やって来た幽子に、光義が言った。
「そうね、周囲から固めて利之のところに行くみたいね。」
「本物の警察が動き出したら、あいつも観念するだろうな。」
「そうね、問題は証拠が集まるかどうかだけど。」
「睡眠薬や、ロープを買った証拠が集まれば大丈夫だと思うわ。」
「その点は、俺達より警察の方がプロだからな。あいつが捕まれば、お前も恨みを晴らせて天国に行けるんだな。」
「そうなの、でも寂しいわ。」
「なんでだ。天国ってのは、何の苦しみもない幸せな世界なんだろう。」
「だって、あなたのところに来られなくなるんだもの。」
「よせよ、お前は天国で幸せに暮らした方が良いんだ。」
「でも、あなたって一人では生きて行けない人なんだもの。」
「俺は大丈夫さ。自分でも、これを機会に強くなったと思っているんだ。」
「あたしが必要じゃないって言うの?」
「い、いや、そうじゃなくてお前に幸せになって欲しいと思っているだけなんだ。」
「本当にそうかしら。幽霊のあたしを嫌いなんじゃない?」
「そんなことはないよ。毎晩、食べ物を持って来てくれたしとても感謝しているよ。」
「そう、それなら良いけど。」
 幽子は、今ひとつ納得しない表情で、光義のグラスにビールを注いだ。
 その後、何回か警察がやって来て、部屋の隅や押し入れの中などを徹底的に調べて行った。小さな埃や髪の毛なども拾ってビニール袋に入れていた。
 新聞に利之が逮捕されたと報道されたのは、それから1カ月ほどしたときだった。「OLの自殺は上司の殺人」という見出しで、3面記事の一段に書かれていた。
          −続く−







2026/07/29 15:41:12|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−23−
夜の訪問者−23−

 翌日、光義は利之の写真を撮った。それをプリントすると、夕方には隣の部屋の恭子のところに行った。以前、引っ越して来たときに挨拶したとき以来だったのでちょっと驚いたようだったが、客商売をしているだけに愛想は良かった。利之の写真を見せて、この男に見覚えがあるかと聞いた。恭子は、ちょっと考えた末に言った。
「そう、思い出したわ。お隣さんのところに来ていたわ。可哀そうに、彼女は自殺しちゃったのよ。2、3回見たことがあって、一度なんかこの前で鉢合わせしたような格好になったからよく覚えているの。」
「そうですか、ありがとうございます。もし良ければ、協力していただきたいのですが。」
「協力って?私、面倒なことは嫌よ。」
「実は、彼女はこの男に殺されたのかも知れないのです。」
「えっ、彼女は自殺なのでしょう。」
「彼女は妊娠していました。彼の子供です。彼は職場の上司で、彼女を妊娠させ、他の女と結婚することになって困って殺したのです。」
「マア!」
「それで警察が来たら、捜査に協力して欲しいのです。」
「そうねえ、考えておくわ。」
「そんなことを言わないでお願いしますよ。危険な男を野放しにはできないですから。」
 光義の熱心さに打たれたのか、恭子は首を縦に振った。
 その翌日、光義は警察に、利之が裕子を殺した旨の手紙を書いた。利之が裕子のアパートに来ていた事実は、隣の恭子に聞けばわかるとも書いておいた。
 3日後、光義の部屋に警察がやって来て、この部屋の先住者が死んだことを知っているかとか、何か不自然なことはないかと聞き、更に部屋の様子を見せて欲しいと言った。押入れとか台所の隅まで丹念に調べ、しばらくそのままにしておいて欲しいと言って部屋を出た。
 その後で、隣の恭子の部屋のチャイムを鳴らしている音が聞こえた。
         −続く−







2026/07/28 16:13:12|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−22−
夜の訪問者−22−

 光義は、その夜やって来た幽子に聞いた。
「今日は、あいつ俺に出会った後はどんな様子だった?」
「そうね、効果抜群よ。その後はずっとそわそわしていたし、彼女の前でもトンチンカンなことばかり言っていたわ。」
「そうか、それは良かった。でも何かあいつがお前を殺したと言う証拠がないかなあ。そうすれば警察だって動き始めるんではないかと思うけど。」
「そうね、私もずっとそれを考えているけど、思い浮かばないのよ。」
「警察は、お前の身体の中にいた子供があいつの子供だってことを知っているんだろうか?」
「いいえ、知らないと思うわ。私は死んでいたし、私と彼との交際は秘密にしていたから。」
「問題はそこだな。彼が、この部屋にやって来た証拠があれば良いんだ。」
「でも、この部屋にそんな証拠が残っているかしら。」
「目撃者は?」
「そうね、一度お隣さんに会ったわ。彼女は夜の仕事をしている人で、これから出勤という姿だったわ。まだお隣に住んでいるわ。」
「そうか、その2つの面からアプローチしてみよう。ある程度証拠が固まったら、警察に手紙を書くんだ。」
「そうね、お願いします。でも、そうなるとわたし、寂しいわ。」
「なんで? 晴れて恨みを晴らせるんだぜ。」
「ううん、いいの。そうだよね。」
 幽子は、そう言うと青白い顔を赤らめて下を向いた。
           −続く−







2026/07/27 15:44:51|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−21−
夜の訪問者−21−

 2日後、光義がカードを持って銀行のキャッシュコーナーで残高照会をすると確かにお金は振り込まれていた。利之が、こっちのペースに嵌まりつつあることがわかる。
 その夜やって来た幽子にそのことを話した。幽子は、嬉しそうだった。
「もうひと押しね。何とか、あいつを刑務所に入れてやらなくては。」
「うん、お前も幽霊で出ているのか?」
「ええ、出ているわ。だんだんあいつも参って来ているようよ。最初は空威張りをしていたけど、最近ではそれも言わなくなったわ。」
「婚約者とデートしているときに出てみたら?」
「それが、なかなか機会がないのよ。あいつ、私とのときには積極的に夜に誘っていたけど、婚約者に対しては昼間ばかりなの。夜、クラブなんかに飲みに行くこともあるけど、なかなか二人きりにならないのよ。あたし達幽霊は、大勢の中とか明るいところが一番苦手なの。」
「そうか、じゃあ、俺がやって見るかな。」
「どうするの?」
「俺なら人間だから何でもできるさ。まずは二人がデートしているところに顔を出すんだ。それだけで、あいつはビビると思うぜ。」
「危ないことはやめてよ。この前も酷い目に遭ったなかりじゃない。」
「まさか、あいつだって彼女の前じゃ暴力も振えないだろう。それにすぐに姿を消すよ。」
 早速、それを行動に移した。幽子からの情報でデートのスケジュールがわかる。幽霊は、姿は見せなくても、恨みのある宙に彷徨いながら人間を観察はできるのである。
 土曜日、光義はデートをしている利之の前に現れた。そして目を合わせると、「やあ、元気かい?」とだけ言って、その場を離れた。
「あの人誰?」と聞く婚約者の女性の声が聞こえたが、その後利之が何と言ったかは、光義には聞こえなかった。
          −続く−







2026/07/26 16:24:42|小説「夜の訪問者」
夜の訪問者−20− ​​​​​​​
夜の訪問者−20−

 その夜、光義は幽子と相談をした。幽子が言った。
「あいつは冷酷な奴だから油断をしちゃ駄目よ。お金は、あたしの口座に振り込ませるのよ。天井裏に通帳とカードがあるわ。」
 光義が台所の天井裏の小さなパネルを押すとそこが開いた。手を入れてみると通帳とカードが出て来た。通帳を開いて見ると1000万円近い残高があった。
「随分、貯めていたんだなあ。」
「そりゃあ、お金は大事だもの。でも死んじゃったから何にもならかったわ。」
「それもあいつのせいだ。何とか刑務所に入れなければ。」
「あいつの金はこの口座に振り込ませるのよ。あいつもあたしの名前を聞いたら驚くと思うわ。」
「よし、そうしよう。明日、あいつのところに電話をするよ。」
   それから二人は、幽子の持って来た料理と酒で飲んだ。今日は和食と日本酒だった。
 翌日、光義は利之に電話をした。
「俺だ。金の振込み先を教える。メモの用意はいいか?」
「よし、言え。」
「○○銀行 △△支店 普通預金で口座番号は4494989 名義は菅原裕子だ。以上、メモはちゃんと取れたか?」
「お前、俺を馬鹿にしているのか? 裕子は死んでいるんだぜ。」
「いいから振り込んでみてから言え。明日までに振り込まれていないと、警察に駆け込むぜ。」
 光義は、また一方的に電話を切った。
           −続く−