遭難記−04−
島に不時着して10日目のことである。移動を続けていた俺の目の前に高い山が見えた。おそらく高さ300mはあるだろう。そこに登ると、島の広い範囲が見えるのではないかと思った。山の大部分はジャングルに覆われていたが、上の方には岩場のようなところも見える。 俺は、山から流れている小川沿いに登り、途中からは岩場を登って行った。3時間かけてやっと頂上に着いた。山頂から見ると、島はかなり大きいらしく、南には海が広がっているが、北側はジャングルと山が続いていた。今までの飛行経路からしても、島であることは間違いがなかった。 山頂の岩に腰かけてぼんやりと遠くを眺めていたとき、北側の森の中から煙が登っていることに気が付いた。小さいものだったが、人がいる証拠である。 俺は希望を持った。距離的には10Kmほどとそう遠くはなさそうだが、道があるわけではなく途中には深いジャングルがあって相当な困難が予想された。しかし何としても人がいるところに行かなければと思った。 その日、山から下りるとゆっくりと寝て、翌日から煙の方向に向かって歩いて行くことにした。 ジャングルの中を進むのは大変だった。途中で繁みがあって行く手を阻み、ともすれば方向を見失いがちだった。繁みを避けるために遠回りしなければならなかったし、方向を見定めるために木に登ったりした。目標は、向こうの高い山の麓である。 悩まされたのは、蚊のような虫やヒル、それに蛇である。何種類かの蛇がいて、中にはいかにも毒々しいものもいて、おそらく咬まれれば命がないだろうと思えた。俺の身体には、ひっかき傷や虫に刺された痕で酷い状態だった。 途中、広場のようなところで火を焚きながら寝て、畑のようなところに出たのは翌日の昼過ぎだった。タロイモのようなものが、明らかに人の手が加えられた跡がある。 しばらく進むと、若い女が果物の実を採っているのを見付けた。麻でできたような簡素な衣類を身に着けている。俺は、驚かさないように、遠くから手を挙げながら「ヤア!」と言ってゆっくりと近付いた。女は、驚いた様子だったが、俺の笑顔に気付いたのか逃げる様子はなかった。俺は、身振り手振りで、自分が困っていることを伝えた。女は、果物の入った籠を持つと、手振りで自分の後に着いて来いと言った。 ―続く― |