春の行方−28−
光太郎は、一恵の話を聞いて、恋とは何だろうと思った。多くの男女は、恋をし、やがて結婚をする。激しい恋もあれば、静かな恋もあるが、結婚した夫婦の多くの男は、酒を飲みながら妻への不満や愚痴を言っている。一恵も激しい恋をしたが、今では冷めている。光太郎と身体の関係を持ちつつも、それが情熱的な恋でないことは伝わって来る。あれほどまでに燃えた恋が、どうして歳月とともに冷めるのか、これが不思議だった。 誰かから聞いた話であるが、神様は子孫を残すために、動物に発情期を与えた。人間も同様に青春のある時期に恋をする。動物と人間の違いは、動物は子育てに適した季節に発情するが、人間の場合は出産に適した年齢に恋をすることである。それが青春時代の恋を激しいものにし、その時期が過ぎるとやがてそれが冷めて来るのだと言う。 光太郎は、自分に当てはめてみた。今、佳津枝とは恋人の状態にある。また久恵にも友達以上の感情を持っている。一恵とは、身体の関係はあるものの、恋人のような情熱的な感情は持っていない。 果たして、これからこの3人との関係はどうなるのだろう、また誰と結婚することになるのだろうか、自分の考えが依然として整理できていなかった。いずれにしてもまだ時間はある、やがて時間が決めてくれるだろうと漠然と考えていた。 入社して丸2年が過ぎようとしていた。光太郎は、今年で24歳になる。仕事も、小さいことなら任されるようになった。それと共に、残業も増えて、しばらくは忙しい日々が続いた。他の者もそうらしく、寮の仲間との飲み会の回数も減ってきた。 そんなある日、週末に二人で飲みに行きたいと久恵からのメールが入っていた。そのとき、ふと一恵の言った言葉を思い出した。一恵は、光太郎が久恵に好意を持っていることに気付いている。しかも故郷に恋人がいることすら知っているようであり、佳津枝との仲を守るのだと言う。ということは、久恵との仲を邪魔するということとも受け止められる。しかし、光太郎は自由でいたかった。光太郎が誰と交際し結婚するかを、一恵に決められることはないと思う。結局、光太郎は土曜日の夕方、池袋で会おうと返事を書いた。人目を避けるために、通勤の沿線を避けたのである。 土曜日、光太郎は寄りたいところがあるからと言って先に出て、夕方に池袋に着いた。そこで落ち合い、二人は小さな小料理屋に入った。女将が一人でやっている店だった。 東北出身だという女将の作る料理は美味しかった。久恵も、料理を褒めながら楽しそうに飲んで喋っていた。それに気を良くしたのだろう、女将が聞いた。 「きれいなお嬢さんね。お二人は恋人?」 光太郎は、久恵が何と答えるか興味を持ってその様子を見ていた。 −続く− |