春の行方−33−
久恵は話を続けた。 「でも、それからの三永君は、おとなしかった。脱いだシャツとズボンをキチンと折り畳むと、そのまま床にゴロンと寝てしまったわ。だから、何もなかった。心配しなくて良いのよ。でも、私にとっては残念なような気もするけど。」 「そうか。そうだったのか・・・・・」 光太郎は、半分ホッとしたような、半分残念なような気がしていた。以前から思っていたのだが、今日話して見て、まんざら久恵も自分に気がないでもないことが確認できる。そんな久恵と二人きりでいながら、何でもなかったのは残念である。でもお陰で、佳津枝を裏切らなかったという安堵感もあった。 一恵と身体の関係がありながら佳津枝を裏切らないということについては、矛盾もあるだろう。しかし、光太郎の立場に立ってみれば、心まで移した場合が真の愛情である。愛情抜きの肉体関係は必ずしも佳津枝を裏切ったとは言えないと思っていた。 「それを聞いて、三永君の感想は?」 ニヤニヤしながら久恵が聞いた。 「そうか、寝るときにはちゃんと着ている物を畳むように母親から躾けられていたからなあ。」 光太郎は、ホッとしながらそう言った。 そのときから、二人で飲みに行くときは、池袋の「ふるさと」に決まっていた。大抵は寮の仲間と一緒に駅前の居酒屋でワイワイ飲むのだが、たまには久恵と二人で飲みたいときがある。そんなときはメールで誘い合って飲みに行くのだが、光太郎は営業で週日は予定が立たないことが多いので、週末に行くことになり、2月に一回くらいの割でしか行けなかった。 入社3年目の夏休み前のこと、寮の仲間で飲んでいるときに、先輩の山野が韓国に行かないかと提案した。何人かが「いいね。」と言い、その中には大室も久恵もいた。3泊4日のツアーで安いのがあるようだった。 光太郎は、今回も返事を躊躇した。すぐに思い浮かぶのは佳津枝のことである。 佳津枝からは、毎日のようにメールが来ていた。その中には、夏休みに逢えることを楽しみにしているようなことが書いてある。その都度、自分も帰ることを楽しみにしているような返事を出していたから、韓国旅行に行くので帰れないと言えば佳津枝は失望するだろう。また光太郎の悩みの日々が続くことになった。 光太郎は考えた。夏休みは、土日を入れれば9日になる。旅行は4日である。旅行が終って、ソウルから福岡空港に帰れば故郷まで近い。3日は故郷に滞在できることになる。 光太郎は、佳津枝に仲間と韓国に行くことになりそうだとメールを送った。すると佳津枝から、自分も行きたいと言って来た。再び、光太郎は考えた。寮の仲間と一緒に佳津枝を連れて行くことはできない。では韓国で落ち合うというのはどうだろう。早速、光太郎はそのことをメールで提案した。佳津枝からは、すぐに賛成の返事が帰って来た。 光太郎は、早速、計画を立てた。最初に、寮の仲間とソウルに行き、ツアーが終るとそのままソウルに滞在して佳津枝を待ち、合流するともう一度ソウルを観光し福岡空港に戻る計画である。 光太郎は、山野に「自分も行きたいが、帰りは別行動にしたい。」と言った。その方が、故郷に近いことを理由にした。 計画を作ると、早速、パスポートの取得などの準備にかかった。 −続く− |