男と女

「男と女」について、本当にあったことをエッセイに、夢や希望を小説にしてみました。 そして趣味の花の写真なども載せています。 何でもありのブログですが、良かったら覗いて行ってください。
 
2026/06/19 5:06:08|小説「春の行方」
春の行方−33−
春の行方−33−

 久恵は話を続けた。
「でも、それからの三永君は、おとなしかった。脱いだシャツとズボンをキチンと折り畳むと、そのまま床にゴロンと寝てしまったわ。だから、何もなかった。心配しなくて良いのよ。でも、私にとっては残念なような気もするけど。」
「そうか。そうだったのか・・・・・」
 光太郎は、半分ホッとしたような、半分残念なような気がしていた。以前から思っていたのだが、今日話して見て、まんざら久恵も自分に気がないでもないことが確認できる。そんな久恵と二人きりでいながら、何でもなかったのは残念である。でもお陰で、佳津枝を裏切らなかったという安堵感もあった。
 一恵と身体の関係がありながら佳津枝を裏切らないということについては、矛盾もあるだろう。しかし、光太郎の立場に立ってみれば、心まで移した場合が真の愛情である。愛情抜きの肉体関係は必ずしも佳津枝を裏切ったとは言えないと思っていた。
「それを聞いて、三永君の感想は?」
 ニヤニヤしながら久恵が聞いた。
「そうか、寝るときにはちゃんと着ている物を畳むように母親から躾けられていたからなあ。」
 光太郎は、ホッとしながらそう言った。
 そのときから、二人で飲みに行くときは、池袋の「ふるさと」に決まっていた。大抵は寮の仲間と一緒に駅前の居酒屋でワイワイ飲むのだが、たまには久恵と二人で飲みたいときがある。そんなときはメールで誘い合って飲みに行くのだが、光太郎は営業で週日は予定が立たないことが多いので、週末に行くことになり、2月に一回くらいの割でしか行けなかった。
 入社3年目の夏休み前のこと、寮の仲間で飲んでいるときに、先輩の山野が韓国に行かないかと提案した。何人かが「いいね。」と言い、その中には大室も久恵もいた。3泊4日のツアーで安いのがあるようだった。
 光太郎は、今回も返事を躊躇した。すぐに思い浮かぶのは佳津枝のことである。
 佳津枝からは、毎日のようにメールが来ていた。その中には、夏休みに逢えることを楽しみにしているようなことが書いてある。その都度、自分も帰ることを楽しみにしているような返事を出していたから、韓国旅行に行くので帰れないと言えば佳津枝は失望するだろう。また光太郎の悩みの日々が続くことになった。
 光太郎は考えた。夏休みは、土日を入れれば9日になる。旅行は4日である。旅行が終って、ソウルから福岡空港に帰れば故郷まで近い。3日は故郷に滞在できることになる。
 光太郎は、佳津枝に仲間と韓国に行くことになりそうだとメールを送った。すると佳津枝から、自分も行きたいと言って来た。再び、光太郎は考えた。寮の仲間と一緒に佳津枝を連れて行くことはできない。では韓国で落ち合うというのはどうだろう。早速、光太郎はそのことをメールで提案した。佳津枝からは、すぐに賛成の返事が帰って来た。
 光太郎は、早速、計画を立てた。最初に、寮の仲間とソウルに行き、ツアーが終るとそのままソウルに滞在して佳津枝を待ち、合流するともう一度ソウルを観光し福岡空港に戻る計画である。
 光太郎は、山野に「自分も行きたいが、帰りは別行動にしたい。」と言った。その方が、故郷に近いことを理由にした。
 計画を作ると、早速、パスポートの取得などの準備にかかった。
            −続く−







2026/06/18 3:33:41|小説「春の行方」
春の行方−32−
春の行方−32−

 夕食に出た二人だったが、結局行き先は駅前の居酒屋だった。
 光太郎は、さすがに飲みたくなかったが、久恵は意外と平気なようである。光太郎はビールをゆっくり飲んでいたが、久恵のペースは早い。しばらくは会社の話などをしていたが、光太郎は気になっていた昨夜のことを口に出した。
「ねえ、気になっているんだけど、昨日の俺どうしたの?」
「アッ、三永君、まだ気にしていたの?そりゃあ、心配かもね。だって、あんなことをするんだもの。」
 ニヤニヤ笑いながら言う久恵に、光太郎は益々不安になる。
 これが普段のことだったら、気にすることもないだろう。何と言っても不安なのは、自分の記憶がないことである。二人で飲んで記憶がない後で気付いたら下着姿だった、これはどうにも自分で自分の行動が理解できない。光太郎は、素直に自分の気持ちを白状した。
「頼むから教えてくれよ。変なことをしていたんなら、あやまるから。」
「いいわ、わかった。後で教えてあげる。今日はもうちょっと飲みましょうよ。昨日の続きがあってもかまわないわよ。」
 久恵は、そう言うとビールのジョッキを差出して、乾杯の仕草をした。光太郎も、ここでは逆らう意欲もなく黙って自分のジョッキを久恵のジョッキに合わせた。
 しばらく雑談が続いた。久恵は楽しそうに喋っている。光太郎は、黙ってそれを聞いていた。また昨夜のことを聞く勇気もない。
「帰ろうか。」
光太郎が言った。
「そうね。それで良いのならそうしましょう。」
 久恵が、にやりと笑いながらそう言って、二人は寮への帰途についた。
 帰り道、光太郎は無口だった。
 光太郎の不機嫌に気付いた久恵もしばらく無言で、しばらく気まづい雰囲気があったのだがそれを破るように久恵が言った。
「三永君、怒ってるの?」
「・・・・・」
「怒っているなら、それはおかしいわ。三永君だって、営業でのお付き合いってあるのでしょう。そんなときに酔っ払って自分を失うって許されないわ。昨日は、私の部屋だったから大丈夫、心配しないで。」
「大丈夫って、何があったんだよ。頼むから教えてくれよ。」
「だから心配することなんかないのよ。私が期待していたこともなかったのよ。」
「だから、何があったんだよ。」
 久恵が、軽い笑みを浮かべて言った。
「そんなに心配なの。だったら教えてあげる。三永君、飲んでいるときに、突然床に倒れて寝てしまったのよ。私、大丈夫かと心配になって、脈をとったり、心臓に手をあててみたりしたわ。でも大丈夫だった。心臓も肺も元気に動いていたの。そこで、三永君に『大丈夫?大丈夫?』って声を掛けたの。そしたら三永君が朦朧とした目を開けた。そして立ち上がると、ゆっくりとシャツを脱ぎ始めたの。私、何を考えているのかと気味が悪くなったわ。」
「それから・・・・・?」
 光太郎が、不安そうに訊ねた。
「そして今度はズボンのベルトを緩め始めるの。私、何を考えているのか本当に不安になったわ。だって、私の部屋に二人しかいないのよ。」
 その言葉に、光太郎は益々不安を募らせた。
            −続く−







2026/06/17 6:23:19|小説「春の行方」
春の行方−31−
春の行方−31−

 光太郎が気が付いたとき、床に寝て毛布を掛けられていた。久恵は、寝室に寝ているようである。喉が乾いて、起き出してキッチンに行って水を飲んだ。生ぬるい水であったが、乾いた喉に心地良かった。
 ふと、自分が下着姿であることに気付いた。シャツもズボンも、部屋の隅に畳んで置いてあった。どうして下着姿になったのか、記憶がない。物音に目覚めたのか、パジャマ姿の久恵が起き出して来た。
「起きたの?」
「うん、寝ちゃったみたいだね。」
「そう、飲んでいて急に床に横になっちゃったのよ。ベッドに運ぼうとしたけど、重くてとても動かせなかったわ。」
「そうか・・・・・」
 光太郎は、飲んでいるときまでの記憶はあったが、その後何があったか思い出せなかった。自分が下着姿であることが解せない。
「さて、帰るよ。」
「このまま、ここに寝ていても良いのよ。」
「いや、帰る。」
「そう?」
光太郎は、ふらつく足で玄関を出て、隣の自分の部屋に戻った。
 翌日は、一日頭が重かった。完全な二日酔いである。昼前になってやっと起き出した。昨日の夜のことが思い出される。電話で聞くのも気まずいような気がして、パソコンのメールを立ち上げた。佳津枝からのメールが来ていたが、それを見る前に久恵にメールを送った。
「昨日の終りの方の記憶がないんだけど、変なことしなかった?何で、僕は下着姿だったのだろう?」
 それから佳津枝のメールを読んだ。いつものような日々の報告があり、最後に愛していると書いてあった。そこまで読むと、水を飲んでまたベッドに戻った。
 やっと元気になったのは、夕方だった。気になってメールを開いてみた。久恵からのメールが入っていて、そこにはこう書かれていた。
「昨日は、お疲れさま。とても楽しかったわ。
しかし三永君の記憶がないなんて、残念ね。あんなに良いことがあったのに、記憶がないのなら教えてあげない。ああ、勿体ないことを。            久恵 」
 光太郎は、益々不安になった。久恵と何があったのだろう。まさかセックスはしていないと思うが、キスくらいはしたかも知れない。でも、なぜ下着姿だったのか、考えれば考えるほど不可解である。
 二日酔いが覚めたのだろう、空腹に気付いた光太郎は一人で食事に出掛けることにした。部屋を出たら、ちょうど久恵も出掛けるところだった。
「二日酔いは大丈夫?」
「うん、やっと醒めたよ。ところでどこへ?」
「食事よ、三永君は?」
「僕もだ。一緒に行こう。」
 光太郎は、昨夜何があったのか何としても聴かなければと思っていた。
               −続く−







2026/06/16 4:53:22|小説「春の行方」
春の行方−30−
春の行方−30−

 光太郎は、久恵の問いにドキリとした。
 一恵は、何も話さないのに光太郎のことをかなり見抜いていた。女の直感の怖さを知ったばかりである。久恵も、佳津枝の存在に気付いてこのことを言ったのかと思った。
 光太郎は、平然を装って冗談めかして言った。
「アハハッ、僕だって故郷に恋人の一人や二人はいたさ。こんなにいい男だからね。」
 そう言いつつも、自分のずるさに戸惑っていた。幸い、久恵はそれ以上の追求はしなかった。
 二人はしばらく飲んでから、「また、来ます」と言って店を出た。出るときに見ると、店の看板に「ふるさと」と書いてあった。
 電車で寮まで帰ったときには11時を過ぎていた。寮に着く前に、久恵が言った。
「ねえ、明日は休みだし、もうちょっと私の部屋で飲んでいかない?」
 光太郎には、拒む理由がない。否、むしろもうちょっと久恵と一緒にいたい気分だった。
「いいね!」
 光太郎は、嬉しそうに言った。
「じゃあ、そこのコンビニでつまみでも買って行きましょう。ついでに、明日の朝食も買っていかなくちゃ。」
 久恵も、楽しそうに言った。酒は、二人をすっかり陽気にしていた。
 二人は、コンビニで買い物をし、寮に歩いて戻った。そのとき、久恵が光太郎の腕に自分の腕を絡ませた。
 寮に近付くと、二人共静かになった。何人かで飲みに行くようになってから、二人だけの行動は駆け抜けのような気がしていたのである。寮の玄関のドアもそっと開けた。部屋に着くまでは、無言だった。久恵が、自分の部屋のドアを鍵であけて、光太郎を先に入れた。そんな秘密めいた行動が、光太郎を余計に興奮させていた。
 部屋に入ると、光太郎はビールを、久恵はつまみをそれぞれのレジ袋から取り出した。
「あの店、いいわね。ふるさとって言ったかしら。私、あの女将さん好きよ。」
 ビールを注ぎ合ったとき、久恵が言った。
「そうだね、彼女は苦労をしたんだねえ。でも、失恋が人間を大きくしたのかなあ。とても魅力的な女将さんだったね。」
「ねえ、また行きましょうよ。」
「うん、いいね。話も上手だし、人生の生き方の真面目さが伝わって来るよね。」
「私、女将さんのしっかりとした人生に対する識見にも感心したわ。難しい哲学の先生の講義よりよほど人生の参考になるし。」
「そうだね、哲学の先生は失恋の経験もないだろうしね。」
 喋りながらの酒は進み、光太郎も久恵もかなり酔っ払っていた。グラスが空になる前に、お互いビールを注ぎあっていた。それをクイクイと飲んでいた。隣が自分の部屋だと思うと、帰りの電車を心配することもない。思わず、気を許して飲んでしまったようである。いつしか、光太郎は眠りに落ちていた。
             −続く−







2026/06/15 0:53:17|小説「春の行方」
春の行方−29−
春の行方−29−

 久恵は、ちょっと考えてから言った。
「会社の同僚です。いえ、同期入社と言った方が良いかしら。」
「若いって、羨ましいわねえ。こうして男女が一緒に飲みに来られるって、私が若い頃の田舎じゃ考えられなかったわ。」
「女将さんの故郷は、どちらなのですか?」
「青森なのよ。津軽の山の方だから、今でも田舎なの。」
「女将さんはきれいだから随分モテたでしょうね。」
「あらっ、このお嬢さんもお口が上手ね。そうね、私にも若い頃があったのよ。そして、お互いに好きになった人もいたわ。」
「その人とは、どうされたのですか?」
「彼、高校を卒業すると、就職で東京に出て来たわ。私は、地元に残って母の美容院を手伝っていたの。最初は、彼に毎日のように手紙を書いていた。彼も、時々だけど返事をくれていた。でも時間が経つとだんだん彼からの手紙も少なくなった。それで思い切って、私も東京に出て来たのよ。そうね、卒業して3年目くらいだったかしら。」
 そこで、久恵は「女将さんも飲めるのでしょう。」と言って、ビールを差し出した。女将は、ありがとうと言って話を続けた。
「私は、住所を頼りに彼のところに行った。しかし、玄関に出て来たのは女だった。私のような田舎者じゃなくて、都会風の女だった。私の顔を見て『どなたですか?』って言うのよ。私は、頭が真っ白になったわ。仕方なく、その日は旅館に泊まって仕事を探すことにしたの。だって、今更、出てきた故郷には帰れないですもの。」
そこまで言って、女将はグラスのビールを飲んだ。
 女将は、話を続けた。
「仕事はすぐに見付かったわ。美容師の資格が役に立ったの。でも、彼が彼女と一緒に暮らしながら、私に手紙を書いていたと思うと、やりきれなかったわ。だって、私に好意を持っているようなことしか書いてなかったんですよ。」
「男って、勝手ですわね。」
久恵が、女将に同情するように言った。
「でもね、お嬢さん。好きな男女は、一緒にいなければ駄目よ。遠く離れてしまうと、心まで離れてしまうのよ。私の知っている人でも、遠く離れていて、それっきりになった人が何人かいたわ。不思議なものよね。どんなに愛し合っていても、離れてしまうと愛情が薄れて行くのよ。」
「女将さんは、その後、どうされたのですか?」
「しばらくは仕事に没頭したわ。東京は、ヘアスタイルも田舎とは違うし、勉強することも多かった。こう見えても、芸能人のパーマをかけたこともあるのよ。やっと一段落して結婚したときには30歳になっていた。旦那は、お客さんの紹介の人で、この店をやっていたのよ。その旦那も、3年前に癌で死んだ。」
「そうですか。すみません、悲しいことを思い出させて。」
「いいのよ、それより、つまらない話を聞かせてごめんなさい。」
 光太郎は、女将の話を聞いて、自分を彼女の恋人だった男と比べてみた。佳津枝という恋人がありながら、こうして久恵と二人で飲み、また一恵とも身体の交渉を持っている。果たして、自分はその男とどう違うのだろうか・・・・・
 そのとき、久恵が言った。
「三永君は、故郷にそんな人はいないわよね。」
           −続く−