人妻−05−
私は、祥に連絡を取りたいと思った。幸い携帯電話があるので手段には困らない。しかし、タイミングが難しい。彼女の迷惑なってはいけないから、無秩序に電話するわけにはいかない。 その日、私は外出の日だった。前回、仕事を取れなかった会社に挨拶に行くためだった。 私は、2台のスマホを持っていた。ひとつは会社から支給されたもので、もうひとつはプライベートのものである。行きのタクシーの中で、思い切って自分用のスマホを取り出すと、彼女にメールを送った。 「昨日は、ありがとう。とても素敵な時間でした。また逢いたいです。光造」 タクシーが相手方の会社に着き、相手の部長と話をしているとき、ポケットのスマホが振動した。プライベートの方だったから、祥からのものかも知れないと思った。挨拶のためだけだったから、早々に引き上げることにした。 帰りのタクシーの中でスマホを開いてみると、案の定、祥からのメールだった。 「こちらこそ、ありがとうございました。とても素敵な時間でした。私も、また是非お会いしたいです、祥」 その日から、彼女とのメール交換が始まった。メールは、朝夕の通勤時間が多かった。今までは、経済新聞を読んでいることが多かったが、満員の電車の中で新聞を読むのは大変だった。しかし携帯だと場所を取らないのであまり苦労せずにメールを打つことができたし、何と言っても祥とのメールが楽しかった。その日も、私は電車の中からメールを送った。 「おはよう。今電車に乗ったところです。祥さんは、もう出勤ですか?」 すぐに彼女から返事が来た。 「おはようございます。メール、ありがとうございます。今、武蔵境駅の近くです。電車が混んでいて大変ですね。」 彼女は、私より15分ばかり先の電車に乗っているのだった。一緒に通勤出来たらどんなに楽しいだろうかと思い、メールを送った。 「できれば一緒に通勤したいのですが、いつも同じ電車ですか?」 「はい、西国分寺駅7時15分の電車に乗るようにしています。立川始発なので、少しだけですが混み方が少ないものですから。」 「じゃあ、僕もその時間に合わせたいと思います。一緒に通えたら、どんなに楽しいでしょう。」 「私も、楽しみにしています。」 次の朝、私はいつもより15分早く家を出た。妻が、「あらっ、今日はいつもより早いのね。」と言ったが、「うん、この時間の方が立川始発なので、電車が空いているみたいなんだよ。」と言った。無論、誰から聞いたかは言わなかった。 実際に彼女と出会えたのは3日後だった。7号車の一番前にいると、彼女が乗って来た。この前会ったときと同じようなスーツに身を包んでいる。 キョロキョロ辺りを見ていたが、手招きをする私を見付けると、人をかき分けるようにしてやって来た。 ―続く− |